Masuk放課後、燿と蒼波はそれぞれ陸上部と手芸部へと向かった。
蒼波が手芸部で今なにを作っているのか燿は知らない。かわいらしいぬいぐるみかもしれないし、きれいな刺繍なのかもしれない。 練習にもイマイチ身が入らず、計測でのタイムも思ったように伸びなかった。部長には怒られてしまう始末だ。部室でシャワーを浴びながら燿の口からはいくつものため息がこぼれ落ちた。 「あいつ、変だったよな」 昼休みの蒼波の言葉について考えてみる。『誰にもなにも貸さないでほしい』と言っていた蒼波はつらそうに見えた。 あれ? と燿は突然幼稚園のころのことを思い出す。当時、似たようなことがあったのだ。燿は遊んでいるおもちゃをほかの子供が欲しがるとすぐに渡していた。それになぜか蒼波がひどく腹を立てていた気がする。 昨日に引き続き二度目の『まさか』の可能性に行き当たってしまった。 慌てて否定してみても、打ち消そうとしてみても無駄だ。蒼波のそれはどう見ても嫉妬だった。 「まじか」 シャワーを頭から浴びていた燿は、どんよりとした気分に支配され、力が抜けていくのを感じる。こんな状態で蒼波と一緒に夕食を摂るなんて、とても耐えられそうになかった。 お互いに部活がある日は一緒に帰ることが多いが、この日、燿は蒼波を待つことをしなかった。蒼波からもスマートフォンにはなんの連絡も入っていなかったので、一人家路につくことにする。 ともかく夕食までに二度の『まさか』を乗り越えて、通常運転に戻らなければならない。そんな風に考えながら校門を出たら、蒼波本人がぽつんと立っていた。 「あ、あ、蒼波。待ってたのか」 ゆるくカールのかかった茶色い髪の毛が風に揺れている。蒼波は小さくうなずいたが、燿を見ようとはしなかった。燿も燿で蒼波の顔をまともに見ることができない。 二人はしばし無言でその場に立ち尽くしていた。 「帰ろう?」 「お、おう」 蒼波にうながされて歩き出す。駅までの道の途中、蒼波は一度だけ立ち止まって緑のまま落ちた葉を一枚拾っていた。 その姿を見て、燿はいつだったか蒼波に「花を摘めばいいじゃないか」と言ったことを思い出す。燿の燿と蒼波はホテルをチェックアウトしたのち、もう一度海へと足を向けた。海は昨日と同様穏やかで、太陽の光を受けて輝いている。 「すごいな」 「きれいだね」 かたわらの燿がわずかに身じろぎして、蒼波の方へ体を寄せてきた。どうしたのだろうと思う間もなく、蒼波の手に燿の手が触れ、しっかりと握りしめられる。 「燿ちゃん?」 「別に、いい」 「え?」 「本当は、触ってもいい」 昨日蒼波が話したことを燿なりにずっと考えていてくれたのだろう。ぽつぽつと話す燿はうつむいていて、蒼波からは表情は解らなかった。けれど耳が真っ赤になっていることからどんな顔をしているのか想像はできる。蒼波は素早く辺りを見回し、人気がないことを確かめてから燿を抱きしめた。 「うわ!」 「俺、本当に燿ちゃんが好きだよ」 「解ってるって言ってるだろ」 燿は滅多に蒼波に対して「好き」という言葉を返してくれない。けれど、触られるのをいやがっていた理由が解った今なら構わなかった。 きっとこのあと、燿は照れて別の話題を持ち出してくる。そんなことまで手に取るように蒼波には解っていた。 「そろそろ、駅行くか?」 ほら、やっぱりと思って蒼波は笑ってしまう。 「なんでにやにやしてんだ」 「燿ちゃんが大好きだなって思って」 「そーかよ」 二人は海岸を離れ、駅へ向かって歩き出す。一泊二日の小旅行は二人の小遣いでまかなえる範囲の安上がりなプランだったが、楽しいものだった。それでも蒼波はいつかもう少し豪華な旅行を燿と一緒に楽しみたいと考える。 「今度はもっとすごいホテルで、ぜいたくなごはんも食べようね」 そう提案すると、燿が意地悪い笑みを浮かべた。 「そりゃいつになるんだ」 「えーっと、大学生とかになってから? それとも働き始めてから?」 「先の長い話だな」 蒼波は頬を膨らませて反論する。 「じゃあ、冬休みにバイトするからそれで行く?」 「無理すんな。大学生とか社会人になってからで充分だろ」
