紙の端が小さくふるえた。視線がにじむ前に、私はまばたきを一度。顔を上げると、真白さんは扇子の骨で静かに卓をたたいた。「ねえ、ひかりさん。“金1,000万円を支払う”――ここ、どういう意味かしら?」 にっこり笑って尋ねられた。喉の奥がきゅっとなって言葉にできない。 契約婚だって――みんなにバレちゃったんだ! でも、どうして? なぜこんなものが真白さんの手元にあるの…。 頭が真っ白になる。どうやって切り返していいのかわからない。でも、私の不安を見透かしたように蓮司が強い口調で反論した。「説明する必要はない」 彼が淡々と言った。「それはあくまで俺が提案したものだ。家の圧力からひかりを守るための盾として、俺が法務に起案させた。だが提出も締結もしていない。最初はそういう提案だったけれども、話し合ってそれは無効にした。俺たちは契約ではなく、結婚を選んだ。もう入籍もしてあるし、なんら問題はない」 落ち着いた低い声が落ちる。真白さんは鼻で笑った。「そんなこと、信じられるわけがないでしょう!」 無表情だったお母さまがゆっくりとこちらを剥いた。真白さんを制し、やわらかくて強い声で私に聞いた。「ひかりさん。あなたはこの提案を、知っていたの?」 逃げないって決めた。私は正面から息を整え、うなずく。「はい。最初に蓮司さんに提案されました。夫に裏切られ、辛い中で再婚するには、一旦このくらいで考えたらどうだ、と言われただけです。新しく一歩を踏み出すには、勇気が要りましたから。これは、蓮司さんが私のことを考えて提案してくださっただけです。別にやましいことはありません」 室内の空気が一瞬、重くなる。お母さまは目を伏せ、ほんのわずかに息を吐いた。「そう。正直に言ってくれてありがとう」 そのときだけ、真白さんが扇子をぱちりと閉じる音が鋭く響いた。「正直、とおっしゃるけれど――わたくしは蓮司さんと結婚できるものだとばかり考えておりましたから、納得できませんわ! ひかりさんとグルになってわたくしとの結婚を反故にしようとしただけとしか考えれらませんもの」 その通りです。こんな書類手に入れたら、誰でもそう思うよね。 でも、その魂胆がバレるわけにはいかない。 圧倒的不利な状況だけれども、この結婚が契
Last Updated : 2025-10-19 Read more