Semua Bab ガラクタはキラキラ: Bab 11 - Bab 20

26 Bab

 翌朝、目を覚ました燿はいつもと同じようにランニングをした。少し気分を変えてみようとあまり行かない川沿いのコースを選ぶ。川沿いには休憩場所となる公園などがないため、蒼波に電話をかけにくいというデメリットがあるが仕方ない。道端で電話をするしかなかった。  今朝はできれば電話だけで起きてもらいたい。昨日の今日で蒼波の家まで起こしに行くのは少々気が引けるのが正直なところだ。コール音を聞きながら、上がった息を整えるために深呼吸をしていると、いつもよりも早く通話状態になって驚いた。 『……燿ちゃん』 「おはよ」 『おはよう』  挨拶を交わしたものの、そこから会話が続かない。理由が解らないのに燿が謝るのもおかしな話だし、蒼波も納得しないだろう。それに昨日のことを話題にはしたくなかった。燿は必死に言葉を探す。 「えっと、ああ、今日は川沿いだから風が涼しいぜ」 『そうなんだ』 「起きたなら支度して、ウチに来てろよな」 『うん』  蒼波は口数が少なかった。燿と同じ気持ちなのか昨日のことを持ち出す気配はない。なかったことにしたいのかもしれないと燿は思った。 「じゃあ、あとでな」  一方的に通話を終了させた燿は、自動販売機で買ったスポーツ飲料を飲み干す。空になったペットボトルをゴミ箱に放って再び走り始めた。風景が真夏のそれから少しずつ秋へと移ろいを見せているような気がする。ランニングをしながら季節が移り変わっていくのを感じるのは燿の好きな瞬間だった。そのまま川沿いのコースを走り切って家に帰る。だが、そこに蒼波はいなかった。 「かーちゃん、蒼波は?」 「今日は花壇の水やりがあるから先に行くって言ってたわよ」  母親が下げている空になった食器は蒼波のものだろう。燿は内心しまったと思っていた。蒼波は確実に昨日のことを気にしている。しかし、だからと言って蒼波になにもかもを吐き出させてやることは、今の燿にはハードルが高すぎた。 「本当にケンカはしてないのね?」 「ケンカじゃない。俺にも意味が解ってねぇんだ」 「だったら夕飯は一緒に食べなさいよ?」  その言葉に燿はうな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-25
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Ⅱ-2

 教室に入ると、蒼波はまだ園芸委員の仕事をしているのか、姿が見えなかった。「おーっす! 今日は高遠と一緒じゃねーの?」「おう。今日は花壇の方だって。先に来てるはずだ」 声をかけてきたのは辻山だ。燿は教科書やノートを鞄から取り出しながら、寄り道せずに登校するミッションが省かれたことにほっとしていた。一緒にいたくないわけではないが、なにを話せばいいのか解らないのだ。 蒼波は始業五分前になってようやく教室に戻ってきた。ちらりと蒼波を見た燿に、少し困ったようでいてどこか淋しげな微笑みが返ってくる。その表情がひどく大人びて見えて、燿はどきりとした。 授業中も蒼波が気になって仕方がない。後ろの方の席にいる蒼波を振り向くことはできないが、燿は昼休みにはできるだけ普段通りにふるまおうと決めてなにを話せばよいのかをずっと考え続けていた。 そうして迎えた昼休み。 たぶん蒼波は自分からは燿のところには来ないと感じていたので、燿の方から蒼波の席に弁当を持って行くことにする。蒼波は少し驚いたような顔をしてから、また複雑な笑みを浮かべた。「あー、腹減ったな」「そうだね。お弁当食べようか」 燿を邪魔に思っているわけではないようだ。丁寧に弁当の包みを広げていく蒼波の指先を見つめながら、燿は次の言葉に迷っていた。 そこへ教室のドアのところから、隣のクラスの友人が声をかけてくる。「室橋! ちょっと、頼まれてくれ!」「なんだよ」 燿が戸口まで行くと、友人は両手を顔の前でぱんっと合わせて頭を下げた。「体育のジャージ! 忘れちまって!」「あー、別にいいけど」 ロッカーからジャージを取って友人に渡すと「明日洗って返すから!」と言い残し、教室へと戻っていく。燿が異変に気づいたのは、蒼波のところに戻ったときだった。「蒼波? どうかしたのか?」 自然とそんな言葉が出てしまうくらいに、蒼波は深刻な顔つきをしている。深刻といえば聞こえはよいが、怖い顔というのが燿の抱いた印象だった。不機嫌を隠そうともしない蒼波が低い声で燿に問う。「燿ちゃんは、誰にでもジャージ貸しちゃうんだ?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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Ⅱ-3

