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新たな脅威

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-02 08:05:28

オブシディアン機関撃退から一週間が経った。

学院は表面上、平静を取り戻していた。

破壊された校舎も修復され、警備も強化されている。

しかし、クロたちには別の問題が生じていた。

「……また頭痛か」

医務室で、クロは額を押さえていた。

ここ数日、原因不明の頭痛に悩まされている。

「異常演算の副作用かもしれません」

医務官の女性が心配そうに言う。

「あまり無理をしないでください」

「はい……」

医務室を出ると、廊下でジンが待っていた。

「君も、同じ症状か?」

「ああ。お前もか?」

二人とも、共鳴訓練を始めてから体調に変化があった。

頭痛、めまい、そして時々起こる記憶の混濁。

「Dr.シュタイナーに相談したが……」

「原因不明って言われたよ」

クロが苦笑いする。

「共鳴の副作用かもしれないって」

「面倒なことになったな」

二人が歩いていると、中庭で仲間たちが集まっているのが見えた。

「おお、クロ、ジン!」

カイが手を振る。

「体調はどうだ?」

「まあまあだ」

クロが適当に答える。

しかし、サクラは鋭かった。

「嘘だよ。顔色、すごく悪い」

「……バレたか」

「無理しちゃダメだよ、クロくん」

サクラが心配そうに近づく。

「私たちにできることがあったら、何でも言って」

その優しさに、クロは胸が暖かくなった。

「ありがとう、サクラ」

ミナが腕を組みながら言う。

「でも、異常演算って副作用もあるのね」

「強力な力には、それなりの代償があるってことか」

フィアが分析的に呟く。

「リスクとリターンは比例する」

レインも頷く。

「力を得れば、失うものもある」

その時、学院の放送が流れた。

『クロ・アーカディア、ジン・カグラ、至急理事長室へ』

「理事長室?」

クロが首を傾げる。

「何の用だろう」

「行ってみよう」

ジンが立ち上がる。

「きっと、昨日の件に関してだ」

理事長室の扉を叩くと、中から落ち着いた声が聞こえた。

「入りなさい」

扉を開けると、そこには見知らぬ老人が座っていた。

白髪に深い皺、しかしその目には鋭い光が宿っている。

「私が理事長のオルヴェインだ」

「あ……初めまして」

クロが慌てて頭を下げる。

ジンも静かに会釈した。

「座りなさい」

二人が椅子に座ると、理事長がゆっくりと口を開いた。

「君たちの活躍、見させてもらった」

「はい」

「特に、昨日の6人共鳴。素晴らしいものだっ
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