偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも幸せになれますか?〜 のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

71 チャプター

第六十一話

聖良にムリをさせないためには、やはり安静にしてもらうのが一番なのではないか。そう思った俺は、家政婦を雇おうかと思っていた。聖良がどう思うのかどうかは分からないけど、俺は聖良のために出来ることをなんでもやりたいと思っている。「家政婦……ですか?」聖良はキョトンとした顔で俺を見ていた。「ああ。聖良はこれからつわりがひどくなってくるだろうし……。それに家のことをやるのも体調によって変わるから、大変だろうしな。……ならいっそのこと、家政婦を雇おう。家政婦を雇うくらいの金ならいくらでもあるし、聖良にあまり負担をかけるのも申し訳ないからな?」「……で、でも、いいんですか?」「そんなこと言ってる場合ではないだろ? 聖良の身体を一番に考えると、それが一番いい選択だと俺は思ってるんだが……どうだ?」俺のその言葉に、聖良は少しばかり間を置いてからこう言った。「はい。ありがとう、ございます」そして聖良は、俺に優しく笑った。「では早速、明日から家政婦を呼ぼう。 実はもう、明日には来られるように手配してあるんだ」そうなるかもしれないと、俺はすでに家政婦を手配していた。 もし断られたとしても、ムリにでも家政婦を雇おうとは思っていたのだが。 「ええっ? そ、そうなんですか……?」「ああ。明日からもう家政婦にお願いしようかと思っていたところだ」 「そうなんですね……。正直に言うと、とても助かります。 つわりが思ったよりひどくて、まともに動けそうになくて……」聖良はそう言って俺の手を握ってくれた。「……そうか。では早速、明日から家政婦を呼ぼう」「はい。……よ、よろしくお願いします」そして翌日から、家政婦にお願いして家に来てもらった。 家政婦からの情報だと、聖良はつわりがひどく、ベッドから起き上がることも出来ない状態だそうだった。俺はすごく心配になって、今すぐにでも帰って抱きしめてやりたいと思っているが、仕事が忙しくて家に帰るのはムリだと判断した。 「ただいま」溜まった仕事を片付けて家に帰ったのは夜二十一時半過ぎだった。 玄関を開けて家の中に入ると、リビングやキッチンの電気は消えていた。寝室へ入ると、聖良は暗い部屋でベッドに横たわって眠っていた。 俺はベッドに近づき、眠っている聖良の髪の毛を撫でた。 聖良、大丈夫だったかな……。朝から会えなかったため
last update最終更新日 : 2026-02-04
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第六十二話

リニューアルするホテルは鷺ノ宮グループと深い関わりのある高級ホテルだ。建物の外観はそのままに、中を大きく広くするためのリニューアル工事が三ヶ月後に始まるため、その打ち合わせなどをした。もちろん高級ホテルの雰囲気を残しつつも、今までのイメージをがらっと変えるのもどうかとは思うのだが……。なかなかイメージが沸かなくて、結局今回の打ち合わせでは雰囲気を変えるか変えないかだけの内容と、リニューアル工事の大体の日程などを決めて終わった。もともとは親父が担当するはずだった案件だったため、俺が社長になって引き継いだ形になったが、なかなか思うようにはいかないものだ。  親父が作りたかったホテルがどんな感じだったのかはもう聞くことも出来ないし、俺は俺なりに頑張っていくしかないと思った。とりあえず今は、いいホテルにしたいから、それだけの気持ちで頑張ることにした。いつかは聖良にも見せたいし、見てほしいから。 だからその時までになんとか設計だけでも見せたい。「……ん……?」なぜか目が覚めると、リビングには聖良がいた。 そして聖良は俺が起きたことに気付くと、「おはようございます、棗さん」と声をかけた。「……聖良、体調は大丈夫なのか?」「はい。今のところ、調子がいいんです」「……そうか。くれぐれもムリはするなよ」「わかっています」 聖良は少しだけ微笑むと、バルコニーに出て花に水をあげていた。というか俺は、どうやらそのままリビングで寝てしまったようだな。 寝る前の記憶が全くない。俺はいつから寝てしまっていたのか、全然思い出せないな……。寝る前は何をしてたんだっけ?やっぱり思い出せない。 俺は相当疲れているのかもしれないな。とりあえず顔を洗ってこよう、シャッキとしないとな……。冷たい水で顔を洗うと、冷たさが心地よくてすぐに目が覚めた。 とにかく本当に疲れているのだと、つくづく実感する。「あの……。棗さん」「なんだ?どうした?」リビングに戻ると、聖良が俺に声をかけた。「あの……お願いがあるんですが……」聖良は少しだけ遠慮がちにそう言った。「なんだ?言ってみてくれ」「その……グレープフルーツのゼリーと、きゅうりの漬物が食べたいんですけど……」 忘れていた、グループフルーツゼリー……。そこにきゅうりの漬物か……。「ああ、わかった。では家政婦
last update最終更新日 : 2026-02-04
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第六十三話

