All Chapters of 私のおさげをほどかないで!: Chapter 71 - Chapter 80

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18.知らないけど知ってる人①

 講義が終わった後も、何だかさっきの彼のことが頭から離れなくて、私はそそくさと身支度を整えると、沢山の人たちに紛れて教室を出た。 いつもなら、みんなが引けた頃を狙ってのんびりと――何なら1番最後に――ひとりで教室を出るのが好きなんだけど、今日はそうするのが怖い。 それで、沢山の学友に紛れるようにして、四季《しき》ちゃんと約束した学生ホールを目指す。 努力した甲斐あって、1度も人の流れから外れることなく人混みの中を進むことが出来てホッとする。 学生ホールはいつも数名の学生がたむろしている場所なので、ここにいれば1人ぼっちになる心配もない。 それでも何となく怖くて、人の出入りが多い出入り口付近、尚かつ学生課の窓口近辺の席に陣取ると、用もないのにスマホの画面をじっと見つめ続けた。 こういう行動も私らしくないんだけど、今日は平素のように、鞄の中から持ち歩いている文庫本を取り出して物語の中に入り込む気持ちにもなれなくて、スマホを手に画面とホールの入り口とを交互に見ては四季ちゃんの到着を今か今かと心待ちにする。 と、ふと背後から刺すような視線を感じた気がして、私はゾクリと肩を震わせた。 視線の先を確認したいけれど、何だか怖くて出来なくて、ギュッとスマホを握りしめて見るとはなしに画面をスクロールする。 震えないように身体に力を入れているからか、すごく疲れた。 と、ブブッと手の中のスマホが震えて、バナー通知に「鳥飼《とりかい》奏芽《かなめ》」の文字が表示される。 それだけで不安な気持ちが薄らいだ気がして、すがり付くようにそこをタップしてメッセージアプリを立ち上げる。〟凜子《りんこ》、変わりないか?〟 たったそれだけの短い文面だけど、無意識にその文字を指先でなぞりたくなってしまう。 このメッセージの先に、奏芽さんがいてくれると思うと、何だか勇気をもらえる気がした。 奏芽さん……。 さっきあったことを相談するべき? ふとそう思ったけれど、文章で説明するのは何だか難しい気がして…&hell
last updateLast Updated : 2025-09-06
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18.知らないけど知ってる人②

 とりあえず次の教室に移動しながら話そうってことになって、四季《しき》ちゃんと並んで歩きながら、ポツポツと自分が感じた違和感も交えて起こった出来事を話していたら、少しずつ自分の中でも心の整理ができてくるようで。「凜子《りんこ》ちゃん、その男、知ってる人だった?」 四季ちゃんに問いかけられて、私は小さく首を振る。 そういえば、向こうは私の名前を知っているみたいだったけど、私は彼の顔を見てもクラスメイトという認識にならなかったし、当然名前も思い浮かばなかった。あちらから自己紹介も受けていなければ、こちらから聞くような真似もしなかった。 それを伝えると、「何それ。あっちだけ凜子ちゃんのことを知ってるとか……ますます気持ち悪いね。けど、こっちが相手に興味を持ってるって思われるのは危なそうだし、凜子ちゃんから名前を聞かなかったのは正解だと思う!」って四季ちゃんが眉根を寄せてまくし立てる。 私のことなのに、まるで自分のことみたいに考えてくれる四季ちゃんの存在が、本当にありがたいって思ったの。 そこでふと、私はあることを思い出した。「あ、でもね、四季《しき》ちゃん。私、その人のこと、どこかで見たことがある気もして――」 言ったら、「え!? どこで!?」って詰め寄られる。 私は四季ちゃんの迫力に、しばし自分の記憶を手繰り寄せながら考える。 彼に既視感を覚えたのは……あの人が教室を出て行った際。帽子を被った後ろ姿を目にした時、だ。 そんな姿の男性を目にしたのは……確か。「多分……バイト先のコンビニ」 ゴミ箱のところで声をかけてきた、あの人の後ろ姿に似ている気がしたんだ。 口調とか雰囲気なんかが合致しなくてすぐにはピンとこなかったけど、あの後ろ姿だけは同一人物にしか思えない。 そう答えたら、四季《しき》ちゃんが驚いたように瞳を見開いた。「ちょっと! それ、すっごくマズイじゃん! だって凜子《りんこ》ちゃん、今まで変な気配、コンビニ
last updateLast Updated : 2025-09-06
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18.知らないけど知ってる人③

