All Chapters of 魔道AI〈ゼロ〉と落第生: Chapter 41 - Chapter 50

55 Chapters

本気と本気

フィールド中央で、クロとジンが向かい合っていた。先ほどまでの一方的な展開とは、明らかに空気が変わっている。クロの雷は安定し、ジンも初めて真剣な表情を見せていた。「……感情制御ができるようになったか」ジンが静かに呟く。「なら、僕も少し本気を出そう」ジンの周囲に、これまでとは比べ物にならない雷が渦巻き始めた。青白い光が空間を歪ませ、観客席にまで電流が走る。「うわあああ」「何だあの魔力……」「次元が違う……」観客席がざわめく中、クロは冷静にその雷を見つめていた。《出力レベル、従来比400%以上。これが本気の演算》「やっぱり、桁が違うな」クロが苦笑いを浮かべる。「でも――」クロも左手に雷を集中させた。安定した青白い光が、静かに輝く。「俺にも、見せるもんがある」その瞬間、二人が同時に動いた。「雷式・閃雷撃!」「雷閃式・迅雷斬!」二つの雷が空中で激突する。バチバチと火花が散り、衝撃波が観客席まで届いた。「互角……?」「クロの雷が、ジンと拮抗してる……」観客席から驚きの声が上がる。しかし、ジンは冷静だった。「一撃が通った程度で、勝った気になるな」次の瞬間、ジンの姿が消えた。「雷閃式・神速移動」高速移動でクロの周囲を駆け回るジン。残像が複数見える中、どれが本物かわからない。「どこだ……」クロが警戒している時、背後から声がした。「ここだ」振り返った瞬間、ジンの雷拳が迫っていた。「雷閃式・雷神拳」クロは咄嗟に雷で防御したが、衝撃で前方に押し出される。着地と同時に、今度は右側から攻撃が来た。「雷閃式・連続雷撃」ジンが高速移動しながら、連続で雷撃を放ってくる。クロは必死に回避と防御を繰り返すが、徐々に追い詰められていく。「くそっ……速すぎる」《相手の移動パターン、解析困難。不規則性が高い》(パターンがないってことか……)その時、観客席からカイの声が響いた。「クロ!慌てるな!相手をよく見ろ!」カイの声に、クロは少し冷静になった。(そうだ……慌てちゃダメだ)クロは目を閉じ、全身の感覚を研ぎ澄ませた。風の流れ、魔力の残響、わずかな気配の変化。(……見えた)クロが突然動いた。ジンの攻撃が来る直前に、最小限の動きで回避する。「なっ……」ジンが初めて、驚いた表情を見せた。「予測したのか?
last updateLast Updated : 2025-08-23
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異常演算の真価

両者が荒い息を吐きながら睨み合う中、会場の空気が変わり始めていた。クロとジンの周囲で、空間そのものが歪んでいる。「……何だあれ」「空気が震えてる……」観客席から困惑の声が上がる。特別席では、トウヤ先生が深刻な表情を浮かべていた。「まずいな……」「どういうことですか?」アルヴェン生徒会長の問いに、トウヤが答える。「あの二人、異常演算の領域に入り始めてる」「異常演算……?」「通常の魔術演算を超えた、規格外の力だ」セラ副会長も顔を青くしている。「このままでは、結界システムが……」その時、警告音が学院全体に響き渡った。『警告:演算異常値検出。結界システム負荷限界接近』『全観客は速やかに避難準備を』会場がざわめく中、フィールドではクロとジンが最後の力を振り絞ろうとしていた。「……やっとだな」ジンが呟く。「やっと何が?」「君が本当の異常演算に目覚める時だ」ジンの周囲に、これまでとは次元の違う雷が渦巻き始めた。それはもはや雷ではなく、純粋なエネルギーの塊だった。「これが僕の異常演算――『完全制御型』」空間が歪み、重力が変化する。ジンの足元から半径10メートルの範囲が、完全に彼の支配下に置かれた。「この領域内では、すべての物理法則が僕の意志に従う」クロは身震いした。これが、真の異常演算の力。常識を超越した、神の領域。《警告:相手の演算値、測定不能。これ以上は危険》「危険って言われてもな……」クロが苦笑いする。「ここで引くわけにはいかないだろ」観客席では、カイたちが心配そうに見守っていた。「大丈夫かよ、クロ……」「あの空間の歪み、ヤバすぎる……」カイが拳を握りしめる。「クロ!無理すんな!」しかし、クロはカイの声援に応えるように構えを取った。「みんな……見ててくれ」クロの左手に、これまでで最も強い雷が集まり始める。「俺の本当の力を」その瞬間、クロの周囲でも空間が歪み始めた。青白い雷と金色の雷が混じり合い、まるで生き物のように蠢いている。「君も……異常演算に目覚めるか」ジンが初めて、感嘆の表情を見せた。「君の異常演算は『感情直結型』……感情の高まりと共に無限に出力が上がる」クロの雷が、さらに強くなっていく。しかし、ジンのそれとは質が違った。ジンの異常演算が「支配」なら、クロのそれは「共
last updateLast Updated : 2025-08-24
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背中合わせの戦士