「棗さん、家政婦さん来てくれましたよ……?」そんなこんなしているうちに、家政婦が来てくれたようだ。 今日も家の掃除や洗濯などを頼んだ。お昼の用意と夕飯の用意も頼んでいたため、何から何までやってくれている。一度リビングに戻ると、聖良もグレープフルーツゼリーときゅうりの漬物を食べていた。 ここ何日かはグレープフルーツゼリーときゅうりの漬物なら食べれるようで、美味しいと食べていた。「棗さん、きゅうりの漬物……美味しいです」「そうか。良かったな?食べれるものが増えるのは、俺も良かったと思ってるよ」にしても、嬉しそうだな……。「……はい。早く白いご飯が、食べたいです」「そうだな。俺も早く一緒に白いご飯が食べたいよ」「……はい。早くつわりが終わってほしいです」つわりが終わるまではまだ先か……。道のりは長いか。「大丈夫だ。俺が付いてる」「はい。……ありがとうございます」「それよりも体調、大丈夫か?」心なしか、顔色が優れなそうだが……。「はい、大丈夫です。……心配かけて、すみません」「気にするな。……何かしてほしいこととか、ないか?」聖良のために何かできることかあれば、してあげたいと思った。 元気な赤ちゃんを生もうと頑張っている聖良のために、何か少しでも役に立ちたいと思った。「……あの、一つだけあります」「なんだ?なんでも言ってみてくれ」「その……少しだけ、散歩に行きたいです」  「それはい構わないが……大丈夫なのか?」散歩に行きたいというのなら、連れてってやりたいが……。つわりが心配で、連れてって良いものなのか迷ってしまう。「はい。今は治まってますので……。少しだけ外の空気を吸いたくなってしまって……」そうか……。つわりが辛いとはいえ、ずっと家の中にいると息苦しくなるよな……。確かにそれだと、たまには外の空気を吸いたくもなるよな……。「……棗さん?」 「よし、少し外に散歩に行こうか」「いいんですか……?」「ずっと家の中にいると息苦しくなるだろ? 少し外に出よう。気分転換だ」「……はい」俺たちは家政婦に外に出てくると言って、外に散歩に出た。 外に出ると聖良は、少しだけ笑った。「……やっぱり外に出ると、少しだけ楽になりますね」聖良は久々に外に出たようで、少しだけ明るくなったような気がした。 聖良が少しだけ元気にな
last update最終更新日 : 2026-02-05
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第六十四話

