All Chapters of 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!: Chapter 21 - Chapter 30

34 Chapters

act:溺愛5

*** 克巳さんから与えられた激しすぎる快感のせいで、途中から俺の記憶がプツリと途絶えてしまった。だからその後、彼がいつイったのか知らない。気がついたら全裸のまま、ひとりベッドで横になっていた状態に、眉根を寄せるしかなくて――。 リビングに置いてあるのか、遠くでアプリの着信を知らせるスマホの音が聞こえる――ダルい躰を引きずり、やっと歩いてテーブルに置いてあるそれを見つけた。『俺との契約、忘れないでほしい。また連絡する 克巳』「そっちこそ、リコちゃんと別れるのを忘れんなよ。すんなり別れられるように、この俺が舞台を整えてあげるからね」 彼にはキツいお仕置きが必要みたいだから、それなりに痛い目に遭ってもらおうか。「キスマーク付けるなって言ってたのに、アチコチに付けまくりやがって。くそっ!」(気を失ってる間、何をされたのか、ぜんっぜんわからないし……)「俺が好きなのは、未来永劫リコちゃんだけなんだ。ヤローなんか、好きになるかってぇの!!」 手にしたスマホをソファの上に放り投げ、躰の気持ち悪さを払拭すべく浴室に向かう。 今日がオフで、ホント良かったよ――早速、計画を始動できるからね。楽しみにしていなよ、克巳さん!
last updateLast Updated : 2025-07-17
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act:驕傲 【キョウゴウ】

「毎日、本当にごめんなさい。克巳さん、お仕事が忙しいのに」 目の前で済まなそうに謝る理子さんに、俺は首を横に振ってみせる。「いや、いいんだ。こうして少しでも逢うことができるだけで満足だし、それに理子さんの安全が一番だからね」 場の雰囲気を良くしようと笑いかけた俺の袖口を、理子さんは腕を伸ばして掴む。微妙にあいてしまった俺たちの距離を埋めるような行為に、ほほ笑みが途端に崩れそうになった。「……今日もお仕事?」「内部監査が入るかもしれないって、噂があってね。それに向けて、いろいろと調整しなければならないんだ」 ごめんと言いながら掴まれている袖口の手を、やんわりと外した。「私の方こそ、ごめんなさい。いつもありがとう……」 無理やり笑顔を作る理子さんを見ていられなくて、身を翻すように去るしかなかった。彼女から注がれる視線を感じないように、まっすぐ前を向いて銀行に戻る――。 リコちゃんが克巳さんと別れたところを見計らい、俺は彼女の家のインターフォンを押した。 ピンポーン! 家の中に響き渡るその音を聞いた瞬間、扉が大きく開かれる。笑顔のリコちゃんが顔を覗かせた。「やぁ、リコちゃん。元気そうだね、おっと♪」 慌てて締めようとした扉を片手で易々と押えつけたら、リコちゃんは焦った顔で喚きたてる。「なにしに来たの? アナタに用なんてないから!」「俺はあるんだけど。克巳さんについてなんだけどね」 大事な恋人のことを口にしたら、リコちゃんの腕の力が抜け落ち、扉が開けっ放しになった。本当はもっとリコちゃんに近づきたかったけど、持っている証拠を見せつけるために、微妙な距離感を保ったまま、目の前にスマホをかざして、唇に微笑みを湛える。「あの人、浮気してるよ。証拠写真バッチリ、スクープしちゃった♪」「……ぅ、嘘だよ、そんなの。合成とかしたんでしょ」「えーっ、疑うの? 俺ってば撮るより撮られる側なんだけど。写真の加工の仕方なんて、全然知らないよ」 酷いなぁと言いながら、撮影した画像を理子ちゃんに見せた。スマホの画面に映し出したのは、優しく微笑んでいる克巳さんと、肩を抱き寄せられた髪の長いキレイな女性が並んで立っているものだった。「なに、これ……」「あ、これね。ホテル街に向かう途中の交差点で、信号待ちしてるとこじゃないかな。そこを偶然車で通りかかって、見つ
last updateLast Updated : 2025-07-18
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act:驕傲 【キョウゴウ】2

