All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 201 - Chapter 210

534 Chapters

第201話

高史は真衣を横目で見ると、唇の端に淡い笑みを浮かべた。「君がいないとつまらないよ。一人だけ足りてないんだ」「俺たちは協業パートナーだろ?その態度はまさか俺たちのことを見下してるのか?」高史が話すと、いつも少ない言葉で相手を困らせて、どうにも身動きが取れない状況にさせてしまう。「お金がなくて打てないんじゃないの?」萌寧が善意でフォローした。「寺原さんはただのアシスタントだし、給料も高くないんだから、そんな責めなくてもいいんじゃない?」「やろう」ドアの外から、突然男の声が響いた。一同は自然と入り口に視線を向けた。会議を終えて、遅れて到着した安浩が歩いてきて、真衣を見ると言った。「楽しんでちょうだい。勝っても負けても結果は僕が責任を取るから」こういう場面では、流れに身を任せるべきだね。やらないのは、自分の格が下がる。ましてや、ただの麻雀じゃないか。「そうだ」礼央の視線はあるような、ないような感じで真衣の顔に向けられた。礼央はうっすら笑みを浮かべながら言った。「何を怖がってるんだ?麻雀の場で、誰かがお前を食い殺すとでも思ってるのか?」萌寧が唇を歪めた。「常陸社長は豪快だね。そんなに自分のアシスタントを溺愛してるのね?」安浩はまず金子に挨拶した。「遅れて申し訳ありません」金子は安浩を迎え、丁寧に握手を交わした。「構わないよ」安浩は口元を少しひきつらせた。「そうだ、ただの麻雀だ。不倫のドロドロの修羅場ってわけでもないんだし」萌寧の動きが、ぴたりと止まった。安浩は遠回しな表現を使った。わかる人にはわかる。安浩は真衣のそばに歩み寄り、小声で尋ねた。「話はどうだった?」「まあまあだった」真衣は淡々と答えた。「少し麻雀したら帰るわ。あの三人は組んでるでしょ、彼らと麻雀してお金を貢ぐつもり?」安浩は真衣に対し、なぜか根拠のない自信を持っていた。「一対三でも問題ない」個室内には麻雀テーブルが用意されている。四人が着席する。真衣は礼央の下家だ。「この後すぐ会社で会議があるから、勝ち負けに関わらず、2局ほどで失礼するわ」と真衣は前置きをした。高史はあまり気にしない様子で「いいよ」と返事した。萌寧は首を傾げ、礼央を見て、「礼央、今日はお金を持ってきてないんだけど、もし負けたら……」と心配そうに
Read more

第202話

「うんうん、ちょうどあなたたちは協業関係を結んだところだし、LINEを追加したらどうだい」金子がこの時口を開いた。萌寧と高史はあまりいい表情をしていない。しかし、礼央はすでに負けを認めていたため、彼らがお金を払わない理由はない。LINEで送金するしかない。「すみません、携帯の充電が切れてしまって」「先輩」真衣は安浩を見て言った。「受取用のQRコードを見せて、私の代わりにお金を受け取って」自分は礼央のLINEを追加したくなかったし、ましてやQRコードでお金を受け取るのも嫌。自分はどんな形であれ、礼央たちとLINE上では一切関わりを持ちたくない。安浩は涼やかに笑い、うなずいて携帯を取り出し受取用QRコードを表示した。「スキャンしてください」相手の代わりにお金を受け取れるこの関係は、なかなか見ない。高史は真衣を深く見つめた。言わざるを得ないが、この女は確かに男に取り入れるのが上手だ。真衣たちはもうこんなに進んでいたのか?心の中では不満たっぷりでも、体面を気にして表には出せなかった。携帯を取り出すとすぐに送金した。麻雀が終わったあと。みんなもそろそろ解散する頃だ。「常陸社長」金子は安浩を見て言った。「話があるんだけど、あなたさっき来るのが遅かったから、あとでちょっと個別に話さないか?」「いいですよ」安浩は真衣の方を見た。安浩が口を開く前に、真衣が自ら言った。「私は大丈夫だよ。今日車で来た?であれば車で待ってるよ」安浩は頷き、車の鍵を真衣に渡し、地下駐車場のどの位置に停めてあるかを真衣に伝えると、「暇だったら先に会社に戻ってもいいよ、後でタクシーで帰るから」と言い残した。そう言うと、安浩は金子と共にレストランの個室に入って行った。その場にいた人たちはっきりとこの一幕を見ていた。真衣と安浩の関係が一定の親密さに達しているからこそ、安浩は車の鍵を真衣に渡せるのだ。それにさっきやった麻雀の勝負の結果については、安浩は自分が責任を取ると言った。真衣は車の鍵を受け取ると、すぐに立ち去った。「真衣はなかなかやるな、離婚もしていないのに、こんな短い期間で常陸社長の心を掴んだ」高史は真衣の遠ざかる後ろ姿を見ながら言った。「どうやら公私ともにうまく行っているらしいね、道理であっさりとお前と離
Read more

