相沢家の屋敷。樹は小夜からの電話に、少し驚き、そして喜んだ。先だって母を怒らせて気絶させてしまったことを、樹はずっと気に病んでいた。罰を恐れて若葉おばさんの家に逃げ込んではいたものの、父に会った時にそのことを聞こうとしても、また蒸し返されて罰を受けるのが怖くて聞けずにいたのだ。罪悪感から母に電話もできずにいたところ、思いがけず母の方からかかってきた。電話をくれるということは、もう怒っていないということだろう。樹は嬉々として電話に出た。「ママ!電話くれるなんて久しぶりだね。会いたかったよ」電話の向こうから聞こえてくる息子の弾んだ声に、小夜の長いまつ毛が微かに震える。ひどく昔のことのように感じられた。「……樹」呼びかけてはみたものの、何と言葉を継げばいいのか分からなかった。一方の樹は、堰を切ったように会いたかったとまくし立て、最後にようやく、恐る恐る尋ねた。「ママ、体は……大丈夫?」「……ええ、大丈夫よ」樹が気にしていることを察した小夜の声は、途端に少し素っ気なくなった。樹はほっと胸を撫で下ろし、さらに明るい声になる。「それで、どうしたの?」小夜は深く息を吸い込んだ。「前に話した、ひいおばあちゃんのこと、覚えてる?」かつて大叔母と仲違いはしたものの、いつか仲直りしたら、樹を会わせに行こうとずっと思っていた。だから、折に触れて樹に大叔母の話はしてあった。覚えているはずだ。電話の向こうが、しばらく静かになる。やがて、樹の確かな声が返ってきた。「うん、覚えてるよ。どうしたの、ママ?」「明日、ママとひいおばあちゃんと三人で、一緒に食事でもどうかな?」樹は嬉しそうに尋ねた。「ママの手料理?ママのご飯、久しぶりだな。ピリ辛の唐揚げが食べたいな……」あっという間に、彼はいくつもの辛い料理を挙げてみせた。小夜は一瞬ためらったが、やはり断ることにした。「ごめんね、ママ、最近時間がなくて。外で食べましょう。今度、時間がある時に作ってあげるから」樹は母親に断られることなど滅多になく、それを聞くなり不満を爆発させようとした。だが、母が気を失った時のことを思い出し、心のどこかにあった罪悪感から、不承不承ながらも頷いた。「……わかった。でも、次は絶対作ってね」小夜は返事をせず
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