All Chapters of 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜: Chapter 31 - Chapter 40

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第一章:エルミニオ・ヴィスコンティは愚かな夢を見る

それに、自分の罪を棚に上げて俺を批判するとはいい度胸だ!一体どうやって生き延びたのか知らないが、きっと何かからくりがあったに違いない。だが暗殺未遂をバラされたら俺も終わりだ。まさか王太子のこの俺が、ロジータからの侮辱に耐えなければならないなんて。ロジータがルイスの手を取りその場を立ち去ろうとしたのを見て、激しい怒りが湧いた。あれだけ俺を愛していると言っていたくせに、手のひらを返したようにルイスに靡くとは!ああ、分かった!お前がその気なら受け入れてやろう!こんな陰険で傲慢な悪女と別れられて、俺だって清々する!「ああ!いいだろう!お望み通り今すぐ婚約破棄を受け入れ……」だが背後にいたユリが俺を密かに止め、ルドルフォが行動に出ようとする。優秀な側近たちのおかげで目が覚めた。確かにユリの言う通りだ。どうにかしてロジータとルイスの結婚を止めなくてはならない。頭に血が昇って、危うく自らスカルラッティ家の後ろ盾を手放してしまうところだった。ルイスめ!俺にロジータを愛してないだろうと言っておきながら、お前こそロジータを利用するつもりなのだろう!大人しいふりして、俺に反逆を企てていたのか!きつくルイスを睨みつけるが、謝罪する素振りすら見せない。なぜお前がまるでロジータを守る騎士のように振る舞う!ルイスの態度は腹立たしいが、まずはロジータを引き止めるのが先だ。冷静に考えてみれば、ロジータが俺から離れるはずがなかったのに。『エルミニオ様、愛しています。』『なぜリーアにばかり優しくするの?』『私にはあなただけ。』と、あれほどみっともなく俺に縋りついていたじゃないか。今は殺されかけたことを根に持っているだけ。ささいな抗議で、俺を引き留めようとしているのだろう。「はあ。ロジータ。どうせ全て嘘なのだろう?俺の気を引きたいからと、ルイスと手を組んでまでこんな子供じみた嘘を。いくら俺がリーアを愛しているからって、虚言にも程が
last updateLast Updated : 2025-10-02
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第一章:エルミニオ・ヴィスコンティは愚かな夢を見る

王宮のすぐそばを流れる運河の水流の音がする。 テラスから見上げた夜空は無数の星が輝いていたが、そんなものを眺める余裕さえもなかった。「殿下。今回のことは我々も遺憾です。 ロジータ様が生きていたことも驚きですが、まさか国王陛下を味方につけていたとは。 最悪、ルイス様に王太子の座を奪われないよう何か手を考えなければなりません。」「ああ。分かっている。」ユリとルドルフォたちは対策を考えるようにと言ったが、気力が湧かずに下がるようにと命令した。 まだ会場からは人々の笑い声や音楽が聞こえる。 テラスには俺とリーアだけが残されたが、心なしか彼女の表情も暗かった。「まさかロジータ様が生きていたなんて…… あ、いえ!私はロジータ様が生きていてよかったと、言いたくて……」「ああ。相変わらず君は優しいな、リーア。」今にも泣きそうなリーアをそっと抱きしめた。 悪女にも寛大な俺の愛する女。 柔らかく、甘い匂いがする。 この瑞々しい果物のような唇も、美しい体も何度も貪った。 彼女の全てを手に入れた。 だがその瞬間なぜか、さっき舞踏会でルイスと踊っていたロジータの顔が頭に浮かんだ。 なぜだ? スカルラッティ家の後ろ盾は失ったも同然だが、念願の婚約破棄ができたじゃないか。 これからは堂々とリーアを恋人だと言えるのに。 なぜ今、さっきのロジータの顔が浮かぶ!「エルミニオ様?」「いや……何でもない、リーア。」こんなこと、決して口には出せない。 誤魔化すようにリーアにキスしようとすると、下の階のテラスにロジータとルイスの姿が見えた。 二人はテラスの柵に並び、一緒に星を見上げていた。 上の階にいる俺たちには全く気づいていないようで、時々、ロジータとルイスは熱く見つめ合った。 何を話しているかは分からないが、ロジータに近づかれてルイスが顔を赤らめ、視線を逸らす。 ここからでも分かるのは、明らかに二人が親密だということ。 ルイス。お前は俺に反逆を企て、ロジータを利用しているのではないのか? もし違うのなら……本当にロジータを? やがてロジータが、笑顔でルイスに手を差し伸べた。 幼い頃に見た、あの無邪気な笑顔。 二人は星空の下で、お揃いのドレスコード姿で踊り始めた。 まるで本物の恋人のように。 無数の眩い星とランタンに照らし出されたロジー
last updateLast Updated : 2025-10-03
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