「……たまには公園もいいですね」聖良は公園にあるベンチに座ると、そう言って笑った。「そうだな。……結婚してからしばらく経つけど、初めて来たなこの公園も」「はい」公園にある遊具では近くに住んでいるであろう子供がたくさん遊んでいた。 追いかけっ子したり、鬼ごっこしたりしている。そんな子供の姿を見ながら、聖良は「子供って本当にいいですね」そう言っている。「……そうだな。いいな、子供って」今聖良のお腹にいる赤ちゃんは、正真正銘俺たちの赤ちゃんだ。 どんな赤ちゃんが産まれてくるのか、今からとても楽しみで仕方ない。「……あの、棗さん」「ん?」聖良の方を見つめると、聖良は明るい声でこう言った。「私、棗さんと結婚出来て幸せです。こうして赤ちゃんも出来て……私たち、幸せな家族になりましょうね」俺はその言葉に、聖良の手をしっかりと握りしめた。「ああ、幸せになろう。 必ず、幸せになろう」「はい。……早く、赤ちゃんに会いたいですね」聖良はお腹に手を当てながらそう言うと、優しく微笑んでいた。 その微笑む姿は、もうすっかり母親の顔になっていた。「聖良はきっと、いい母親になるさ」「そうですか?……私正直に言うと、ちゃんと母親になれるのか……とても不安です」「大丈夫だよ。 俺なんてまだ、父親になるって実感がまだないし」赤ちゃんが出来たというのに、父親になるのだという実感もないし、本当に赤ちゃんが聖良のお腹の中にいるのか不思議でたまらない。お腹がまだぺったんこだからだとも思うが……。「棗さんは、正真正銘ちゃんとこの子の父親です。 この子は私たちにとって、初めて出来た赤ちゃんですから」聖良はそう言うと、俺の手を掴んで聖良のお腹に手を当ててくれた。 聖良のお腹に、ちゃんと赤ちゃんがいるんだな……。まだ信じられない。 だけど俺にもちゃんと分かる。赤ちゃんがいるって、どれだけ嬉しいことなのか。「棗さんの赤ちゃん……嬉しいですよ」「俺だって、嬉しいさ。……愛する人の子供なんだ」聖良は「はい……愛する人の子供ですね」と微笑む。「俺、何も出来なくてごめんな」「え……?」「聖良がつわりで辛い中、してやれることがあまりなくて、本当に申し訳ないんだ」俺の言葉に聖良は「何言ってるんですか。……こうしてそばにいてくれるだけで、いいんですよ」と言ってくれる。「聖
last update最終更新日 : 2026-02-07
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第六十五話

妊娠が分かって三ヶ月を過ぎた頃から、私はつわりがひどくなり、何も出来ない状態が続いていた。棗さんの提案で家政婦さんを雇ってもらっているが、家政婦さんに全部やってもらっている分、私は何も出来ないので申し訳ないと思いながら過ごしていた。最近はグレープフルーツゼリーだけでなく、きゅうりの漬物やたくあんなど、普段あまり食べない物を食べるようになった。後は時々キウイフルーツなどを食べている。 酸っぱくて美味しいし、なんだかさっぱりしている物以外は食べられない。大好きなパンケーキも、食べようと思ったこともあるけれど、結局そのホイップクリームのニオイにやられてしまって、食べることを断念した。  大好きな白いご飯やカレーライスなどが食べられないのがこんなにも辛いとは思ってもいなかった。 早く白いご飯が食べたい。家政婦さんに棗さんの分の夕食をいつも頼んでいるので、作ることも出来ないなんて、本当に虚しいとしか言えない……。「聖良様、マスカットゼリーを作ったのですが……食べられそうですか?」 寝室のドアを開けた家政婦さんにそう言われて、「食べたいです」と言い、ゆっくりとベッドから起き上がった。つわりは軽めで大丈夫な日もあれば、結構ひどい時もあるので、なかなか体調面で言うと安定しなくて不安定だ。 「聖良様、ムリしなくて構いません。食べられそうならで大丈夫ですよ?」「いえ……。何も口にしていないので、食べたいです」つわりがひどくなり、食べ物を口にすることも出来なくなっている。 とはいえ、食べないといけないので、とりあえず食べれる時に食べようと思っていた。 だけど、食べようと思うと気持ち悪くなったりして……体が言うことを聞かないのは確かだ。「……いただきます」家政婦さんが作ってくれたマスカットゼリーを一口食べると、マスカットの甘酸っぱさが口の中に広がってすごく美味しかった。家政婦さんに「どうですか?」と聞かれて「すごく、美味しいです」と答えた。「それは良かったです。ムリせずにゆっくり食べて大丈夫ですからね? 妊娠中は特に食欲も落ちますし、辛いとは思いますが……何かあったらいつでも手助け致しますので」「……はい。ありがとうございます」家政婦さんもお子様が三人いらっしゃるそうで、妊娠中はやはりつわりに悩まされていたそうだ。その時はもうとにかく安静にし
last update最終更新日 : 2026-02-08
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第六十六話

