All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 981 - Chapter 990

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第981話

小岩塚社長の表情が一瞬で険しくなり、口調も強硬になった。「林さん、君は私の顔を立てないつもりなのか?それとも我が社の資金が重要でないとでも?」真衣は状況を見て、すぐに自分の目の前のグラスを手に取り、笑顔で立ち上がった。「小岩塚社長、彼女は本当に体調が優れないんです。私が代わりに飲みます!ご安心ください。我々KJC宇宙航空研究開発機構は誠意をもって対応して参りますので」そう言い終えると、真衣はグラスのお酒を一気に飲み干した。強い酒が喉を灼くように通り、彼女は思わず顔をしかめた。小岩塚社長はそれを見て、再び笑顔を浮かべた。「寺原さんはノリのいい人だ!さあさあ、飲みましょう!」彼もグラスを空にすると、すぐにまた真衣のグラスを満たして言った。「もう一杯だ!これを飲んだら、契約書にサインするよ!」真衣はこれが相手の嫌がらせだとわかっていたが、歯を食いしばって受け入れるしかなかった。グラスのお酒を飲むにつれ、真衣は頬を赤らめ、めまいもますます強くなっていったが、彼女は手からペンを離さず、慎重に再調整された協力条項を確認していた。妊娠中の留美は何もできないまま傍に座り、真衣がお酒を勧められるのを見ながら、時折白湯を差し出した。愛想よく、そして礼儀正しく振る舞った。接待が終盤に近づいた頃、真衣は立っていられないほどに酔いがまわっていた。小岩塚社長はまだしつこく、手を伸ばして真衣を支えようとした。「寺原さん、酔っ払ったようだな。私が家まで送るよ。ちょうど帰り道に、契約の詳細についても話せるしな」彼の手が真衣の腕に触れた瞬間、真衣は無意識に身を引いて、幾分警戒した口調で言った。「小岩塚社長、大丈夫です。私は自分で帰れますから」ちょうどその時。個室のドアが突然開き、礼央が足早に入ってきた。礼央は真衣の赤らんだ頬とふらつく様子を見ると、瞬時に冷たい目を向け、素早く彼女の側に歩み寄り、手を伸ばして支えた。「どうしてこんなに飲んだんだ?」留美は礼央を見て、慌てて立ち上がった。「礼央、来てくれたの?小岩塚社長がずっとお酒を勧めてきて、私が飲めないから、寺原さんが代わりに飲んでくれたの。早く家まで送ってあげて。寺原さん、立っているのもやっとなの」小岩塚社長は礼央を見た途端、表情を一変させた。彼は以前から礼央の名を聞いており
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第982話

礼央は真衣の異変に気づき、横目でちらりと見ると、彼女の頬は真っ赤で、目はうつろ、額には細かい汗がびっしりと浮かんでいた。礼央は胸を締め付けられる思いで、慌ててスピードを上げた。「大丈夫か?具合が悪いのか?」真衣は首を振り、少し嗄れた声で答えた。「平気よ……ただちょっと熱っぽくて……」礼央は眉をひそめ、手を伸ばして真衣の額に触れると驚くほど熱く、彼の胸は締め付けられるように痛んだ。真衣がお酒に弱いことは知っていたが、ここまで酔い潰れるとは思っていなかった。ましてや熱まで出すなんて。礼央はそれ以上話さず、一刻も早く彼女を家に送り届けようと車の運転に集中した。車は団地に入り、建物の前に停まった。礼央は車を降り、助手席のドアを開け、慎重に真衣を支えながら降ろした。真衣は彼の胸に寄りかかり、彼に支えられながら廊下へと進んだ。エレベーターの中、真衣は体がますます熱くなるのを感じ、無意識に礼央に寄りかかった。鼻先が彼のシャツに触れ、懐かしい香水の香りがした。その香りは真衣に過去の日々を思い出させ、胸に複雑な感情が込み上げた。エレベーターのドアが開き、礼央は真衣を支えながら家の前まで歩いた。真衣は手探りで鍵を取り出したが、どうしても鍵穴に差し込めなかった。礼央はそれを見て、鍵を受け取り、ドアを開けた。リビングに入ると、礼央は真衣をソファに座らせ、キッチンへ向かって白湯を汲んだ。戻ると、真衣はソファに寄りかかり、うつろな目で礼央を見つめた。頬は真っ赤で、息遣いが荒かった。「水を飲め」礼央はグラスを真衣の前に差し出した。真衣はグラスを受け取ったが、飲まずに礼央を見上げた。彼女は酒に何かが混ざっていたことに気づいた。同じ過ちは繰り返したくなかった。「礼央……もう帰って」その時だった。寝室のドアが静かに開き、小さな影が隣の部屋から走り出てきた。千咲は眠そうな目をこすり、礼央が真衣を抱いているのを見て、小さな眉をひそめた。「パパ、ママどうしたの?具合が悪いの?」礼央は足を止め、真衣を慎重にベッドに寝かせてから、小さな声で言った。「ママは今日仕事でお酒を飲んで、少し疲れてるんだ」「千咲、いい子だから部屋に戻って寝ようね?明日はパパが幼稚園に送ってあげる」千咲は心配そうに真衣の赤らんだ頬を見つめ、
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第983話

