All Chapters of 支配されて、快楽だけが残った身体に、もう一度、愛を教えてくれた人がいた~女社長に壊された心と身体が、愛されることを思い出: Chapter 71 - Chapter 80

139 Chapters

一撃の揺さぶり

「黒瀬さん、逃げ道は考えてありますか」湯浅の声は静かだった。氷の溶けかけたウイスキーのグラスを、指先で軽く押し回しながら、そのまま黒瀬の表情を観察している。黒瀬は黙ったまま、グラスの中をじっと見ていた。氷がわずかに崩れ、音を立てた。その音だけが、重い沈黙の中に響いている。「社長のために沈むつもりですか」湯浅はさらに続けた。声は低いが、柔らかさを装っている。だが、その中にある鋭利な刃は隠しきれない。黒瀬はその言葉に、明らかに反応した。テーブルの下で、握った拳が震えている。だが、表情だけは崩さなかった。視線をグラスから動かさず、まぶたを伏せたまま、唇の端をわずかに上げる。「お前、本気で言ってるのか」「ええ、本気です」湯浅は即答した。その答えに、黒瀬はさらに視線を下げた。グラスの中の氷が、また一つ、崩れた。「俺が証言すれば、社長は終わる」黒瀬は心の中でそうつぶやく。だが、その先が続かない。「だが、それをやれば、俺も無傷では済まない」その思考が、黒瀬の中で堂々巡りする。社長と自分は、共犯だ。名義変更も、帳簿操作も、全て自分の手を通している。だから、もし湯浅が本当に証拠を持っているなら、自分はもう逃げられない。「俺が潰れるか、美沙子が潰れるか。どっちだ」黒瀬の額に、汗がじわりと浮かぶ。バーの冷房は効いているはずなのに、首筋に嫌な湿気がまとわりついていた。「黒瀬さん」湯浅の声が、さらに低くなる。そのトーンに、黒瀬は背筋をわずかに強張らせた。「俺は別に、全部暴くつもりはありません」「……」「でも、誰かが証言しないと、全部美沙子社長の思い通りです」「……湯浅、お前、証拠って言ったな」黒瀬は唇を噛みながら
last updateLast Updated : 2025-08-22
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裂け目

「湯浅、これ以上は危ないぞ」黒瀬がグラスをテーブルに置いた。氷が沈む音が、沈黙の中でやけに大きく響く。そのまま、黒瀬は湯浅の目をまっすぐに見据えた。睨みつけるでもなく、威圧するでもなく。ただ、静かに。その目には、濁った警告と、揺れが同時に浮かんでいた。湯浅は視線を逸らさなかった。黒瀬の瞳の奥にある微かな亀裂を、じっと見つめた。それが広がる瞬間を、見逃すつもりはなかった。「知ってますよ。でも、俺はもう引けない」湯浅は淡々と言った。言葉の端に、決意がにじむ。それを聞いた黒瀬は、わずかに唇を噛んだ。視線が、一瞬だけ揺れる。「……お前、わかってるのか」黒瀬の声は低かった。声量は落ちているのに、その響きは重い。湯浅の胸の奥にも、その重さは確かに届いた。「この会社は、美沙子社長のものだ。料亭藤並もな」「知ってます」「知ってる、じゃない」黒瀬は手を握り直した。テーブルの下で、拳が音もなく作られていく。「美沙子は、自分の利益のためなら、何でもする女だ」「それも、知ってます」湯浅は一歩も退かなかった。黒瀬はその答えに、眉をわずかに寄せた。だが、湯浅の目は変わらない。静かで、淡々としている。その静けさが、黒瀬をさらに追い詰める。「お前、命を落とすかもしれないんだぞ」「それでも、俺はやります」湯浅はグラスを手に取り、口元に運ぶ。だが、飲み干さずに、ただ氷を揺らした。グラスの中で、氷が静かに転がる。黒瀬の目が、その動きに一瞬だけ吸い寄せられる。「美沙子から離れるか、沈むか。それが、俺に突きつけてる選択肢か」「はい」湯浅ははっきりと言った。その言葉が、黒瀬の胸に刺さる。「だがな、湯浅。俺が裏切れば
last updateLast Updated : 2025-08-22
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濡れた夜景と、滲む記憶