 この学校は、そういう意味でセキュリティが甘めなんだと改めて実感させられた。 自分がこうなってみて初めて気付かされたけど、これって結構怖いことなのかも?「ね? 気をつけないとって思ったでしょ?」 四季《しき》ちゃんが私の表情を見て、そう声を掛けてきて、私は神妙な面持ちでうなずいた。 今までは、学内にいれば安全だって勝手に思いこんでいたけれど、そんなことはないみたい。*** 買ったもの――四季《しき》ちゃんはコーヒー、私はミルクティー――を学生ホールで2人並んで飲んでから、その足で待合場所《正門》を目指す。 予め届いた奏芽《かなめ》さんからのメールによると、迎えに来てくださる方たちの仕事が終わるのは16時40分とのことで。大学《ここ》には17時までには着けるだろう、と書かれていた。 時計を見ると16時45分。 奏芽さんがいつも迎えに来てくださる辺りに立っていたらいいのかな? メッセージによると、お相手の車は〟ワインレッドのミニバン(ソリオバンディット)〟らしいのだけど、車に疎い私はミニバンもソリオバンディットもぴんと来なかった。 それでさっき、ミルクティーを飲みながらスマホで「ソリオバンディット」を検索してみたの。 その様子に気付いた四季ちゃんが、「私、ソリオなら知ってるから大丈夫だよ」って言ってくれたけど、私、自分でも知っておかなくちゃ、何だか落ち着かない性分で。 「赤って、白や黒に比べたら台数も少ないし、目立つはずだよ? もう少し力抜いて構えてても平気だよ」って、と苦笑いする四季ちゃんに、「でも四季ちゃんの彼氏さんの車……」ってつぶやいたら、「あ。ごめん、うちのも赤でした」と。 そう、そうなの。実は四季《しき》ちゃんの彼氏さんの車も赤だから。 四季ちゃんは、赤は多くないって言うけれど、車種によっては決して少なくないお色だとも思ってしまう。 私が調べてみた感じだと、ソリオバンディットという車も、赤――クラレットレッドメタリックというらしい――はカタログの表紙になって
last updateLast Updated : 2025-09-07
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18.知らないけど知ってる人④

「あ、あの……。向井《むかい》……凜子《りんこ》さん?」 と、背後から不意に声を掛けられて、私は思わず「あ、はいっ」って答えて身体を跳ねさせる。 振り返ると、奏芽《かなめ》さんによく似た顔立ち――でも目はシャープな印象の奏芽さんと違って、愛らしい様相のぱっちり二重――の、おさげ姿の女性が、小学生くらいの女の子と一緒に立っていた。 髪の色は少し赤みがかかって見えて……私と同じブリュネットに近い、かな? 身長は私と同じくらいだと思う。でも、身にまとった雰囲気《オーラ》がハムスターとかリスとか……とにかくそんな感じの小動物系で、何だか私よりも小柄に見える気がしたの。 年上なはずなんだけど、なんて言うのかな。思わずギュッ!ってしたくなるような可愛さというか。 そんな彼女とは、一度だけ奏芽さんとスーパーでお買い物をしていた時にお会いしたことがある。「あっ、後ろから急に声掛けてごめんなさい。霧島《きりしま》音芽《おとめ》です。鳥飼《とりかい》奏芽《かなめ》の妹の」 前に一度お会いしましたよね?と言われるまでもなく、彼女――音芽さん――のことは私も覚えている。 見た目から、奏芽さんの血縁者なことは容易に推測できる、でも奏芽さんとは全く身に纏う趣《おもむき》の違う妹さん。 それに、何より私、音芽さんの横に立つ女の子とも面識があるの。その少女のことは、ある意味音芽さんより印象に残っているかもしれないくらいで。「奏芽がどうしてもって言うから、和音《かずね》、あなたの事、見つけるお手伝いに来てあげたのよ。パパはお姉さんとは会ったことないし、ママもぼんやりしててあてにならないところがあるから」 ツンとした様子で私を睨みつけてくるその女の子。うん。私も彼女のことはよく覚えてる。奏芽さんの姪っ子の和音《かずね》ちゃんだ。 そっか。音芽さんと和音《かずね》ちゃんが一緒だから……。だからハルさん《相手》には私が分かるっておっしゃったんだ。
last updateLast Updated : 2025-09-07
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18.知らないけど知ってる人⑤