第203話

真衣は振り返って礼央を見た。「まず翔太に学校でみんなの前で謝罪させてからね」千咲が学校で傷つけられたすべての名誉を取り戻さなければならない。礼央は気ままにライターを弄りながら言った。「明日幼稚園で朝の集会をするときに、謝罪させるのでどう?」真衣はこれに特に異論はない。「100億円は法人口座で振り込む?それとも個人口座にする?」真衣は淡々と答えた。「九空テクノロジーの財務担当の人と話をさせるわ」この言葉ではっきりわかった。法人口座で処理するということだ。それ以上に、真衣本人はもうこれ以上礼央と関わりを持ちたくないのだ。この100億円は、しっかりと九空テクノロジーに投資されることになる。礼央は瞳を凝らして真衣を見つめているが、目には読み取ることのできない感情が宿っている。礼央はライターをポケットにしまい、真衣を見ながらゆっくりと言った。「随分と気性が荒くなったな」「安浩はお前に優しいようだな」「そうね」真衣は否定せず、薄く唇を歪ませて冷ややかに言った。「それがどうしたの?羨ましいの?」高瀬家の人間以外、みんな自分によくしてくれた。まるで前世で高瀬家にできた借りを、今生で返済しに来たかのようだわ。当初、自分は結婚後の生活が幸せになると思っていた。最初は何の感情もなくても、一緒に過ごしていくうちに好きになることもある。結婚したばかりの頃、たしかに自分と礼央の関係はよそよそしくはあったけれど、うまくやっていた。あの頃の礼央は、少なくとも今ほど冷たくはなかった。夫としての責任はすべて果たし、むしろ思いやりや気遣いさえあった。いつからか、自分と礼央の関係に少しずつ違和感が生まれていた。もしかしたら。礼央は最初から本気じゃなかったのかもしれない。ただ高瀬家に嫁いだ自分に対して、芝居をしていただけかもしれない。もし礼央が芝居を打たなければ、自分があんなに喜んで、のんびりと高瀬家のために尽くし、礼央のために翔太を育てるなんてことはなかっただろう。礼央は目を細め、黙り込んだまま真衣を見つめている。真衣はこれ以上礼央と関わりたくなかったため、鼻先で笑うとその場を去った。自分と礼央の間には。もう話すべきことは何もない。結婚してからずっと、激しい喧嘩もしなければ、トラブルもなかった。
Read more

