All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 261 - Chapter 270

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第261話

清楚に見えて、実は中身は冷酷なのだ。見た目は穏やかで無害そうだが、実は腹黒。優しさという名の皮を被って、タイミングを見計らってはズバッと刺してくる。その一撃で、相手はボロボロになる。夕食後、安浩はデータを整理するために製造現場へ向かった。真衣は工場の周辺を散歩していた。ここ周辺はほとんどが工場だ。一般的に、製造工場は市中心部から遠く離れた郊外にある。あたりは暗くなり、太陽は沈み、空はオレンジ色に染まっている。真衣は美しい景色を眺めながら、携帯を取り出して写真を2枚ほど撮った。真衣は、日常の中にある小さな幸せや美しさを、心から大切にしている。ただ、最近は工場に行ったり来たりで忙しくて、ここで空をじっくり眺める時間がなかなかなかった。夕陽が真衣の影を長く引き伸ばしている。華奢な背中が、どこか物寂しげに見える。真衣は振り返って歩き出した。すると、工場の正門で萌寧にばったり会った。萌寧は明らかに不機嫌な顔をしている。萌寧は事の経緯をすべて把握した。住岡社長が提供した原材料は、基準を満たさない欠陥品だった。すでに製造に使われており、回収は不可能なので、すべて破棄せざるを得なかった。萌寧が住岡社長と締結した高額な契約に関しては、萌寧はすでに一回目の発注分の前金まで支払ってしまっていた。合計すると、萌寧たちはおよそ数十億円ほどの損失をした。会社は設立されたばかりなのに。萌寧はお金を稼ぐ前に大金を失い、何も達成することなく自滅した。「わざとやったんでしょ?」萌寧の声は冷たかった。萌寧は真衣と決着をつけたいと思っているようだ。真衣は立ち止まり、目には笑みが浮かんでいる。ただ、その笑みにはひときわ嘲りが滲んでいる。真衣はぱちぱちと瞬きをしながら、とぼけたように言った。「わざとって、なにが?」「まだバカなふりをしているの?わざと住岡社長と私達をくっつけたのはあなたでしょ?」「これであなたに何のメリットがあるのよ?」真衣は少し可笑しく感じ、淡々と髪を整えた。「住岡社長?私たちは確かに心から住岡社長と協力したいと思っていたけど、結局あなたに横取りされたじゃん?」「この結果はあなたが望んだものではないの?」真衣は、いかにも「私、無関係です」という顔をしているが、その見せ方が実に巧
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第262話

真衣は唇の端に皮肉げな笑みを浮かべながら、視線をそっと引いた。萌寧たちとは特に親しいわけでもないし、どんなに話を大げさにしたって、協力の責任を自分に押しつけることなんてできない。真衣は振り返って、自分の車に向かって歩き出し、安浩が出てくるのを待っていた。萌寧は礼央に事の経緯を話した。萌寧はうつむき、両手で顔を覆いながら深く息を吐くと、頭を上げて髪をかき上げた。「大丈夫、大した問題じゃないから、私が解決できるわ」礼央は深い眼差しで萌寧を見つめ、数秒ほど黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。「無理に強がる必要はない」「必要なら俺を呼んでくれ」萌寧は目を伏せる。萌寧は心の中で、礼央がどれだけ自分を気遣ってくれているのかを理解している。しかし――「私で解決できるわ」数十億円ぐらいの損失は、自分だけでも解決できる。萌寧は礼央に頼って解決したくはない。礼央もそんな弱々しい女は好まないだろうと信じている。-真衣は車内で携帯を見ながら、データの確認に没頭している。工場の入口にいる萌寧と礼央が何を話しているかには特に気を配っていない。そのため、窓をノックされた時、真衣はビクッと驚いた。真衣は携帯を握りしめる。窓の外を見やると、静かで冷たい表情をした礼央が、黒い瞳で黙って真衣を見つめている。真衣は窓を開け、目を細めて礼央を見た。「もし外山さんのプロジェクトのことで私を責めに来たのなら、その必要はないわ」「外山さんの自業自得としか言いようがないわ」人の契約を奪うようなことをしたなら、それ相応の代償を払うべきだ。礼央は黙っており、深く黒い瞳で真衣を見つめている。まるで、底の見えない深い闇のように。この視線の意味を真衣には理解できなかった。簡単に理解できるものでもなかった。真衣は礼央が黙っているのを見て、眉をひそめた。「?」礼央は目尻をわずかに上げ、若干の笑みを浮かべ、低くゆっくりとした声で言った。「随分と気性が荒くなったな。また萌寧が何かしたのか?」真衣の目は冷たくなった。礼央は真衣の言葉を待たずに続けた。「取引先が新たに原材料を送ってくる。お前と萌寧で対応してくれ」礼央は手首を上げて腕時計を見た。「工場に行ってくる」真衣は何も言わず、ただ俯いて携帯に届いているメッセージを見
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第263話