*** いつものように理子さんの自宅へ、朝のお迎えに行ったときから、彼女の様子がおかしいことには気がついていた。口数が少なかったし、なにより、いつも腕を組んでくる彼女がこの日はしてこなかったから。 女性特有の気持ちの浮き沈みかなと、そのとき思ったのだが――。 夕方で仕事を一区切りし、会社へ迎えに行って顔をつき合わせた途端に、刺すような視線で訊ねられてしまった。「克巳さん、私に隠してることない? 三日前のことなんだけど」「三日前……?」 思わず口ごもるしかない。何故ならばそれは、稜と逢っていた日だから。「髪の長い女の人と仲良さそうに歩いてるトコを、稜くんが見てるんだけど」 顎に手を当てて考え込む俺を見て、理子さんがイライラした口調で告げる。「な、んだ……そのことか」「なんだって、何その言葉。私、すっごく怒ってるのに」(しまった、安心してしまってつい――) 頭を掻きながら、理子さんの怒りを鎮めるべく謝ってみる。「悪かった、誤解をさせるようなことをしてしまって。その女性のことなんだけど、理子さんを送り届けて直ぐ傍のあの道路で、すれ違っただけの人なんだ」「……稜くんから写真を見せてもらったから、場所はわってる」 ――写真なんて撮っていたのか!?  もしかして、彼が仕組んだ計画の可能性がある気がしてきたが、そんな考えは後回しだ。とにかく彼女の誤解を、今すぐなんとかしなければならない!「理子さん、聞いてくれ。あのとき女性とすれ違った瞬間に、俺に向かっていきなり倒れ込んできたんだ。慌てて抱き起こしてあげながら足元を見たら、ヒールの踵が壊れていてね。歩きにくそうにしていたから腕を貸して、靴屋まで連れて行っただけなんだよ。彼女とはそこで別れたし、その後も逢っていない。信じてほしい」 今考えると、どうもできすぎたシチュエーションだった。理子さんと早く別れさせたい彼が、第三者を使って罠を仕掛けていたなんて、かなりショックだ。 このときはなんとか誤解を解き、彼女をしっかりと送り届けてから、稜のマンションへ向かう。もちろん、この件に関して文句を言ってやろうと、勇んで行ったのに――。
last updateLast Updated : 2025-07-19
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act:驕傲 【キョウゴウ】3

***「ぁっ……んっ、ンッ!」 ベッドの上、克巳さんに抱かれている自分――これでもう何度目だろう。心が置き去りにされたままの虚しい行為に、自分の躰なんかどうなってもいいと思ったのは。「ひゃぁあっ……ふぁぁっ! あ、ぁ、あっ」 気持ち悦くても悪くても、喘ぎ声をふしだらにあげているのは、感じてる俺の姿を見て、ヤってる男が悦ぶから。悦ばせれば、次の仕事が貰えていたから――だけど克巳さんからは、なにも貰えないのに。(おかしい……どうしてこんなに、感じてしまうんだろう?)「アっ……ふぁっ、あっ! ソッコ、あぁあん!」「ココが、気持ちいいのか?」 うつ伏せでいる俺の腰を両手で強引に持ち上げて、その部分を容赦なくグイグイ突き上げる。「あっン、はぅうぅ……やらぁッッんん、あふっ、やっ、凄い当たるっッ!」 快感に身を任せている間は楽だ。それだけを感じていればいいのだから。見たくない現実も、信じたくない事実も全部、綺麗に忘れることができる。「稜、もっと感じてくれ。俺自身で感じてる君の姿を、もっと見ていたい」 そう言って後ろから、ぎゅうっと抱きしめてきた。(克巳さんの躰、すっげー熱い。汗ばんだ皮膚が、俺の背中に張り付いてくるみたいだ)「好きだ、好きだ稜。愛してる――」 愛、してる……?「くっ、そんなに締めあげないでくれ。俺もう、イきそ……ッ」「克巳さ……あぁ、あ……んっ! 俺もイくっ!」 髪を振り乱し仰け反って先にイくと、痙攣したままの俺を抱きしめ、ちょっと遅れて克巳さんも中でイった。 うつ伏せのまま、ドロドロした頭で考える。こうやって奪っちゃえば、もしかしたらリコちゃんは愛してくれるかもしれない。たくさんの愛を注ぎ込めば、今の俺みたいに伝わって、きっとわってくれるかもしれない。だから……。 俺以外の誰も、彼女に触れられないようにしてやろうと考えついた。 リコちゃんのすべてを、自分のモノにするために――俺の中にある独占欲で、君を縛りつけてあげるよ。
last updateLast Updated : 2025-07-19
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act:毒占欲の果てに