「あの、私たち、鳥飼《とりかい》さんから赤のソリオでお迎えがあるって聞いてたんですけど」 不意に、すぐ横から四季《しき》ちゃんの声がして、私はそういえば、って思う。「あ、ごめんなさい。温和《はるまさ》……、あ、えっと、主人が……。大学前に横付けは恥ずかしいって言うものですから」 言って、音芽《おとめ》さんが指差す先。少し離れた路肩に、赤い車が停車しているのが見えた。「兄のことだからきっと、いつもこの辺に堂々と横付けして迎えに来てたんだと思うんですけど……うちの人はそういうのダメなタイプで。本当ごめんなさい」 言われて、私も四季ちゃんも逆に恐縮してしまう。「あ、いえっ。その反応、普通だと思いますっ」 四季ちゃんはそう言ってから、ハッとした様に「あっ! お兄さんが変っていうわけではなくてっ」としどろもどろになった。 私は四季ちゃんのそんな姿を見たのが初めてで、ちょっぴり驚かされてしまう。「いえいえ。兄が図太すぎるんです、きっと」 音芽さんがそんな四季ちゃんの緊張をほぐすようにニコッと笑ってくれて、四季ちゃんもホッとしたように肩の力を抜いた。「ちょっと、2人とも! 奏芽《かなめ》は図太くなんてないし、変でもないわよ!? パパより堂々としててかっこいいだけだわっ!」 ぷぅっと頬を膨らませて、和音《かずね》ちゃんが奏芽さんを弁護する。 私たちは3人で顔を見合わせて、思わず笑い合ってしまった。「ちょっと! 一緒になって笑ってるけど、お姉さん……えっと……向井さん?だって私と同じ気持ちでしょう!?」 いきなり和音《かずね》ちゃんから名指しで同意を求められて、私は瞳を見開いた。 ふと視線を落とした先、和音《かずね》ちゃんから「そう思っていないなら奏芽の横にいることは認めない」って目で訴えられているような気がして、私は「もちろん」って答えたの。 さっきまで物凄く緊張してしんどかったのが
last updateLast Updated : 2025-09-08
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18.知らないけど知ってる人⑥

「ああ! 大丈夫! 気にしないで?」 言ってから、「温和《はるまさ》、いいよね?」と運転席のご主人に言い聞かせるような口調。 これは……既婚者の余裕というやつかしら。 なんて思った私だったけど、ふと視線を転じた先、ご主人の雰囲気に「おや?」と思う。 もしかして……隣に好きな人以外を座らせたくないのは音芽《おとめ》さんじゃなくて……。 そう思い至ってじっと運転席のスーツ姿の男性――奏芽《かなめ》さんとは別の意味で、正統派な感じのハンサムな男性だ――を見つめた。 彼、絶対めちゃくちゃムスッとしている、よね。 と、私の視線に気づいたご主人――温和《はるまさ》さん?――が、こちらを見るなり嘘みたいにニコッと笑った。 年齢《とし》は確か、奏芽《かなめ》さんと……同い年、だったよね? 〝温和《はるまさ》〟だから奏芽さん、「ハル」って呼んでおられるのねって思いつつ。「奏芽の彼女って言うから、どんな女性が来るのかと構えてたんですけど。すごくお綺麗な方で安心しました。初めまして。奏芽の幼馴染みの霧島《きりしま》温和《はるまさ》といいます。あなたみたいな愛らしい方に隣に座っていただけるとか、とても光栄です」 何だかわざとらしいくらい褒め殺された気がする。「初めまして。今日はわざわざすみません。その……よ、よろしくお願いします」 言いながら、そっと音芽さんを窺い見たら、ムッとした表情をしていて、ひゃー、これ、音芽さん、絶対怒ってるっ! って思った。 霧島《きりしま》ご夫妻の様子に、助手席への扉を開けたままフリーズしてしまった私を助けてくれたのは、1人先に運転席後ろでジュニアシートに収まっていた和音《かずね》ちゃんだった。「パパもママもいい加減にしてよ。お姉さん、困ってるじゃない! ママ、さっさと助手席に座って! パパはママに謝る! お姉さんは私の隣《こっち》ね」 ポンポンと、自分の隣――助手席
last updateLast Updated : 2025-09-08
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18.知らないけど知ってる人⑦