 放課後、燿と蒼波はそれぞれ陸上部と手芸部へと向かった。  蒼波が手芸部で今なにを作っているのか燿は知らない。かわいらしいぬいぐるみかもしれないし、きれいな刺繍なのかもしれない。  練習にもイマイチ身が入らず、計測でのタイムも思ったように伸びなかった。部長には怒られてしまう始末だ。部室でシャワーを浴びながら燿の口からはいくつものため息がこぼれ落ちた。 「あいつ、変だったよな」  昼休みの蒼波の言葉について考えてみる。『誰にもなにも貸さないでほしい』と言っていた蒼波はつらそうに見えた。  あれ? と燿は突然幼稚園のころのことを思い出す。当時、似たようなことがあったのだ。燿は遊んでいるおもちゃをほかの子供が欲しがるとすぐに渡していた。それになぜか蒼波がひどく腹を立てていた気がする。  昨日に引き続き二度目の『まさか』の可能性に行き当たってしまった。  慌てて否定してみても、打ち消そうとしてみても無駄だ。蒼波のそれはどう見ても嫉妬だった。 「まじか」  シャワーを頭から浴びていた燿は、どんよりとした気分に支配され、力が抜けていくのを感じる。こんな状態で蒼波と一緒に夕食を摂るなんて、とても耐えられそうになかった。  お互いに部活がある日は一緒に帰ることが多いが、この日、燿は蒼波を待つことをしなかった。蒼波からもスマートフォンにはなんの連絡も入っていなかったので、一人家路につくことにする。  ともかく夕食までに二度の『まさか』を乗り越えて、通常運転に戻らなければならない。そんな風に考えながら校門を出たら、蒼波本人がぽつんと立っていた。 「あ、あ、蒼波。待ってたのか」  ゆるくカールのかかった茶色い髪の毛が風に揺れている。蒼波は小さくうなずいたが、燿を見ようとはしなかった。燿も燿で蒼波の顔をまともに見ることができない。  二人はしばし無言でその場に立ち尽くしていた。 「帰ろう?」 「お、おう」  蒼波にうながされて歩き出す。駅までの道の途中、蒼波は一度だけ立ち止まって緑のまま落ちた葉を一枚拾っていた。  その姿を見て、燿はいつだったか蒼波に「花を摘めばいいじゃないか」と言ったことを思い出す。燿の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-30
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Ⅱ-4

 燿を包んでいた奇妙な緊張感がわずかに緩んだ気がする。まだ夕食を食べなければならないので気は抜けないなと思いながら、燿も自宅のドアを開けた。  スウェットに着替えながら、燿を襲った『まさか』について考えるが、やはりどうするのが正解なのかは解らない。当の蒼波がなにも言わない以上、こちらの早合点という可能性もまだ捨てきれない。 「そうだよ。気のせいってこともあるだろ」  自分に言い訳をするように、燿は一人呟いた。  一階に下りていくと、相変わらず母と妹の視線が冷たくて居心地が悪い。無言で「仲直りをしなさい」と圧をかけられて、燿はどうすればよいのか本格的に解らなくなってきた。元々ケンカはしていないのだから当たり前といえば当たり前である。  そこへ蒼波がやってきて、燿の母親へと弁当箱を差し出した。 「おばさん、これ。ごちそうさまでした」 「あら? 洗ってくれたの? いいのに」 「家の食器のついでだったから」  笑い合う蒼波と母親を横目に、燿と煌は夕食や食器をテーブルへと運ぶ。今夜はラザニアをメインに、グリルした豚肉とサラダ、スープと食べ盛りの燿たちには嬉しいメニューだった。  食欲はあまりないと感じていた燿だったが、陸上部の練習をこなしてきただけあって、心とは正反対に体は飢えていたらしい。結局ぺろりと平らげてしまった。蒼波もわりとしっかり食べていたのでひと安心だ。  サラダにしつこく添えられているミニトマトをどうしようかと、行儀悪く箸をうろうろさせていた燿の隣から、蒼波がひょいとミニトマトをさらっていった。 「……さんきゅ」 「いいよ。いつものことだしね」  かすかに微笑みを浮かべた蒼波を見て、燿の心臓が跳ねる。見慣れた幼馴染みのただの笑顔が、とても優しいものに思えた。自分の頬が熱くなっていくのを感じて燿は蒼波から顔を背ける。 「あ、そうだ。俺、課題やんないと」  食べ終わった食器をそのままに慌しく席を立とうとする燿に、蒼波がのんびりとした口調で声をかけてきた。 「今日出た数学の?」 「そうそう。それ」 「一緒にやる?」  逃げ出そうとした燿をこんなにも簡単につかまえてし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-01
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Ⅱ-5