棗さんはどうやらそれを察してくれているようで、ニオイの少ない低刺激のシャンプーを買ってきてくれていた。妊婦は人によって個人差があるけど、刺激にも弱い人もいるみたいで、刺激の少なくてニオイもかなり少なめのシャンプーを選んでくれていたみたいだ。 それを知って、とても嬉しかった。「棗さん、あのシャンプー。結構ニオイ少なくて良かったです」「本当か?なら良かった。 店員に聞いて買ってきたから、どうなのか分からなかったけど。聞いて正解だったな?」 「はい。本当にありがとうございます。 洗った感じも良かったです。あれなら、ずっと使えそうです」「そうか。良かった」棗さんは頭をぽんと撫でながら優しく微笑んでいた。……その表情を見て私は、棗さんもきっと嬉しいんだろうなって思った。棗さんの優しさは世界一だなって思った。 こんな私のために色々なことを調べてくれていたし、少しでもわたしが楽になるようにと、私はもうありがとうしか言えない。 「ううっ……」夜中寝ている時、急なつわりに襲われ気持ち悪くなり、吐きそうになってしまう。 寝ている時にいつでも使えるようにと、棗さんがエチケット袋を用意してくれていた。気を遣わせてしまっているみたいで、なんだか申し訳なかった。「気持ちわるい……」食べるのはいいけど、結局食べても吐いてしまったりして、吐けるものが何もない。 辛くて辛くて仕方なかった。無性に泣きたくなってしまって、知らない間に涙が出てしまう。 堪えたいのに、堪えることが出来ない。隣で棗さんが寝ているのに、起こしたくないのに……。涙が止まらない。そんな私に気付いたのか、棗さんは「聖良、大丈夫か?」そう声をかけてくれて、背中を擦ってくれた。「な、つめさ……すみ、ません……」「大丈夫だ。……つわり、辛いだろ?泣きたい時は、遠慮なく泣けばいい。 俺がそばにいてやる」泣いている私に、棗さんは優しくそう声をかけてくれた。「俺はいつでも聖良、君の味方だ。 ムリをしなくていい」「んふっ……ありがとうございます……」棗さんは本当に優しい。こんなにも優しくしてもらって、私は本当に幸せ者だ。 だけど安定期に入ればつわりも治まるだろうし、それまでの辛抱だと思う。だからこそ、頑張りたいという気持ちが強かった。私はこの子のお母さんになるんだ。 赤ちゃんと棗さんと三人で、幸せ
last update最終更新日 : 2026-02-09
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第六十七話

棗さんには感謝しかないし、棗さんのためにも。元気な赤ちゃんを産まなきゃ……そう思った。 「あの……棗さん」「ん?」私は棗さんに「色々と、ありがとうございます」と伝えた。「気にするな。 聖良こそ、つわりで辛いのに出迎えてくれてありがとうな?」「……はい」棗さんがそっと抱きしめてくれて、優しく頭を撫でてくれる。 その温もりが本当に温かくて、優しいんだ。これが夫婦なんだ、これが幸せなんだと何度も実感している。安定期に入るまでまだまだかかるけど、棗さんが支えてくれるからこそ、本気でそう思っていた。両親にもまだ、妊娠したことを報告していない。 妊娠した時点で報告しようと思っていたけれど、安定期に入るまで報告は待とうという棗さんの意見もあり、まだ報告していない。もちろん安定期に入ったら、しっかりと報告するつもりだ。 お母さん、喜んでくれるかな……。お父さんが喜んでくれるかも分からないけど、どうだろうな。棗さんにも、帰ってきてから苦いものとか酢の物を食べられたことを報告してみたが、棗さんは驚いていた。それはそうだ。 自分が一番ビックリしているのだから。「聖良、だいぶ食べられるようになってきたか?」「うーん……。でも先月よりも、少しだけ食べられる物は増えてきましたし、残さずに食べられる時も増えてきましたね」「そうか……。もしかしたら、少しつわりが軽くなってきたのかもしれないな」「確かに。前よりもちょっとずつ食べられるようになって、前は食べても全部が吐いてしまっていたんですけど……。だいぶ吐く量も少ない気がします、以前に比べると」 苦いものは苦手なんだけど、苦いものも食べれていたし、少し食の好みも変わったのだろう。「そうか。 いい方向になってきたな?」「……はい。今日なんてちょっとピリ辛キムチがあるんですけど、それがちょっとだけ食べられたんです」本来あまりキムチは得意ではないのだけど、なぜかキムチが無性に食べたくなって食べてみたが、なんの違和感もなく普通に食べられた。 「そうか。だいぶ変わってきたんだな、食の好みが」「はい。 自分でも不思議です、なんで普段食べないものを食べたくなるのか」「そうだな。……まあでも、もう少しの辛坊だ。一緒に頑張ろうな」「はい」棗さんが応援してくれるから、私は頑張れる。 棗さんが見守っててくれるから
last update最終更新日 : 2026-02-10
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第六十八話

