All Chapters of 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜: Chapter 41 - Chapter 50

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第二章:初夜の大騒動

寝室に入ると、ぼんやりと照明が灯っていた。星型のランタンは柔かな光を放ち、キャンドルの炎はゆらゆら揺れ、部屋いっぱいに甘い薔薇の香りが漂っていた。「ルイス……?」ベッドに座っていたルイスが、驚いたように肩を揺らした。ルイスは少し薄めのガウン姿で、どこか緊張したような面持ちをしていた。お風呂上がりなのか、髪もまだ湿っているようだ。おろされた前髪が、何だか色っぽい。「ロジータ、きたのか?」「ええ。というか、こんなに照明を暗くして、どうしたの?」なぜか私もぎこちなくベッドに座った。これまでルイスとは何度も同じ寝室で過ごしたはずなのに。今夜はやけに緊張するわね。しかもルイス、色気が反則級よ。「あら?」手にふと触れたのは、赤い薔薇の花びらだった。ロマンスファンタジーでよく見かける、ベッドに散らばる花びら。両サイドにはキャンドルが置かれ、近くにお香まで焚かれていた。「コホン。ア、アメリアが準備したみたいで。」「そうなのね。か、完璧に周囲を欺くにはこのくらい徹底した方がいいものね。」気まずそうに咳払いするルイスを見て、こちらまで気まずくなってしまう。変な気分だ。お風呂に入る前までルイスに治療されて、普通に手まで繋いだのに。今は何だか手さえ触れられない気がする。「ルイスこそ、体調に変わりはない?」話題を変えなきゃと、凛々しく顔を上げる。「あ、ああ。だから、俺は大丈夫だと言っているだろう。」「そうだけど、やはりあなたにずっと治癒力を使わせるのは、気が引けるわ。陛下は力について話してはくれないみたいだし、このままルイスに力を使わせるにも不安で……だから明日、王室の図書室へ行こうと思ってるの。」「禁忌の力について調べるのか?それは俺も昔調べたことがあるが、力について書かれた本は見つからなかったぞ。」ヴィスコンティで『禁忌の治癒力』の名残ーーと言われるほどの力なのに、なぜ隠されているのだろう。普通なら禁忌を犯さないために、大々的に語り継がれていそうなものだけれど。「となると、やはり禁書庫よね。確か、陛下や一部の臣下たち以外は、立ち入り禁止なのよね。陛下は一体、何を隠しているのかしら?」「さあ。それは俺にも分からないな。だが、禁書庫に入れないか、俺が直接父上に尋ねてみよう。」「お願いね。ルイスの安全のためだから。」
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第二章:初夜の大騒動

その夜、私はまた理佐貴の夢を見た。 このところ本当に頻繁だ。 けれど、なぜかその時の理佐貴は酷く悲しそうな顔をしていた。 なぜ?どうしたの?理佐貴。「七央。会いたい……。」彼がそう口にするたび、私も「会いたい」と伝えたかったのに、なぜか声が出なかった。 私だって会いたいよ。 ずっと探しているのに、あなたはどこに行ってしまったの? 彼が暗闇に、すうっと飲み込まれるみたいに消えていった。 声にならない声で、私は必死に彼の名前を呼び続けた。「待って、理佐貴、行かないで!」はっと目覚めると、真っ先に星形のランタンが目に入った。 落ち着いて。ここはヴィスコンティ、ルイスの寝室だわ。 今のが夢だと理解したが、まだ心臓がバクバクしている。「何だったのかしら、今の夢は……」振り返ると、ルイスが背中を向けて眠っているのが見えた。 壁や天井から吊り下がったランタンは灯っていたけれど、キャンドルの炎は消え、香も燃え尽きている。 部屋は完全な静寂に包まれていた。 初夜といっても、ルイスもいつも通りね。 夢でも理佐貴に会えるのは嬉しいけど、さっきのはちょっと……「う……」「ルイス?」聞こえたのはルイスの呻き声だった。 ルイスも何か悪夢を? 私は飛び起き、ルイスの背中に呼びかけた———はずだった。 一瞬にしてルイスに腕を掴まれ、私はベッドに押し倒された。「きゃあああ!」気づけば、ルイスが苦しげな表情で私に跨り、荒々しく息を吐いていた。「ハア……ハア……ハア……ッ、リーア。 ああ……なぜ分かってくれない? リーア……俺は、こんなにもお前を……お前のことを!」これは! ルイスがリーアへの歪な想いに苦しみ、夜な夜な彼女を求めて彷徨うようになる前の台詞だわ! 最近ではルイスが明るくなっていたから油断していたけれど、やはり潜在意識では彼女への想いに苦しんでいたのね!「ルイス、しっかりして! 原作の強制力に負けては駄目よ!」必死に訴えるが、ルイスの目は完全に据わっていて私の顔を全く見ていない。 彼に重くのしかかられ、身動きが全く取れなかった。 何とか説得してルイスを悪夢から醒まさないと!「リーア、なぜ……兄を……エルミニオを選んだ? 俺がお前を好きだと知っていたはずなのに、なぜ…… お前が兄のものになるくらいなら、いっそお
last updateLast Updated : 2025-10-13
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第二章:初夜の大騒動