理佐貴を失ったのは、私がトラックの交通事故で死ぬ、4年前のことだった。 私たちは大学で知り合って、一瞬で恋に落ちた。 すごく真面目で優しかった理佐貴は、いつも私を大切にしてくれた。 待ち合わせ時間には必ずといっていいほど先に到着していたし、一緒に町を歩くときは私に歩幅を合わせてくれた。 カフェや海でのデートでも思いやりがあって、何をするにも最優先で私のことを考えてくれた。 そんな理佐貴が大好きで、私も同じように彼を心から大切にしていた。「大好きだよ、七央。 結婚したら、一生大切にする。」「うん。私も理佐貴が大好きだよ。 絶対幸せになろうね。」そうやって手を繋いで将来を誓い合うほど。 だけどーー理佐貴は急性の白血病に侵された。 気づいた時にはすでにステージIIIで、治療を開始したけど寛解と再発を繰り返し、あっという間に状態は悪化していった。 治療の副作用や痛み、死の恐怖で苦しかったはずなのに、それでも理佐貴は私のことを気にかけてくれていた。「七央。ごめんな、結婚するって言ったのに。」「ううん、そんなの気にしなくていいよ。 それより理佐貴が元気になってくれるのが一番だから。」「七央。もしも来世があったとしたら、俺たちまた会えるかな……」あの時、理佐貴は悔しそうに目に涙を溜めていた。 そんな理佐貴に、私は「また会えるよ!」と泣きながら答えた。 本当に大好きだった。 彼が亡くなって私の心にぽっかりと穴が空いて、何をしてもそれが埋まることはなかった。 ただダラダラと色あせた毎日を過ごした。 何をしても、どこにいてもずっと彼のことばかり思い出していた。 理佐貴に会いたかった。声が聞きたかった。 彼が恋しくてたまらなかった。 だから信号無視したトラックが目の前に迫ってきた時。 ああ……ようやく理佐貴に会いに行ける、そう思った。 −−− 「ロジータ?大丈夫か?」気がつくと、ルイスが私を心配そうに覗き込んでいた。 いつの間にか
last updateLast Updated : 2025-10-04
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

結婚式は王宮の大聖堂で行われる。チャペルも兼ねており、ヴィスコンティらしい荘厳な雰囲気の場所だ。本来なら式まではもっと時間がかかるものだが、私たちの場合は緊急のため、マルツィオが手配を急がせていた。たまに王宮の使用人たちが私のドレスやルイスの新郎服の採寸、宝石選びなどのために部屋を訪れることもあった。「まあ!ロジータ様はどんなドレスもお似合いですわね!」王家専属のデザイナーたちがやってきて、一斉にドレスをあてがった。どうせ契約結婚なのだから何でもいいのだけど、時々ルイスと目が合って、何だか彼が嬉しそうに見えたので悪い気はしなかった。「ルイス、かっこいいわ!」ルイスの新郎服姿はどれも素敵で、見ているだけで目の保養になった。私が褒めるとルイスは微笑し、また私をドキドキとさせた。「お二人は本当に仲がよろしいのですね!」練習のかいがあり、私とルイスの仲は皆には順調に見えているようだ。広く、エルミニオとリーアの関係が浮気だと知れ渡っていたから、世論も私たちには寛大だったようだ。確かに今ではルイスと自然と過ごせている。ただ、皆を騙していると思ったら少しだけ罪悪感もあった。あれからエルミニオたちからの接触はない。このまま順調にいけば私たちは結婚式を挙げられる。ただ一人、私の父を除いては。−−−「本当に驚いたよ、ロジータ。」マルツィオに特別に応接室を借りて、尋ねてきたジャコモと対面した。二人きりで話がしたいというから、ルイスには席を外してもらっている。使用人が入れた紅茶には手をつけず、ジャコモはずっと私を凝視していた。「一体いつ、ルイス殿下と結婚する話になったんだ?」「すみません。早くお話するべきでした。」人のことは言えない。私とジャコモも親子とはいえない、冷え切った間柄だ。「お前はエルミニオ王太子殿下の妻になるはずだった。そのために育てたのに、何なのだ?
last updateLast Updated : 2025-10-05
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

