──合宿二日目。午前。 クロは、また立っていた。 昨日と同じ場所。昨日と同じ相手。けれど──体は、明らかに重かった。 「じゃあ、今日も始めようか」 アルヴェンが、いつものように涼しげな笑みを浮かべながら立つ。 クロは無言で《閃雷刃》を展開した。 返事も、意気込みも、もう口にする余裕がなかった。 昨日だけで、十回以上は模擬戦をこなした。 その全てで、クロの攻撃は一度も──一度たりとも当たらなかった。 「はっ──!」 地を蹴り、横薙ぎの閃光を叩き込む。だがアルヴェンの姿は既に後方にある。 振り返ると、逆方向から軽く肩を叩かれた。 「焦りが出てる。目の動きが滑ってるよ」 「……っ!」 クロは距離を取ると、額の汗をぬぐった。 腕も足も重い。呼吸も荒れている。 だが、それより何より──“何が悪いのか”がわからないことが、一番堪えた。 (なんで……当たんねぇんだよ……!) 『原因は明白だ。』 ゼロの冷静な声が、脳内に響く。 『お前は相手の“動き”を追っている。だが彼は──お前の“意図”を読んで動いている』 (“意図”……?) 『動きの前に生じる、視線の僅かな偏り、呼吸、重心移動……それら全てを“流れ”として読まれている。』 クロの頭の中に、昨日の負け試合の映像がフラッシュバックした。 何度も、どこかで同じように回避された──まるで、予言されたように。 (……読み負けてる? 俺が……?) 「クロ・アーカディア」 アルヴェンの声が、距離を超えてすっと入ってきた。 「お前の雷はいつも“まっすぐ”だ。──でも、本当にそれだけか?」 「……なに、言って……」 「雷は分岐するだろう?乱れるし、時に枝分かれもする」 「……」 「でもお前の“閃雷刃”は、ただ一直線に突っ込んでくるだけ。速いけど──見えやすい」 クロは、言葉を失った。 それは、これまで一度も“疑ったことがなかった”自分の魔法の使い方そのものだった。 『雷の性質を、もう一度見直してみるといい』 ゼロが続ける。 『そこに、お前の演算の“進化”のヒントがあるかもしれん』 クロは、拳を強く握った。 「もう一戦、お願いします」 「もちろん。──期待してるよ、落第生」 再び雷が走
Last Updated : 2025-08-03 Read more