第204話

翔太は冷ややかに鼻を鳴らし、その小さな顔を曇らせてそっぽを向いた。翔太は小さなランドセルを背負って校門をくぐった。千咲は翔太の後ろ姿を見送ると、唇を軽く噛んだ。「千咲」真衣はしゃがみ込み、真っ直ぐに千咲を見つめた。「翔太の謝罪に対して、あなたが許したくなければ許さなくてもいいのよ。謝られたら必ず許さなければいけないなんて決まりはないわ。謝ることは翔太のやるべきことであって、許すか許さないかはあなたが自由に選べるのよ」千咲は頷きながら聞いていた。「わかったよ、ママ。私、誰にもいじめられないから」千咲は強い子だ。幼稚園で孤立しても、遊んでくれる友達がなくても、千咲は一人で平気だった。「それから、幼稚園で楽しくないことがあったら、必ずママに話してね」ただ、娘には幸せに成長してほしいと真衣は願っている。「わかってるよ」千咲は無邪気な笑顔を浮かべ、黒く輝く瞳を細めて言った。「ママ、心配しないで」真衣は千咲のほっぺたを軽くつねった。「さあ、行ってらっしゃい」千咲が登園したあと。真衣は九空テクノロジーに戻り、安浩と萌寧の入社手続きについて打ち合わせをした。安浩は結論を下した。「決まりだな。じゃあ、外山さんには明後日から出社するよう連絡しよう」安浩は真衣の顔をじっと見た。「本当に気にしないのか?あの女を見るだけで僕は食欲がなくなるけど」「木も森も見よう」真衣は書類を整理しながら返事した。「たかが一つのポジションよ。どうにでもねじ込められるわ。100億円を棒に振るわけには行かないからね」礼央がお金を積んでくれるなら、受け取らない理由はない。退勤時間も近くなり、真衣はスマホを取り出し、売りに出していた物件の成約状況を確認した。真衣は眉をひそめた。相変わらず問い合わせがない。これほどの好立地で、これほどの安い価格で売りに出しているのに、問い合わせがないのは不可解だとしか言いようがない。九空テクノロジーはまだ上場していないが、手がけるプロジェクトの規模感はどれも大きく、さらに今年は上場を目指している。資金調達についてもうまく進める必要があるが、よりによって今のところ引き受けてくれる企業はいない。テック業界ってのはお金がかかる。数十億円なんて、たいしたことじゃない。礼央は萌寧の国内における成果を輝かし
Read more

第205話

「ママ、誰?」翔太はおもちゃの飛行機を手に持って出てきた。真衣だとわかると、翔太の表情はすぐに曇りだした。今日、自分は千咲に公開謝罪して、全園児の前で恥をかかされたんだ!おばさんはまさか、自分のことを笑いに来たっていうの?「出て行け!」翔太は真衣を強く押した。「僕たちはおばさんのことを歓迎してないから!」子供の力とはいえ、真衣は不意をつかれ、二歩ほど後退りし、後ろの柱に掴まるとようやく体勢を保つことができた。真衣は、かつてこの家にあった見慣れた光景を見つめながら、まるで前世のことのように感じていた。かつてここを自分の家だと思っていたが、今やこの家は自分を最も傷つける場所となっている。真衣は冷笑し、瞳の色がさらに暗くなった。これほどまでに滑稽なことはない。明らかに新婚生活用の家は自分に与えられたものなのに、礼央はなぜ今も外山さんたちをここに住まわせ、自分を辱めようとしているのかな?「寺原さん、あなたと礼央はもう離婚したから、今ここに来るのはふさわしくないでしょ?礼央が知ったら怒るよ」萌寧はドア枠にもたれ、嘲るように笑った。「近々、私は家の全ての内装を壊してリフォームするつもりなの。だから今後は私たちの家にはもう来ないで」「まだ帰らないなら、すぐに警備員を呼んで追い出させるわよ」翔太は寺原さんのせいで、学校で面子を潰された。学校での出来事は些細なことだったのに、寺原さんは大げさに捲し立てた。実の母親である自分にとって、それはたまらなく辛い。自分の息子は、なんて優秀で立派な人間なのだろう。翔太が人として誠実で、紳士的に女の子相手に争おうとしなかったからこそ、本来謝るべきなのは千咲の方ではないか!真衣は目を上げ、暗い視線で静かに萌寧のことを見た。萌寧は真衣の静かな様子を見て、冷笑した。気が狂ったのか、真衣は一言も発さない。真衣は突然、口元に冷たい笑みを浮かべ、バッグから不動産の名義変更書類と、不動産権利証のコピーを取り出した。真衣は手を振り上げ、書類を萌寧の顔に叩きつけた。不意を突かれた萌寧は顔を横にそらし、鈍い痛みが顔の半分を襲う。萌寧は頬を軽く押さえ、振り返って真衣を信じられないような顔で見て言った。「私を殴ったの?あなた、自分が何をしているのか分かってるの!」翔太が萌寧の前に立
Read more