*** こんがらがってしまった生活はもう五日になろうとしていた。  蒼波は「バカ」と声を荒らげた翌日こそ様子がおかしかったけれど、その次の日からはすっかり元通りだ。朝は寝坊をして、学校への行き帰りでは道草を食っていた。それに対して燿だけが取り残された形で、素っ気なく見える態度を取っている状態にある。  そんな中で小さな事件が起きた。  体育の授業中に、バスケットをしていたとき。燿は高めにパスされたボールを取ろうと無理な姿勢からジャンプしたのだが、同じくボールを取ろうとした相手のチームの選手とぶつかって着地に失敗してしまった。左足に激痛が走り、そのあまりの痛みに倒れたまま動くことができない。 「おい、大丈夫か!」 「室橋!」  すぐに教師とクラスメイトたちが駆け寄ってきた。 「大丈夫、じゃねーかも」  痛みをこらえながら冗談めかして答えてみるが、誰もが心配そうに燿を覗き込んでいる。 「保健係、室橋を保健室に」 「俺が連れていきます。俺、でかいし丁度いいと思うから」  教師の言葉をさえぎったのはほかでもない蒼波だ。燿は痛みをこらえるのに必死だったが、自分の背中をゆっくりとさすって荒くなっている呼吸を落ち着かせてくれている大きな手が蒼波のものであることには気がついていた。 「燿ちゃん、一度はしっこに行こう」  そう言って蒼波はひょいと燿を抱えてコートから出ると、体育館の隅へと移動する。バスケットの試合は再開され、燿の耳にボールのバウンドする音やシューズのスキール音が届いた。 「動けそう?」  蒼波の問いに燿はこくりとうなずく。ここ数日、まともに蒼波と話をしていないせいで、言葉がすぐには出てこなかった。 「危ないから俺につかまって」  燿の左手を取って自分の肩へ回させ、蒼波はゆっくりと立ち上がる。相変わらずひどい痛みだったが、お陰で燿はなんとか立つことができた。蒼波が燿に歩調を合わせてくれるので助かる。  保健室に着くと蒼波は燿を椅子に座らせた。保健医の姿が見当たらないため、探してくると言って職員室へと駆けていく。その蒼波の背中を見送った燿は痛みに顔をしかめながらシューズと靴
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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Ⅱ-6

「保健の先生、見つからなかった」 「え」  じゃあこれはどうすればよいのだと燿は自分の足を見つめる。そばまでやってきた蒼波が燿の前でしゃがみ、素足にそっと触れた。 「いってぇ!」 「ご、ごめん。足首、曲げたりはできる?」 「それはなんとかできるけど」  蒼波はうーんとうなってから、薬などが入っている棚をあさり始める。そして湿布と包帯を手に再び燿に向かい合った。 「まずは冷やそう? 応急処置的なやつだけど」  そう言って蒼波は患部に湿布をそっと貼ってくれる。熱を持っていたこともあって気持ちがよかった。本当は固定した方がよいのだと怪我をすることがある陸上をやっている燿には解っていたけれど、丁寧に包帯を巻いていく蒼波の手を見ていると言い出す気にはなれない。 「燿ちゃん、包帯きつくない?」 「大丈夫」 「もう帰る? ゲーセン寄ったりしちゃダメだよ?」  早退するかと訊かれた燿は噴き出してしまった。それなりの痛みはあるが病院に行くほどの捻挫ではない。それなのに早退を勧めるほど蒼波は燿を心配している。 「なんで笑ってるの?」  しゃがんだままの蒼波が伸び上がって燿の顔を覗き込んできた。急に顔が近くなったことに驚いた燿は身を引こうとする。椅子の上でそんなことをすれば当然バランスは崩れた。 「うわっ」 「燿ちゃん!」  がしゃんと大きな音を立てて燿は椅子ごとひっくり返ったのだが、予想していたよりずっと衝撃も痛みも少ない。つむっていた目を恐る恐る開いてみると、蒼波に抱き締められる形で床に転がっていた。 「いたた……大丈夫? 燿ちゃん」  大丈夫だと答えたいのに心臓がばくばくと音を立てていて邪魔をする。こんなに蒼波にくっついたのはいつぶりだろうか。それより蒼波は大丈夫なのか。とにかく返事をしなければと燿は軽いパニックに陥った。 「燿ちゃん?」 「あ、う、うん」 「よかった。足もひどくなってない?」  こくこくと頭を縦に振るばかりの燿を抱き起こしながら、蒼波はほっとしたように笑みを浮かべる。燿から離れると倒れた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-06
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Ⅱ-7

