だから、電話が何度もかかってきても、通話が繋がらず自動的に切れても、蒼空のスマホはただ枕元の棚の上で小さく震えているだけで、はっきりした音はしなかった。夜が明け、蒼空はゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした視線の先には、白く霞んだ壁。彼女は首筋を揉みながら、スリッパを履き、脇に支えの器具を抱えて立ち上がる。いつものようにゆっくりとした動作で洗面所に入り、顔を洗って出てくると、毎朝きっちり時間通りに来る介護士が、すでに朝食を持って病室に入ってきていた。「おはようございます、関水さん。朝食の準備ができましたよ」介護士が振り向いて声をかけると、蒼空は軽くうなずき、視線をベッドの前に置かれたテーブルの上に移した。朝食はいつも通り、十分すぎるほどの品数だった。蒼空は支えを頼りにゆっくりと歩み寄る。介護士は手際よく食事を並べ終えると、すぐに蒼空のそばへ来て、慎重に彼女をベッドに腰かけさせた。蒼空がスプーンを手に取ったその時、介護士がスマホを差し出してきた。「関水さん、こちらを。先ほど洗面所にいらっしゃる間に、何件もお電話がありました。勝手に出るのはと思って、すべて切れてしまいましたが......」どこか言いづらそうな表情だった。蒼空はスプーンを置き、スマホを受け取る。画面を点けると、未接着信の表示がずらりと並び、その数に思わず一瞬、意識が白くなった。眉がひそみ、ただ事ではないと直感する。すぐに通話履歴を開くと、未明の四時半から小百合、小春、そして学校の先生たちを含む数多くの名前が、十回以上も繰り返し表示されていた。特に小百合と小春からの電話は、四、五十回にものぼる。さらに、見知らぬ番号からの着信も十件以上。時間を見れば、どれも自動的に切れるまで鳴らされていたことが分かる。びっしりと並ぶ電話番号を見つめるうち、蒼空の胸のざわつきが形を持ったように膨らみ、鼓動が速くなる。呼吸まで浅くなった。指先が画面の上で止まり、どれから折り返すべきか迷っていると、本市から遠く離れた都市の番号が新たに表示された。眉がわずかに寄る。これだけ見知らぬ番号が続くということは――以前の経験からして、たぶん......しばらく逡巡したのち、彼女は通話を取ることも、切ることもせずに止まった。そばにいた介護
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