黒いローブを纏った男たちが、破壊されたフィールドを取り囲んでいた。その数、約20名。全員が高度な魔術装備を身につけ、統制の取れた動きを見せている。「オブシディアン機関……」クロが歯を食いしばる。聞いたことのない組織だったが、その殺気と装備から、ただ者ではないことがわかった。「研究所って何だよ……俺たちを実験動物にするつもりか」「そう理解してもらって構わない」先頭の男――指揮官らしき人物が冷静に答える。「異常演算者は貴重なサンプルだ。特に君たち二人は、対照的なタイプで研究価値が高い」ジンが低く呟く。「……僕たちを観察していたというのは本当か」「もちろんだ。君たちの戦闘データは、すべて記録済み」男が不敵に笑う。「『完全制御型』と『感情直結型』……興味深い対比だったよ」その時、クロの脳内でゼロの声が響いた。《外部観測波を多数検出。長期間の監視を確認》(やっぱり見られてたのか……)《さらに問題がある。彼らの装備、異常演算抑制装置を確認》(抑制装置?)《異常演算を封じる技術。包囲されれば、君の力は使えなくなる》クロは冷や汗を流した。満身創痍の上に、異常演算まで封じられたら勝ち目はない。「さあ、大人しく――」男が手を上げかけた時、ジンが口を開いた。「待て」「何だ?」「一つ聞きたい。なぜ今なのか?」ジンの目が鋭くなる。「僕たちが消耗した今を狙ったということは、正面から戦う自信がないということか?」男の表情が一瞬、強張った。「……余計なことを」「やはりそうか」ジンが冷笑する。「異常演算者を研究したいなら、まず僕たちに勝ってからにしろ」「勝負を挑むというのか?満身創痍で?」「満身創痍だろうと、僕は僕だ」ジンが構えを取る。その姿に、クロは少し見直した。(やっぱり、こいつは強いな……プライドの部分で)クロも構えを取った。「俺も同感だ。研究されるくらいなら、戦って散る」「ほう……」男が面白そうに呟く。「では、君たちの実力とやらを確認させてもらおう」男が手を振ると、部下たちが一斉に魔術を発動した。「制圧術式・展開!」「拘束魔法・起動!」「演算封印・発動!」様々な魔術がクロとジンに向かって飛んでくる。「やるぞ、クロ」「ああ、ジン」二人が背中合わせに立った瞬間――「雷閃式・雷帝領域!」「
last updateLast Updated : 2025-08-25
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嵐の後で