 仕事がオフの日、いつもの帰り道を狙って、リコちゃんの後をつけていた。当然隣には克巳さんがいる。 梅雨がすっかり明けた時期だというのに、妙に湿度の高い夕方。多少の蒸し暑さを感じながら帽子を目深に被り、サングラスをかけて、ふたりにわからないようにすべく、適度に距離をとって歩いた。 どうやって、可愛いリコちゃんをヤってやろうか――最近、頭の中は、ずっとそのことばかりでいっぱいだった。 ちょっと前に抱きしめた、いい香りが漂っていたリコちゃんの躰を思い出す。細いラインに華奢な腰つき……腕の中にすっぽりと納まる、愛しのリコちゃん。 彼女は、どんな声をあげるんだろう? どんな表情で、悦びながら啼くんだろうか? きっと凄くすごく、気持ち良いんだろうな。 君を俺のモノにできるのなら、どんなことをしてでも、手に入れてあげるよ――リコちゃんのすべてを俺のものにして、誰にも渡さないように、しっかりと可愛がってあげないとね。 たとえそれが誰かに後ろ指を差されることだとしても、君との繋がりを深めるためなら、笑顔を浮かべながら進んで犯してあげる。何人たりとも俺たちの仲を切り裂けないように、心と躰に痕をつけるべく刻み込むから。 ほくそ笑みを浮かべながら、ふたりの後ろ姿をじっと見つめた。 そしてすれ違う人をやり過ごし角を曲がった瞬間に、向こうから来た人と、軽くぶつかってしまう。 そのことに驚いて動きを止めたら、ぶつかってきた人の太い腕が、俺の被っていた帽子を払い落とした。もしかしたら俺と同じように、驚かせてしまったのかもしれないな。目の前のふたりに、夢中になっていたせいだ。「すみません……」 落としてしまった帽子を、腰を落としながら慌てて拾いあげる。「……こんなところで、なにをやっているんだ稜――」 唸るような低い声に、びくっと躰がすくんでしまった。思わず、手にした帽子を落とすくらいに驚くしかない。「も、森さん!?」(何でこんなところにいるんだよ、この人――) 見慣れた顔が、そこにはなかった。白目を充血させた瞳で、じっと俺を見つめてくる。「あの男をつけてるんだろ? どんだけご執心なんだ。俺よりも若い男の方が、お前のことを気持ちよくさせてくれるってか? ぁあ?」 口元を歪めて喉で笑い、スラックスのポケットから、おもむろに手を出す。なにかを握りしめていると思い視線
last updateLast Updated : 2025-07-20
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act:毒占欲の果てに2

