この別荘は、もともと彼一人で住んでいた頃は、庭にあるのは数本のコノテガシワと青々とした竹だけで、緑は豊かでもどこか単調で、ひどく静まり返っていた。紗夜が住むようになってから、少しずつ、さまざまな花が増えていった。花壇の草花はすべて彼女の手によるものだ。花の世話をしているときの彼女の姿を、彼はよく覚えている。眉と目尻を伏せ、細長いまつ毛が陽の光を受けて、ひらりと羽ばたく蝶の羽のように揺れる。静かで、美しくて、胸の奥から思わず「彼女を自分のものにしたい」という衝動が湧き上がってくるほどだった。彼にも、そんな表情を向けてほしい。だが、彼女が「もう愛していない」「好きじゃなくなった」と口にしてからというもの、あの表情は二度と彼に向けられなくなった。紗夜は感情の機微に敏い人間だ。夜勤明けの池田を気遣い、雪の夜に除雪をする使用人を気遣い、言葉も話せない花や草にさえ心を寄せる。それなのに――彼のことだけは、もう気遣ってくれない。それが、彼には少し癪だった。とはいえ、花を慈しむ彼女の姿はあまりにも美しい。澄んだ瞳に、何気ない仕草一つで、彼の心を容易く掻き乱す。文翔の目の色が、次第に暗く沈んでいく。彼は大股で彼女の背後へと歩み寄った。紗夜は、背後の足音が急に近づいてくるのを感じた次の瞬間、何が起きたのか理解する暇もなく、身体ごと横抱きにされていた。「きゃっ......!」反射的に相手の首に腕を回し、視線があの底知れない瞳とぶつかった瞬間、眉をひそめる。「下ろして」「旦那って呼んだら、下ろしてやる」文翔は口角を上げ、からかうように言った。「文翔!」紗夜は彼の肩を掴んだ。力は強く、爪が引っかかって、赤い筋が三本浮かび上がる。だが彼は痛みなど感じないかのように、笑みを深める。「だから、旦那って呼べば下ろすって」あまりにも卑怯だ。紗夜は睨みつけ、呆れたような声を出す。「頭おかしいの?」「ああ。そして君が、それを治す薬だ」文翔は当然のように答えた。紗夜「......」幸い、この時間には理久はもう寝ているし、池田たちもいない。でなければ、気まずさでどうにかなっていたところだ。それにしても、今の文翔は本当にどこかおかしい。それとも、醉島で女たちと飲みすぎた
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