All Chapters of 私のおさげをほどかないで!: Chapter 91 - Chapter 92

92 Chapters

22.胸騒ぎ【side:Kaname Torikai】②

 切りながら、受話器側とは別の手で持ったスマホに片山さんの番号を打ち込んで、ワンコールだけして切る。 そのままもう一度例の追跡アプリを立ち上げて――。 やはり未だに凜子の位置を現す「泣きべそウサギ」がある一点から動かずにロスト表示のままなことを確認した俺は、スマホを握りしめる。 そうしながら白衣を脱ぎ捨てて椅子に放ると、第一診察室へ向かった。「院長、俺、ちょっと今日は診察できそうにないです」 いつもなら、身内という甘えもあって、もっと砕けた物言いになるところだが、今日は――いや、今だけは……そんな甘えで親父に接したくないと思った。「もうじき開院時刻だぞ。何を馬鹿なことを」 スタッフたちも親父と同じ意見らしく、冷ややかな視線が突き刺さる。「音芽が! あなたの娘が切迫した危機的状況にあるって言ったらどうしますか?」 こんな卑怯な手、使いたくなかったが仕方ない。 この親父が、娘を溺愛していることは周知の沙汰だ。 実際には音芽は何ともないんだが、俺にとって凜子は音芽と同じぐらい……いや下手したら音芽より大切なんだ。少しくらいの嘘、許して欲しい。「音芽に何かあったのか!?」 案の定食い気味に俺に詰め寄ってくる親父に、「音芽には旦那が付いてるから問題ないです」と告げてから、すぐに言葉を続ける。「けど! 俺にとって音芽と同じくらい……いや下手したらそれ以上に大事な女性のピンチかも知れないんです。だから――」 行かせてくれ。 そう言おうとしたら、皆まで言う前に「さっさと行け」と追い払うような仕草をされた。 いいのか?と言う言葉も出ないほどに、俺は親父からのその言葉を待ち望んでいたんだと思う。 正直な話、ダメだと言われても行く気満々だった。けど、やはり仕事に穴をあける以上、ちゃんと筋は通したかったから。「恩に着ます!」 言っ
last updateLast Updated : 2025-09-18
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23.GPS①

「GPSってさ、スマホの電源を切った地点が表示されるって知ってた?」 私のスマホを弄ぶように見せ付けながら、男――金里明真が問うてくる。 私はその声にハッとして顔をあげた。 この家で電源が切られたんだとしたら……奏芽さんは私の元へ辿り着けると言うこと? 一瞬そう思って希望を抱きかけたけれど、それを知っていながらこの男がそんなバカなことを許すはずがないとすぐに気づいた。「さて、ここで問題です。これは何でしょう?」 ニヤリと笑顔を向けられて、私はその表情のいやらしさに寒気を覚える。 男が部屋の入り口の扉を開けたままそこに立って話しているから、廊下からの冷気が部屋に入ってきているのかも知れない。 でも、それだけではない心理的な悪寒の方が強い気がする。 嬉しそうに見せられたのは、私のバイト先のコンビニのロゴが入ったレジ袋。 今はレジ袋も有料化しているから、それを持っていると言うことはわざわざ買ったんだろう。 そうまでして、そこに行ったのだと私に知らせたい理由があるとしたら――。「凜の携帯の電源はね、セレストアで切ってきたんだ」 やはり、と思う。 セレストアまでは徒歩圏内ではあるけれど、履歴に残った私のスマホのロスト地点はここではないのだと言外に含ませるところに、この男の底意地の悪さを見た気がした。「ホントはもっと遠くまで持って行って切りたかったんだけどさ、キミをあまり長いことひとりぼっちにしておくのも心配でしょ? 凜に内緒でそっと出かけたし……なるべく早く帰ってきたかったんだ」 だから、近場で私がいてもおかしくなさそうな場所、奏芽さんがそう思って惑わされるであろう場所を選んで、そこで電源を切ってきたのだとクスクス笑うの。 心底吐き気がする男だと思った。 そうして、それに振り回されるかも知れない奏芽さんを思うと、私
last updateLast Updated : 2025-09-19
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