 そんな風に思う私の横から告げられた和音《かずね》ちゃんの言葉に、私はいつかのぶちゃんと一緒に行ったお寿司屋さんで、奏芽《かなめ》さんの足元にしがみついていた彼女のことを思い出した。 あの時は和音《かずね》ちゃんを奏芽さんのお嬢さんだと思って、モヤモヤしたんだった!「ああいういの、私が生まれた時からずっと毎月欠かさずなんだって」 和音《かずね》ちゃんの言葉に、私は驚いて瞳を見開く。「パパとママにせめて月に1回ぐらいは恋人に戻れる時間を作ってあげたいっていう奏芽の優しさよ」 言われて、私は奏芽さんのおふたりへの愛情の深さを垣間見た気がしたの。それと同時、私には絶対入り込めない絆みたいなものを感じて、少しだけ胸が苦しくなった。「和音《かずね》ちゃんは……寂しかったりしないの?」 自分が寂しいものだから、思わずそう聞いてしまってから、愚問だったと思ったの。だって和音《かずね》ちゃん、奏芽さんのこと大好きだもの。 大好きな人と一緒にいられる時間が寂しいものであるわけがない。 そう思ったんだけど。「前までは嬉しくて堪らなかったんだけど……ここ数ヶ月は少し寂しいかな」 ムッと小さく口をとんがらせる和音《かずね》ちゃんの予想外の返答に、私は驚いて彼女の横顔を見やった。「お姉さんのせいなんだからね?」 言われて、私はやっと悟った。 私の存在。和音《かずね》ちゃんが何とも感じてないわけなかった。「ごめんなさっ」 謝ろうとしたら「そういうの嫌い」って遮られてしまう。「お姉さん、あの時一緒にいたお兄さんじゃなくて奏芽《かなめ》を選んだってことでしょう? 奏芽の方が素敵だって思ったってことでしょう?」 真剣な目で射すくめるように見つめられて、私は一瞬言葉に詰まった。 でも、すぐにハッキリと「はい」って答えてうなずいたの。 私の返答に、和音《かずね》ちゃんが小さく吐息を漏らした。「奏芽にも言われたのよ。お姉さんとのことは本気だか
last updateLast Updated : 2025-09-09
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19.お互いのスマホに①

バイトが終わる直前。 |奏芽《かなめ》さんが|セレストア《店内》に入っていらして、レジにいた私に適当に選んだっぽい商品を渡しながら 「|凜子《りんこ》、夕方は迎えに行けなくて悪かったな」 って謝るの。 その会計を終えた私に、谷本くんが「もう終わりの時間だし、僕のことは気にせず帰りなよ」って言ってくれた。 交代の人も入ってきてくれたし、いつもなら谷本くんと一緒に裏へ入る所だけど、今日はその言葉に素直に甘えて先に行かせてもらうことにした。制服を脱ぐ間も惜しくて、そのままコートを羽織ったの。 今日はアパートに戻らず、大学から直接ここへ送って頂いたので、荷物がいつもより多くて重い。 でも、そんなのも気にならないぐらい、心が浮き足立っている。 「谷本くん、有難う。――お先に失礼します」 ちょうど私と入れ替わりに裏へ入って来た谷本くんにすれ違いざまそう言って、裏口からではなく店舗側から外を目指す。……と、休憩室から出てきた私に気付いた奏芽さんが、すぐにそばまで来てくれて、まだお店の中だというのに荷物を持ってくれるなり空いた方の手でギュッと手を握られてしまった。 「あ、あのっ」 さすがに恥ずかしくて声をかけたけれど、奏芽さんは聞こえないみたいに振り返らないまま、私の手を引っ張って車を目指す。 私は少し小走りで、そんな彼の後をついて行ったの。 車に乗り込むなり運転席から伸びてきた奏芽さんの腕の中にギュッと抱きしめられて、 「――怖い思い、しなかったか?」 って問いかけられた。 絞り出すようなその声が切なくて苦しくて……。 私、大好きな|奏芽《かなめ》さんにこんな声を出させてしまうことの方が、自分が昼間に感じた恐怖より数倍辛く感じられた。 「だっ、大丈夫です。夕方も|霧島《きりしま》さんご家族にここまで送っていただ
last updateLast Updated : 2025-09-09
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19.お互いのスマホに②