何度も自分の仕事の邪魔をしてきやがって。自分はもう真衣に対して、これ以上言うことはない。結局、忠告しても聞きやしないんだから。これらの言葉は浴びせられても、真衣には痛くも痒くもなかった。真衣はハンドルを握りながら、淡々とした声で「うん、あなたが自覚しているならいいわ」と言った。「?」萌寧は真衣を睨みつけ、言葉が喉に詰まって何も言えなかった。何を言っても、自分が取り乱しているように見える気がする。結局、萌寧は鼻で冷たく嘲笑しながら言った。「あなたって、本当に事実をねじ曲げるのが上手いのね」真衣は前方にカーブがあるのを見て、軽くブレーキを踏んだ。しかし、真衣は速度が落ちていないことに気づくと、カーブでハンドルを急に切ると、車体は激しく揺れた。萌寧は驚いて、「何してるの?」と叫んだ。真衣は眉をひそめ、アクセルから足を離す。再びブレーキを試すが、やはり効かない。郊外の山道はほとんどが下り坂で、急勾配が続く。真衣は即座に低速ギアに切り替え、ブレーキが効かない時のあらゆる対策を講じているが、車の速度はまったく落ちない。プロのレーサーである萌寧は異変に気づく。「ブレーキが効かないの?」萌寧の心臓がドクンと飛び跳ねた。車に詳しいからこそ、ブレーキが故障した時の危険性を理解している。「どうして車を整備に出さなかったの?」萌寧はアシストグリップを強く握りながら、すぐに真衣に車の操作方法を指示した。真衣は低い声で「ちょっと黙って」と言い放った。萌寧は深く息を吸い込み、急速に車が制御を失っていくのを感じている。心臓は激しく鼓動し、まるで胸を突き破りそうだ。萌寧は礼央に電話をかけた。焦った口調で萌寧は状況を説明した。真衣は険しい表情で、「今あなたがすべきことは、警察に私たちの現在地を報告して、道路の交通整理を要請して被害を最小限に抑えることよ。男にいちいち泣きつかないで」と言った。ここは工場地帯で、この時間帯はほとんど車が通っていない。脇には断崖絶壁がそびえ、奥は山の斜面になっている。真衣は山の斜面に擦りつけて減速することを考えた。しかし、今のスピードで山の斜面に近づけば必ず車は跳ね返され、崖の下に転落してしまう。だが、ここから先はしばらくずっとこのような道が続いていく。ハンド
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第264話

