All Chapters of 捨てられ妻となったので『偽装結婚』始めましたが、なぜか契約夫に溺愛されています!: Chapter 121 - Chapter 127

127 Chapters

121

 焼き上がったたこ焼きが食卓に並ぶと、部屋いっぱいにソースの匂いがふわりと広がった。  湯気の向こう側で、蓮司もお母さまも、そしてシリウスまで嬉しそうにしている。 「いただきまーす」 ひと口かじると、外はカリッ、中はとろっ。  紅生姜の香りがふわっと跳ねて、蛸がぷりっと弾む。 ——ああ……こんな普通の味が、どうしてこんなに愛おしいんだろう。「美味しい!」思わず笑みがこぼれる。 「だろ?」蓮司が自慢げだ。「俺が紅生姜を入れたからな」 「いや、それほとんど私だからね?」 「……細かいことはいいんだよ」 ああ、この人となら、きっとこれから何があっても笑っていられる。  そう思える穏やかな時間だった。「ひかりさん、たこ焼きパーティーなんて、とても楽しいわ。ありがとう。これからも時々来てくれる?」  お母さまがやわらかく微笑んだ。「もちろんです。来ます。何度でも」 「よかった……蓮司、あなたもよ」 「当たり前だよ、母さん。ひかりが来るなら、俺も来る」 そう言いながら、蓮司の手がそっと私の左手を包む。  薬指の指輪が、灯りを受けてきらりと揺れた。 隣でシリウスが私の膝に顎をのせてくる。 「甘えん坊だなぁ、シリウス」 「ワンッ」(当たり前だ、の顔) 笑いながら頭を撫でると、尻尾がもっと激しく動く。 家の中にあった“空気の隙間”が、少しずつ、確かに埋まっていく。  音も、匂いも、気配も、全部が家族になっていく。 ふっと、お母さまが穏やかに言った。「……ひかりさん。あなたが来てくれたおかげよ」「え……?」「この家、ずっと静かすぎたの。蓮司も、私も。こんな風に冗談を言って食事を食べたこともなかったわ。でもあなたが来てくれたことで、とても楽しい時間を過ごすことができたの。本当にありがとう」 胸の奥がじんわり熱くなる。「……私こそ、ありがとうございます。蓮司と、こんな時間を作れるなんて思いもしませんでした」 蓮司がたまらないとばかりに私の肩を引き寄せる。「ひかり。俺はな……ずっと、こういう日常に憧れていたんだ。家族で囲む食卓、話し声、笑い声……全部。この家は母さんが言うように、静かすぎたから」 その腕があまりに優しくて、すごくウルっときちゃった。「これからはずっと一緒に作っていこう。御門の家族じゃなくて、俺たちの家族をさ」
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127

 白のタキシードが驚くほど似合っていた。  背筋を伸ばし、凛とした男らしさを纏いながらも、その瞳だけは私へ向けるときだけ見せる甘さを帯びている。 歩み寄るほど、蓮司の視線が私をすべて受け止めるように優しく細まり——  ついには、息を呑むような小さな声音で囁いた。「……ひかり。綺麗すぎる」「蓮司こそ……格好良すぎ」 伸ばされた手に、自分の手をそっと重ねる。  触れた瞬間、ひんやりとした指輪が指先を撫で、半年間の出来事が胸の奥で光に変わった。「式を始めます」 司祭の声がしんと響く。  参列席には、私たちの人生で出会ったすべての人の笑顔。  だけど不思議と、視界の中心にあるのは蓮司ただ一人。  誓いの言葉。  交換する指輪。  重なった瞳。  その瞬間——今までのことが脳内を駆け巡る。  球児に捨てられ、辛いと思っていた当日、蓮司が偽装結婚話を持ち掛けてくれた。  最初はわけがわからない提案で、断れなくて、後に引けなくて。  それなのに一緒に暮らすと快適で。  偽装という言葉で誤魔化していた想い。  気づかれないように隠した不安。  好きだと気が付いたのに別れを示唆され、明け暮れた特訓の日々。    でも、それはすべて、今日、この日のために経験しなきゃいけなかったことなんだ。「あなたは病める時も健やかな時も 中原ひかりを愛することを誓いますか?」「誓います」 蓮司が堂々と答える。「あなたは病める時も健やかな時も 御門蓮司を愛することを誓いますか?」「誓います」 しっかりを前を向いて伝えた。「それでは……新郎新婦、誓いのキスを」 蓮司が一歩近づいて、私の頬にそっと手を添える。  朝食のキスではない。  寝起きのからかい半分のキスでもない。 これは、夫婦としての誓いのキス。 唇が触れた瞬間、涙が溢れそうになる。  会場いっぱいに拍手が広がり、花びらがふわりと舞った。 離れようとしたら、蓮司が引き寄せて小さく囁く。「ひかり。俺の妻になってくれてありがとう」「こちらこそ。あなたに出会えてよかった」 胸の奥があたたかく満ちていく。  指輪もぬくもりも、すべてが“本物”になった証。「俺はこれから、何度でも言うよ。愛してるって」「じゃあ私も、何度でも返す」 ふたりだけに聞こえるくらいの声で、そっと。
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