医務室で手当てを受けながら、クロは窓の外を眺めていた。破壊されたフィールド、避難する学生たち、そして慌ただしく動き回る教師陣。学院は騒然としていた。「痛っ……」「我慢しなさい」白衣の医務官が、クロの肩の傷に薬を塗る。「よくこれだけの傷で立ってられたわね」隣のベッドでは、ジンも同じように手当てを受けていた。しかし、彼はいつものように無表情だった。「……お前、全然痛がらないな」クロが呟くと、ジンがちらりと視線を向ける。「慣れているからな」「慣れてるって?」「こういう傷は、昔からよくある」ジンが淡々と答える。その言葉に、クロは何かを感じ取った。(こいつにも、何か過去があるのか……)「クロ!」扉が勢いよく開き、カイが飛び込んできた。「大丈夫か?怪我、ひどくないか?」「うるせぇよ。これくらい平気だ」「嘘つけ、顔真っ青じゃねぇか」カイの後から、サクラたちも入ってきた。「クロくん……」サクラが心配そうに近づく。「本当に大丈夫?」「ああ、心配すんな」ミナが腕を組みながら言う。「それより、あの黒ローブの連中、何だったのよ」「オブシディアン機関……」フィアが静かに答える。「聞いたことのない組織ね」レインも首を振る。「危険な匂いがした」その時、トウヤ先生が入ってきた。「よ、まだ生きてるか?」「先生……あの連中のこと、何か知ってるんですか?」クロの問いに、トウヤは複雑な表情を見せた。「……正直、よくわからん」「でも、何かは知ってるんでしょ?」「昔から、異常演算者を狙う組織がいるって噂はあった」トウヤが椅子に腰をかける。「でも、まさか本当に存在するとは思わなかった」「異常演算者を狙う……なんで?」「さあな。研究材料にするためか、それとも……」トウヤが言いかけて止まる。「それとも?」「……兵器にするためか」その言葉に、場の空気が重くなった。兵器。異常演算者を戦争の道具として使う。考えただけでも恐ろしい話だった。「でも、もう終わったんでしょ?」サクラが不安そうに聞く。「あの人たち、逃げてったし……」トウヤが首を振る。「甘いな。あいつらの目的が本当にデータ収集なら、まだ序の口だ」「序の口?」「異常演算者の力を解析して、人工的に再現する。それが奴らの最終目標だとしたら……」トウヤの
last updateLast Updated : 2025-08-26
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新たな力への道

翌朝、学院の地下にある特別訓練施設。普通の生徒は立ち入り禁止の、最高機密エリアだった。「うわあ……こんな場所があったのか」カイが目を丸くしながら周囲を見回す。広大な地下空間には、最新の魔術装置が所狭しと並んでいる。演算増幅装置、模擬戦闘フィールド、そして見たこともない謎の機械。「すげぇな、ここ」「国家機密レベルの施設ね」フィアが冷静に分析する。「学院にこんな設備があったなんて」レインも静かに頷く。「隠していたということは、それだけ重要な場所だ」その時、奥から足音が響いてきた。現れたのは、トウヤ先生とセラ副会長。そして――「おや、皆さんお揃いで」見知らぬ男性が現れた。白衣を着た、中年の研究者風の人物。「初めまして。私は Dr.エルヴィン・シュタイナー」「Dr.シュタイナー?」「異常演算研究の第一人者です」トウヤが説明する。「今回の特別訓練、この人に指導してもらうことになった」Dr.シュタイナーがクロとジンを見つめる。「ほう……これが例の異常演算者たちですか」その視線に、クロは少し居心地の悪さを感じた。研究者の目――まるで実験動物を見るような冷たさがある。「心配無用です」Dr.シュタイナーが微笑む。「私はオブシディアン機関とは違います。学院側の人間ですから」「……そうですか」クロが曖昧に答える。ジンは無言で、じっと研究者を観察していた。「では、早速始めましょう」Dr.シュタイナーが手を叩く。「まずは、君たちの異常演算を詳しく分析させてもらいます」「分析?」「昨日の共闘、実に興味深いデータでした」研究者の目が輝く。「二つの異常演算が融合する現象など、理論上は不可能とされていたのですが……」「理論上は不可能……」クロが繰り返す。「はい。異常演算は本来、個人に特化した固有能力」「他者との共鳴など、起こりえないはずなのです」ジンが口を開く。「つまり、僕たちは理論を覆したということか」「そういうことです」Dr.シュタイナーが興奮気味に続ける。「これは魔術史における大発見です」その熱量に、クロは少し引いた。(なんか……オブシディアンの連中と似たような匂いがするな)《同感。研究者特有の熱狂を検出》ゼロの声が脳内で響く。《注意が必要》「それで、具体的には何をするんですか?」サ
last updateLast Updated : 2025-08-31
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共鳴訓練開始