真衣はベッドにもたれかかった。シーツを握る指先の力がますます強くなり、関節が白くなった。その場に立ち尽くす礼央を見て、真衣は笑った。声には皮肉と自嘲が込められていた。「何のつもり?私を哀れに思って、介抱しようと思ったの?」真衣の声はお酒でかすれていたが、その言葉は一つ一つがはっきりとしていて、氷のようにその場の空気を切り裂いた。「礼央、私は大丈夫だから。早く帰って、もうあなたの顔を見たくないの」礼央はその場に立っていた。表情を変えることもなく、立ち去る気配もなかった。礼央は複雑な眼差しを真衣に向けた。胸に何かを秘めているようだったが、結局何も言葉を発しなかった。真衣は礼央のそんな様子を見て、さらに腹立たしく感じ、何か言おうとしたが、頭がぼんやりとして、再び酔いが込み上げた。真衣は体を揺らすと、目の前の光景がぼやけ始め、意識が潮にゆっくりと飲み込まれていくような感覚に陥った。最後に目にしたのは、礼央が急ぎ足で近づき、真衣を支えようと手を伸ばす姿だった。そしてその後、完全に意識を失った。-目が醒めると、窓の外はすでに明るくなっていた。真衣が体を動かすと、頭が割れそうに痛んだ。昨夜の記憶が断片のように脳裏に押し寄せた。レストランでの小岩塚社長の執拗な絡みに、次々と注がれるお酒。そして突然現れた礼央の姿、車内での火照り、そして彼に言った棘のある言葉……昨夜の出来事。真衣は深く息を吸うと、心臓が何かに強く握り締められたように、息苦しさを感じた。起き上がって周りを見回すと、部屋はきちんと片付けられており、サイドテーブルには水の入ったグラスと、礼央の見慣れた字で書かれたメモが置いてあった。【目が覚めたら水を飲め。俺はリビングにいる】グラスを手に持つと、指先に冷たい感触が伝わった。真衣はわかっていた。昨夜、結局自制心を失ったのは自分で、礼央は終始冷静だったのだと。彼の冷静さが、さらに真衣を惨めな気持ちにさせていた――真衣は騒がしい喜劇の中のピエロで、礼央は一歩引いた場所からすべてを見渡す、冷静な観客だった。「するべきじゃない、してはいけないの……」真衣は空気に向かって呟き、まるで自分に言い聞かせるようだった。二人はすでに離婚しており、礼央はもうすぐ留美と婚約する。これ以上一線を越
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第984話