雨が上がったばかりの夜だった。帰宅途中の電車の窓に、藤並は自分の顔を映していた。都会の夜景がガラス越しに滲んで、その奥にあるはずの自分の輪郭も、はっきりとしない。目元だけが笑っていなかった。唇はいつもの営業スマイルを形だけ保っているけれど、目は、完全に他人事のように虚ろだった。それが怖かった。何かを見ないふりをしている顔だと、自分でも分かっていた。電車は地下に潜る手前で減速し、しばらくの間だけ、夜の街が窓に流れた。濡れたアスファルトが街灯に照らされて、まるで光が地面に染みこんでいるようだった。その光景が、なぜか湯浅の部屋の床を思い出させた。あの夜、足元がふわふわしていた。肌に触れる手のひらが、微かに震えている気がして、けれどそれは自分の方だったのかもしれないと、今でもわからなかった。「大丈夫だ。俺が抱く」湯浅の低い声が、耳の奥で反響していた。あの夜、藤並は初めて「快楽と心が一致する瞬間」を知った。身体が気持ち良いと感じているときに、心も安心していること。そんなのは初めてだった。だから、怖い。このまま、自分は変わってしまうのかもしれないと、そんな予感がする。人を好きになるなんて、してはいけないことだった。愛されたかっただなんて、思ってはいけなかった。心のどこかで、ずっとそう思い込んできた。だから、あの夜は良かった。でも、同時に怖かった。湯浅の手が、自分の鎖をほどいてしまうんじゃないかと、本能的に怯えていた。自分は商品だ。欲望を満たす道具で、それ以上でも以下でもない。そのラベルを剥がされたら、何も残らなくなる。指先が冷たかった。スマホを握る手のひらが、じっとりと汗ばんでいる。駅名がアナウンスされるけれど、聞き流す。電車の窓に映る自分の目を見た。そこには、湯浅に触れられたときの記憶がまだ、残っていた。湯浅の手は優しかった。だけど、それが逆に怖
last updateLast Updated : 2025-08-23
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肌の記憶と、身体の裏切り

先輩の部屋の蛍光灯は、少しだけジリジリと音を立てていた。白い天井に広がるその光は、容赦なく藤並の肌を照らしていた。脱がされたシャツが、ベッドの端に落ちる音が微かに聞こえた。指先が小刻みに震えているのを、先輩に悟られないように、肩をすくめる。「ほんと、綺麗な身体してんな」先輩はそう言って、唇の端を吊り上げた。その笑い方が、どうしても好きになれなかった。目は笑っていないのに、口だけが軽々と笑う。男がこんなふうに笑うときは、たいてい何かを壊そうとしていると、どこかで知っていた。だから、怖かった。でも、もう逃げられなかった。冷たい指先が、首筋を撫でた。汗で湿った肌を、ゆっくりと触れる。ぞわりと鳥肌が立つ。先輩の手は、優しいようでいて、どこか冷たかった。触れられているうちに、呼吸が浅くなっていく。胸の奥が、じわじわと熱くなる。心は凍ったままなのに、身体だけが熱を帯びていった。「恥ずかしがるなよ」そう言われたとき、首筋のあたりがじんわりと痺れた。息を呑んで、視線を天井の染みに向けた。見たこともないような形の染みが、蛍光灯の光で薄く浮かんでいた。そこに目をやることで、今されていることから、ほんの少しだけ心を切り離せる気がした。先輩の手が、肩から背中に滑る。触れられるたびに、肌が粟立つ。けれど、逃げられなかった。もう、ここまで来てしまったから。途中でやめると言われても、もう遅い。そう思った。自分は流されるまま、ここにいる。それが、自分の選択だったと、思い込もうとした。先輩の手が腰に回り込む。指先が腹のあたりをなぞると、腹筋が微かに震えた。心とは裏腹に、身体は正直だった。恥ずかしいと思うのに、股間は膨らみ、下着の中で湿り気を帯びている。呼吸が荒くなりそうなのを、必死に押さえた。けれど、止められなかった。「気持ち
last updateLast Updated : 2025-08-23
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事後の沈黙