医者が去ったあと、私は誠心誠意ルイスに謝った。彼の頬は腫れていて、罪悪感でたまらない気持ちになった。「ごめんね、ルイス。私のせいで。」「ロジータ、なぜお前のせいなんだ。俺が勝手にしたことだから、謝る必要はない。」「でも……。」「これくらい大したことない。むしろロジータ、お前がケガしなくてよかったよ。」ルイスがふわっと笑い、私の髪を撫でた。え……ちょっと待って。ルイスそれ、本当の恋人みたいよ?また胸が高鳴ると同時に、その手つきにどこか懐かしさを覚えてしまう。って、気のせいよね。初めてこんなことされたのに、懐かしいだなんて。少し罰が悪そうにルイスは咳払いした。「俺こそ、盗み聞きしてすまなかった。少し扉が開いてて……とにかく、お前と公爵の関係がよく分かったよ。これまでも家ではあんな風に扱われていたのか?」ルイスの琥珀色の瞳が揺れた。これーー心配してくれている顔だ。私、本当にルイスのことをよく分かってきた。「みっともなく見えたでしょう?あのロジータ・スカルラッティが自分の父親には逆らえないなんて。」傲慢でわがままだった私も、ジャコモの前では萎縮してしまうただの娘にすぎなかった。少し自虐気味に言うと、ルイスが私の手に自分の手を重ねた。「ロジータ。お前がみっともないとは思ってない。だから自分を卑下するな。俺たちは弱さを見せ合うーーそう約束しただろう?」顔を上げると、ルイスが私に眩しい笑顔を向けていた。「そうだったわね。心配してくれてありがとう、ルイス。」ルイスってやっぱりスパダリね。こうやってさり気なく励ましてくれるんだもの。重ねたルイスの手に、ぐっと力がこもる。「ロジータ。確かに俺たちは、契約結婚するに過ぎないかもしれな
last updateLast Updated : 2025-10-06
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

今、私は運河の水流の音が間近に聞こえる王宮の最北端にいた。 ここは王宮の数ある宮殿の中でも、ほぼ人が寄りつかない薄暗い庭園。 夕暮れの空の下、早くもランタンが灯っていた。 上手く抜け出してきたので、幸い王国兵には気づかれていない。 なぜ私がそんな場所にいるのか? ———遡ること、数時間前。 私はとある人物から脅迫を受け、この場所に呼び出されていた。「ロジータ・スカルラッティ。」背後に人の気配がし、勢いよく振り返る。「ダンテ様。」そこにいた人物は侯爵令息のダンテ・フォレンティーノで、エルミニオの親友だった。 ローブで隠してはいるが、私より色濃い金髪に紫色の瞳で、エルミニオに劣らず才色兼備。 背はルイスよりも少し低く、いつも不思議な気品を漂わせていた。 リーアに片想いをする登場人物の一人。 そして、エルミニオに私を暗殺するように助言した男でもある。 冷酷な人物で、自分の利益になるためならどんなことでも引き受ける。 策略を考えるのも得意で、リーアにとっては最大に頼もしい相手であり、私にとっては最大の敵と言っていい。 まさかこの男が接近してくるとは!「ロジータ嬢。 私の招待に応じていただき、感謝いたします。」ダンテは長めの金髪を揺らし、しらじらしくお辞儀をして見せた。「ダンテ様。 まさかあなたが脅迫してくるなんて、思いもしなかったですわ。」私が使用人から受け取った手紙には、『ロジータ嬢。あなたがリーアを毒殺しようとした証拠を握っています。 エルミニオはあなたに弱みを握られているので黙っていますが、私は違います。 言っている意味は分かりますよね? 宮殿の最北端でお待ちしております。』と書かれていた。 これがダンテからの脅迫文だと分かったのは、文脈と、この場所が彼とリーアの思い出の場所だったからだ。 私が鋭く睨みつけると、ダンテは軽く笑った。「分かっているなら話が早そうですね。 あなたがリーアのワインに仕込んだ毒の瓶。 あれを、あなたの使用人から回収しておきました。」「それで私を脅迫を?」通りで、瓶を廃棄するように頼んでおいた使用人が消えてしまったのね。 ダンテに私を売り、金を受け取って姿を消したのだろう。「復讐のつもりですか。」密かにダンテもリーアを想っているから、この脅迫も十分理解はできる。 それにこ
last updateLast Updated : 2025-10-07
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

