文翔の詰問するような視線とぶつかり、紗夜は唇を引き結んだ。まだ、彼が怖いのか。――当たり前だ。その沈黙自体が、すでに答えだった。彼はさらに眉をひそめ、追及する。「なぜ、俺を怖がる?」紗夜は二秒ほど黙り、息を吐いてから答えた。「あなたは、人の気持ちに寄り添えないから」本当は、冷酷すぎるからだと言いたかった。見なかったふりをすることもできたはずだ。だが、文翔のあまりにも淡白で情のない態度と、問答無用で手を下すその苛烈さは、どうしても無視できなかった。こんな男を、どうして怖がらずにいられるだろう。どうして距離を取りたいと思わずにいられるだろう。言い方はずいぶん控えめだったが、文翔には十分伝わったらしい。彼は鼻で笑った。「あの永井の肩を持っているのか?」紗夜は表情を崩さない。「事実を言っているだけ」時々、彼女は理解できなくなる。文翔のように冷淡な人間が、どうして長沢グループをあれほどまとめ上げ、人心を掌握できるのか。文翔は声を低くした。「つまり君の目には、俺は共感も慈悲もない人間に映っているというわけか」不思議だった。紗夜にそう思われていることが、なぜかひどく気に障る。自分が彼女の目にどう映っているかなど、これまで一度も気にしたことはなかったはずなのに。――たぶん。彼女を好きになってしまったからだ。好きになれば、相手が自分をどう見ているか、気になるものだと、そういうことなのだろう。紗夜はそれ以上何も言わなかった。ここで踏み込みすぎれば、彼の怒りが自分に向かう気がしていた。もう二度と、あの怒気を真正面から受け止めたくない。彼女は冷静に傍観することもできたはずだ。だが、幼い頃からの教育が、彼女をそうさせなかった。父は常に他人の立場を思いやる人で、紗夜はその背中を見て育ってきた。その影響で、彼女の感受性は人一倍繊細になった。だからこそ、紗夜と文翔は根本的に違っていた。相容れない性格で、同じ道を歩くのは、きっと難しい。車内は一気に静まり返った。運転手はルームミラー越しに後部座席をちらりと見て、二人とも冷え切った表情をしているのに気づき、思わず背筋に寒気を覚えた。20分近い道のり、誰も一言も発しなかった。車が長沢家の門をくぐる
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