翌朝、地下特別訓練施設。「おはようございます、皆さん」Dr.シュタイナーが白衣を翻しながら現れた。「昨夜の襲撃は大丈夫でしたか?」「ええ、なんとか」クロが答える。昨夜のオブシディアン機関の襲撃は、教師陣の迎撃で撃退されたが、被害は少なくなかった。校舎の一部が破壊され、数名の教師が負傷した。「では、早速訓練を始めましょう」Dr.シュタイナーが手を叩く。「今日のテーマは『信頼による共鳴』です」研究者が装置を指差す。「この共鳴測定器で、君たちの絆の強度を測ります」「絆の強度って……測れるもんなんですか?」カイが首を傾げる。「魔力の共鳴度から推測できます」「面白い装置ね」フィアが興味深そうに装置を眺める。「では、まずクロ君とジン君から」二人が測定台に立つ。「お互いを信頼して、同時に魔力を発動してください」「……やってみるか」「ああ」クロとジンが向かい合い、それぞれ雷を発動した。青白い光と、より強い青白い光が空中で交錯する。しばらくは何も起こらなかったが――「……おや?」Dr.シュタイナーがモニターを見つめる。「微弱ながら、共鳴反応が」その瞬間、二人の雷がわずかに色を変えた。クロの雷に紫が混じり、ジンの雷に緑が混じる。「これは……」ジンが驚く。「僕の雷が、変化している」「俺のも……」クロも自分の雷を見つめる。いつもと違う、新しい感覚があった。「素晴らしい!」Dr.シュタイナーが興奮する。「共鳴現象の初期段階です」「初期段階?」「はい。完全な共鳴には、まだ時間がかかるでしょう」研究者がデータを確認する。「しかし、可能性は確実にあります」次に、カイとクロの組み合わせが測定された。「お前とは、もう何度も一緒に戦ってるからな」「ああ。任せろ」二人が同時に魔力を発動すると――「おお!」今度は明確な共鳴が起こった。クロの雷に赤い光が混じり、カイの炎に青い光が混じる。「これは……炎雷の融合?」「すげぇ……俺の炎が変わった」カイが興奮する。「なんか、いつもより威力が上がってる気がする」《共鳴による出力向上を確認。約1.3倍》ゼロの分析が響く。「次は、全員で試してみましょう」Dr.シュタイナーが大きな測定台を指差す。「6人同時の共鳴実験です」全員が手を繋ぎ、円形に並んだ。
last updateLast Updated : 2025-09-01
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新たな脅威

オブシディアン機関撃退から一週間が経った。学院は表面上、平静を取り戻していた。破壊された校舎も修復され、警備も強化されている。しかし、クロたちには別の問題が生じていた。「……また頭痛か」医務室で、クロは額を押さえていた。ここ数日、原因不明の頭痛に悩まされている。「異常演算の副作用かもしれません」医務官の女性が心配そうに言う。「あまり無理をしないでください」「はい……」医務室を出ると、廊下でジンが待っていた。「君も、同じ症状か?」「ああ。お前もか?」二人とも、共鳴訓練を始めてから体調に変化があった。頭痛、めまい、そして時々起こる記憶の混濁。「Dr.シュタイナーに相談したが……」「原因不明って言われたよ」クロが苦笑いする。「共鳴の副作用かもしれないって」「面倒なことになったな」二人が歩いていると、中庭で仲間たちが集まっているのが見えた。「おお、クロ、ジン!」カイが手を振る。「体調はどうだ?」「まあまあだ」クロが適当に答える。しかし、サクラは鋭かった。「嘘だよ。顔色、すごく悪い」「……バレたか」「無理しちゃダメだよ、クロくん」サクラが心配そうに近づく。「私たちにできることがあったら、何でも言って」その優しさに、クロは胸が暖かくなった。「ありがとう、サクラ」ミナが腕を組みながら言う。「でも、異常演算って副作用もあるのね」「強力な力には、それなりの代償があるってことか」フィアが分析的に呟く。「リスクとリターンは比例する」レインも頷く。「力を得れば、失うものもある」その時、学院の放送が流れた。『クロ・アーカディア、ジン・カグラ、至急理事長室へ』「理事長室?」クロが首を傾げる。「何の用だろう」「行ってみよう」ジンが立ち上がる。「きっと、昨日の件に関してだ」理事長室の扉を叩くと、中から落ち着いた声が聞こえた。「入りなさい」扉を開けると、そこには見知らぬ老人が座っていた。白髪に深い皺、しかしその目には鋭い光が宿っている。「私が理事長のオルヴェインだ」「あ……初めまして」クロが慌てて頭を下げる。ジンも静かに会釈した。「座りなさい」二人が椅子に座ると、理事長がゆっくりと口を開いた。「君たちの活躍、見させてもらった」「はい」「特に、昨日の6人共鳴。素晴らしいものだっ
last updateLast Updated : 2025-09-02
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迫る影

