All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 271 - Chapter 280

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第271話

真衣は新婚生活用の家になるべく行きたくなかった。富子は声を張り上げて言った。「何を言っているのよ?あなたは高瀬夫人でしょ?迷惑なんかにならないわ」「仕事で疲れているのに病院まで行かせるのは可哀想だから、この件はもうこれで決まり。わかった?」富子の一言で決まってしまった。拒否する余地はなかった。富子が決めたことに逆らえる者はいない。特に真衣の体調に関することは。真衣は子供の頃、体が弱かった時期があり、千寿江と多恵子は日々慌ただしく真衣の看病をしていた。富子は、真衣が子どもの頃に病気がちだったこともあって、今でも体が弱いと思い込んでおり、少しでも異変があると徹底的に調べないと気が済まないのだ。真衣の体に何かあってはと心配していた。真衣は軽くため息をつき、腕時計を見た。工場にそろそろ行かなければいけないし、富子を心配させたくもなかった。結局、真衣は応じるしかなかった――「わかりました、富子おばあさん」富子はようやく安心した。「こんな大事なことを誰も教えてくれないなんて。高史から聞かなければ、今でも知らなかったわ」真衣は唇を軽く噛み、富子をなだめた。「富子おばあさんに余計な心配をかけたくなかったのだと思います」富子は、その後もぶつぶつ言いながら、しばらくして電話を切った。電話を切ると、真衣はすぐに車で工場へ向かった。仕事が終わったのは20時だった。真衣は新婚生活用の家へ車を走らせようとした。真衣は熟考の末、やはり礼央に一本電話をかけた。電話がつながるまで時間がかかった。「何か用か?」礼央の声は冷たかった。「新婚生活用の家にいる?」礼央は答えた。「病院にいる」礼央の言葉は簡潔で短く、余計なやりとりをする気はなさそうだ。真衣は富子の件を説明し、礼央に尋ねた。「新婚生活用の家に行ってもいい?」何せ、真衣と礼央はもう離婚したのだから。新婚生活用の家を礼央は買い戻したから、礼央の私有地に無断で真衣が行くのも良くない。真衣には無断で他人の家に入るような趣味もない。「富子おばあさんが呼んだなら、いつでも行っていい。わざわざ俺に許可を得る必要はない」真衣は一瞬固まった。電話の向こうで礼央は続けた。「もし俺に連絡が取れなかったら、ずっと行かないつもりか?」礼央は淡々
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第272話

真衣が目を上げると、ソファに座っている礼央が見えた。翔太は礼央の膝の上に座り、礼央の胸元にもたれかかりながら、タブレットでゲームをしている。礼央は翔太の手元のゲーム画面を見て、優しく声をかけた。「お客さんが来たよ」その言葉が終わらないうちに、翔太はゲーム内で一発ヘッドショットを食らった。「あっ――」翔太はタブレットを置き、不満そうな目を向けた。「パパ!どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」礼央は軽く笑い、自分の手で翔太の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。「下手くそだな、もっと練習しろ」翔太は甘えた声で言った。「パパ、代わりに何回かやってよ、あと少しでランクアップできるのに」礼央の瞳は愛情と甘やかしでいっぱいだった。「あとで手伝ってあげるから、まずはご飯を食べろ」この一幕は、この家にとっては温もりを感じさせるものだった。しかし、真衣はもうこの家の一員ではない。礼央の優しさと愛情は、翔太だけに向けられている。礼央と翔太はまるで真衣を空気のように扱っている。真衣もここで食事をするつもりはない。ただ気まずくなるだけだ。真衣は大橋の言葉に返事をせず、そのまま階段を降りていった。礼央と翔太のそばをまっすぐ通り過ぎ、二人を見もしなかった。礼央は目を上げ、真衣が外へ出ていくのを見て、翔太に言っ。「ママにさよならを言いなさい」翔太は唇を尖らせた。このおばさんをママだなんて呼びたくない。しかし、礼央の圧力に屈し、翔太は小さな唇を震わせながら、呼びかけようとした。すると、真衣が先に「やめて、吐き気がするから」と言い放った。真衣はそのまま別荘から出て行った。翔太は唇を噛んだ。「意味わかんないんだけど?」礼央は翔太を抱き上げ、翔太を自分の方に振り向かせ、じっと見つめた。「ママを怒らせたのか?」「僕が?」翔太は口を尖らせた。「そんなことしてないよ!」自分はただおばさんが嫌いなだけだ。ましてや、最近おばさんと全然会えていないのに、どうやって怒らせるっていうの?一方。真衣が別荘を出た途端、向かいからやってきた萌寧とばったり出くわした。萌寧の手には大小の荷物と、どうやら食材らしきものが握られていた。明らかに萌寧は礼央と一緒に帰ってきたそうだが、車から荷物を取るために萌寧だけ外に出ていたのだ。
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第273話