第206話

やっぱり萌寧には、プライドと礼儀が備わっていた。「礼央に直接聞いてみるわ」その直後。萌寧は翔太の手を取った。「さあ、行くよ」真衣は鼻で笑った。自分はもともと、外山さんたちに穏便に引っ越してもらいたかっただけ。自分にはもっと大事な用事があるから、外山さんたちとややこしく関わる気はない。でも強引に居座って威張り散らすなら、自分も強硬手段を取るしかない。-翌日の早朝。真衣は仲介業者から電話を受け、家の買い手が決まったから、いつ契約に来られるかを聞かれた。真衣は意外に思った。外山さんたちは、もう引っ越したのかな?真衣と仲介業者は、退勤後の時間に約束した。真衣は通常通り、九空テクノロジーに出勤した。萌寧は予定よりも1日早く出社することになった。しかし待てど暮らせど。1時間以上も遅刻しているのに、まだ萌寧は現れない。沙夜は激怒した。「本当に自分を偉いと思ってるんだね、九空テクノロジーを何だと思ってるのかしら?」安浩は手を上げて腕時計を見た。「もう待たずに会議を始めよう」本来なら、新入社員の紹介をする流れだった。まるでわざと遅刻して、全員に威圧感を与えようとしているようだ。「遅れて申し訳ございません」会議が半分まで進んだ時、萌寧がドアを開けて入ってきた。萌寧は中性的なスーツを身にまとい、全体的にきりっとした印象を与えた。そして皆を見渡して言った。「私に何をすればいいか教えていただけますか?」「まず自己紹介をお願いします」萌寧は自分の経歴を包み隠さず紹介した。話し終わると、その場にいた全員が拍手した。「こんな若さで博士号を二つも……すごいなあ」誰かがヒソヒソと話している。確かに萌寧の経歴は見事だ。会議が終わった後。技術部門の中心人物である真衣は、萌寧に全ての書類を整理してもらうよう仕事を割り当てた。萌寧は信じられないという表情で、怒りのあまり逆に笑みを浮かべた。「この私が?書類整理をするの?」真衣はオフィスチェアに座り、萌寧を見上げて淡く笑った。「仕事なので。何か質問があれば常陸社長に聞いて」自分は、この会社の重要プロジェクトに参画するために入社したが、寺原さんは自分をなるべくプロジェクトから排除しようとしているのか、重要な資料には一切触れさせてもらえない
Read more

第207話

萌寧はその言葉を吐き捨てるように言うと、背を向けてその場を去っていった。なかなかやることが早いじゃない、礼央。30分も経たないうちに、青雲亭の食事が九空テクノロジーの技術部門に届けられた。全員分ある。北城でも名高い高級プライベートレストランの、あの青雲亭だ。みんな集まって、食事を囲みながら盛り上がっている。真衣が気にしないようにしても無理なくらい、場は盛り上がっている。「外山さん、あなたの彼氏が注文したんですよね?本当に優しいですね」萌寧は淡く笑った。「彼氏ではなく友人です」同僚たちがからかうように言った。「あ、分かりました~まだ付き合う前の友人の段階ですね〜」「その『友人』って、高瀬社長のことですよね?業界サミットでお二人を見かけましたよ」萌寧の口元に甘い笑みが浮かんだ。「はい、高瀬社長が皆さんに昼食をご馳走してくださったんです」「おお~」その場にいた皆は事情を察していて、わざと冷やかし始めた。礼央は人付き合いが上手で世渡りにも長けているため、萌寧が九空テクノロジーに入社してすぐに馴染めるよう、礼央は萌寧のために人脈を広げ、関係づくりを手助けしてくれた。例え遠く離れているところにいても、礼央は心の中で常に萌寧のことを気にかけている。一度の食事で、萌寧は同僚たちとの距離がぐっと近づいた。ましてや、青雲亭はお金があっても予約がなかなか取れないレストランだ。萌寧のおかげでみんな食べられたのだから、萌寧に感謝するのは当然だ。沙夜が真衣の隣で冷ややかに笑った。「言わざるを得ないけど、あなたの元夫は外山さんに本当に優しいね」否定はできない。確かにその通りだから。真衣は下を向ながら設計図を描いていた。「愛があるところに、気遣いもある」可笑しいことに、自分は礼央と6年間一緒に過ごしたが、礼央が自分にこのような細やかな気配りをしたことは一度もなかった。自分がワールドフラックスでどう過ごしていたか、礼央は一度も尋ねてきたことはなかった。礼央は自分が九空テクノロジーで働いていることを十分承知のうえで、あえて大げさに比較し、自分の顔に泥を塗るような真似をした。真衣の口調はとても落ち着いていて、感情の起伏はほとんど感じられない。「コンコン――」ドアをノックする音がする。萌寧は弁当
Read more