夜が深まった学院で、警備室のモニターが不気味な光を放っていた。「……また、例の反応だな」警備主任が眉をひそめながら、画面に映る数値を見つめている。学院周辺に張り巡らされた魔力探知網が、微弱だが確実な外部観測波をキャッチしていた。距離約5キロ地点。継続時間はすでに6時間を超えている。「間違いない。監視されている」警備主任が通信機を手に取った時、別の警備員が駆け寄ってきた。「主任!大変です!」「どうした?」「学院東側の森で、不審な魔力反応を複数確認!」「何だって?」モニターに新たな警告が表示される。赤い点が、学院を取り囲むように配置されていた。「包囲されてる……」警備主任の顔が青ざめた。一方、その頃。クロは自室で、激しい頭痛に悶えていた。「うう……くそ……また強くなってる……」額を押さえながら、ベッドの上で丸くなる。共鳴訓練を始めてから、症状は日に日に悪化していた。頭痛だけでなく、時々記憶が曖昧になることもある。自分が誰なのか、一瞬わからなくなる恐怖。《症状進行を確認。精神負荷の蓄積が限界に近づいている》「ゼロ……これ、本当にヤバくないか?」《データ不足で判定困難。ただし、危険域に達している可能性は高い》「最悪の場合は?」《人格の崩壊。または、異常演算の制御不能による暴走》クロの背筋が寒くなった。(そんな……)その時、ドアがそっとノックされた。「クロ?起きてる?」カイの声だった。いつもより小さく、心配そうな響きがある。「ああ、起きてる」扉を開けると、カイだけでなく全員が廊下に立っていた。「みんな……こんな時間に何で?」「眠れなくて」サクラが心配そうに答える。「クロくんとジンくんの体調、すごく気になって」「私たちも頭痛するようになったの」ミナが額を押さえる。「共鳴の影響かも」フィアも静かに頷く。「私も、時々めまいがする」レインは無言だったが、その顔色も良くなかった。「みんなも……?」クロが驚く。その時、隣の部屋からジンが出てきた。顔は青白く、明らかに体調が悪そうだった。「君たちも、症状が出ているのか」「ジンくん……」サクラが心配そうに駆け寄る。「大丈夫?すごく顔色悪いよ」「問題ない」ジンが答えるが、その声は弱々しかった。「でも、確かに影響は出ている」フィアが冷静
last updateLast Updated : 2025-09-03
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狙われた少女

