小夜は株も、長谷川家からの慰謝料も、何もかもいらないと言ったのに。どうして、まだ解放してくれないの!……寝室は、死んだように静まり返っていた。圭介は小夜の手を掴む。伏せられた涼やかな切れ長の目は、乱れた前髪に隠れてその感情を窺い知ることはできないが、その口調はあくまでも平坦だった。「あのロボットは、俺が手ずから作ったものだ」小夜は、怒りのあまり乾いた笑いを漏らした。「だから、何だと言うの?毎日、私に屈辱を思い出させるだけの、あんなガラクタを欲しがるわけがないでしょう」毎日「愛していない」と繰り返すだけの、屈辱のロボット。過去七年間の自分が、どれほど愚かだったかを思い知らされるだけ。それこそが、圭介の本心。決して自分を愛さないという、揺るぎない意志だ!愛されているかどうかなんて、もう、とっくにどうでもよくなっていた。「圭介」小夜は、努めて平坦な声で口を開いた。「こんなふうに引き延ばして、何か意味があるの?分かっているでしょう、私を一生閉じ込めておくことなんてできない。私は、絶対に離婚するわ」誰も、その決意を覆すことはできなかった。もう、うんざりだった!圭介が顔を上げる。その涼やかな切れ長の目は、底知れぬほど昏い。「外に出してやってもいい。だが、国外へは行かないと、約束できるか?」小夜は黙り込んだ。できるはずがない。隙さえあれば、必ず国外へ逃げるつもりだ。しかし、今の状況を考え、何とか言い繕おうと口を開きかけた、その時。目の前に影が落ち、唇が塞がれた。軽いキスを残して、圭介はすぐに身を引く。その切れ長の瞳は、昏く翳っていた。「俺を、騙すな」小夜は無力感に襲われ、この男とこれ以上話す気力も失せてしまった。ソファに身を預け、疲れたように視線を逸らす。圭介がさらに何か行動を起こそうとした時、不意にドアがノックされた。「旦那様」彰が、外から声をかけた。圭介はソファに身を沈め、顔を背ける小夜をじっと見つめると、踵を返して部屋を出て行った。……部屋に鍵をかけると、圭介は廊下を数歩進み、主寝室から離れた場所でようやく彰に向き直った。「相沢様がお見えです」「書斎へ通せ」圭介は表情を変えず、書斎の方へと歩き出す。彰が階下へ若葉を迎えに行こうとした時、不意に呼
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