珠季は住職と仏典について語り合い、ゆっくりとお茶をいただいていた。そこへ、小夜と佑介が慌てた様子で戻ってくる。珠季が何事かと見ていると、住職に詫びを入れる間もなく、小夜に腕を引かれて外へと連れ出された。「どうしてそんなに急ぐの?帰ったって、どうせ暇でしょ」珠季は心底不思議そうに首を傾げる。「暇なわけないではありません!やることは山積みなんですから!」小夜は珠季を引っ張って本堂の喧騒から離れると、声を潜めて言った。「大叔母様、一つの寺だけではご利益も物足りないでしょ?せっかくの初詣なんですから、色々な神様仏様にご挨拶した方がいいでしょう」珠季は一瞬きょとんとしたが、それも一理あるかと思い直す。しかし、どうにも腑に落ちない。そんなにたくさん回ったら、神様仏様同士で喧嘩になったりしないだろうか。そうは思ったものの、次から次へと寺社を巡るうちに、そんな些細な疑問は吹き飛んでしまった。まずはお参りだ。お布施はたっぷり弾むのだから、ご利益もその分あるに違いない!彼女が参拝すればするほど上機嫌になっていく一方で、それを提案した張本人である小夜と佑介はさんざんだった。一日中寺社を巡り、足は棒のよう。線香の匂いを吸い込みすぎて、頭までくらくらする。一体、大叔母のあの元気はどこから湧いてくるのだろう。夜になってもまだ元気いっぱいの珠季とは対照的に、若い二人の方が先にばててしまった。家に帰る頃には、もう一歩も動きたくないほどだった。「今の若い者は……情けないねぇ」珠季は二人を軽蔑するように一瞥すると、大量のお守りが入った大きな袋を抱え、意気揚々と自室へ戻っていった。……翌日。食卓で、珠季がふと尋ねた。「そういえば、樹はいつ新年の挨拶に来るの?」もう正月も二日だというのに、可愛い曾姪孫が顔を見せないのはどういうことか。小夜は一瞬、返答に窮した。樹からは、新年のメッセージ一つ届いていない。きっと若葉と過ごすのが楽しくて、母親である自分のことなどすっかり忘れているのだろう。挨拶に来るはずもなかった。彼女は本当のことを言う勇気はなく、努めて明るい声を作った。「長谷川家は親戚が多いですから、きっと挨拶回りで忙しいんですよ。それに、電話ではちゃんと挨拶してくれましたし……」「そうか」珠季は
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