第208話

周囲の言葉が耳に刺さるように真衣に響く。萌寧の学歴と能力は確かに優れていると言わざるを得ない。どんなに有能でも、ここで本気で働きたいという誠意が見えなければ、それはただの傲慢な見せかけにすぎない。自分はそこまで私情にからんで、あちこちで外山さんを敵に回すようなことはしない。「いいわよ」真衣は手に持っていたペンをテーブルにそっと投げ置き、椅子にもたれかかると、冷たくも落ち着いた目で席にいる全員を見渡しながら言った。「聞きたくない人は、外山さんと一緒に出て行ってもらって構わないわ」真衣がペンを置いた音はさほど大きくなかったに、その場にいる人々の耳には重く響いた。リーダーの威圧感が会議室に静かに広がる。瞬く間に、会議室は息を呑むような静けさに包まれた。新入社員のために自分のことを危険にさらす者などいない。真衣の実力は誰の目にも明らかだ。新入社員をかばいたい気持ちはあっても、人は結局自分の保身に走るものだ。数秒後、萌寧は冷ややかな笑い声を上げた。萌寧は嘲るように唇を歪めた。「わかったわ」萌寧は目を伏せてノートパソコンを片付け、立ち上がって真衣を見つめながら言った。「本来いるべきじゃないところにいるんだから、そのお席はくれぐれもお手放しなくね」そう言い残すと、萌寧は背を向けて会議室から立ち去った。寺原さんが九空テクノロジーでここまで発言権を持っているとは思ってもいなかった。たかが大卒の寺原さんを、常陸社長はここまで持ち上げていたのか。寺原さんに何の資格があって、修士号や博士号をもつ人たちの前で会議を仕切れるというのよ。考えてみれば本当に滑稽だわ。萌寧はプライドが高く、九空テクノロジーに来たのは高いポジションを狙ってのことだ。だが今は真衣に押さえつけられているから、当然納得していない。萌寧が会議室から退出すると、真衣はさっきの出来事などがまるでなかったかのように。静かにまた会議を始めた。萌寧は直接安浩のオフィスへ向かった。安浩は書類から顔を上げ、「何か用かな?」と聞いた。「私はただ、技術部門にいる人たちの中に、何人かプロ意識に欠けている人がいると思うんです。常陸社長、そういう人を採用するのは本当に適切なんでしょうか?」萌寧は安浩を見つめながら、誠意を込めて提案した。「こんな仕事の雰囲気や
Read more