真衣は、第五一一研究所のプロジェクトと論文に集中して取り組む必要があった。そしてまもなく――国際宇宙設計大会の第二ラウンドが始まろうとしている。真衣はそれに向けて準備を始めなければならない。前回の地区予選を終え、今回は決勝戦になる。ここで勝ち進めば、アジア大会の準決勝または決勝戦の切符を手に入れることができる。最近、真衣はエンジニア集団のノースアイと頻繁に連絡を取り合い、決勝戦に向けてずっと準備を進めている。翌日。真衣は第五一一研究所で、研究者たちと一緒にプロジェクトを進めていた。昼頃になると、真衣は富子から電話を受けた。「真衣、お医者さんが言うには、あなたはちょっと低血糖と貧血があるかもしれないって。だから、私は礼央に伝えておいたの。毎日、実家のお手伝いさんに栄養たっぷりのスープを新婚生活用の家まで届けさせるから、夜帰ったらちゃんと飲むのよ」真衣は電話を取ったが、ちょっとうんざりした様子だった。ただ――食事を届けるようなことは、以前にも富子はしたことがある。真衣のことを心配して、真衣が実家に戻る時間がない時には、よく実家のお手伝いさんに届けさせていた。今になっては、真衣と礼央はもう離婚しているから、真衣にとってはありがた迷惑だ。真衣は断らなかった。「わかりました」断れば、また富子おばあさんの長々とした説教が始まる。その時は、礼央に直接スープを飲ませればいいね。「うん」富子は優しい声で、「仕事で無理しすぎないでね。私は今礼央のお見舞いで病院にいるけど、礼央と少し話さない?」富子は二人を仲直りさせることに喜びを見出している。以前は真衣も協力的で、富子が仲を取り持つのを喜んでいた。「……」真衣は黙り込んでしまった。「富子おばあさん、今仕事で忙しくて手が離せないのです――」「そうなのね……」富子もそれ以上は詮索せず、体に気をつけるようにと言って電話を切った。一方、病院では。電話を切った後、富子は病床に座っている礼央の方を見た。礼央は落ち着いた表情でパソコンの画面を見つめており、仕事をしている。富子が口を開いた。「聞くところによると、あなたは昨夜実家に戻ったそうね。入院中なのにまともに治療もせずに、何しに行ったの?」「着替えを持ってくるためと、ついでに子供の様子を見るため
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第274話

