和彦は眉根をわずかに寄せた。旭昆は秦家の人間ではあるが、自分とはもともと親しい間柄ではない。性格は軽薄で、何かとトラブルを招きやすい。とはいえ、美羽の弟である以上、いちいち口出しするのも面倒だ。彼は淡々と応じた。「……ああ」美羽が去ると、オフィスには再び静寂が戻った。和彦は張りつめた眉間を指で揉む。スマートフォンを取り出し、美穂とのトーク画面を開く。最後のやり取りは、プロジェクト進捗に関する事務的な返信で止まっていた。指先が画面の上で迷うように止まり、結局そのまま画面を消し、スマートフォンをポケットへ戻す。窓の外では夜が一層深まり、彼の横顔をいっそう冷ややかに浮かび上がらせていた。――その頃、オフィス外の廊下。美羽は、帰ろうとしていた芽衣を呼び止めた。「周防秘書、少し待って」芽衣は足を止め、事務的な態度のまま振り返る。「美羽さん、何か?」「以前の件は、弟があまりにも軽率だった」美羽の顔には、心から申し訳なさそうな表情が浮かび、眼差しも誠実だ。「ずっときちんとお詫びしたいと思っていて。明日の夜、時間はある?レストランを予約しているので、一緒に食事でもできればと思って。お詫びの気持ちとして」芽衣は反射的に断ろうとした。だが、視線の端に和彦のオフィスの固く閉ざされた扉が映り、先ほどの彼の美羽への配慮を思い出す。胸中の不快感を押し殺し、歯を食いしばるようにしてうなずいた。「……分かりました」美羽は柔らかく微笑む。「じゃあ、明日の夜七時に。レストランで待ってるね」そう言い残し、美羽は軽やかな足取りで廊下を去っていった。残された芽衣は、その場に立ち尽くしたまま、唇を固く結んだ。――深夜。和彦は、いつもどおり櫻山荘園へ戻った。出張のない日は、決まってここで過ごす。広いリビングには誰の姿もなく、クリスタルのシャンデリアだけが冷ややかな光を注ぎ、床を白々と照らしている。美穂がいた頃の、暖色の照明と、ほのかな桜の香りに慣れていたせいか、今は果てしない空虚と静けさだけが残っていた。彼は一瞬足を止め、無表情のままスーツの上着を腕に掛け、そのまま階段を上がる。寝室には向かわず、書斎へと足を運んだ。扉を開けると、慣れた手つきで書棚の脇を押す。壁がゆっくりと動き、内部の隠しスペースが現れた。そ
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