礼央は千咲を見て、優しい声で言った。「ああ、千咲との約束は守らないとな」真衣は喜びに満ちた千咲の笑顔を見ると、言いかけた拒絶の言葉を言い出せなくなった。真衣は少し黙り込んだ後、千咲に言った。「ママがシッターさんに送ってもらうようにお願いしてもいい?パパは用事があるから」「でもパパは約束してくれたんだよ!」千咲は小さな唇を尖らせ、礼央の手を引っ張った。「パパ、どこか行っちゃうの?」礼央はしゃがみ込み、千咲の頭を撫でながら言った。「いいや。今日は特別に休みを取って千咲を幼稚園に送るよ」礼央は真衣を見上げた。「千咲との約束を破るわけにはいかないからな」真衣は千咲の期待に満ちた瞳と礼央を見て、なんとも言えない気持ちになった。真衣は理解した。もはや拒否することはできない。自分の感情のために千咲を失望させたり、ましてや礼央の父親としての信用を千咲の前で失わせることはできなかった。「……わかったわ」真衣は軽く頷き、小さな声で言った。「じゃああなたが送ってあげて。気をつけてね」礼央は頷き、かすかに安堵の色を浮かべた。礼央は台所に向かいお粥を運んだ。「まずお粥を食べるんだ。俺が千咲の支度をする」礼央が千咲を連れて洗面所へ消える後姿を見送り、父と娘の温かい会話を聞きながら、真衣はソファに座り、虚ろな表情で目の前のお粥を見つめた。真衣の頭は混乱していた。礼央が一体何を考えているのかわからなかった。ただ、理性が一線を引くべきだと告げていた。-団地の入り口にて。礼央は千咲の手を引きながら、真衣が車のドアを開けるのを見て、足を止めて言った。「千咲を送ったら、職場に送るよ。ついでだから」真衣は手を止め、横目で礼央を見ながら言った。「必要ないわ、自分で行くから。留美さんに誤解されるといけないし」「彼女は誤解したりしない」礼央の声は確信に満ちていた。千咲のランドセルのベルトを整えながら続けた。「娘を幼稚園に送り、母親を職場に送るのは普通のことだ。彼女も理解できる」真衣はこの言葉を聞いて、突然可笑しく感じた。真衣は振り返り、礼央の目を真っ直ぐ見つめて言った。「礼央、あなたは私を何だと思っているの?留美さんのことも、何だと思っているの?あなたは結局何がしたいの?彼女との婚約を控えているのに、私と千咲をこんな風に気遣う
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第985話

KJC宇宙航空研究開発機構に着くと、正門前には既に多くの車が止まっていた。真衣が車から降りると、留美がビルの入口に立っているのが見えた。まるで彼女を待っているかのようだった。真衣を見つけると、留美はすぐに駆け寄り、心配そうな笑顔を浮かべた。「寺原さん、昨夜は大丈夫でしたか?かなり飲んでいらしたので、本当に心配でした。夜中に一人だと心配だったので礼央さんに傍にいるように頼んだんです」留美が自分が礼央に頼んだのだというのを聞いて、真衣の胸に不快感がわき上がった。留美の言葉にはわざとらしいニュアンスがあり、まるで礼央が真衣を介抱したのは彼女の許可を得たからであることを強調しているようだった。「心配をかけてしまってごめんなさい。でももう大丈夫です」真衣の声は淡々としており、余計な感情はなかった。「礼央には直接お礼を言っておきますね」留美は真衣の距離感に気づかない様子で、笑いながら言った。「気を遣わないで下さい。同じ職場で働く者同士、助け合うのは当然です。それに、昨日は私の代わりにお酒を飲んでくれたんですから、私も申し訳なく思っています」ちょうどその時、耀庭がビルから出てきて、二人の会話を聞き、思わず口を挟んだ。「本当に申し訳なく思っているなら、あなたが寺原さんの面倒を見るべきでしょう」耀庭は嘲笑しながら言った。「妊娠していることは理由にはなりませんよ。本当に心配なら、いくらでも方法はあったはずです」留美の表情が一瞬曇った。まさか突然こんな風に口を挟まれるとは思っていなかった。留美は唇を噛んだ。「私も残りたかったんですけど、妊娠中で体が本当に辛くて。寺原さんにかえって迷惑をかけるかもしれないと思いまして……礼央は男性ですし、介抱するにも何かと都合がいいと思ったんです」耀庭は冷ややかに笑って言った。「都合がいい?林さん、あなたと高瀬さんは婚約者同士ですよね。彼を元妻の家に泊まらせるなんて、不適切だと思わなかったんですか?そんな話が広まったら、寺原さんが周りからどんな目で見られると思います?」真衣は二人の言い争いを見て、心の中でため息をついた。真衣は一歩前に出て、耀庭の腕を引っ張りながら、落ち着いた口調で言った。「昨夜のことは終わったことだし、もう気にしてないわ」耀庭は悔しそうに真衣を見つめながら頷き、それ以
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第986話