「国内大会の決勝がもうすぐ始まるって聞いたけど?」と加賀美先生がふと尋ねた。「準備の方はどう?もしよければ、提案書を一緒に見てあげようか」真衣は、加賀美先生がこの大会に注目しているとは思わなかった。「ほぼ完成しています。では、日程を調整して、ノースアイを連れてきて加賀美先生と一緒に作戦会議ができればと思います。よろしくお願いします」この大会で世界大会まで勝ち進み、さらに総合優勝すれば、ヨーロッパに本部を持つ航空関連機関でそのまま働くことができる。たとえ働けなくても、真衣の名は世界に知られることとなる。「わかった」加賀美先生は真衣を高く評価している。優秀な若者はこの国の希望だ。様々な国際大会で海外チームの選手と切磋琢磨することで、自国と外国のそれぞれの長所と短所も理解できる。テック業界では、閉鎖的になってはいけない。「何か困ったことがあれば遠慮なく言いなさい」加賀美先生は真衣を見つめ、重みのある言葉をかけた。「科学の道は一朝一夕には成らず、重い責任を伴う」「特に――この業界は実際あまり稼げない」トップクラスのチーフデザイナーでも、年収は数千万円程度だ。国は研究費を予算化するが、常に資金不足に悩まされている。この業界は、労力も資金もどちらも多くかかる。特に未来が見えず、希望も見えない時は、心身ともにすり減る。どのプロジェクトも、年単位で取り組むものになる。血気盛んな若者にとってみると、確かに耐えがたい部分がある。加賀美先生は目を少し鋭くして言葉を続けた。「もし本格的に研究に打ち込めば、九空テクノロジーも成長して、特許だけでもかなりの収入になるだろう」真衣は少しだけ呆気にとられた。先生の目を見た瞬間、真衣は何かを悟った。加賀美先生は以前より白髪が増え、かなり老けた。それでもまだ第一線に立ち続けている。先生が突然何の理由もなく給与の話を出すはずがない。真衣が途中で仕事を辞めて結婚を選び、それも高瀬家のような名家に嫁いだからだ。真衣は人生最大の過ちを犯した。当時、高瀬家には金目当てで嫁いだと言われた。この業界では稼げないから、楽な道を選んだのだと。おそらく、これらのうわさはなぜか加賀美先生の耳にも入ってしまった。真衣は自分の輝かしいキャリアを捨て、結婚を選んだ。世間からしたら、
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第275話

萌寧は、礼央に自分には問題を解決する力が全くないと思われたくなかった。それに、萌寧は男に頼るタイプではなく、これまでずっと自分の力でやってきたのだ。「礼央が『困ったら言ってくれ』って」萌寧は続けた。「母さん、心配しないで。この20億円はすぐに返すから」-真衣は第五一一研究所でプロジェクトに関する研究を終えた後、時間を見つけて九空テクノロジーに戻り、残っていた業務を処理した。九空テクノロジーのプロジェクトは以前ほど忙しくなくなってきたが、真衣は自分がやるべき仕事はきちんとやり遂げるべきだと思っている。真衣はちょうどデータ関連の整理を終えたところだった。すると、安浩が真衣に歩み寄ってきた。「萌寧は20億円の賠償金を全額支払ったが、住岡社長も事情聴取で呼び出されて、たぶん刑務所に入ることになるだろう」真衣は眉をひそめて言った。「住岡社長のような悪質な会社は、とうに罰を受けるべきだったよ。民間旅客機の原材料でまで手を抜くとは、まさに自滅行為だわ」「真衣がデューデリジェンスをやってくれたおかげだ。そうでなければ、賠償するのは我々だったかもしれない」真衣は手にしていた書類を置き、自分の荷物を整理しながら淡々と言った。「それはあり得ない。我々が一つ契約しようとすれば、萌寧はその都度横取りをするんだよ。我々が賠償するはずがないじゃない」沙夜は給湯室から出てくると、二人の会話を耳にした。沙夜は冷ややかに笑った。「礼央も大したものだよね。20億円もの大金を、萌寧のためにあっさりと出したなんて」真衣は特に驚かなかった。数百億円を会社に平気で投資する男だ。数億円なんて、礼央にとってみたら小銭に過ぎない。安浩はこの時首を振った。「いや、外山さんが自分で資金を調達したんだ。礼央には頼りたくなく、自分で解決したいとか」沙夜はその話を聞いて気分が悪くなり、飲んだばかりのコーヒーを吐き出しそうになった。「外山さん、あざとい演技はお手の物よね」沙夜は白目を向きながら言った。「強くてしっかりしてるように見えて実はか弱いキャラ設定で、あちこち奔走して賠償も全部済ませたけど、きっと礼央ってバカ男は心配してたんじゃない?」女ってのはこういうものなのよ。男の前でわざと強がり、男の注意を引き、男に心配させる。そんな小細工、とうの昔に見
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第276話