 次の瞬間、焼けるような痛みが腹部を襲った。痛みが伝わってはじめて、自分が森さんに刺されたこと認識する。着ていたブルーのシャツに血がじわじわと滲んでいき、どんどん黒い色に染まった。「あ、ぁ"あ"、あ"ぁっ!!」「まるで、ヤってるときみたいな声をあげるのな。感じているのか稜? ん?」 額から汗を垂らして歯を食いしばり、なんとか激痛に耐えながら森さんを見上げると、下卑た笑いを浮かべて、刺しているナイフをさらに腹に押し込む。「やっ、やめてえぇ!! い、いぃ、痛いっ……っ、もぅ…やめ――」 耐え難い痛みに足をジタバタ動かしてのたうち回り、涙ながらに訴える俺を、またしても恐怖が襲う。森さんは刺していたナイフを抜き取って、両手で持ち直し、勢いよく振り上げたからだ。(――もう、ダメだ……) ぎゅっと目をつぶり、襲ってくるであろう痛みに耐えるべく、躰を強張らせていたら、跨っていた森さんの重みが、いきなりなくなった。 恐るおそる目を開いて、躰を捻りながら刺されたところを押える。出血の量がひどくて、アスファルトに血溜まりができている状態が目に留まった。その最悪の事態をみずから確認し、この後に訪れるであろう死を予感した俺が見たものは――。 ナイフを持った森さんに勇敢に立ち向かっている、克巳さんの姿だった。(どうしてなんだよ、どうしてこんな俺のために――)「ぅ……克巳、さん――」 肩で荒い息を繰り返すのが精いっぱいで、止めることもままならず、ただただ見守ることしかできない。「離せっ! 稜を殺らなきゃダメなんだぞ!!」「なんてバカなこと言ってるんだっ。そんなことをしても、彼は手に入らない! そんなこともわからないのか!?」 克巳さんがナイフを持つ、森さんの右腕を両手で押さえ込んで、後ろ手にぎゅっと捻りあげた。カランと乾いた音をたてて、アスファルトの上にナイフが落ちる。 この捕り物劇のせいで俺らの周りには、たくさんの人だかりが囲っていた。たくさんの目が、この惨状の行方を注目する。刺された苦痛に顔を歪ませながら、そんな人々の表情を眺めた。(囁かれる自分の名前と好奇の視線――明日の朝刊の芸能欄は、間違いなくこの事件で、いっぱい埋め尽くされちゃうんだろうな) 自分自身にそんな余裕はないのに、未来で起こるであろう出来事をぼんやりと考えてしまった。「稜くん、まだ生
last updateLast Updated : 2025-07-21
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act:毒占欲の果てに3

 ――大輪の綺麗な華が、萎れている。 入院中の稜は虚ろな顔をしたまま、一日中テレビを見ていた。その姿は、画面に現れる自分の姿を遠くから見ているようで、どうにも声をかけにくい。 俺の目に映る無表情な彼の横顔を見ると、つい思い出してしまう。今のように傷ついた稜を前にして、なにもできなかった無力な自分をずっと悔やんでいた。 あの日の俺は妙に明るい理子さんの顔色を窺いながら、別れを告げるタイミングを計った。 後方から差し込む夕日が、俺たちの影を目の前に映し出し、傍から見たら、仲の良さそうなカップルに見せていたかもしれない。この夕日がもう少し陰ったときに、別れを切り出そうと考えていたら、隣で突然クスクスと笑い出す。『……理子さん、どうしたんだい?』『それはこっちのセリフだよ、克巳さん。まるで落ち着きのない子どもみたいに、今日は挙動不振なんだもん。なんだか、可愛いって思っちゃった』 左腕に絡めている腕を強引にぐいっと引っ張って、自分の方に引き寄せ、じっと顔を見つめた。その視線にすべてを見透かされそうな感じがしたので、慌てて顔を背けてやり過ごす。(この雰囲気で理子さんに別れを告げるのは、あんまりだろうな――)『悪い、理子さん。こういう人通りの多い往来で抱きつかれるのは、実は苦手なんだけど』『だって克巳さんを、誰にも渡したくないんだもん。ずっと私の傍にいて』 俺の苦情もなんのその、彼女が自分の気持ちを押しつけてきたとき、後方でなにかが倒れる音が聞こえた。理子さんと一緒に振り返ると、そこには歩道で仰向けになった稜がいて、見知らぬ男が振り上げたナイフで、今まさに刺されそうになっている瞬間だった。『稜っ!?』 有りえない光景に、思わず息を飲む。信じたくない目の前の現実に、それがドラマの撮影じゃないかと、頭の中で思いついてしまったくらいに、現実味がなかった。 ぎらりと鈍く光ったナイフが、吸い込まれるように稜の腹に突き刺さる様子や、刺された衝撃で痙攣した躰、そして刺した男が滴らせて流した汗すら、なにもかもがゆっくりに見えてしまった。『あ、ぁ"あ"、あ"ぁっ!!』『まるで、ヤってるときみたいな声をあげるのな。感じているのか稜? ん?』 稜の着ている青いシャツが血で染まっていく様で、やっとそれが現実におこなわれていることだと認識できた。あまりの惨状にクラクラと
last updateLast Updated : 2025-07-21
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act:毒占欲の果てに4