「でも覚えておいて。今後は自分から彼に会おうとしたり連絡を取っちゃダメよ。もし彼が近づいてきても、相手にしないで。林さんと仲睦まじくしようが、好き勝手に振る舞おうが、あなたには関係ないからね!」沙夜の言葉が、真衣の混乱した心を次第に晴らしてくれた。真衣は数秒間黙り、軽く頷いた。「うん、わかった。ありがとうね、沙夜」真衣が電話を切って給湯室を出ると、同僚たちの噂話が耳に入った。「見て、高瀬社長が来たよ!林さんのためにわざわざランチに来てるんだ!」「わあ、羨ましいわ。高瀬社長は本当に優しいね、忙しいのに食事に来てくれるなんて」「あの二人は婚約者同士だもの、もうすぐ婚約するんだし、仲がいいのは当然よ」真衣が同僚たちの視線を追うと、礼央が立派な弁当箱を手にオフィスに入り、留美のデスクへ向かう姿が見えた。留美は顔を上げると、笑みを浮かべて立ち上がり弁当箱を受け取った。二人が和やかに話す様子は、周囲の者たちの羨望の的になった。真衣が視線をそらし、自分の席に戻ろうとすると、背後から声がかかった。「寺原さん」振り向くと、宗一郎が少し離れた場所に立っていた。彼はスーツを着こなし、穏やかな笑みを浮かべていた。「寺原さん、今少し時間はあるかな?ランチでも一緒にとりながら、プロジェクトの出資の件について詳細に話し合いたいんだ」真衣の胸は重く沈んだ。宗一郎はプロジェクトの重要な出資者であり、簡単には逆らえない存在だった。数秒ためらった後、真衣は頷いた。「わかりました、山口社長。どこで食事をしましょう?」「階下にうまい居酒屋があるんだ。静かだし、個室があるから何かを話し合うには最適な場所だ」宗一郎は「先にどうぞ」と手振りをし、先にエレベーターへ歩き出した。二人は居酒屋に入り、窓際の席に着いた。店員がメニューを差し出すと、宗一郎は真衣に先に選ばせたが、彼女は食欲がなく、適当に二品注文しただけだった。料理が来るまでの間、宗一郎は真衣を見つめて口を開いた。「寺原さん、あなたと高瀬社長は結婚から離婚まで、かなり長い付き合いだったよね?」真衣は礼央の話をしたくなかった。彼女は水の入ったグラスを手に取り、一口飲んでから淡々とした口調で答えた。「ええ」宗一郎は笑みを浮かべ、探るような眼差しを向けた。「聞いたところによると、あなた
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第987話

真衣は何も言わなかった。宗一郎はグラスの縁を軽くなぞりながら、こわばった真衣の横顔を見て淡々と言った。「寺原さん、高瀬社長には、あなたがいつまでも気にするような価値はないんだ」真衣はお箸を持つ手を一瞬止め、顔を上げずに静かに言った。「山口社長、プロジェクトへの出資の詳細について話しましょう。午後、本部に報告書を提出しなければなりませんので」真衣は意図的に話題を避けた。これ以上私的な感情に囚われたくなかった――特に温泉旅館で初めて会った時から自分に好意を示してきた宗一郎に、真衣はいつもどう対応すればいいのかわからなかった。しかし、宗一郎は真衣の話に乗る気はないらしく、身を乗り出して熱い視線を注いだ。「プロジェクトについては、私のチームがすでにKJC宇宙航空研究開発機構とほぼ調整を済ませた。あなたが承諾すれば、来週にもお金を振り込める。今日あなたを呼んだのは、仕事以外の話がしたかったからなんだ」彼は少し間を置き、声を柔らげて続けた。「寺原さん、あなたが過去の感情から抜け出せずに悩む気持ちはよくわかる。だが、覚えておいてほしいんだ。高瀬社長があなたに与えられなかった安心感や、尊厳、そして一途な愛も、私ならすべて与えられる。私たちは協力し合える。仕事以上の関係でな」宗一郎は低い声で続けた。「あなたがKJC宇宙航空研究開発機構で技術開発をするなら、私はより広い活躍の場をあなたに提供できる。最先端の設備とチームを導入し、あなたの研究成果を迅速に実用化させることも可能だ。さらに生活面でも、あなたと千咲ちゃんに安定した生活を約束できる。もう二度と不自由な思いをさせることもない」真衣はようやく顔を上げ、真剣な瞳で宗一郎を見つめた。真衣は深く息を吸い込むと、指先が冷たくなっていることに気付いた。宗一郎の提案は彼女のキャリアにも、千咲との生活にとっても得難く、魅力あるものだった。それでも彼女は首を振り、穏やかだが確かな口調で言った。「山口社長、ご厚意には感謝しております。プロジェクトには、全力で取り組みます。双方にとって良い結果になると信じています。ですが。私は山口社長とは純粋な仕事上の関係を維持したいと考えています」宗一郎の笑みが少し薄れたが、彼は怒らずに尋ねた。「なぜだ?その理由は高瀬社長なのか?それとも、新しい生活
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第988話

