だが、美穂には選択肢がなかった。「……分かった」美穂は淡々と答え、そこに一切の不本意さも見せない。「その代わり、今すぐ人を動かして捜索して」和彦はそれ以上無駄な言葉を費やさず、内線電話を取り、手短に指示を出した。通話を切ると、一通の契約書を彼女の前に滑らせる。書類の縁が照明を受けて、冷ややかに光った。「署名を」美穂は条項にざっと目を通し、ペン先を署名欄の上でしばらく止めたまま――やがて、静かに名前を書き記した。インクが紙の上で、じわりと滲む。三十分後。和彦の携帯が鳴った。報告を聞き終えても、彼は眉一つ動かさず、淡々と美穂を見る。「見つかった。峯は生存者リストにいる。頭部に軽い外傷があって、現地の病院で治療中だ」宙づりだった心が、ようやく地に落ちた。だが、不思議と安堵は訪れなかった。美穂は立ち上がり、少しかすれた声で言う。「……ありがとう」「契約の件は、法務部門から追って連絡がいく」和彦は再び書類に目を落とし、最後まで彼女を見ることはなかった。「もう帰っていい」陸川グループを出ると、雨は上がっていた。それでも空はなお黒く垂れ込め、水を含んだ布のように重く、頭上にのしかかっている。湿った冷気を孕んだ風が吹きつける。美穂が顔を上げると、一滴の水がまぶたに落ち、そのまま頬を伝って流れた。彼女はコートをきゅっと閉じ、SRテクノロジーへ戻った。道中、美穂は律希にフロスティアランドの病院へ連絡を取らせる。やがて、ようやく峯の電話が繋がった。「美穂?」受話口から聞こえる声は、まだ少し弱々しい。「大丈夫だ。額をガラス片で切ったくらいだよ。そうだ、それと……千葉俊介のやつもここにいる。脚を骨折して、看護師に向かって帰国させろって騒いでる」「……どうして、同じ便に?」「さあな」峯は鼻で軽く笑い、続けて少し首をかしげるような口調になった。「でも今朝、空港でそいつが陸川深樹と話してるのを見た。二人、けっこう親しそうだったぞ。偶然にしては出来すぎてると思わないか?」美穂の動きが止まる。――深樹?どうして深樹が、俊介と話していた?昨日、梨花の件で、あれほど衝突しかけていたのに。胸の奥が、じわじわと沈んでいく。「それともう一つ。電話じゃ言いづらい話がある」峯は声を落とした。「帰国したら、改めて話そう」「
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