礼央は真衣に選択の余地をほとんど与えなかった。礼央は既にスピードを上げて車を寄せてきており、真衣が道を譲らなければ、車二台とも大破し、みんな命を落とすことになる。真衣は眉をひそめ、車を山の斜面に寄せると、車は激しく揺れた。ハンドルが暴れだし、真衣は必死に握りしめる。助手席に座っている萌寧は息を殺している。真衣の車は、マイバッハと山の斜面の間に無理やし押し込められた。二台の車が擦れ合うたびに、車体は左右に大きく揺れる。車体同士がぶつかり合い、マイバッハは今にも山道の高欄に触れそうなほどギリギリのところを並走している。これには、車体をコントロールする技術と圧倒的な力、そして並外れた度胸が求められる。金属が軋むような鋭い摩擦音が止むことなく響き、萌寧は恐怖に耐えるようにぎゅっと目を閉じた。高史は急いで車を走らせて追いかけ、後方からその息をのむような光景を目にして、一気に胸が詰まる思いをした。高性能なマイバッハと、それを巧みに操る礼央の手腕により、危険な状況の中でも徐々に真衣の車を停車させることができた。車がブレーキで止まった瞬間、慣性のせいで車体が前に揺れた。マイバッハは高欄を突き破り、崖の下へと落ちていった。真衣は目を見開き、胸を震わせた。マイバッハが崖の下へ落ちていく直前、礼央は車から飛び出した――次の瞬間、マイバッハは「ドン、ドン」という鈍い音を立てた。落下音の一つ一つが、まるで人の心臓を直接踏みつけるように痛々しかった。「礼央!」高史は車を止めると、急いで駆け寄った。真衣はまだ動揺が収まらず、額や掌は冷や汗でびっしょりだった。真衣は荒い息をつきながら、窓越しに礼央を見つめた。安浩もすぐ後に現在に到着した。萌寧は車が停まると、すぐにシートベルトを外し、礼央の方へ走り寄った。「礼央、大丈夫?」萌寧は慌ててしゃがみ込み、礼央の様子を確認した。礼央は地面に手をついて立ち上がると、破られた高欄と崖の下に落ちた車を一瞥し、冷たい表情で視線を戻した。「礼央!」萌寧が叫んだ。「手から血が出てるわ!」礼央がようやく視線を自分の手に落とすと、右手から真っ赤な血が流れ出て、地面に滴り落ちていた。礼央はわずかに腕を動かすと、鋭い痛みが全身に広がるのを感じた。「病院に行こう」高史が慌
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第265話

ブレーキの故障を引き起こした原因を調査する必要がある。安浩の心臓はまだ激しく鼓動している。安浩は顔をこわばらせ、「びっくりしたじゃないか」と言った。先ほどの事故の一部始終を見て、安浩の頭は真っ白になりかけた。だが、認めざるを得ない。礼央は本当に萌寧のために命を懸ける覚悟だった。安浩は深呼吸して気持ちを落ち着かせると、真衣に怪我はないかくまなくチェックした。肉眼で見える傷は特に何もなかった。「病院で検査した方が安心だ」念の為に。「本当に大丈夫だから」真衣は言った。「さっきアドレナリンが出たこと以外は、体の不調は特にない」真衣は地面に残っている血痕に気づいた。どうやら怪我は軽くないようだ。礼央は本当に萌寧を救おうとして命を落とすところだった。真衣は深呼吸し、そっと視線を逸らした。-車はレッカーで運ばれ、故障箇所の調査を行うことになった。事故の対応について、警察は礼央に連絡する必要があった。この日、真衣は家に帰るまでずっとソワソワしていた。「考えすぎだよ」安浩は優しく言った。「たぶん車の不具合だったんだ」「うん」真衣はそう考えるしかなかった。沙夜は事故のことを知ると、慌てて真衣に電話して状況を尋ねた。大したことがないと知って、沙夜はようやく安心した。ただ。真衣は思わず礼央の方はどうなっているのか心配になった。何しろ、真衣は無傷だからだ。あれこれ考えた末、結局真衣は電話で礼央に尋ねることはせず、身支度をして寝る準備をした。翌日。警察から連絡があり、事故当時の状況の聞き取りをするため、真衣は病院に行くよう言われた。真衣と礼央の双方の立ち会いが必要で、礼央は今すぐには警察に行けないため、真衣が病院に行くしかなかった。病院の一階にて。真衣は果物屋の前を通りかかり、色々考えた末、適当な果物の盛り合わせを買った。真衣が病室のドアをノックすると、萌寧がドアを開けた。萌寧はドアの前に立つ真衣を見るやいなや、目が冷たくなった。「この厄介者が」「早く入りなさい」病室の中から、礼央のゆったりとした声が聞こえてきた。萌寧は眉をひそめて、わずかに体を横にずらし、真衣を中へ通した。「礼央、お湯を汲んでくるわ、後で体も拭いてあげる」礼央は淡々と「う
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第266話