毛布を肩まで引き上げた。汗で湿った肌に、冷たい毛布がまとわりつく。額から流れた汗が、こめかみを伝って耳の裏に落ちていった。それでも藤並は、動かなかった。視線は天井に貼りついたままだった。蛍光灯の下に、染みが広がっている。不規則な形をした灰色の染み。見つめていると、それがじわりと滲んでいくような気がした。けれど、泣いてはいなかった。涙はもう出なかった。身体はまだ熱を持っていた。それが気持ち悪いと思った。心は冷たいのに、身体だけがあたたかい。汗が毛布の内側でじっとりと滲み、手のひらで握った毛布の端が湿っていく。それが自分の汗なのか、それとも涙なのか、分からなかった。握るたびに、ぐしゃりと音がした。その音だけが、今の自分にとって唯一の現実だった。先輩がベッドの隅に座り込み、煙草に火をつけた。ライターの石が擦れる音が、やけに大きく聞こえた。オレンジ色の火が、一瞬だけ視界の端を照らした。それから、紫煙がゆらゆらと立ちのぼった。藤並は、天井の染みを見つめたまま、煙の動きをぼんやりと追った。吸い込む空気の中に、煙草の匂いが入り込んできた。酒と煙草と汗と、柔軟剤の匂いが混ざっていた。それは、もう何度も嗅いできた匂いだ。でも、今日のそれは、どうしてか少しだけ違っていた。胸の奥に引っかかって、取れない。先輩は、吸った煙を天井に向かって吐いた。天井の染みが、煙で霞んで見える。その向こうにある蛍光灯の光が、少しだけ揺らいだ。「また遊ぼうな」先輩は、笑いながら言った。その声は、耳の奥に残った。甘く、軽い調子だった。でも、どこかに棘があった。まるで、「これくらい平気だろ?」とでも言いたげな声音だった。藤並は返事をしなかった。喉の奥が張り付いて、声が出なかった。毛布を握る手に力が入る。その手のひらが、汗で濡
last updateLast Updated : 2025-08-24
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現在に戻る

電車の車窓に映る自分の顔が、知らない誰かのもののように見えた。頬がこわばっている。目の奥は、どこか遠くを見ている。それが自分だと気づいて、胸の奥が鈍く疼いた。夜の街が、窓の向こうに流れていく。濡れたアスファルトが、街灯に照らされてぼんやりと光っていた。その光が、ガラス越しに顔に重なる。まるで、自分の輪郭が滲んでいくようだった。スマホを握る手が、じっとりと汗ばんでいる。そのことにも、気づいていなかった。手のひらに力を入れると、微かに震えていた。指先が冷たい。けれど、放せなかった。何かを掴んでいないと、今にも崩れそうだった。湯浅の手の感触が、ふいに蘇る。背中を撫でられたときの、あの重み。首筋をくすぐるような、指先の温度。耳元でささやかれた低い声が、胸の奥でこだました。「大丈夫だ。俺が抱く」その言葉が、今も耳の奥に残っている。けれど、胸の中はざわついていた。あの夜は良かった。でも、怖かった。身体の奥に染みついた過去の記憶が、湯浅の手と重なった。大学時代の先輩の手が、脳裏に蘇る。あのときも、こうして抱かれた。違うのは、心が一緒に動いたかどうかだけだ。先輩の手は、壊すための手だった。自分の身体を「商品」に変えるための手だった。でも、湯浅は違った。あの人は、壊そうとしていなかった。繋ごうとしてくれていた。それが、逆に怖かった。愛されたいと思うことが、怖い。誰かと繋がることが、怖い。心を開いてしまったら、もう戻れなくなる。それを知っているから、ずっと黙って抱かれてきた。何も言わずに、ただ身体だけを差し出していれば、それでよかった。心は別の場所に置いておけばよかった。でも、湯浅のときだけは、それができなかった。唇を噛んだ。強く噛みすぎて、舌の裏に血の味が広がった。
last updateLast Updated : 2025-08-24
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呼び出し