真衣は言った。「ただ、気持ちの整理には時間がかかるし、過去から逃れるために急いで新しい関係を始めるのは違うと思うんです。今は生活も安定していて、千咲もいるし、好きな仕事もあります。それだけで私は十分なんです」真衣は沙夜が今朝言った言葉を思い出した――「自分から会おうとしない、連絡しない、相手にしない」突然、彼女の心がすっと晴れたような気がした。もしかしたら、自分は過去から抜け出せていないのではなく、ただまだ心を動かす人に出会っていないだけかもしれない。そして、宗一郎は明らかにその相手ではなかった。宗一郎は真衣の様子を見て、これ以上言っても無駄だと悟り、ため息をついた。「わかった。あなたの意思を尊重しよう。でも私の気持ちは変わらないことを覚えておいてほしいんだ。もし気が変わったり、困ったことがあったらいつでも連絡してくれ」真衣はそれ以上返事をしなかった。個室の雰囲気は再び静けさに包まれ、食器の触れ合うかすかな音だけが残った。二人は黙ったまま食事を終えた。宗一郎がKJC宇宙航空研究開発機構まで送ると申し出ると、真衣は拒まなかった――重要な仕事上のパートナーなのだから、距離を取り過ぎればプロジェクトの進行に逆効果になる。車がKJC宇宙航空研究開発機構の正門に着くと、真衣はシートベルトを外し、「ありがとうございました」と宗一郎に言って降りようとした。宗一郎は真衣を呼び止めて言った。「寺原さん、いずれにせよ、私たちは今後も良い協力関係を築いていこう」真衣は振り返り、微笑んだ。「もちろんです、山口社長。良い協力関係を続けていきましょう」そう言うと、真衣はドアを開け、足早でKJC宇宙航空研究開発機構の中へ入っていった。オフィスに戻ると、留美がデスクで書類を整理しながら笑顔で迎えた。「寺原さん、お帰りなさい!さっき礼央から寺原さんが昼食に行ったのかと尋ねられたので、山口社長と仕事の打ち合わせに行ったと伝えました」真衣は軽く頷き、何も言わずに自分のデスクに向かった。彼女はパソコンを開き、宗一郎の申し出や礼央の姿を頭から振り払い、画面に表示されているプロジェクトのデータに集中した。今守るべきものは仕事と千咲だけなのだと、真衣はわかっていた。-夕暮れ時。真衣は分厚い資料を抱え、レストラン「ヴォ
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第989話