礼央は目を細め、真衣の顔をじっと見つめている。礼央は黙っている。二人きりの病室には、一瞬にして不穏な空気が流れる。まるで真衣が質問するタイミングを間違えたかのように。しかし――真衣はどうしても聞かなければならなかった。真衣にとって離婚は最優先事項だからだ。この先、礼央とはもう一切関わりたくない。礼央が黙り込んだままなので、真衣も固まってしまった。静まり返った空気は息苦しさを感じさせ、真衣が少しでも動けば、大波が立ちそうなほどだった。真衣はその場で立ち尽くし、俯きながら礼央を見て再び口を開いた。「無理なら、具体的な日程を調整しよう」「前回競馬場で怪我した時も、あなたは入院したけど、離婚届にサインするのには支障はなかったでしょ?」今回も市役所で手続きするから、問題はないはず。真衣はわざわざ明日を空けてある。最近は真衣は特に忙しく、スケジュールが詰まっている。だから、真衣は自分の予定に狂いが生じるのはごめんだった。礼央はふと理由もなく笑みをこぼし、目の前のパソコンをすっと閉じた。「この恩知らずが」礼央は、真衣にちょうど聞こえる大きさの声で言った。恩知らず?自分のこと?とんでもない濡れ衣を着せられたようね。こんなの初めてだわ。真衣は腕組みをして、礼央を見た。「私は恩知らず?それとも、恩を仇で返したっていうの?」どうして自分は恩知らずなの?今回の事故にしろ、前回の競馬場での怪我にしろ、礼央が救ったのは萌寧であって、自分に恩があるわけではない。「礼央、お湯を持ってきたから、体を拭いてあげるね」萌寧がちょうどお湯を持って戻ってきた。萌寧はまだ病室にいる真衣を一瞥した。「寺原さん、少し席を外してもらえる?」萌寧が口を開いた。「あなたがここにいるのはちょっと不都合だから」とんでもないことを萌寧は言ってしまったと、真衣は思った。萌寧は本当に自分を男だと思い込んでいるのね。「忘れないでね、待ってるから」真衣はそう言い終えると、そのまま背を向けて病室から出て行った。真衣も病室に残って萌寧と礼央のラブラブぶりを見たくはなかった。真衣が出ていくと。真衣の去り際は迷いがなく、身にまとう気配すべてが冷えきっていた。萌寧は真衣の後姿を見て、冷ややかに嘲笑った
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第267話

礼央とは朝の9時に約束している。真衣が腰を下ろしたその時、一台のポルシェのカイエンが市役所の前に停まるのを目にした。ドアが開き、男が車から降りてきた。同じ時間に数組の夫婦が姿を見せた。彼らの表情には様々な思いが入り混じっている。まるでお互いに対する不満を表すかのように。対照的に、真衣と礼央は淡泊で落ち着いた様子だった。礼央は淡々と真衣を見て聞いた。「ずいぶん前に着いたのか?」「ついさっきよ」真衣は視線を下ろし、包帯に巻かれている礼央の右手を見た。「左手で署名しても問題はなさそう?」礼央の視線がかすかに真衣の顔に止まった。「逆にどう思う?」真衣は思った。今ここに来ているということは、問題ないだろう。「じゃあ行こう」二人はまるで他人同士のように接していた。二人は、必要な書類を持って離婚手続きを行う窓口へ向かった。職員は書類を受け取り、審査手続きはすべて順調に進んだ。すぐに窓口から離婚に関する契約関係の書類が渡された。職員は言った。「双方が離婚に同意し、申請を取り下げない場合、ここにサインしてください」職員は思わず目の前にいる二人をチラッと見た。長年自分は市役所で働いてきたが、この二人ほどお似合いの夫婦は見たことがないわ。男はイケメンで、女は美人。二人とも顔立ちが整っていて美しい。まさに絵に描いたような美男美女だわ。真衣は書類を受け取ると、すぐにペンでサインした。礼央は真衣がすばやく名前を書くのを見つめ、瞳に深い影を宿らせた。真衣はサインを終え、礼央の方を見た。礼央はまだペンを動かしていなかった。真衣は眉をひそめた。これは一体どういう意味?まさか後悔していないわよね。「どうしてサインしないの?」真衣が尋ねた。礼央は静かに口を開いた。「手伝ってくれないか」「この紙を押さえててほしい。左手でサインすると紙が動いてしまうんだ」真衣は断らなかった。今は離婚手続きをすることが最優先事項だからだ。真衣は手を伸ばし、紙を押さえた。二人の間隔はわずかにしか離れていない。礼央の熱い体温が、空気を隔ててゆっくりと真衣に届いてくるようだった。礼央の体温をはっきりと感じることができた。真衣は少し居心地が悪かった。礼央は穏やかな表情のまま、左手にペンを
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第268話