「……会いたいです。棗さんのお母さんですよね? そんなの、会いたいに決まってます」 「そうか。……良かった、お袋にも伝えておく」「はい。すごく楽しみです」棗さんのお母さんとまさか、会える日が来るなんて思ってもなかった。 もし会えるのなら、ぜひ会ってみたいし、棗さんのことを聞いてみたい。「棗さんは、お母さんに会うのは楽しみですか?」「……どうだろうな。  離婚して以来会ってなかったからな、お袋には」「……え?」 それはちょっと意外な言葉だった。「もちろん、会いたいと思っていたこともある。親父にも、会わせてくれと頼んだこともあるが。……だが親父が許可してくれなかった。 理由を聞いたらこう言われたよ。お袋とはもう家族じゃないからと、だから会うことも許されなかった」そうだったんだ……。まさか会わせてもくれなかったなんて。会えない理由が「家族じゃないから」そんな理由だったなんて……。なんて言ったらいいのか。 「……だからこそ今、ちゃんと会わせたいんだ」棗さんは私の手を取って、そして言葉を続けた。「俺にも聖良という大切な妻と、そして新しい家族になる子供がいるんだってことを、お袋にも自慢してやりたいんだ。……お袋を安心させたいんだと思う」「……素敵だと思います。棗さんのその気持ち、私にも分かります。 もし私が棗さんの立場だとしたら……きっと同じことを思うと、思います」「……聖良、ありがとう」私にそう言うと、棗さんは優しく抱きしめてくれる。私早く赤ちゃんが出来たこと、ちゃんと両親にも言わないとな……と、心から思った。まだ安定期には入ってないけど、私はその日お母さんに電話した。 早く赤ちゃんが出来たことを伝えたくて……あと、安心してほしくて。「もしもし……お母さん?」「聖良? 急にどうしたの?」「あのね、ちょっと伝えたいことがあって」お母さんは「あら、伝えたいことってなにかしら?」と聞いてくる。「……私ね、赤ちゃんが出来たの」 「え? それ本当なの?」「うん、今四ヶ月なんだけどね。 本当は安定期に入ってから報告しようと思ってたんだけど、なるべく早く伝えたくて……」 お母さんは電話越しに「そう。おめでとう、聖良。 母さん、嬉しいよ。聖良にも赤ちゃんが……本当におめでとう」と言ってくれた。「ありがとう、お母さん」お母さん
last update最終更新日 : 2026-02-11
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第六十九話