スマホの画面が淡い光を放った。無機質な通知音が、静まり返った部屋に鳴り響く。画面を覗き込むと、そこには「社長」の名が並んでいた。メッセージは一行だけだった。「来なさい」それだけ。絵文字も、余計な言葉もない。時間は、23時14分。普段ならもう寝る支度をしているはずの時間だった。けれど、藤並はスマホを握り締めたまま、動けなかった。胸の奥がざわついている。それは、恐怖か、それとも諦めか。どちらなのか自分でも分からなかった。唇の端がひきつる。笑っているような形を作ったけれど、目はまったく笑っていなかった。鏡を見なくても分かる。こんな顔は、何度もしてきたから。営業スマイルの裏で、心は凍っている。それでも、身体は立ち上がっていた。「命令されたら、応じるしかない」誰にも聞こえないように、心の中でそう呟いた。それはもう、条件反射だった。美沙子に「来なさい」と言われたら、行かないという選択肢はない。自分がどう思おうと、関係ない。契約がそう決めている。料亭の借金、実家の名義、会社の立場。全部、美沙子の手の中にある。だから、断れない。それでも、一瞬だけ、湯浅の顔が浮かんだ。あの夜、背中を撫でられたときの感触が蘇る。「大丈夫だ。俺が抱く」低い声が耳の奥で反響する。その記憶が、胸の奥を軋ませた。だけど、それでも立ち止まれなかった。玄関に置いてあったコートを羽織る。ポケットの中で、スマホを握りしめたまま、ドアを開けた。マンションの廊下は静かだった。エレベーターのボタンを押す指先が、微かに震えている。けれど、誰もその震えに気づかない。気づかれることもない。こんな時間に、誰もいないからだ。タクシーを拾う。行き先は、何も言わなくても運転手が分かっているような気がした。
last updateLast Updated : 2025-08-25
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檻の扉は自分で開ける

ドアが開くと、室内の空気が肌を撫でた。美沙子のマンションは、いつ来ても同じ匂いがした。高級な柔軟剤と白檀系の香水がわずかに混じった匂い。清潔で、洗練されていて、なのにどこか冷たい。それはこの部屋の主そのものだった。人を包み込むふりをして、決して触れさせない。この空間に入った瞬間から、藤並の中の何かがすうっと沈んでいく。美沙子は、リビングのソファに座っていた。足を組み、長い指でワイングラスの脚をくるくると撫でていた。赤い液体が、グラスの内側で静かに揺れる。白いシャツの胸元が少しだけ開いていて、鍵のように小さなペンダントが覗いていた。顔には薄い化粧。目元には笑みのようなものが張り付いていたが、その奥には何の感情も見えなかった。冷たい光だけが宿っていた。「来たのね」微笑を浮かべながら、そう言った声には、期待とも満足とも取れる響きがあった。藤並は黙って頷いた。何も言わなくてもいい。この場所で、言葉は意味を持たない。ソファの前まで歩を進め、足を止めた。間接照明の柔らかな光が、床に長く影を落とす。藤並の影は、ソファに座る美沙子の膝まで伸びていた。その影の上に、自分の指がかかった。右手が、シャツの一番上のボタンに触れた。指先が微かに震えた。だが、動きに迷いはなかった。一つ、また一つと、ボタンを外していく。この動作も、もう何度繰り返したか分からない。どれだけ嫌でも、身体は自然に動いてしまう。まるで、仕込まれたプログラムのように。「そう、蓮。いい子ね」美沙子の声が、柔らかく部屋に満ちた。その声音は、まるで愛を注ぐようだった。だが藤並には、その言葉が呪文のように聞こえた。命じられたわけではない。何も強制されていない。なのに、身体が勝手に動くのはなぜか。答えは分かっている。これは命令だ。直接
last updateLast Updated : 2025-08-25
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躾けられたリード