今、真衣はようやく礼央との関係を完全に断ち切ることができた。離婚手続きは10分足らずで終わった。だが、この結婚は想像以上に長く、そして真衣にとっては、あまりにも大きな代償を伴うものだった。幸いなことに、真衣の惨めな結婚生活はついにこの瞬間に幕を閉じた。礼央は珍しく真衣の笑顔を見ると、淡々と視線をそらした。市役所を出ると。ポルシェのカイエンはまだ入口に停まっていた。礼央は足を止め、真衣の方を見て言った。「送っていこうか?」「大丈夫」真衣の声には、何の感情もなかった。真衣は、元夫の車になんて乗る気はなかった。礼央も特に真衣に強要しなかった。礼央はただ軽く頷くと、ベントレーが停まっている方へ歩き出した。湊が急いで礼央のために車のドアを開けた。ドアが開いた瞬間、真衣は車内にある女性が座っているのを見たような気がした。考えなくても、誰かはわかる。離婚手続きの時も萌寧を連れてくるなんて。真衣は心の中で皮肉に思った。もし結婚に縁起のいい日取りなんて必要なければ、あの二人、自分たちが離婚する日にでも喜んで婚姻届を出したんじゃないかしら?真衣は適当にタクシーを拾い、市役所を離れた。車の中で、真衣は思わず離婚届受理証明書を取り出してじっくりと見た。軽い紙切れなのに、手に持つと妙に重たく感じる。真衣はふうっと息を吐き、ほっとしたように微笑んだ。窓の外から吹き込む風が顔に当たり、心地よかった。真衣は、北城の空気がこれほどまでに美味しいと感じたのはこれが初めてだ。夏の風と共に、真衣は人生に新たな一ページを刻もうとしている。真衣は軽やかな気持ちで、九空テクノロジーに出社した。安浩と沙夜はすでに会社で真衣を待っていた。真衣の晴れやかな笑顔を見て。「おめでとう!ようやく苦しみから解放されて、新しい人生が始まるね。これからはきっと順風満帆よ!」事務所の机の上には、お祝いのケーキが置かれている。真衣の離婚祝いだ。沙夜は真衣に近寄り、彼女を抱きしめ、背中を軽く叩いた。「過去のことはもう過去のこと、これからは私たちがついているからね」安浩は真衣を見て微笑んだ。「おめでとう」真衣が自由の身に戻って、ようやく苦しみから解放されたことを祝して。形骸化した結婚生活は、優秀な真衣から全
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第269話