「……ん?」あれ……? なんか今日、とても変な感じがするな。なんだろう、この違和感……。なんかわからない違和感だ。 そんなことを思いながらキッチンに行くと、棗さんはどうやら朝ご飯を作っているようだった。「……おはようございます、棗さん」「あ、おはよう聖良。……体調はどうだ?」「はい、なんだか大丈夫そうです。今日は調子がいいんですかね。……それにしても、お仕事休みなのに早いですね」棗さんはキッチンでホットサンドとサラダをを作っているようだった。「なんか目が覚めてしまって。……せっかくだから朝ご飯を作ろうと思ってな」「なるほど……」 でも、なんなんだろう?この違和感……。違和感の正体が掴めなくて、モヤモヤする。「……聖良も、食べるか?」「え?……あっ」そう言われると、食べたい気がする。「悪い。つわり大変だろ? ムリにじゃなくていい」「いえ!た、食べたいです……!」棗さんが作っているホットサンドが妙に美味しそうに見えて。どうしても食べたい気持ちになってしまう。多分食べても吐いてしまうかもしれないけど……それでも、どうしても食べたい気持ちに狩られる。「そうか。 大丈夫なのか?」「はい。……なんか、今食べたい気分なんです、すごく」 棗さんは心配しながらも「そうか。なら二人で食べようか」と言ってくれた。「はい」棗さんが用意してくれている間、私は顔を水で洗った。「出来たぞ。聖良」「うわぁ……美味しそう」 目の前に並べられた美味しそうなホットサンドとサラダを見て、少しばかりテンションが上がってしまった。あれ……私やっぱり、変なの? 食欲が上がっている気がするし、胃がムカムカするような、そんな感覚もない気がする。「食べようか」「はい」「聖良は、食べれる分だけでいいからな」「はい」「いただきます」と手を合わせて、まずはサラダから食べてみた。 「どうだ?聖良。食べられそうか?」あれ、美味しい……。なんで? このサラダのドレッシング、すごく美味しい。「美味しい……」「え?」なんでだろう? この前まで、サラダも全然食べられなかったのに……。 勘違いのせいもあるかもしれないと思い、もう一度サラダを口にする。「やっぱり、美味しい……。すごく美味しい」このドレッシングがすごく美味しい。 しかもなんか、食べても全然
last update最終更新日 : 2026-02-12
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第七十話

私はそう思い、キッチンにある炊飯器を開けて、ご飯のニオイを嗅いでみる。「聖良……?」……あれ?全然大丈夫だ。 全然普通に美味しそうなご飯のニオイになっている。全然気持ち悪くならない。むしろ、いいニオイに感じる。「どうした? 大丈夫か?」「な、棗さん……」  「ん?どうした?」私は棗さんの元へと駆け寄ると「私……つわり治まった、みたいです」と棗に抱き着いた。「本当か?」「はい。ご飯のニオイで、気持ち悪くならないです。 しかもさっきチーズを食べたら、すごく美味しかったんです。あれだけチーズのニオイがダメだったのに……」  ウソみたいだ……。こんなにも違うの?世界がまるで変わったみたいに感じる。「そうか。……良かったな。これでまた、いつも通りの食事が出来そうだな」「はい。……良かったです」もう吐き気や食欲不振に悩まされることは減るだろう。そういえば、私はもう妊娠六ヶ月目に入っている。つわりと闘ってきたこの数カ月。……いつもダメだったあのニオイが、今は普通にニオイを嗅ぐことが出来ているし、なんの違和感もない。「本当に、長かった……」「お疲れ様、今日までよく頑張ったな」良かった……本当に良かった。 これでつわり生活からようやく抜け出せる。よし、これからはたくさんご飯が食べられそうだ。 大好きなカレーも、我慢していたホイップたっぷりのパンケーキも食べられるようになった。「つわり、治まって良かったな? でもムリはするなよ」 「分かっています。……ありがとうございます」棗さんにたくさん心配をかけてしまってばかりいたから、とにかく早く安心させたいとは思っている。元気な赤ちゃんを産むことを考えると、まだ油断は禁物だ。「全部、食べられそうか?」 「はい。美味しく食べられますから、大丈夫です」妊娠六ヶ月目になると、安定期に入るようだ。今のところ検診でも問題はなく、順調に育っているようだし。少しだけだけど、前よりお腹も大きくなってきた。 お腹が大きくなったことで、ようやく妊娠しているんだなと実感するようになった。私はこの子のママになるんだな……。棗さんはこの子のパパになる。 私たちは二人で親になるんだ。この子を授かったその時から、私たちは親なんだ。 だからこそ、しっかりと愛情を持って育てていきたい。この子が寂しくならない
last update最終更新日 : 2026-02-13
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