先日の長谷川邸での一件はあまりに凄惨で、その後も小夜はずっと不安を抱えていた。樹に心の傷が残ることを恐れ、こうして様子を見に来たのだが、どうやら大事はないようだ。それならいい。本当によかった。小夜は最後に樹を一目見て、瞬きをして涙をこらえ、背を向けて去っていった。……教室にて。樹は若葉の手を引いてはしゃいでいたが、ふと視線を巡らせ、後ろの窓を見た瞬間、その場で凍りついた。突然の胸騒ぎに、彼は若葉の手を振りほどき、教室の後ろのドアから飛び出した。しかし、廊下はがらんとしていた。樹は数歩走ったものの、その瞳は空虚で、きょろきょろと辺りを見回しながら、無意識に呟いた。「ママ……」若葉が追いかけてきて、階段へ向かおうとする彼を引き止め、心配そうな顔で抱きしめた。「樹くん、どうしたの?」樹は目を赤くしていた。「ママを見た気がするんだ」若葉は一瞬きょとんとし、周囲を見回したが、廊下には自分たち以外に誰もいなかった。「見間違いよ。忘れたの?彼女がここに来るはずないじゃない」その言葉を聞いた途端、樹の目から涙がこぼれ落ちた。何か言おうとしたが、口を開くと嗚咽が漏れるばかりで、彼は若葉の胸に顔を埋めて小さく泣き出した。ママに会いたい。ここ数日、本家ではよく眠れず、いつも悪夢を見ていた。夢の中で、ママは血だらけのベッドに座り、彼を見てただ静かに泣いていた。とても悲しそうだった。彼も、とても悲しかった。おじいちゃんに尋ねると、ママは用事があって遠くへ行ったのだと言われた。でも、ママに会いたい……若葉は彼の背中を優しく叩いて慰め、こう言った。「私が一緒に遊んであげるのに、嬉しくないの?」樹は小さく首を横に振ったが、涙は止まらなかった。先生が教室の後ろから出てきて、この様子を見て心配そうに尋ねた。「相沢さん、樹くんは一体?」若葉は樹の頭を撫で、眉をひそめて困ったように言った。「急に機嫌を損ねて、遊びたくないと言い出したんです。今日は先に連れて帰りますね。明日も一日、お休みをいただけますか?」先生は樹の様子を見て、慌てて頷いた。……「高宮様、いかがなさいました?」事務棟の廊下で待っていた泰史は、ふと振り返ると、小夜が階段の踊り場で手すりにつかまり、片手で心臓のあたりを押さえて苦し
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