憲人はグラスを手に持ち、じっと安浩と真衣を見つめていた。安浩はこの展開はなかなか面白いと思った。前回柿島社長が自分に電話をかけて断られた後も全く落ち込むことなく、むしろ今は万全の準備を整えてきている。九空テクノロジーとの協業に対して、柿島社長が誠意を持って取り組もうとしていることは明らかだ。イグナイトマテリアルの発表会では、柿島社長はきっぱりと自分たちを断ったが、いつの間にか態度を変え始めていた。柿島社長と礼央さんは結局のところは親友同士で、同じ仲間だ。安浩は憲人を見て、意味ありげな薄笑いを浮かべた。「もしまた時間が合えば、こちらから連絡させていただきます」安浩は断ることも承諾することもせず、なかなか意味深な態度だった。九空テクノロジーは、新材料の調達についてはすでにバンガードテクノロジーと協業しており、現在求めているのは共同で生産を行う製造業者だ。安浩はただ真衣のために仕返しをしたいだけだ。憲人は断られても、意外そうな表情を見せず、にっこりと笑った。「では、常陸社長からのお電話をお待ちしております」安浩と憲人はほとんど会話しないまま、憲人はその場は後にした。憲人も無理に粘って人に嫌がられるような真似はしない。安浩は憲人の後姿を見て、嘲笑った。「急に親切にしてくる奴にはきっと裏がある」同じ仲間同士に、ろくな人はいないだろう?ただ、柿島社長は盛岡社長たちと比べれば、真衣に対しては確かに礼儀正しい方だ。前回の発表会ではあんな態度だったのに、今になって急に変わるのは、何かが変だ。やはり柿島社長は本当に商売に向いていると言わざるを得ない。柔軟に対応できる人物だ。真衣は思わず笑った。「イグナイトマテリアルは優秀な会社だから、検討の余地はあるわ」ビジネスでお金を稼ぐ以上、個人的な恨みを表に出す必要はない。器が小さいと思われるだけだ。政府関係者が登壇し、最近の政策と展示製品についてスピーチで紹介した。真衣たちは数社と交渉を重ねたが、いずれも協力の意思はなく、業界サミットも終わりに近づいていた。真衣たちはもうこれ以上時間をかけるつもりはなかった。会場を出る時、飲み物を運んでいたスタッフが真衣にぶつかってきた。水が真衣の全身にかかった。スタッフは繰り返し謝罪した。「申し訳ありません、大
Read more