『まだ生きてるの? やっぱりしぶといのね』『リコちゃん……?』 理子さんが口元にふんわりとした柔らかい笑みを浮かべながら、ゆっくりとした足取りで稜に近づき、容赦なくヒールで顔を踏みつける。『っ、なっ、なんで!?』『なんでって、それはこっちのセリフなんだけど。自分のやったことを思い出しなさいよ』(――もしかして彼女、俺たちの関係を知っている!?) 内心酷く焦ったとき、理子さんが頭を踏んでいた足を退けて、稜の顔を蹴りあげようとした。しかしその動きを稜は素早く見極め、うまく腕でガードする。腹に力を入れたせいで、彼の出血が見る間に酷くなっていった。『黙って蹴られなさいよ。それだけのことをアナタ、してくれたでしょ?』『な、なにを言ってるのかな。俺はなにも――』 苦痛に顔を歪めながら理子さんの顔を仰ぎ見る、稜を直視するのがつらくて堪らない。彼女から放たれる言動に、ものすごく傷ついて見えるのは明らかだった。『昔からそう……稜くんは私の物を欲しがって、なんでも奪い取っちゃうんだから。本当に悪いクセだよね』『それはリコちゃんが好きだから、持っている物がどうしても欲しかったんだ』 素直な気持ちを語っているのに、理子さんは忌々しそうな顔でチッと舌打ちし、稜の顎をヒールで持ち上げる。普段は大人しい彼女の意外な一面に、言葉をかけることすら忘れてしまった。『親には片親で不憫な稜くんに、よくしてあげなさいと言われてたから、仕方なく面倒見てあげていたのに、それを見事に勘違いしてくれちゃって、困ったコだよね』『それでも俺は君と一緒にいる事ができて、すっごく嬉しかったんだ。たとえそれが強制されたことだとしても、リコちゃんに優しくされたことが、本当に――っ』『だからってどうして、克巳さんを奪ったの? 女の私から男であるアナタがどうやって、克巳さんをうまいことたらしこんで、骨抜きにしたのかしらね?』 言いながら一瞬だけ視線をこちらに向けて、悲しそうな顔をする。俺はなんとも言えず、男を押さえながら俯くしかできなかった。『克巳さんがどこかおかしくなったのは、アナタの家に初めて行ってから。それでピンときたのよ、なにかあったんだって』『……そう、気がついてたんだ』 稜が力なくそう言うと、理子さんは掬い上げていたヒールを移動させ、頬に向かって尖った踵を使い、容赦なく彼を踏みつ
last updateLast Updated : 2025-07-22
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act:毒占欲の果てに5