翌日の夕方、学院の中庭。いつものように6人が集まって、軽い訓練をしていた。「今日は調子どう?」カイがクロに聞く。「まあまあかな。昨日よりはマシだ」クロが苦笑いする。頭痛は続いているが、我慢できる程度になっていた。「ジンは?」「僕も同様だ」ジンが短く答える。「完全ではないが、戦闘には支障ない」サクラがほっとした表情を見せる。「良かった。心配してたから」「サクラちゃんのおかげだよ」ミナが肩を叩く。「あんたが止めてくれなかったら、大変なことになってた」「そんな……私は当たり前のことをしただけ」サクラが謙遜するが、その頬は少し赤くなっていた。フィアが静かに呟く。「でも、確かにサクラの存在は大きい」「どういうこと?」「異常演算の暴走制御において、感情の安定化は重要な要素」フィアが分析的に続ける。「サクラの優しさが、クロとジンの心を落ち着かせている」レインも頷く。「チームの要だ」その時、学院の警報が鳴り響いた。『警告:外部侵入者確認。全生徒は寮へ避難してください』「また……?」カイが身構える。空を見上げると、黒い影がいくつも飛んでくるのが見えた。「オブシディアン機関……」「しつこい連中ね」ミナが歯を食いしばる。しかし、今回は様子が違った。敵の数は前回より少ない。10人程度の精鋭部隊のようだった。「少数精鋭……何を狙ってる?」フィアが警戒する。その時、黒ローブの術者たちが着地した。そして、指揮官が口を開く。「目標確認。サクラ・ヒヅキ」「えっ……?」サクラが驚く。「私?」「そうだ。君こそが、我々の真の標的だ」指揮官が冷たく言う。「異常演算者の制御装置として、極めて価値が高い」「制御装置って……」クロが前に出る。「サクラは人間だ!モノじゃない!」「我々にとっては同じことだ」男が手を振ると、部下たちが一斉に魔術を発動した。「捕獲術式、展開」光の鎖がサクラに向かって飛んでくる。「させるか!」クロが雷で迎撃するが、敵も手強い。術式の一部がサクラの足を絡め取った。「きゃあ!」「サクラ!」カイが炎の拳で鎖を切ろうとするが、別の術者に阻まれる。「邪魔をするな」敵の魔術がカイを吹き飛ばした。「カイ!」ミナが反撃しようとするが、敵の数が多すぎる。フィアとレインも必死に抵
last updateLast Updated : 2025-09-04
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絆の証明

翌夜、予告通りオブシディアン機関が再び現れた。しかし、今度はクロたちも準備していた。「来たな」学院屋上で、7人が待ち受けていた。敵を迎え撃つ陣形で、全員が戦闘態勢を整えている。「今度は逃がさない」空から降下してくる黒ローブの集団。その中央に、いつもの指揮官が立っていた。「準備していたか」男が冷笑する。「だが、無駄だ」指揮官が手を振ると、これまでとは違う装置が現れた。巨大な魔法陣が空中に展開され、学院全体を覆い始める。「これは……」フィアが顔を青くする。「魔力遮断結界……」「正解だ」指揮官が得意げに答える。「この結界内では、一切の魔術が使用不可能」「なっ……」クロが雷を出そうとするが、何も起こらない。ジンも同じだった。「魔力が……封じられている……」他の仲間たちも、魔術が使えない状態になっていた。「これで、ただの子供だ」敵の術者たちが、武器を構えて近づいてくる。魔術が使えない以上、物理的な戦闘しかできない。「くそ……」カイが拳を握るが、炎が出ない。「魔術なしで、どうやって戦えって言うんだよ」絶望的な状況だった。しかし、その時――「大丈夫」サクラが前に出た。「魔術が使えなくても、私たちには別の力がある」「別の力?」「絆の力よ」サクラが振り返って微笑む。「魔術がなくても、心は繋がってる」その言葉に、クロははっとした。(そうだ……魔術がすべてじゃない)「みんな、手を繋いで」クロが提案する。「魔術じゃない方法で、力を合わせよう」7人が手を繋ぎ、円を作った。魔力は使えないが、心は繋がっている。「……気持ち悪い儀式だな」指揮官が嘲笑する。「魔術も使えないのに、何ができる」しかし、その時――7人の周囲に、微かな光が生まれた。魔力ではない。心の光。絆の証明。「何だ……あの光は……」敵が困惑する中、光はどんどん強くなっていく。「これは……魔術じゃない」「純粋な精神エネルギーです」Dr.シュタイナーの声が、通信機から響いた。「信じられない……魔力を使わずに、エネルギーを生成している」光が最高潮に達した時、魔力遮断結界が崩壊した。バリバリと音を立てて、結界が粉々に砕け散る。「馬鹿な……我々の結界が……」「絆の力は、どんな結界でも破れるってことだ」クロが立ち上がる
last updateLast Updated : 2025-09-05
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