藤並は、まるで台本をなぞるように美沙子の肩に手を置いた。背中へと滑らせた指先が、柔らかな肌の感触を確かめる。その動きに、迷いはなかった。何度も繰り返してきた動作。覚えさせられた通りの手順。右手で肩甲骨をなぞり、左手は腰へと回す。唇を、彼女の鎖骨のあたりに落とすと、美沙子の呼吸がわずかに変わった。「そう、蓮。あなたからしてごらんなさい」囁きかける声が、耳の奥に滑り込んだ。美沙子の声は甘く柔らかい。けれど、その底には支配が潜んでいる。「あなたの意思で動いてごらん」と言いながら、実際には選択肢など存在しない。藤並は、それをよく知っていた。自分が何をどう思おうと、この瞬間はいつも訪れる。だから、考えなくてもいい。台詞を忘れた役者のように、身体が勝手に動いてくれる。唇を重ねると、美沙子の吐息がこめかみにかかった。その呼吸は、少しだけ熱を帯びていた。彼女の瞳孔が、わずかに開いていくのが分かる。目尻は笑っているのに、瞳の奥は冷たい光を宿したままだ。その表情は、長年の癖で作られたものなのだと藤並は知っていた。美沙子は、こういうとき必ず目を細める。それは支配者の目だ。手に入れた獲物を撫でるような、満足と所有欲だけが滲む視線。胸元に手を伸ばし、柔らかい感触を指で確かめる。美沙子の身体は細いのに、触れた場所はいつも思っているより温かい。その温度が、藤並の掌にじんわりと広がっていく。けれど、心はどこか遠くにいた。湯浅の手が、ふいに記憶の奥から浮かび上がる。背中を撫でられたときの、あの重さと体温。それとはまるで違う感触が、今、自分の指先にある。「蓮、いい子ね」美沙子がまた囁いた。その声音に、藤並は身体を動かした。唇を彼女の胸元に滑らせ、舌先で肌を舐める。その間も、心は無表情だった。この動作は、自分の意思ではない。もう癖になって
last updateLast Updated : 2025-08-26
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快楽の条件反射

藤並の身体は、触れられてもいないのに疼いていた。乳首の先がじんわりと熱を帯び、下腹部が勝手に脈打つ。何度も何度も繰り返されてきた行為が、もう完全に身体の中に刷り込まれている。仕込まれた通りに、反応するようになってしまった。触れられた瞬間に感じるように。命じられなくても、自分から求めるように。それが、美沙子との五年間で身体に染みついた癖だった。「蓮、いいわ。もっと…」美沙子の声が耳元で揺れる。甘い声色で、だがその底には命令の響きがある。その言葉に、身体は自然に動いた。自分で腰を浮かせ、美沙子の脚の間に手を伸ばす。唇が胸元をなぞり、舌先で柔らかな感触を味わう。目を閉じれば、別の誰かになれる気がした。だから、藤並は瞼を閉じた。そうすれば、自分が何をしているのか、少しだけ分からなくなる。「早く、蓮。あなたから…して」美沙子の声が震えた。その震えが、わざとなのか本当なのか、藤並には分からない。でも、どちらでもいいと思った。自分の役割はもう決まっている。相手がどんな顔をしていようと、それに応えるだけ。それが商品だ。そう教えられてきた。自らの手で自分のものを導き、ゆっくりと美沙子の中に入っていく。湿り気を帯びた熱い粘膜が、自分を受け入れていく感覚。そのときも、心は遠くにあった。美沙子の身体が反応しているのが、手に取るように分かる。膝が微かに震え、喉の奥からかすかな喘ぎが漏れる。「ん…ああ…いい、蓮…そのまま…」美沙子がそう呟き、爪先がシーツを掴んだ。藤並は淡々と腰を動かした。規則的に、滑らかに。まるで、役割をこなす機械のように。一度も目を開けず、呼吸のリズムだけを整える。それが「良い子」としての動き方だった。身体は快楽を感じていた。
last updateLast Updated : 2025-08-26
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