彼ら三人が見たのは、レストランの一番奥にあるテーブルだ。萌寧と礼央、そして九空テクノロジーの技術部門の人が2、3人いた。九空テクノロジーの技術部門の人間が、なぜあの二人と会っているんだろう?誰の目にも明らかだ。礼央は萌寧のためにヘッドハンティングしているのだ。エレトンテックは設立されたばかりのため、人材を必要としている。萌寧が20億円もの巨額の賠償をした直後に、礼央は九空テクノロジーから人を引き抜こうとしている。「外山さんに罠を仕掛けて20億円を賠償させたことへの仕返しかな?」沙夜は冷たい顔で言った。真衣は眉をひそめた。こんな状況はまったく予想していなかった。安浩は目を凝らした。実に面白い。沙夜は歯軋りしながら言った。「くそ、手を骨折してるのにまだ人を引き抜こうとしているのね。頭まで壊れてしまえばいいのに」本当に嫌がらせばかりしやがって!沙夜は、直接そのテーブルに向かって歩いていった。萌寧は沙夜が怒りながら近づいてくるのを見て、眉をつり上げた。礼央も目を上げたが、落ち着いた表情をしていた。ただ、九空テクノロジーのエンジニアたちは沙夜を見ると、固まってしまった。沙夜は冷たい目でエンジニアたちを見た。「辞めたい奴は今すぐ出て行きなさい。辞表は今すぐ受理してやるから」沙夜は冷たい目で萌寧たちを見た。「モラルのかけらも無いじゃん?」エンジニアたちは気まずそうにしていた。ここで真衣たちに会うとは思っていなかったからだ。元々円満に終わるつもりだったのに、会ってしまったからには、もう揉めるのは避けられない。沙夜の後ろから、真衣と安浩が歩いてきた。彼らの表情は無表情で、何を考えているのか読み取れなかった。九空テクノロジーの幹部が、全員ここに揃った。萌寧は腕を組み、淡々と笑った。「私たちはただ仲良く食事をしているだけです。どうしてモラルがないなんて言えるのですか?」はっ……!本当に厚かましい女ね。沙夜は萌寧と一言話すだけでも吐き気がした。沙夜は、直接九空テクノロジーの技術部門のエンジニアたちを見つめて言った。「転職したいなら、今言いなさい」数人が顔を見合わせた。九空テクノロジーの現在の実力は、並大抵ではない。しかし――九空テクノロジーが政府の案件を獲得できたのは、ワ
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第277話

沙夜は胸が張り裂けるほど腹が立っていた。礼央は確かに手段が冷酷で容赦ない。礼央の仕返しはいつも的確で手加減なく、相手の痛いところを正確に突いてくる。その時、萌寧がハイヒールを鳴らしながら歩いてきた。萌寧は安浩をじっと見つめながら言った。「人が辞めてしまうのは当然の結果ですよ。問題のある厄介者たちを招いたのも自分たちのせいだと、まだ気づいていないんですか?」「厄介者」という言葉を言った後、萌寧は自然と真衣の顔に視線を注いだ。沙夜は腕を組んで、むしろ笑いだしそうになった。よくもまあ自分たちを追いかけてきて嫌味を言えるものね。沙夜はさっと一歩前に出て真衣をかばい、冷たい目で萌寧を見た。「男頼みで這い上がった女のくせに、何偉そうにしてんの?」「自分のこと何様だと思ってるの?中身も実力もないくせに、男の力がなければ、誰があんたの相手をするのよ?ワールドフラックスという後ろ盾がなければ、九空テクノロジーのエンジニアたちがあんたについてくると思う?毎日自分を大げさに持ち上げて、まるですごい人間みたいに思ってるけど、業界全体で見て、あんたに何の実績があって、どんな肩書きがあるっていうのよ?」沙夜の冷たくて鋭い言葉は、人の心を深く突き刺さすものがある。萌寧は、確かに海外でいくつか実績を上げていた。国内の飛行機開発にも関わり、国内では若手の有望株として認められている。しかし、安浩やワールドフラックスと比べれば、明らかにその実力は見劣りする。萌寧の表情がこわばる。真衣の身分は沙夜には及ばない。何せ沙夜は本物の名家育ちのお嬢様だ。萌寧は深く息を吸い、笑顔を保ちながら言った。「学歴もないくせに偉そうに振る舞う人がいるけど、まずは自分たちの内部の問題をちゃんと管理してから、他人のことに口を出しなさいよ」そう言うと、萌寧はきっぱりと背を向けてその場から離れた。沙夜のようなお嬢様に何が分かる?単に九空テクノロジーに出資して株を持ってるだけじゃない。この業界の中で一番図々しいのは、やっぱり真衣よ。名誉だけは全部かっさらっておいて、自分では何もしないんだから。いつか真衣がその座から転げ落ちる悲惨な姿を見てやる。実力のない人間は、結局ひどい目に遭うだけ。「このクソ女が――!」沙夜は怒りのあまり罵声を上げ、袖をまくって萌寧に向
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第278話

