星乃はジェットコースターを降りると、全身に少し汗をかいているのを感じた。母が亡くなって以来、こんなに気楽に遊んだのは久しぶりだった。悠真は車から持ってきた水のペットボトルの蓋を開け、彼女に差し出した。「次は何に乗る?」「お化け屋敷かな。ここのお化け屋敷、面白いって聞いたけど、前は人が多くて入れなかったの」星乃が答える。悠真は眉をひそめた。「女の子なのに、どうしてそんなスリルのあるものが好きなんだ?」「性別と関係ある?」星乃はそう言うと、数口水を飲み、喉を潤した。彼女は蓋が悠真の手にあるのを見て、もう一度水を渡し、取ってもらおうとした。だが言葉を発する前に、悠真は自然に水を受け取り、仰向けに少し飲んだ。その動作は完全に無意識で、悠真自身も深く考えていなかった。星乃が少し驚いた表情を見せてから、ようやく彼は自覚した。「俺たち夫婦なんだから、驚くことでもないだろう」悠真はぎこちなく言った。星乃は唇を引き結ぶ。普通の夫婦なら、確かに驚くことではない。でも悠真は潔癖で、彼女が使ったものを決して使わない人だった。結婚して間もない頃、親密さを深めようと、星乃は試しに悠真が使ったコップで水を飲んでみたことがあった。そのとき悠真はためらうことなくコップをゴミ箱に投げ、「汚い、気持ち悪い」とほとんど侮辱するように言った。星乃のプライドは大きく傷ついた。それ以来、悠真には踏み込めない線があることを、彼女は知った。親密な関係以外では、彼のものには手を出さないことを自分に課した。悠真もまた、普段は自分のもの以外には触れない。だからこの五年間、この点に関しては平穏に過ごせていた。だが今日の水の件で、星乃は少し違和感を覚えた。というより、今夜の悠真は全体的にいつもと違っていた。特別な意味を持つ今日、例年なら結衣と一緒にいる日なのに、どうして彼女のところに来て、こんな退屈な遊びに付き合っているのだろう?その思いを巡らせる前に、背後から声が聞こえた。「お兄ちゃん、やっぱりここにいた!」星乃が振り返ると、遠くないところで花音が結衣の手を引き、駆け寄ってきた。彼女たちを見た瞬間、星乃の抱いていた疑問は一瞬で氷解した。悠真も二人に気づき、眉をわずかに寄せる。近づいてくるのを見て、ようやく低い声で尋ね
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