二人は泥のように眠っていた。一日海岸を歩き回って、夜には激しく交わっていたのだから当然とも言える。燿のスマートフォンのアラームが鳴ったが、スヌーズを含めて三回ほど蒼波が止めてしまった。チェックアウトが遅めの時間に設定されているホテルだったので、少しの寝坊は許されたのがさいわいだ。 身支度を整え、万が一にも情事の痕跡が残っていないかを確認してから、朝食を摂りにラウンジへと向かう。朝食はバイキング形式となっていて、これまた食べ盛りの二人には丁度よかった。 細かく仕切りのついたプレートを手にした燿と蒼波は、それぞれ好みの食事を取り分けに向かう。蒼波はスープとパン、スクランブルエッグと厚切りハムを焼いたもの、サラダを持ってテーブルへと戻ってきた。対して燿はというと、スープにライス、グリルチキンにとんかつ、スコッチエッグとすごいボリュームだ。そして圧倒的に野菜が足りていない。 「燿ちゃん、野菜は?」 「そんなもん食わなくても育つ」 「トマトだけよけたらいいじゃない」 「俺は肉が食いてぇの」 蒼波もおかわりに行くことを前提にしているので、あまり燿のことを言えない。けれどここには栄養バランスを考えてくれる燿の母親はいないのだしと思う。もっとも燿は相変わらず聞く耳持たずだけれども。 「お前もこういうときくらい、好きなもん食えよ」 そう言われて、蒼波は燿に手招きして顔を寄せるように合図する。そして耳元でささやいた。 「それは、昨日の夜お腹いっぱい食べたから」 「この……バカ! バーカ!」 燿は言い捨ててがつがつと食べ始める。それが照れているだけだということは、赤くなった頬や耳がなにより雄弁に語っていた。蒼波もフォークを手にして食事を始める。 二人は結局三度ほど席を立っておかわりをした。二度目、三度目になると蒼波も燿につられてついつい肉を多めに取ってきてしまって笑われる。 「燿ちゃんが美味しそうに食べるてるから」 「人が食ってるのって美味そうに見えるよな」 「どれが気に入った?」 「塊の肉」 燿の答えに蒼波は噴き出した。燿は本当に肉が好きだ。それでも三度目に席を立ったときには小さなサラダ
二人は絡み合ったまま荒い息を整える。「終わったんだから、離れろよ」「もう。燿ちゃんはすぐそういうこと言う」 ゆっくりと燿の後孔に埋めていたものを抜くと、それすらも刺激となるのか燿が小さく声を上げた。「もう一回お風呂入らないとダメだね」「そうだな」 燿は力が入らないのか、ベッドに仰向けのまま転がっている。蒼波は純粋に嬉しくなって燿に声をかけた。「後ろだけでイケたの、気持ちよかった?」 寝返りを打って窓の方を向いてしまった燿は、こちらを見ようとしなくなってしまった。どうやら訊いてはいけなかったことらしい。「俺は、燿ちゃんがそうやってイってくれたの、嬉しかったんだけど……」「お前は少し慎みを持て!」 言葉とともに枕が飛んできたので、蒼波は早々に風呂場へと退散した。シャワーでざっと体を流して戻ってみると、燿はベッドからソファへと移動して、スポーツドリンクを片手にテレビを見ていた。「燿ちゃんも入ってきたら?」「おう」「出てきたら夜食食べよう?」「ん」 バスルームに向かう燿を見送ってから、蒼波は先ほど海岸でもらったアクアマリンを取り出して眺める。宝石だから嬉しいわけではない。この石を燿が自分のために獲ってきてくれたこと、それも今日のためにわざわざ用意してくれたことが嬉しかった。「俺もお返しできるようにならなくちゃ」 蒼波の独り言は、燿が聞いていたらまた怒り出しそうなものだ。 二人が恋人同士になってから初めての旅行は、例にもれず甘いものとなった。
「気持ち、いいか?」「俺の台詞、取らないで」 蒼波は汗で額に貼りついている燿の黒髪を優しく払ってから、ゆっくりと動き始める。喘ぎの合間から燿が小さな声で呟くのが聞こえた。「俺だって、不安なんだよ」「燿ちゃん?」「俺で、お前が、気持ちいいのか、とか」「気持ちいいって、言ってるのに」 最初のときも蒼波は気持ちよくて止まることができなかったのに、なにを不安に思うことがあるのだろうか。今だって燿にちゃんと話させてやりたいと思っているのに、どん欲な自分は腰を動かすことをやめられずにいる。奥深くまで来てもよいと許可された喜びで爆発しそうだ。「奥までするの、どんな感じ?」 尋ねながら蒼波はこれ以上奥はないというところまで自身を捻じ込んだ。きれいにしなる燿の背中をしっかりと抱いて、何度も最奥を貫く。「あ、あっ。ん、あおばっ」「やめる?」 燿が首を横に振ったのを見て、蒼波は微笑みを浮かべた。負けず嫌いの燿のことだから、多少無理はしているのだろうけれど、本当にいやがっている様子はない。「じゃあ、今日は奥で気持ちよくなって?」 角度を変えて前立腺をかすめるように突き入れて、奥の奥まで抉るように動く蒼波に、燿がしがみついてきた。それだけではやり過ごせなかったのか、蒼波の肩に噛みついてくる。声を抑えたかったのかもしれない。噛みつくたびに後孔がぎゅっと締まるので、蒼波はそれだけで持っていかれそうになった。「燿ちゃん、燿ちゃん」「ん、んんっ」 蒼波は夢中になって燿の中心へと手を伸ばし、一緒に達するために刺激を与えようとする。しかし、自分の動きが激しくていつものように燿をうながすことができなかった。「あ! あおばっ。ちょっと、あ、ああっ」 今の動きでまた角度が変わってしまったのか、燿がひときわ大きな声を出す。とっさに燿の口を手でふさいだ蒼波は、そのまま抽挿を繰り返した。「んっ。んー! んうっ」「燿ちゃん、イキそう?」 全身を震わせている燿の姿を見て蒼波が問いかけると、燿は何度もうなずいて蒼波の腕や肩に爪を立てる。燿が耐えがたい快楽の
