小春は、一目で分かった。瑛司と会ったあと、蒼空の機嫌が極端に悪くなったことを。彼女は蒼空の機嫌をさらに損ねることを恐れ、小声で尋ねた。「ご飯、もう食べた?」蒼空は不機嫌そうに答える。「食べてない。瑛司の顔見たら、怒りでお腹いっぱいになったわ」小春は手を上げ、前を歩く男子生徒の背中をパシンと叩いた。男子は情けない声をあげる。「えっ?小春さん?なんで?」小春は言った。「何か食べ物ある?早く出して。彼女、昼ごはん食べてないんだよ」周囲の学生たちは一斉に動き出し、机の引き出しからお菓子などを取り出して蒼空の机の上へと放り投げた。避ける間もなく、蒼空の額にパンの袋が直撃する。彼女は額を押さえ、泣き笑いの表情を浮かべた。机の上にあふれんばかりに積まれた食べ物を見て、蒼空は手を上げる。「ありがとうみんな、でもこれ以上は食べられないよ」小春はパンの袋に切れ目を入れ、さらに牛乳のストローを差しながら小声で尋ねる。「そんなに機嫌悪いの?何かあった?」蒼空は力なく答える。「瑛司にムカついたの」小春は手を振った。「そんな奴、ただのバカ野郎に思って、無視しときなよ」とはいえ、その「バカ野郎」が毎日目の前をうろつくのだから、どうしようもない。蒼空は味気なくパンをかじり、力なくうなずいた。シーサイド・ピアノコンクールの出場枠の件、瑛司のルートは通じない。別の方法を考えるしかない。夜の自習が終わったあと、蒼空と小春は屋台を出さず、直接病院へ行って祖母を見舞った。このところ祖母の顔色もずいぶん良くなり、二人の手を握っては延々と昔話をしてくれる。蒼空は一つひとつ、静かに耳を傾けた。帰り道、小春が肩をぶつけてくる。「おーい。どうした?全然上の空じゃん」蒼空が顔を上げると、昼間はまだ遠くに見えた大画面が、すぐそこにあった。少しぼんやりしながら彼女は言った。「最近、『シーサイド・ピアノコンクール』に出たいって思ってる。でも申込期限が過ぎちゃって、どうやって出ればいいか分からないの」小春は首をかしげる。「『シーサイド・ピアノコンクール』?なにそれ、どんな大会?聞いたこともないけど」蒼空は苦笑して首を振った。「大丈夫、自分で何とかするから」小春は腕を伸ばし、彼女
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