男はリラックスした様子で、眼鏡のレンズ越しに真衣を見つめている。まるでここが自分の家であるかのように。その視線は真衣をとても不快にさせた。千咲はテーブルの横で宿題をしていて、ドアが開く音を聞いて立ち上がった。「ママ」少し前に。ママは自分に勝手にドアを開けちゃいけないと注意した。でも今回は、パパがママの体調が悪いって言って、栄養たっぷりのスープを持ってきた。自分はスープだけ受け取ってパパを帰らせるつもりだったけど、パパはそのまま座り込んでしまった。追い返すのも気が引けた。真衣は靴を履き替え、中に入ると千咲を見た。「宿題は終わった?終わったら部屋に戻って寝なさい」千咲は唇を噛み、軽くうなずくと宿題を片付け、部屋に戻った。真衣と礼央には、自分に聞かせたくない話があるんだと、千咲は理解していた。千咲が部屋に戻ると。真衣はソファに座る男を冷たい目で見た。礼央が口を開いた。「すまない、事前に連絡すべきだったが、お前が電話に出てもらえなかったから」真衣は思わず携帯を確認した。確かに着信履歴がいくつか残っている。真衣は自分でも今どんな気持ちなのか分かっていない。ただ、胸の奥にいろんな感情が渦巻いていて、どこにもぶつけられずに溢れそうになっている。真衣は深呼吸してから言った。「私たちはもう離婚したのよ。私が電話に出ようが出まいが、あなたはそもそも来るべきじゃない」「スープを飲むのを見届けたら帰るよ」礼央は淡々と真衣を見た。「そうしないと、富子おばあちゃんに説明がつかない」真衣は眉をひそめた。「今後はあなたが自分で飲むなり捨てるなりしていいよ」礼央どうして平然とここに座って話せるのか、真衣には全く理解できなかった。昨日九空テクノロジーの社員を引き抜いたばかりで、その現場も押さえられたのに、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。礼央は冷静な表情で、「富子おばあちゃんがお前の体を心配してる。定期的に体の検査もさせるだろう」と言った。「それとも今後は、自分で新婚生活用の家まで取りに来るか」真衣はこうしたことに一番頭を悩ませている。真衣は眉をひそめて礼央のことを見た。「今さらうわべだけの関係を続けられると思ってるの?」真衣は無理だと思っている。しかし、離婚時の契約条項が真衣を縛っ
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第279話