「燿ちゃん」「な、に?」「挿れてほしい?」 問い直した蒼波を唖然と見つめてくる燿が、少しおかしかった。それでも蒼波はどうしても答えてもらいたくて、燿の中心をひとなでする。のけぞる首筋に噛みつくようにキスをして、もう一度訊く。「ねぇ、挿れてほしい?」「もう言っただろ」「挿れてもいいと挿れてほしいは違う」 燿が息を詰めたのが伝わってきた。蒼波には本当は燿がどんな状態なのかも、なにを望んでいるのかだって解っている。けれど言葉にしてほしかった。「この……っ。バカ蒼波! とっとと挿れてイかせろ!」 言いざま燿は両足を使って蒼波の腰を自分の方へと寄せる。慌てたのは蒼波の方だ。「燿ちゃん、待って。ゴムしてない」「そのままで、いい」 ぐいぐいと腰を引き寄せる燿を一度落ち着かせて、蒼波はなんとかコンドームを装着した。そのままでもよいと言われても、燿が体調を崩したりするのはいやだ。「あおば」「うん」「はやく」 こんな風に急かされたら、それがはっきりとした言葉でなくてももう充分だ。蒼波は燿の足を開かせてゆっくりと先端を挿入した。浅く挿れては腰を引き、それを何度も繰り返しながら徐々に深くまで挿れていく。「ふ、あっ。んう」「燿ちゃん、つらくない?」「だい、じょぶ」 蒼波は燿の呼吸が少し落ち着くまで動かずにいた。「なあ、蒼波」「うん? 痛い?」「全部挿れろよ」 その言葉に蒼波は紅茶色の目を見開く。身長の高い蒼波のものは平均よりも大きめなので燿の負担が大きい。そう考えてこれまで蒼波はすべて挿れることをしてこなかった。燿には気づかれていないと思っていたのだが、ちゃんと解っていたらしい。「全部、ほしい」「燿ちゃんはずるい……!」 いつだって燿は蒼波の願い以上に、大きなものを返してくれる。蒼波が燿に抱いた恋慕の情に対しても、見つからなかったシーグラスについても、今の言葉にも、全部蒼波が思い描いたものよりもずっとよいものをこ
「お前、最初からその気だったのかよ」 「だって一緒の部屋にいて、我慢なんてできないし」 「だったら、なんでそんなに悩んでんだよ。好きにすりゃいいのに」 「それとこれは別。口でする? 手がいい?」 ついでのように次の愛撫をどうするか尋ねた蒼波に、燿はとうとう両手で顔を覆ってしまった。 「言わないとしないよ。ここ、このままだとつらいよね」 中心にそっと触れたとたんに燿の背中がしなる。「あ」と漏れる声に蒼波の腰も重たくなった。 「――……で」 「え? 聞こえない」 「手でいいから!」 蒼波が指を絡ませて緩く手を動かすと、燿は声をこらえようと唇を噛みしめる。本当なら好きなだけ喘がせてやりたいところだ。しかし隣の部屋が気になるのも確かなのでそのままにしておいた。 張り詰めている中心をしごきながら、後ろを優しくなでてみる。 「は、あっ。んん」 「一回イク? このまま後ろしていい?」 燿には蒼波の声が届いていない様子だった。頭を左右に振るだけで、まともな応えは返ってこない。蒼波はそんな燿の中に早く挿入りたくなって、ローションのキャップを乱暴な手つきで開けた。両手にぶちまけるように出したローションを温めるのももどかしくて、そのまま燿の後孔へ指を這わせる。 「冷てぇ、んっ。うあ」 「ここ、してもいい?」 蒼波の我慢も限界に来ていたが、今日は全部言ってもらうと決めていたため、なんとか耐えようとしていた。燿がこくこくとうなずくのを見て、ローションをまとわせた指を一本、ゆっくりと沈ませる。 「あ、あっ」 「静かに」 「んんっ。ん!」 燿がまた自分で自分の口をふさいだことによって、部屋には燿の荒い息遣いと後孔に施されるぐちぐちというはしたない愛撫の音だけが響いた。指を増やすたびにそこからは淫猥な音が響くようになり、燿の中心も腹につきそうなくらいに反り返っていく。 「燿ちゃん、挿れてもいい? ダメ?」 後ろへ三本目をくわえさせた蒼波は、ふーふーと息を吐いている燿に尋ねた。流石にこの質問には答えづらいら