好きな人の部屋を訪ねるのだから――そう思って、新調したセットアップ。 水色のレース素材のブラとショーツは、漣くんがブルー系を好きそう、というイメージがあったから。 もちろん、彼によろこんでもらいたくて買ったものではあるけれど……。 でも展開は、私の想像よりもずっと早くて。戸惑いながら口を開く。「な、なんか……いつものお兄ちゃん――じゃなかった、漣くん、らしくない」「そう?」「だって……私の知ってる漣くんは、いつも冷静で余裕があって……。衝動で押し切るなんて、似合わない」 言いながら、自分の鼓動が速くなっていくのがわかる。 こんな言葉をかけている時点で、私自身も冷静さなんて失っていた。 漣くんは私の額に軽くキスを落として、ふっといじわるに笑った。「俺だって、好きな人を前にしたら余裕なんてなくなるよ。……たとえば、この服を別の男と会うときに着ていたなって思うと、嫉妬するし」「えっ……そ、それは、ち、違うの!」「違う?」 脱いだばかりのブルーのワンピースを手に取り、さらりとつぶやく。 私ははっとして、大事なことを言い忘れていたのに気づいた。慌てて首を振る。「あの日は、デートなんてしてない。外で時間をつぶしてただけ……。漣くんと朝まで一緒に過ごしたあとに、別の人となんて会えなかったから」 彼に「前を向いた」って証明したくて、あえて出かけるふりをしただけ。「……そうだったんだ」 漣くんが目を見開く。その顔を見て、胸が熱くなる。 私は恥ずかしさを紛らわせるように、思い切ってお願いした。「私、まだデートってしたことないから……。今度、してくれる?」「もちろん」 やわらかく響く声。答えがうれしくて、自然と頬が緩んでしまう。 漣くんとのデート。それは私がずっと夢見ていたこと。叶うなんて――胸がいっぱいだった。 けれど彼は少し言いにくそうに視線を逸らし、ぽつりと切り出した。
Last Updated : 2025-09-04 Read more