料理を待つ合間、衝立の向こう側のテーブルに客が到着した。高さ二メートルはある衝立に遮られ、景凪の席からその姿は見えない。ただ、足音が聞こえるだけだ。男性の革靴、女性のハイヒール、そして……子供のものだろうか?「姿月おばさん、ここでご飯食べるの久しぶりだねえ!」その声は――水を入れていたグラスを持つ景凪の手が凍りついた。グラスから水が二滴こぼれ落ち、彼女の手の背に跳ねる。生温かい感触があったが、彼女はそれをまるで感じなかった。「そうね。やっと四人で、ゆっくりご飯が食べられるわね」姿月の楽しげな声が、一枚の壁を隔てて聞こえてくる。椅子を引く音がして、衝立のわずかな隙間から、男性のスーツの裾が女性のフリル袖に触れながら揺れるのが見えた。深雲が、姿月のために椅子を引いてやったのだ。「ありがとう、深雲さん」「…………」千代の拳が、怒りで震えている。「っざけんな……!」この店に来るんじゃなかった。彼女は心底後悔する。景凪は伏し目がちに茶を一口啜り、千代の手の甲を軽くトンと叩いた。落ち着いて、という合図だ。彼らのせいで食事を台無しにする価値などない。だが、隣の会話は容赦なく耳に入ってくる。「姿月、これ、君へのプレゼントだ」深雲が古風で品の良いジュエリーケースを姿月に差し出す気配がした。「気に入ってくれるといいが」「わあ、すごく綺麗!本当に素敵……ありがとう、深雲さん」千代は吐き気を催すような仕草をし、白目を剥いて天を仰いだ。一方、景凪の心は凪いでいた。深雲という存在は、もはや彼女の心にさざ波ひとつ立てることはできない。彼女が唯一心を砕くのは、二人の子供たちのことだけ。隣のテーブルは料理も予約済みだったようで、こちらの席よりも先に運ばれてきた。景凪は無意識にスマホに目を落とし、清音、そして辰希とのトーク画面を開いた。ここ数日、二人の子供との連絡頻度は上がっている。辰希はたいてい学んだことや、コンピュータに関する質問を送ってくるだけだが、清音からは食べた美味しいものの写真が絶えず送られてくる。一日三食はもちろん、ちょっとしたおやつまで、欠かさずシェアしてくれるのだ。景凪は密かに期待を膨らませていた。今夜も清音が、写真送ってきてくれるだろうか、と。清音が姿月に懐いていることは知ってい
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