真衣は新婚生活用の家になるべく行きたくなかった。富子は声を張り上げて言った。「何を言っているのよ?あなたは高瀬夫人でしょ?迷惑なんかにならないわ」「仕事で疲れているのに病院まで行かせるのは可哀想だから、この件はもうこれで決まり。わかった?」富子の一言で決まってしまった。拒否する余地はなかった。富子が決めたことに逆らえる者はいない。特に真衣の体調に関することは。真衣は子供の頃、体が弱かった時期があり、千寿江と多恵子は日々慌ただしく真衣の看病をしていた。富子は、真衣が子どもの頃に病気がちだったこともあって、今でも体が弱いと思い込んでおり、少しでも異変があると徹底的に調べないと気が済まないのだ。真衣の体に何かあってはと心配していた。真衣は軽くため息をつき、腕時計を見た。工場にそろそろ行かなければいけないし、富子を心配させたくもなかった。結局、真衣は応じるしかなかった――「わかりました、富子おばあさん」富子はようやく安心した。「こんな大事なことを誰も教えてくれないなんて。高史から聞かなければ、今でも知らなかったわ」真衣は唇を軽く噛み、富子をなだめた。「富子おばあさんに余計な心配をかけたくなかったのだと思います」富子は、その後もぶつぶつ言いながら、しばらくして電話を切った。電話を切ると、真衣はすぐに車で工場へ向かった。仕事が終わったのは20時だった。真衣は新婚生活用の家へ車を走らせようとした。真衣は熟考の末、やはり礼央に一本電話をかけた。電話がつながるまで時間がかかった。「何か用か?」礼央の声は冷たかった。「新婚生活用の家にいる?」礼央は答えた。「病院にいる」礼央の言葉は簡潔で短く、余計なやりとりをする気はなさそうだ。真衣は富子の件を説明し、礼央に尋ねた。「新婚生活用の家に行ってもいい?」何せ、真衣と礼央はもう離婚したのだから。新婚生活用の家を礼央は買い戻したから、礼央の私有地に無断で真衣が行くのも良くない。真衣には無断で他人の家に入るような趣味もない。「富子おばあさんが呼んだなら、いつでも行っていい。わざわざ俺に許可を得る必要はない」真衣は一瞬固まった。電話の向こうで礼央は続けた。「もし俺に連絡が取れなかったら、ずっと行かないつもりか?」礼央は淡々
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