「それを使えば私の位置情報が奏芽さんに分かるってことですか?」 聞くと、「ああ。けど、凜子のだけ一方的に、ってのは不公平だと思うから……お互いの位置情報が確認できるやつにしようと思ってんだけど」って私を見つめていらした。「奏芽さんのも?」 その言葉に驚いて思わず聞いたら「イヤか?」って不安そうな顔をするの。 |奏芽《かなめ》さんが見せてくれた画面には、グループメンバーの居場所が地図上に表示される、GPS機能と連動したアプリが表示されていた。 私、別に奏芽さんにリアルタイムで居場所が知られたからといって、嫌なことも困ることも何にもない。 基本的に1人の時は車に乗れるわけでもないし、アパートを起点に大学とバイト先、それからお買い物ぐらいしか移動がないから、逆に動きが乏しくてがっかりさせてしまうかも?って思うくらい。「私の方は全然構わないです。……でも、奏芽さんはイヤじゃないですか?」 私からも奏芽さんの位置が確認できてしまうとか……。綱をつけられてしまうみたいで、大人の男性である奏芽さんはお嫌じゃないかしら。 思うけれど、奏芽さんは私の頭をぽんぽんと軽く撫でてから「問題ねぇよ」って言うの。 私は奏芽さんが私のためにそこまで考えてくれていることがとても嬉しくて……。 奏芽さんのスマホに自分の位置情報が表示されることを、彼に見守られているみたいで心強いなって思ったの。「喜んでお願いします!」 ニコッと笑ってスマホを差し出したら、「じゃ、一旦俺ん|家《ち》行くか」って言われてその言葉にキョトンとしたら、「ほら。アプリのダウンロードしなきゃいけねぇから。Wi-Fiがあったほうがいいだろ?」とか。 コンビニにもフリーWi-Fiはあるけれど、重いし安全性を考えるとやはり自宅の方が確実だろうって奏芽さんが言うの。 ちなみに私の家にもWi-Fiはあるけれど、工事不要のモバイルルーターで、容量制限付きなのをご存知だから、|奏芽《かなめ》さんはきっとご自分のお家を指定されたんだと思う。
last updateLast Updated : 2025-09-10
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19.お互いのスマホに③

「あの……」 ソワソワと言葉をつむごうとしたら、奏芽さんが唇に人差し指を当てて止めるの。 「この先は折りを見て俺から、な?」 って……奏芽さんの未来予想図には、私の居場所がありますか? 聞きたいけれど怖くて聞けなくて……私は無言で奏芽さんの横顔を見つめ続けた。 *** |奏芽《かなめ》さんの家に移動して、彼が私のスマホを操作するのを、横に座って見るとはなしに眺める。 前にここへ初めて遊びに――というかお泊まりに来させて頂いたクリスマスに、Wi-Fiに繋げる設定は済んでいる。だから奏芽さんの家に入れば私のスマホは自動的にWi-Fi下に入っていて、それを利用して奏芽さんが新しいアプリを入れてくださったの。 「この紫色のピンマークのアプリを起動するだろ。このウサギアイコンが|凜子《りんこ》な?」 画面を見ると、私がとあるサイトのアカウント画像として使用している泣きべそをかいたウサギキャラのアイコンが表示されていた。 「で、こっちが俺」 言いながら、ニヤリと不敵に笑ったキツネのアイコンを指さす奏芽さんに、思わず笑ってしまう。 「何でキツネなんですか?」 聞いたら、「自分の顔写真とかでもいけるけど……なんか顔さらすのって恥ずかしくね? って言うか……凜子だって泣き虫ウサギじゃねぇかよ。|意味《わけ》あり?」と、至極当然の返しをされてしまった。 「か、奏芽さんと同じ理由です……。キャラが泣き顔なのにもそんな深い理由はないですっ」 顔写真を設定している人も結構多いけれど、私はそんな大それたこと、自分には出来ないって思ってしまって、ネット上にあるフリーイラストから、適当に自分の雰囲気に合ったのを選んだら泣きべそウサギだっただけ。 「そう言や、これ見た時、|凜子《りんこ》っぽいなって思ったんだよな、俺」 クスクス笑う|奏芽《かなめ》さんに、「私もその鋭い目つきのキツネアイコン、奏芽さんっぽいなって思いました」って、思わず本音がポロリ。 2人で顔を見合わせて「似た者同士」って笑ってしまった。 奏芽さんなら顔写真のアイコンでも素敵だと思うんだけどな。 ふとそんなふうに思って、奏芽さんの横顔を見つめて、「でもやっぱり」と思う。 私のそんな視線に気付いた奏芽さんがこちらを見て、「凜子なら顔写真でも可愛いと思う
last updateLast Updated : 2025-09-10
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