芽衣は小夜がベッドから抜け出さないよう、手足でがっちりとホールドし、彼女がこっそり仕事を再開する機会を完全に奪った。そして翌日には、無理やり彼女を街へと連れ出した。「もうすぐお正月だってのに、私たちも暇してるんだから、今日明日はきっちり休むの!毎日家に引きこもって仕事ばっかりしてたら、本当にカビが生えるわよ!」芽衣は、さも当然といった顔で言った。カフェで、小夜は椅子にもたれかかり、温かいミルクを飲みながら、困り果てたような顔をしていた。「頭、まだこんな状態なのに。家で大人しくしてる以外に、どうしろって言うのよ」「何言ってんのよ。別に走り回れって言ってるわけじゃないでしょ。場所を変えて、空気を入れ替えるの。心までカビが生えないようにね」芽衣はそう言うと、ふとため息をついた。「寒くなかったら、雪山にでも連れて行ってあげるんだけど。今頃、山は雪景色で、雪中キャンプには最高の季節なのに」小夜の目が輝いた。「それ、いいわね」大叔母がくれた七月のミラノ・ファッションウィークのデザインテーマは、二つのシリーズからなり、そのうちの一つが「山水シリーズ」だった。山へ雪景色を見に行けば、インスピレーションが刺激されるかもしれない。芸術とは、型にはまったり、一箇所に留まったりするものではない。四方八方に目を向け、足を運び、最も原始的な自然と魂を直接ぶつけ合うことで生まれる、一瞬の閃光なのだ。かつては家庭に縛られ、自由な外出もままならなかったが、今は違う。そう思うと、心がうずうずしてきた。芽衣は彼女の考えなどお見通しで、呆れ返って言った。「却下。頭に怪我してる病人が、雪の中で凍えて救急搬送でもされたらどうすんのよ。こっちだって、穏やかな正月を迎えたいんだから」小夜は悔しそうに口を尖らせた。二人は温かいものを飲み終えると、デパートで何か買って帰ろうかと話していたが、その時、小夜のスマホが不意に鳴った。義母の佳乃からだった。彼女は芽衣に目配せすると、静かな場所へ移動した。通話ボタンを押すや否や、佳乃の弾むような、心からの楽しげな声が聞こえてきた。「小夜ちゃん、もうすぐお正月よ。いつ帰ってくるの?」小夜は、一瞬言葉に詰まった。例年なら、お正月が近づくと、彼女はずっと前から本家に泊まり込む。佳乃
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