「――警察の事情聴取、克巳さんは終わったの?」 ベッドの脇にある椅子に腰かけ、ぼんやりと考え事をしていた俺に、唐突に投げられる質問。俯いていた顔をあげ、稜に向き合うようにしっかりと座り直した。「ああ……たいしたことは、聞かれなかったけどね」 男と揉み合ったときに怪我をしたので被害者扱いとなり、三回ほど警察署に顔を出して、昨日終えたばかりだった。 「俺もここで、事情を聞かれたんだ。ひとつだけ、腑に落ちないことがあってさ」「なんだろうか?」「……俺の持ち物の中で、一個だけなくなってるものがあった。克巳さんはそれの行方を、実は知ってるだろ?」 稜の言葉に息を飲み、ごまかすように視線を伏せる。それを見た稜は、やっぱりと呟いた。「あのバタバタした状況で、俺の物を持ち出せるのはアナタだけだ。アレをどこにやったのさ?」 直視するようにじっと見つめられ、それが自分を責めているように感じて切なくなった。俺としては、彼のためにやったこと。それは勝手な行動だけど……。「君が治療中に売店で雑誌を買って、それに包んで捨てたよ。だってもう、必要のない物だろ」「なにやってくれたのさ。俺としては見つかっても良かったのに。そしたらリコちゃんと同じ、犯罪者になれたのに!」「稜っ、なにを言ってるんだ!?」 あの現場で傷つき、横たわる彼のポケットからスタンガンを見つけたときに、すべてを悟ってしまった。きっとこれで、理子さんを襲うつもりだったんだろうって。 言い合いをしている俺たちの間を割くように、耳に聞こえて来たリポーターの声。『先日、この場所で芸能人でモデルの葩御稜さんが、暴漢に襲われました。縺れまくった男女関係を、ここで整理してみましょう』 どことなく芝居がかった口調で、テレビが情報を流す。これを見て、また君がもっと傷ついていくことだろう。つらい内容を聞いてはいられないので、叩くようにテレビの電源を切り、稜の躰をぎゅっと抱きしめてしまった。「こんなふうに報道される俺みたいな人間んなんて、あのとき死んじゃえばよかったのに。どうして助けたのさ、克巳さん」「俺は……どうしても、君に死んでほしくなかった。稜が生きて、つらい思いをすることはわかってはいたけど。それでも俺が君を、ずっと支えていくのを決めていたから。それで――」 以前よりも細くなった躰を、これでもかと抱きし
last updateLast Updated : 2025-07-22
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act:毒占欲の果てに6

(さっきの台詞、稜はどんな表情で言ったのだろう。綺麗な君と顔を突き合わせて、その姿を見たかったな――)「克巳さんの優しさに、甘えさせてもらうよ。とりあえず仕事を終わらせてから」「仕事?」 俺の躰から飛びのくように離れると、すぐ傍にある備え付けの電話に手を伸ばした。手早くボタンを押し、どこかにコールしながら口元を綻ばせる姿は、俺のあこがれた葩御稜そのもののほほ笑みだった。「あ、マネージャー。おはようございます、お疲れ様。突然で悪いんだけど、頼まれてくれないかな? 例の件に巻き込まれてしまって、職場を追われそうな人がいるんだ。○×銀行って言えばわかるでしょ♪ そうそう、その人。俺のこれからの、パートナーになる人だからね。どうしても守ってやりたくて」 受話器を持ちながら、こっちを見る視線。魅惑的な瞳を細め、俺をじっと見つめる稜――その眼差しに惹かれて、受話器を持っていない手を握りしめてから、手首に唇を押し当ててみた。(君に教えられた、これの意味することは……) 俺が顔を上げると稜は耳まで赤くして、慌てて手を引っ込めながら、思いっきり戸惑う表情を見せる。その姿を拝むことができただけで、自然と笑みが零れてしまった。 まるで大輪の華に新しい蕾が出来、大きな花びらを開かせて、俺を誘っているように感じてしまう。 ――間違いなく:唐紅(からくれない)の綺麗な華だろう。「悪いけどちょっとばかり銀行にさ、圧力をかけることってできる? 確か、取引があったように記憶してるんだけど。うんうん……よろしくお願いしまーす♪」 照れる姿を誤魔化すように、はしゃぎながら言い放つと、俺に睨みを利かせてため息をつき、ゆっくりと受話器を元に戻した。「いきなり、なにしてくれちゃってんだよ。こっちは、電話中だっていうのに!」 文句を言った稜は俺が手首に付けた痕を、嬉しそうな目でじっと見つめる。その視線はどこか懐かしそうであり、切なげでどうしても目が離せない。「俺の職場のこと、わざわざ手を回さなくてもいいのに」「なに言ってんのさ。本来なら俺に向かって、文句を言ってほしかったよ。お前のせいで人生がダメになった、どうしてくれるんだって……」 言いながら、またしてもぽろぽろと涙を零す。 自分のことのように心を痛める、彼の姿をどうにかしたくて、無理やり躰を引き寄せた。そして涙に濡れる顔
last updateLast Updated : 2025-07-23
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