彼は彼女と協力したいとは思っていないようだった。萌寧はこめかみを押さえながら、少し頭痛を感じていた。今の自分の能力と経歴があれば、九空のような企業を一から立ち上げることだってできる。それなのに、安浩が協力を断る理由が見当たらない。彼女が望んでいるのは、安浩という人脈につながることだけだった。「きっと沙夜と真衣が常陸社長に何か吹き込んだんだ。お前の悪口でも言ったんじゃないか?」高史がそう言うと、「いいのよ」萌寧は微笑んだ。「礼央に電話して、この状況を話せばいい。あの人なら、きっと何とかしてくれるから」萌寧は研究に没頭するのは得意でも、対外的なやり取りや連絡には、やはり礼央の存在が必要だった。沙夜は真衣に引っ張られながらも、怒りが収まらなかった。「なんでいつも私を止めるのよ!?あいつの口、今すぐ引き裂いてやりたい!」真衣は唇の端を引き、軽く肩をすくめた。「あんな人に、そんなに本気で怒る必要ある?」沙夜は呆れたように目を白くして言った。「あなたみたいな忍耐の化身じゃなきゃ、とっくにキレてるわよ!青い鳥X7のチーフデザイナーを見たいって?それがあなただって知ったら、腰抜かすんじゃない?」「もういいから。会社の中、案内して」真衣は時間を無駄にしたくなかった。一刻も早く職場環境を把握して、仕事モードに切り替える必要があった。一方その頃。礼央はちょうど会議室を出たところで、萌寧からの電話を受けていた。「ああ、分かった」エレベーターへ向かいながら、淡々と尋ねた。「寺原真衣はどれくらい前に辞めた?」秘書は一瞬ためらい、答えた。「もう一週間以上になります」礼央はその言葉を聞くと、唇をわずかに引き上げただけで、それ以上は何も言わなかった。秘書は礼央の表情をうかがいながら、そっと進言した。「寺原さんのポジションは、元々あってもなくてもいいものでした。彼女が在籍していた頃も、混乱を招いたり、社長の前で存在感をアピールすること以外には、特に目立った業務はありませんでした。会社にとって、彼女の離職は特に影響がありません。もし手挽きコーヒーがご入用でしたら、新しいアシスタントを採用しましょうか?」「ああ」代わりのいない人間などいない。真衣のような、あってもなくてもいい立場など、誰でも代われる。彼女でなければ
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