前世の記憶を持ったまま転生した者がいた。目覚めたのは、猛獣が出ると恐れられる森の山道。しかも、幼い子どもの姿だ。両親はおろか、人の気配すらない。一人取り残され、途方に暮れてさまよっていた。「ちょっと待ってくれ、ここはどこなんだ!? 俺に何が起きたんだ? 体が幼くなってるし……。この森、普通の雰囲気じゃないな。説明はできないけど、この辺りは危険だと確信を持って言える。もしかしてアニメでよく聞くスキルの気配察知ってやつなのかもな」 この場所にいれば、獣に襲われて餌食になるのは目に見えている。「遭難したらその場を動くな」とは言うが、それは捜索してくれる者がいるときの話だ。自分を探してくれる者などいないだろうから、自力で下山するしかない。もし誰かに会えたら、助けを求めてみよう。 山道を歩き続けるが、幼い体での彷徨はつらく、体力も続かない。幸いにも猛獣には出会わなかったが、それはもう一つのスキルである気配隠蔽のおかげだろう。静かに歩き、物陰に隠れることで、自分の気配を容易に消すことができたのだ。しかし、空腹とスキルを使い続けた疲労が蓄積し、やがて岩陰に隠れたところで動けなくなってしまった。・♢・♢・♢ 当時、王国の特殊暗殺部隊を率いていた隊長は、大貴族から無理難題な仕事を命じられていた。それは国王の命令ではなく、一部の王国上層部の派閥争いに巻き込まれたものだった。上層部の命令ゆえに簡単に断ることはできないが、今回の命令は国王の長女、まだ幼い少女の暗殺だった。 王弟を王位に就かせたい派閥があり、この派閥には多くの要職者が名を連ねているため厄介だった。彼らの機嫌を損ねるわけにはいかない。この派閥は、王弟の方が王家の血統を純粋に保つと考えており、そのため彼を王にしたいと願っていた。 隊長は、過去の様々な出来事を思い出していた。王女は愛らしい容姿で、性格も大人しく優しい。王城で会った際、優しく声をかけてもらったことが忘れられない。今回の暗殺命令にはひどく苦悩し、日々悩み続けていたが、ついに決断を下した。 隊長はその地位にまで上り詰めたからこそ知っている。今回の暗殺を遂行しても、秘密保持のために自分が狙われることになるだろう。命令を断ったとしても、自分が消されるのは確実だ。この話を持ちかけられた時点で、自分の死を宣告されているも同然だった。ならば、王女を暗殺などした
Last Updated : 2025-06-26 Read more