塩貝社長は50歳前後で、ビール腹がシャツを押し上げ、顔には下品な笑みを浮かべていた。真衣が入ると、彼は視線を彼女の全身にくまなく走らせながら口を開いた。「寺原さん、待たせて申し訳なかったな。道が混んでいてね」真衣は心の動揺を抑え、笑顔で近づき資料を差し出した。「塩貝社長、とんでもありません。こちらが改良した調達案です。価格は以前より5%値下げし、納期も45日に短縮したのでプロジェクトの進捗に完全に対応できます」塩貝社長は資料を受け取らず、ゆっくりとお茶を啜りながら窓の外を見やった。「寺原さん、君の面目を潰すつもりはないんだが、今回の協業は……恐らく成立しないな」真衣の笑みが一瞬で凍りつき、指先が冷たくなった。「塩貝社長、どこかご期待に沿わなかったところがあったのでしょうか?価格もサービス体制も、再度調整できますので、仰って下さい」先週の打ち合わせで、塩貝社長はこの案を絶賛していたのに、なぜ数日の内に態度が変わってしまったのだろう?「案件の内容は関係ないんだ」塩貝社長は湯呑みを置き、曖昧な口調で続けた。「当社は今新しい計画を立てているから、この部品は当面不要になったんだよ。寺原さん、今日は友人としてご馳走する。ビジネスの話はまたの機会にしよう」彼はそう言うと、資料に目を通すことなく、真衣を追い払うように腕時計を見た。真衣は疑問でいっぱいだったが、これ以上粘っても無駄と悟り、資料をしまった。「では、私はこれで失礼します。また機会があればよろしくお願いいたします、塩貝社長」そう言って個室を出ると、真衣の心は重く沈んだ――プロジェクトは差し迫っており、代替サプライヤーを見つけられなければ、取り返しのつかない事態になってしまう。廊下は静かで、奥のトイレの案内灯だけが微かに灯っていた。真衣は深く息を吸い、まず気持ちを整理してから対策を考えようと決めた。お手洗いの入り口に着くと、廊下の突き当たりの窓際に見覚えのある後ろ姿が見えた――礼央は濃い灰色のシャツを着て、背筋を伸ばして立ち、火の付いていないタバコを指に挟んで、誰かを待っているようだった。彼は避けようとする真衣を、まるで察知したかのように振り向いた。複雑な感情を浮かべた礼央の瞳はまっすぐ真衣に向けられていた。驚きもなく、言葉を発することもなく、まるで言葉
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第990話

逃れられない宿命のように、真衣が逃げようとしても、逃れることはできないのだ。彼女は深く息を吸い込み、心に渦巻く感情を抑えて言った。「私は誰の業績になっても気にしません」真衣は少し間を置き、留美を一瞥し、礼央に視線を戻した。「この契約はKJC宇宙航空研究開発機構のためであり、ドローンプロジェクトが円滑に進むためのものなので」「私は研究に専念するだけです。KJC宇宙航空研究開発機構のためになるのなら、誰がこの契約を担当しても同じでしょう」そう言い終えると、彼女は礼央の顔を見ずに背を向けてその場を立ち去った。廊下の明かりが真衣の孤独な影を長く引き延ばした。留美は真衣の後ろ姿を見て、何か言おうと口を開いたが、礼央に遮られた。礼央は首を振り、真衣が消えた方向を複雑な眼差しで見つめた。真衣が外に出ると、夜風が吹きつけ、頬の冷たさがようやくほのかに和らいだ。彼女は夜空を見上げた。自分はこの感情と仕事にまつわるもつれがまだ続くことを悟った。しかし、自分は、誰が正しく誰が間違っているを悩んだり、礼央の一挙一動に傷つくのはもうやめようと心に決めていた。真衣は携帯を取り出し、安浩に電話をかけた。「先輩、塩貝社長と留美さんの関係について調べる必要はないわ。代わりに他のサプライヤーに連絡を取り、技術パラメータのマッチング率が高いところを優先的に選別して、明日の出勤前にリストを送っていただるかしら」電話を切り、真衣はタクシーを拾った。車が走り出し、窓の外の街灯が流れていく。真衣は座席に寄りかかって目を閉じた。過去の感情や、現在の葛藤から、少しでも解放されたかった。礼央と留美には、彼らの人生があり、真衣にも彼女の信念がある。真衣の後ろ姿が見えなくなると、留美は握りしめていたバッグをようやく離した。留美はすかさず礼央の腕を掴み、少し小言めいた口調で言った。「あなたも、こんなことをするなら事前に言ってくれればいいのに。さっきは本当に気まずかったわ。私たちはこれからもKJC宇宙航空研究開発機構の同僚なんだから、顔を合わせる機会はたくさんあるのよ」留美はそっと礼央の腕を揺すり、探るような目で続けた。「私のためにそこまでしなくてもいいのよ。業績は焦る必要もないし、こんな風にされると却って心苦しいわ」礼央は俯いて彼女が自分の
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