今はとりあえず車の検査結果が出るのを待つだけだ。今一番重要なことは、プロジェクトをきちんと進めることだ。真衣はすぐにまた仕事に取り掛かった。退勤する直前に、真衣は礼央からの電話を受けた。真衣は一瞬ためらった。もう離婚したから、この電話番号はブロックすべきだろうと思った。しかし、離婚時に交わした契約条項があるため、まだ礼央のことはブロックできない。今後、真衣は仕事上の関係やお互いの家族への守秘義務などの契約に関わること以外で、礼央とは一切私的な関わりを持ちたくないと思っている。真衣は思った。礼央から電話があるときは、必ず何かしらの用事があると。結局、真衣は電話に出た。「何か用?」真衣の態度は冷たかった。「お前の車は故障したから、通勤の時とか千咲の送り迎えの時に車がないと不便だろ。今時間ある?新車を用意してあるからとりに来い」礼央はしっかりと約束を果たした。ただ、真衣はこんなにも早く礼央が弁償するとは思っていなかった。まるで礼央が真衣とのすべての繋がりを急いで断ち切ろうとしているかのようだ。ちょうどいいことに、真衣も礼央とこれ以上ズルズルと私的な関係を続けるつもりはなかった。用事はさっさと片付けた方がいいし。「今すぐ?」「うん。もし今時間があるなら、こっちは全然構わない」-真衣はタクシーに乗り、BMWのディーラーに到着した。礼央はすでにディーラーで待っていた。礼央は真衣を見て言った。「気に入ったのを選べ」ショールームには多くのモデルが展示されている。真衣は車には特にこだわりがなく、一通り見終わると適当に一台選んだ。礼央は真衣が選んだ車を見て言った。「本当にこれでいいのか?」X7シリーズで、1400万円ちょっとだ。この車は、真衣が以前持っていた車より安い。真衣は頷いた。「これでいいの」真衣は価格をあまり気にしていなかった。前の車も、礼央と真衣が結婚したばかりの時に、礼央が真衣にプレゼントした。真衣はその車を宝物のように大切にしていた。販売員が笑顔で近づき、契約書にサインを求めてきた。「高瀬社長は彼女さんに本当に優しいですね」販売員は甘い言葉で褒めた。「彼女さんもとてもお綺麗です」「……」離婚したばかりなのに、早速カップルと間違えられた
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第270話

翌日。真衣は車で出勤した。安浩と沙夜もその様子を見ていた。「礼央さんからの弁償?」安浩は新車を見ながら尋ねた。真衣はうなずいた。沙夜は目を細め、車を舐め回すように眺めたあと、口を尖らせた。「なんでこんなのを選んだのよ?数千万円するやつを選ぶべきだったのに」得できるときに得しないなんて、ただのバカだ。真衣は苦笑いした。「そんな必要はないわ。礼央に借りも作りたくないし」人の好意にただ乗りするのは、真衣の性に合わなかった。ましてや相手が礼央ならなおさらだ。今の真衣と礼央は、お互いに何の借りもない。安浩は腕を組み、車を見ながらしばらく考え込んだ。安浩は顔を上げ、眉をひそめて真衣を見た。「どうも腑に落ちないなあ。礼央さんの性格からすれば、逆に真衣に車の弁償を求めるはずじゃないか?」確かにその通りだ。だが、今回は事情が違った。真衣は車のドアを閉め、淡々と言った。「礼央が車を弁償してくれたのは、礼央と外山さんたちの友情を私にアピールするためよ」沙夜は鼻で笑った。「真衣が礼央たちの遊びの駒になってるってこと?」「礼央は真衣と結婚してこれだけ経つのに、アクセサリーもバッグも買ってくれなかったじゃん」「なのに今の萌寧は、いろんな高級ブランドの腕時計やバッグを持っているし、毎日持ち歩くのは限定モデルばかり。ほとんど同じものを使っているところを見たことがないわ」「外山家の家業がそんなに稼げているとはとても信じられない」沙夜は不思議に思った。毎日限定モデルばっかりね。「エレトンテックは住岡社長の件で大損したじゃない、あれは解決したの?それとも礼央が解決したの?」真衣は肩をすくめた答えた。「聞いてないわ」真衣はそんなことを気にも留めていない。一同は二階へと向かった。安浩は歩きながら言った。「多分まだ解決してないんだろう」ここ数日は色々あったし、萌寧は病院で礼央のお世話で忙しいんだから。沙夜は鼻で笑いながら言った。「結局は礼央に頼るつもりでしょ、腰抜けのクソ女が」-真衣は立て続けに、車のブレーキの故障の対応と、新しい原材料に関する商談に追われていた。商談が終わると、富子から電話がかかってきた。「真衣、大丈夫?ブレーキが効かなくなったって聞いたけど、怪我はない?」富子の声は焦りに満ち
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