「一体、どこに行っていたんだ、ロジータ!」マルツィオの忠告もあって遠慮していたのに、ルイスは結局私の治療をし、疲れて眠っていた。だから今ならと思って行動したのだけれど。ダンテとの取引き後に部屋に戻ったら、ルイスにすごく怒られた。使用人たちも何事かと驚いている。皆を下がらせ、私はルイスに事情を話した。「そんなことが……。なら余計に、なぜ起こしてくれなかったんだ、ロジータ。お前を守ると約束したばかりだったのに。」ルイスの声は掠れていて、髪も乱れていた。私がいなくなったことを知って、ずいぶん取り乱してしまったみたいだ。しまったと思った。一人で解決しようとした私の悪いくせが……私は宥めるようにルイスの腕にそっと触れた。「ごめん、ルイス。私、あなたが疲れているかと思って……」言い終える前に体を引き寄せられ、私はルイスの腕の中にいた。え——————?私、ルイスに抱きしめられている……?「俺はまた、お前が兄さんに何かされたんじゃないかと思って!」耳元で聞こえたのは、ルイスの怒りを含んだ涙声だった。それを聞いた瞬間、傷口より深い心臓の奥がぎゅっと痛んだような気がした。「ごめんね、ルイス。今度からはちゃんとあなたに声をかけるから。」「そうしてくれないと、俺が困る。」彼の手に強く力が込められ、さらに私たちの体が密着した。確かに浅はかだった……。黙って出て行ったのも悪かったけれど、まさかここまでルイスが心配するなんて思わなかった。ダンテが脅迫してきたのは私だったし、ルイスに迷惑かけたくなかったから。それにしても、ルイスの腕の中はなんて温かいのだろう。まるで全ての危険から守られているようだった。
last updateLast Updated : 2025-10-08
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第一章:私とルイスの華麗なる結婚式

ここで一つ。 招待客たちは、ようやくこの場にいない人物のことを噂し始めた。「そう言えば、式に王太子殿下が参列していないようですね?」「まさか、招待されなかったのでしょうか?」「つい最近まで婚約者だったロジータ様が結婚するのですから、わざと参列なさらなかったのでは?」「だからと言って、実の弟の結婚式に王太子が参列しないのは前代未聞ですよ。』想像以上に皆の声は大きく、祭壇前にいる私とルイスの耳にも届いた。 狙い通りね。 人々の噂が飛び交うなかで私は口角を上げ、ルイスに目配せをした。 ルイスもまた、大神官に気づかれない程度の笑みを浮かべた。 私たちは、無垢な子供のように笑い合った。 エルミニオに結婚式を台無しにされないようにと手を打った、ダンテとの取引き。 内容は、結婚式の開始時間と会場を変更したという嘘——————。 それが今、エルミニオが結婚式に現れない最もな理由。 真相は私とルイス、ダンテ以外誰も知らない。「ダンテ様がうまくやってくれたみたいね。」あの時、私はダンテにこう提案した。『ダンテ様は、私が用意した手紙をエルミニオ様に渡してください。 何気ないこの1通の手紙が、私たちにとって最も重要な鍵になるでしょう。 ただし、ダンテ様が私たち側に寝返ったと気づかれると、計画に支障が出てしまいます。 ですから当日、私とルイスの結婚式を妨害するように彼らを唆してください。 ダンテ様は何も知らないふりをして、式を壊すためのあれこれを画策してください。 そのようなことが、ダンテ様は得意ですよね?』腹黒い性格は把握していますよ、と私はダンテを脅すように微笑んだ。 この男は、どうせできないだろう?と言われるほど燃えてくるタイプだ。 煽れば煽るほど面白いくらい動いてくれるだろう。 ダンテは数回瞬きをし、上品な笑みを浮かべた。『手紙1通で何ができるのか分かりませんが、いいでしょう。 気に入りました。 私はエルミニオに手紙を渡し、式場の妨害工作を考えればいいわけですね。』『そうです。 成功すれば、約束通り5倍の報酬をお支払いしましょう。』王宮で最も廃れた庭園。 私とダンテは互いに少しも目を逸らすことなく、微笑みあった。 赤く染まった夕日が静かに沈むなかで、彼と私の金髪が同調するように風に揺れた。 ダンテ、まさか思いもしな
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第二章:初夜の大騒動