第209話

萌寧は冷たく拒否した。「申し訳ないどけ、こんな素人がやっているようなことには関われないわ。これは私の能力を侮辱してるようなものよ」萌寧は与えられた業務を拒否した。最初は遅刻、次は会議室でのトラブル、そして今や仕事そのものを拒否する始末だ。萌寧はどうしても納得できないという気持ちが強すぎて、感情的になりすぎている。真衣は萌寧ことを三度も許した。何事も三度までが限度だ。「不満があるなら辞めてもらっても構わない」真衣は書類を萌寧から取り返し、鋭い視線を向けた。「誰もあなたを無理やり連れてきたわけじゃない。技術部門には有能な人材がたくさんいる。あなたがここにいてもいなくても大して変わらないわ」「あなたのその仕事への態度を鑑みると、解雇するには十分すぎる理由があるわ」萌寧は自分の耳を疑った。会社は常陸社長のものよ。寺原さんに人を解雇する権限などあるはずがない。「何の権限があって私を解雇することができるのよ」萌寧は立ち上がって真衣を見た。「あなたに私を解雇する資格はないはずよ」将来この会社に大きく貢献するのは誰なのか、常陸社長は分かっているはず。真衣は書類を隣にいた同僚に渡し、腕時計を見た。「そう思うなら、私があなたを解雇できるかどうか試してみようか」真衣はそう言い放った。その後、真衣は背を向けてその場を後にした。プロジェクトの進行はタイトで、仕事も忙しいため、真衣には萌寧をわざと困らせるような時間など本当にない。そんな暇はまったくないのだ。今は萌寧と議論している時間もなく、業務の進捗に支障が出るのを避けたいところだ。萌寧は真衣の背中を見て、冷たく唇を歪めた。コネで入社した人間は、本当に態度がでかい。寺原さんはこの件を大したことではないと想っている。安浩が取引先とのビデオ会議を終えたばかりの時。すると、真衣から電話がかかってきた。真衣は簡潔に経緯を説明した。真衣は淡々と言った。「外山さんは理想ばかり高くて、正直、私には扱いきれない人だわ」どんな仕事を任せても、萌寧は真剣に取り組まない。技術部門のディレクターにでもさせれば満足するだろう。安浩はパソコンを見つめると、人事異動に関する画面を開いた。-一方その頃。萌寧は退勤後、礼央の帰りを待つためにワールドフラックスに行
Read more

第210話

「なんだって?」高史の顔に一瞬驚きの表情が浮かんだ。しばらく黙り込んだあと、高史は考えるまでもなく、何が起きたのかすぐに分かった。「きっと真衣が裏で糸を引いているに違いない」萌寧は終始険しい表情をしていた。九空テクノロジーが本当に自分を解雇するとは思いもしなかった!自分が九空テクノロジーに入社してまだ一日しか経っていないのよ。自分はあくまで仕事上の不満を表明しただけなのに、九空テクノロジーは全く自分の能力を活かしきれていない。「萌寧、落ち込む必要はない。君の能力自体には何の問題もない。ただ特定の人に嫌がらせをされただけだ」「最終的に常陸社長は今日の決断を後悔するだろう」「真衣が君を解雇するなんて、本当に最悪だ。業界には君が活躍できる場所はたくさんある。九空テクノロジーだけが最良の選択肢ではないし、そこに執着する必要もない。常陸社長がこんなにも不公平で主観的なら、九空テクノロジーの器量もその程度ということだ」高史は眉をひそめて言った。「九空テクノロジーがこの程度までしか成長できないのは、器が小さいからだ」「うん……」萌寧は眉をひそめた。今となっては、この結果を受け入れるしかない。九空テクノロジーがコネだらけの職場だということが悪いんだわ。寺原さんは九空テクノロジーの最大の株主と繋がっている。自分は寺原さんに負けたわけではない。自分の誇りがそれを許さず、かといって九空テクノロジーに戻るために自分が頭を下げるのも、確かに無意味だわ。自分は今後、九空テクノロジーに対して、自分という有能な戦力を失うことがいかに痛手であるかを思い知らせてやる。萌寧は笑い、さして気にも留めない様子で手元のスマホをしまい、メッセージが表示されていた画面を閉じた。「九空テクノロジーは公平性と客観性を欠いている。そこにいても私の能力は埋もれるだけ」萌寧は淡々と言った。「私も九空テクノロジーが今後どうなっていこうが気にしていない。能力ではなくコネで人を評価する会社は、確かに長くは続かない。元々私も長くいるつもりもなかったし。私が離職を申し出たのであって、解雇されたわけではない」礼央は目を上げて聞いた。「本当に気にしていないのか?」「気にしていないわ」萌寧は答えた。「礼央、私のために九空テクノロジーに抗議する必要はない。あ
Read more
PREV
1
...
1920212223
...
54
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status