結婚して七年目で初めて、琴音(ことね)は自分の夫に六歳の息子がいることを知った。彼女は幼稚園の滑り台の裏に身を隠し、光希(みつき)がかがんで小さな男の子を抱き上げて遊んでいる姿をじっと見ていた。「パパ、もうずっと長い間会いに来てくれなかったんだもん」夫は男の子の頭をやさしく撫で、「いい子だな、陽向。パパは仕事で忙しいんだ、ちゃんとママの言うことを聞くんだぞ」と言った。「ゴーン」という轟音が響いたと同時に、琴音はその場で立ち尽くし、頭の中が真っ白になった。パパ? ママ?その大人と子供の影はあまりにもよく似ている顔立ちで並んでいた。どう見ても明らかだった。その「一生愛してる」と何度でも言ってくれた男は、とうの昔に自分を裏切っていたのだ。二人は幼い頃から一緒に育ち、長い間愛し合ってきた。琴音は彼を守るために刃物で刺され、子供を失い、生涯子供を産めなくなった。あの時の光希は彼女の隣でひざまずき、真っ赤の目で言った。「子どもなんてもういらない、俺には琴音だけで十分だ!」あの震える声はいまも耳に残っている。しかし、今目の前の光景は、その誓いを容赦なく粉々に打ち砕いたのだった。琴音はよろよろと後ずさりした。心は鋭い刃で無数に切り刻まれるように痛み、血まみれになったようだった。もうこれ以上見ていられなかった。自分が今にも光希に詰め寄ってしまいそうで、それよりもピエロのように泣いて、惨めな姿をさらして嫌われるのが何より怖かった。彼女は背を向け、その場から逃げるように去っていった。幼稚園の門の前では、親友の山本莉子(やまもと りこ)が車の中で待っていて、彼女の青ざめた顔に気づくと、あわてて車から降りてきた。「琴音、どうしたの?」「颯はあなたが忘れ物したって取りに戻ったって言ってたけど、何があったの?」颯(はやて)は莉子の息子で、今日は莉子に頼まれて琴音も一緒に保護者会に来ていた。琴音の顔は真っ青で、目には涙が溜まっていた。「莉子、人調べを手伝って」「誰を?」「光希……」喉が詰まり、かすれた声で言った。「彼、子どもがいるの」……【琴音、俺はあと一週間帰れないけど、ちゃんと俺のこと考えてる?】琴音は光希からのメッセージを見つめながら、涙が糸の切れた数珠のようにぽろぽろと落ちた。光希は毎年七月にな
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