私とルイスは互いの悲劇的運命を回避するため、ついに契約結婚を成立させた。お互いの目的が果たされたら、私たちは後腐れなく離婚する予定である。だけど最近の私はおかしい。ルイスを見ると胸が高鳴り、優しく見つめられると顔が火照ってしまう。私には前世の恋人、理佐貴だけ!って思っているはずなのに……見事にエルミニオたちを引き離し、馬車に乗って王都を回ると、多くの国民たちに祝福された。「ご結婚、おめでとうございます!第二王子様、王子妃様!」「王子妃様!本当におきれいです!」「お二人に末長く祝福を!」国民たちは満面の笑みで街道で手を振り、私とルイスの結婚を心から喜んでくれているようだった。「みんな、ありがとう。」「ありがとう、幸せになるわね。」ひとしきり彼らに手を振り返したあと、馬車の中で一息ついた。あくまでこれは契約結婚だと自分に言い聞かせているのに、なぜか感極まって涙が滲んでしまう。本当に夢みたいで。まさか悪役令嬢だった私が、ヴィスコンティの国民にお祝いされる日がくるだなんて。「泣いてるのか?ロジータ。」頭からつま先まで見目麗しいルイスが、私の顔を覗き込んだ。不意打ちは反則よ!今日のルイスは豪華な新郎服に加え、髪を後ろに流してまとめていた。いつもと違って色気が漂い、目が離せなくなる。だからルイス、そんな風に見つめないで。「う……っ、嬉しくて。まさか私が、国民に温かく祝ってもらえるなんて思ってもいなかったから。」私はまたルイスから勢いよく目を逸らした。しかし嬉しいと言ったのは嘘ではなかった。『悪女、ロジータ』。エルミニオに執着し、愚かな行いばかりしてきた私が、長いこと社交界で悪女呼ばわりされていたのを知っていたからだ。だからこそ、国民の反応は予想外だった。原作では、エルミニオとリーアの『身分を超えた世紀の愛!』が話題になっていたのに?「俺と結婚するんだ。誰も文句は言わないだろう。」窓から差し込んだ陽の光りを浴びて、少し照れ臭そうにルイスが呟いた。ルイスが宣言するたび、激しく心が揺れ動いた。「全く。そういうところよ、ルイス。本当に私が惚れてしまったら、どうするのよ?」「……それも、悪くないかもな。」「え?」意味深な言葉を呟いたルイスは、国民たちにまた手を振り始めた。今のどういう意味?ーーー結婚式の
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第二章:初夜の大騒動

背後にいたのはルイスの使用人で、控えめなアメリアだった。 ローズブロンドの髪と黒い瞳が特徴で、クリーム色の使用人服に、帽子をかぶっている。「アメリア? そんなに真剣な顔して、どうしたの?」浴槽に浸かっていた私をアメリアは静かに見つめ、抑揚のない声で答えた。「ルイス様より、王子妃様のお世話をするように申しつかっております。 ですので、私がお背中をお流しいたします。」アメリアはそう言って手に柔らかい布と香油を持ち、浴槽にいる私に近づいた。「王子妃って!照れるじゃない。 いつものようにロジータでいいわよ。 それならお願いしようかしら。 ちょうど包帯の交換も頼もうと思っていたのよね。」「はい。それではさっそく失礼いたします。 今夜はいつもより念入りに仕上げますね。 ルイス様と大切な初夜がございますので。」アメリアの目はどこか据わっていた。「?いつもの通り、普通でいいのよ?」彼女は私とルイスの仲が契約結婚だと知っている人物の一人である。 エルミニオに心臓を刺され、瀕死でルイスの寝室に運び込まれた際、私の身の回りの世話や隠蔽工作をしてくれたと聞いている。 あの状況では、必要最低限の協力者がいなければルイスも治療に専念できなかったそうだ。 確かに私がルイスの寝室に匿われていた時、一人で看病するには限界があっただろう。 時々外の様子を報告にきたり、私に使用人服を貸してくれたのもアメリアだった。 マルツィオのプライベートエリアに避難していた時も、お風呂の世話と包帯の交換は、いつもアメリアに任せていた。 そう言えばもう一人、私たちが契約結婚だと知っている人物がいると言っていたわね。 確かルイスの側近で、仲のよい護衛騎士だって。 彼もあの危機的状況でエルミニオたちの動向を探ってくれたり、撹乱するのに役立ってくれたと言っていた。 どちらも口が固くて、決して裏切らないとも。 やはりルイスが優秀だと、彼の周りにも優秀な人材が集まるのね。 バラの花が浮いているおしゃれな浴槽の中から、私は身を乗り出した。「アメリア。知っていると思うのだけれど、私とルイスに初夜はないわよ?」「存じ上げております。 しかしこれはルイス様からのご命令です。」「ルイスの……?」いつも優秀で生真面目なアメリアが少し微笑を浮かべた。「やはり二人が契約結婚だと
last updateLast Updated : 2025-10-11
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