*** 燿の捻挫はそれほど深刻なものではなかったのだが、朝のランニングや部活は十日ほど休んで様子を見ることになった。翌日からは少し足を引きずるくらいで歩くことができたのもさいわいだ。もっとも、ランニングのために普段起きている時間に目が覚めて、暇を持て余してしまうことは苦痛だったけれど。  そしてもうひとつ、燿の気持ちを重たくさせてしまうのが蒼波だった。毎朝の習慣になっている電話をかけながら、燿は息を吐き出す。 『燿ちゃん、おはよう』 「おはよ」 『支度したら行くから待っててね』  相変わらず一人では起きられないクセに燿の世話を焼きたがるのだ。一緒に登下校するために手芸部や委員会を休んでいることもあるようだった。  だからといって蒼波が例の宝物探しまでをやめることはない。昨日も帰り道には何度も立ち止まって、キーホルダーから外れたらしい鈴や小石などを大切そうにポケットへと入れていた。  ここぞとばかりに世話を焼かれて、燿は困惑しつつも「蒼波はいつもこんな気持ちなのか?」と考える。燿は煌の世話をすることももちろんあるけれど、それよりも蒼波を起こしたり学校へ連れていったり、課題を一緒にしたりする時間の方が圧倒的に多い。  つまり、煌よりも蒼波の面倒を見ている時間の方が多いのだ。それは蒼波が同い年の友人であり、幼馴染みであることが大きく関係している。話も合うし、なによりそばにいて疲れない。  そのはずだったのに、今は蒼波が自分の近くにいることに戸惑ってしまう。 「もう少し離れて歩けよ」 「でも転ぶかもしれないし」  燿が怪我をしてからというもの、学校に向かう間、蒼波は燿の鞄を持って寄り添うように歩いていた。背の高い蒼波は歩くのも早いのだが、足をかばっている燿に当然のように歩みを合わせてくれている。怪我がなかったとしても蒼波はいつも燿の歩く速度に合わせているのだと思って、燿はいら立ちに似た気持ちを覚えた。  いっそ蒼波がはっきりしてくれたら、自分もこんな気持ちを抱えずに済んだのにとも考える。しかし、もしも言葉にされてしまったとしたら、燿はそれにどう返答したらよいか迷うことも解っていたので切り出せずにいる。そこへ持ってきて捻挫をし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-08
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Ⅱ-8

 その日、蒼波を加えた家族と一緒に夕食を食べたあと、例にもれずさっさと二階の部屋に引っ込もうとしていた燿は珍しく煌につかまった。宿題を教えてほしいだとか蒼波に謝れだとかではなく、単純に遊びたかったらしい。「蒼波に遊んでもらえ」「今日はお兄ちゃんがいいの」 テレビゲームを用意している煌に言ってみるが、本当に珍しくかわいらしい返事が返ってきたので、燿もまあいいかと付き合うことにした。しかし、ゲームで手を抜くことができない燿は小学生の妹相手にもついつい本気になってしまう。連勝に連勝を重ねてとうとう煌を泣かせてしまった。「燿! ちょっとは煌が楽しめるようにしてあげなさい」「燿ちゃん意地悪だ」 テーブルでコーヒーを飲んでいた母親と蒼波に責められ、流石に反省した燿は煌の頭をぽんぽんとなでて「ごめんな」と素直に謝る。泣きじゃくる煌は甘えるように燿に抱きついてきた。「今度は俺とやる?」 蒼波がテーブルから燿たちのいるテレビの前までやってくる。大好きなはずの蒼波からの誘いにも、機嫌を損ねた煌は首を横に振るばかりだ。燿にべったりとくっついて離れようとしなかった。「じゃあ燿ちゃん、俺とやろうよ」「……でも煌がなあ。今、手が離せねぇし」 正直なところ、蒼波がそばに来たので、燿は部屋に戻りたくなっている。煌を抱えていることを言い訳にしてゲームの誘いを断った。「煌ちゃん珍しい。やっぱりお兄ちゃんが大好きなんだね」 低い声がそんな言葉をつむぐ。燿はその声音に本能的な恐怖を感じて、煌の方に話しかけた。「そろそろ寝る時間だろ? 部屋まで連れてってやるから」「うん」「燿ちゃん、湿布換えるのやろうか?」「いい。自分でやる」 燿は蒼波をその場に残し、煌を連れて二階へと向かう。煌を部屋へ送ったあとはリビングには戻らず、自分の部屋のベッドにダイブした。「今のもだ」 口をついて出たのは、蒼波の態度についてだ。蒼波は煌にまで嫉妬していた。 どうすればよいのか。どこへ逃げればよいのか。どうしたら決定的な言葉を言われずに済むのか、燿は考
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-10
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Ⅱ-9