「ずっと千咲に家で留守してもらうつもりなのか?」礼央は真衣を見下すように尋ねた。真衣は冷ややかに笑い、嘲るような目で礼央を見た。「これはあなたが気にするべきことじゃないから」「さっさと帰って」真衣は「どうぞ」というように掌を上に向けて差し出した。「フン」礼央は鼻から短く音を漏らし、冷たい表情をした真衣の顔をじっと見つめて言った。「本当に気性が荒くなったな」「道理で萌寧はいつもお前にやり込められるわけだ」その一瞥には、墨のように濃く重たい感情が込められていた。真衣がその眼差しの意味を理解する前に、礼央はすでに背を向けて去っていた。ドアがカチャリと閉まる音がした。真衣は鼻で笑った。礼央はさっき自分を評価したよね?礼央にそんな資格なんてあるの?その時、真衣の携帯が鳴った。礼央からメッセージが届いた。【富子おばあちゃんに写真を送ってあげて。心配しているから】真衣は冷たい表情で携帯をの画面を閉じて、テーブルの上に置いてある保温容器に目をやった。一日中疲れきって、今夜も食事をする暇がなかった。蓋を開けると、中にはトマトのいい香りがするミネストローネが入っている。野菜がたっぷり入っていて、栄養満点だ。スープはまだ湯気を立てている。真衣は千咲が眠っているのを確認すると、戻ってきてスープを食べ始めた。真衣は今後、誰かにスープを受け取らせようと考えた。礼央と不必要な接触を避けるためだ。-エレトンテックで住岡社長の問題が起きたが、萌寧は自分で対処して、その後も大きな問題にはならず、順調に業績を伸ばしていった。業界で最近一番アツい注目株だ。真衣は仕事を終えると、安浩と共にクライアントに会いに行った。商談の合間には、ところどころ違う話題で盛り上がりもした。だが、業界が業界だから、結局いつも同じような話題になる。「聞くところによると、国際宇宙設計大会の国内大会の決勝戦が間もなく始まるそうで、エレトンテックの社長である外山萌寧も出場するらしいですね」「九空テクノロジーからはこの大会に参加する者はいますか?もし決勝まで進めば、世界に名を知らせる絶好の機会になりますよ」安浩は一瞬固まり、真衣をチラッと見た。真衣は確かに参加するが、身分を公に出すことはできない。今回の大会
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第280話

安浩が頷いた。「わかった、会社に戻って修正しよう。今から準備して、次の約束に向かうぞ」真衣は目を上げた。「?」「次の予定なんて事前に聞いてないけど、どこと約束してたの?」「真衣はコードを打つのに集中してたから、僕の話なんて聞いてなかっただろう」安浩は面白がりながら言った。「ワールドフラックスとの約束だ。プロジェクトの第一期目がほぼ終わったから、検収に行くことになっていてね。その後は一緒に食事もする予定だ」「三社で第二期目のスケジュールについて話し合うことになってる」安浩は真衣を見た。「行きたくなければ、僕一人で行けばいい」真衣はプロジェクトの主任技術者だから、最後まで責任を持つのは当然で、行かないなんてありえない。真衣ももう離婚したから、礼央たちを避け続ける必要もない。真衣はパソコンを閉じて、立ち上がった。「一緒に行くわ」第一期目がどうなったか、真衣も確認したかった。真衣たちはレストランを出た。車に乗り込み、シートベルトを締めたその時、安浩の携帯にディーラーから電話がかかってきた。安浩は一分ほど話した。真衣は安浩を横目で見て、「ディーラーの方はどう言ってた?ブレーキの件は何か手がかりあった?」と聞いた。安浩は、「検査報告書をメールで送ってくれたから、ちょっと見てみて」と答えた。安浩はさっと携帯を助手席に座っている真衣に手渡した。真衣は携帯を受け取ると、検査結果をくまなく確認した。画面をスクロールさせ、ブレーキの修理履歴の欄に目を留めると、目の色が一瞬だけ鋭さを帯びた。履歴にはっきりと書かれている。修理歴なし、点検歴なしと。前回の車検時のままの履歴となっており、今月の整備ではブレーキは点検対象外だった。真衣は携帯を見ながら、思わず頭が痛くなり、こめかみを押さえた。「じゃあこれは誰かの仕業じゃないってこと?」安浩は前方を見つめながら車を走らせている。「この件があってから、クラウドウェイの工場でも監視カメラ映像を確認したが、真衣の車に近づいた者は誰もいなかった」「もし本当に誰かの仕業だとしたら、相当な腕前の持ち主だよ」真衣は携帯の画面を閉じ、センターコンソールに置いた。「私の不注意でした」車を整備に出す時、細部まで点検するようきちんと伝えておくべきだった。実際、
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