夜は更け、雪が街灯の下で舞い踊っていた。高級住宅街「朱雀園」の入口で、分厚いダウンジャケットに身を包んだ若い男女が、警備員と揉めていた。「お兄さん、お願いします、入れてください。俺、本当に長谷川家の身内なんです。あの長谷川圭介の義理の弟なんです!」「だめです!」ボディーガードは全く信じなかった。長谷川家に、こんなみすぼらしい親戚がいるわけがない。まともな車一台で乗り付けることもできず、顔も見たことがない。朱雀園は高級住宅街で、住人は皆、富豪や有力者ばかりだ。オーナーでなく、出迎える者もいない人間を中に入れるわけにはいかない。万が一、何か問題が起きたら、自分たちの責任では済まされないのだ。証明がなければ、何を言われようと中に入れることはできない!隣にいた瑶子は、警備員のその態度に腹を立て、相手の鼻を指差して罵った。「人を馬鹿にして!私の義兄は長谷川家の当主なのよ。こんな扱いを受けたって知ったら、ただじゃ済まないわよ!あんたなんて、すぐクビよ!」その言葉を聞いても、警備員は眉一つ動かさなかった。こういう場面にはもう慣れている。時々、みすぼらしい連中がやって来て騒ぎを起こし、勝手に身内だと名乗るのだ。十中八九は詐欺師で、残りの一、二割も、きっと名家が会いたがらない貧しい親戚に違いない。こんな素性の知れない人間を中に入れたら、それこそ自分の首が飛ぶ。「どいてください!これ以上ここで邪魔をするなら、警察を呼びますよ!」警備員は数人を呼び、二人を押し退けて道端へ追いやった。出入りする車の邪魔になるからだ。瑶子はよろめき、怒りで大声を出した。「私、妊婦なのよ!もし私に何かあったら、お腹の子と二人分の命に関わるのよ!どう責任取るつもり!」警備員たちは途端に彼女と距離を取った。年末に、こんな厄介な輩に絡まれるとは、と心の中で悪態をつく。しかし、中に入れるわけにはいかない。瑶子は怒りで胸が痛み、屈辱に震えながら、黙り込んでいる隼人の背中を平手で叩いた。「あんた、何してるの!?この私が馬鹿にされてるのが見えないの!この役立たず!早くお姉さんと義兄さんに電話して、何とかしてもらいなさいよ!」隼人は頭が痛かった。「してる、してるって」凍えて赤くなった手で、彼は震えながら携帯を操作し、圭介と小夜に何度も
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