 それから数日経ったある日の放課後、悲痛な面持ちをした蒼波が燿の元へとやってきた。 「今日、どうしても園芸委員会に出なくちゃいけなくて……」 「先に帰ってるわ」 「一人で大丈夫?」 「週明けからは練習にも出られるんだし平気」  蒼波が教室から出ていくのを見てから、燿も昇降口へと向かう。こうして一人で帰るのは久しぶりだと感じた。靴を履き替え、駅までの道を緩めの歩調で歩いていく。もうすっかり足の腫れも引き、歩く分にも問題はなかった。  一人で下校するときには、燿は駅前のゲームセンターに立ち寄ることが多い。陸上部の休養日などは必ずといってよいほどゲームをしていた。そして最後にはクレーンゲームを見て回って、蒼波が好みそうなキャラクターの小さなマスコットが獲れないかとチェックするのだ。マスコットを持ち帰ると蒼波はとても喜んで、花が咲いたように笑う。  しかし、この日の燿はゲームセンターに寄ることをしなかった。もしなにかが獲れたとしても、蒼波に渡すのをきっとためらってしまうと解っていたからだ。ゲームセンターの自動ドアが開くたびに派手な音楽が流れてくる。それを聞きながらそそくさと駅に向かった。 「ただいま」  燿の声に応える者はいない。テーブルに母親からの『煌と買い物にいってきます』というメモがあった。燿は小さく息を吐き出す。自分でも蒼波に対する態度がずっとおかしいと思っていた。家族にも心配をかけていることも知っている。  もしも蒼波が自分に同じような態度を取っていたとしたら、燿はとっくに激怒して蒼波に詰め寄っているに違いない。たぶん自分は蒼波のやさしさに甘えているのだろう。  着替えを済ませた燿はリビングのソファに転がりテレビをつけた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-13
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Ⅱ-10

 そういえば、仮に蒼波が燿をそのような意味で好きだとして、どこが好ましく思えたのだろう。今まで考えていなかった疑問がふと浮かんできた。蒼波はきれいでかわいらしいものばかりを集めている。燿もそれを知っているからゲームセンターでも猫やくま、うさぎなどのマスコットを選んで獲るようにしていた。部屋に並べられている瓶の中には確かにきれいな色をしたものたちが収まっている。蒼波がかわいいと言って愛でるものは、子供や女性も喜びそうなフォルムをしていたし、きれいだと言うものは誰が見ても目を引く色合いをしていた。  それらに燿との共通点はない。  なにせ燿は普通の男子高校生で、女子のようにふわふわとした雰囲気も持っていなければ、やわらかい体をしているわけでもなかった。  蒼波の好きなものと燿はあまりにかけ離れているため、自分を好きだというのは現実味がないと思えてくる。  テレビの画面をぼんやりと眺めながら、燿はそんなことを考えていた。気づかないうちに辺りは夕闇に包まれている。薄暗くなりかけていた室内に慌てて電気をつけた。  そこへドアの開く音がする。燿は母親と煌が帰ってきたのだと思い、気にすることなく再びテレビの前のソファに寝転がった。 「ただいま、燿ちゃん」 「蒼波」  燿が飛び起きたのは言うまでもない。なんとか場を取り繕って二階へ避難しなければと慌てる燿に、蒼波は静かな口調で話し出した。 「今日はゲーセン、行かなかったの?」 「あ、ああ。気分じゃなくて」 「そう」  蒼波は制服のまま燿の家に来たことからも、燿がクレーンゲームで何かを獲ってきたのでは? と思っていたようだ。お土産のマスコットがないことにあからさまにがっかりしていた。 「こ、今度また、獲ってやるから」 「燿ちゃん」  名を呼ばれて燿の背筋が伸びる。少し悲しそうにはしていたものの、蒼波は落ち着いた様子で燿を見つめていた。 「なに?」 「ちょっと話があるんだけど」 「俺にはないな!」 「燿ちゃんずっと変だよ。俺のせい?」  ずばりと切り込まれて言葉を失った燿に、蒼波は畳みかける。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-15
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