ルイス、まさか正気に戻ったのにキスをしたの?「そんなに睨むな、ロジータ。」「だ、だって!あなた、今私にキス、キスを、キ……」「お前もしただろう。 って……ごめん。だけど悪気があったわけじゃない。 ただ、ロジータ、お前にキスしたかったんだ。」「!??」それってどういうこと? ……ルイスはまた顔が真っ赤だし、瞳は子犬みたいに潤んでいた。 その、世界最強の“デレ”を見せるの、やめてもらっていいかしら? 心臓が全くもたないのだけれど!「し、したかったって何? ルイス、私たちは、ただの契約結婚……」焦ってはいけないと何度も学習したはずなのに、動揺した私は後ろ向きでベッドから下がり、お約束みたいに足を踏みはずしてしまった。「ロジータ、危ない!」《ガシャン!!ドタン!!》 景色が反転して、高い天井が目に入った。 しかも落下した瞬間、私は天蓋ベッドの脇に垂れていた布を思い切り掴んでしまった! さらに悲劇なのが、ワインが乗ったテーブルが巻き添えになり、派手な音を立てて一緒に倒れてしまうという。 ああ、もう、これで何度目!? ヒビの入ったボトルからワインがこぼれ、床の大理石が赤く染まっている。 だけど変ね? 頭から落ちたわりに、どこも痛くないわ。「ルイ……ス?」気がつくと、私が頭をぶつけないようにルイスが馬乗りになり、両腕で支えてくれていた。 まさか、また私を庇ってくれたの?「ごめん、ルイス!ケガはない!?」「いや、俺は何とも。 それより、お前は大丈夫か?ロジータ。」助かったけれど、目が合った瞬間にまた変な雰囲気になってしまう。 と言うより、さっきより気まずい……! 見るとルイスのガウンがはだけていて、逞しい胸元が露わになっている。 さらには私もガウンがずれ、左肩が露出していた。 お互いのガウンは赤いワインが飛び跳ねて悲惨なことになっているし、床は散らばったボトルの破片や氷、布や花びらが散乱している状態。「ルイス様!?ロジータ様!」「すごい音がしました!いかがなされましたか!」ついにアメリアたちまで血相を変えて、部屋に飛び込んできた。 今の大きな物音に、侵入者か、事故でもあったのではないかと心配したのだろう。 そうやって誰もが慌てて部屋に駆け込んだ結果、床で私とルイスがあられもない姿で絡み合っているのを見られて
last updateLast Updated : 2025-10-14
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第二章:ルイスの嫉妬

朝からルイスの宮殿には賑やかな笑い声が響いていた。 部屋には急いで作られた私とルイスの肖像画が並び、明るい花柄の壁紙に、おしゃれなアンティーク調の家具などが配置されていた。 その場に立って、楽しげに笑う人物の名前は———マルコ・ルナスクーラ。 淡いアッシュブラウンの髪に、青緑の瞳。 ルイスの専属護衛騎士であり、彼の最側近。 見た目は華奢だが、相当な実力者だと聞いた。 そして私とルイスの仲が契約結婚だと知る、三人目でもある。「あははは!お二人とも、“初夜”の演出にしては少々やり過ぎたようですね。」紅茶を啜っていたルイスの顔が赤くなり、手がぴたりと止まった。「マルコ。笑い過ぎじゃないか?」私の隣に並んで座るルイスが、怒ったようにマルコを見つめた。「そんなことはありませんよ。ねえ、アメリア嬢。」決して嫌味な笑い方ではなく、心底楽しそう。 そんなマルコは、隣にいたアメリアをも巻き込んで返答を求めた。「はい。私も、朝から他の使用人たちが噂をしているのを聞きました。」笑いを堪えきれないマルコとは違い、アメリアは謙虚な姿勢だった。「例えば、どんな?」「昨日お二人は、それはそれは激しい初夜を迎えられたと。 ベッドを壊したり、床にワインボトルや花びらを散乱させるほど求め合ったとか。 さらには一緒にお風呂に入って、仲睦まじかったとか。」なぜかアメリアは途中から顔を赤らめている。「はあ。あの時、寝室にきた騎士や臣下たちの見たまんまじゃない。」昨夜、マルコの他に控えていたのは、騎士二人とルイスを支持する侯爵。 そして初夜の正当性を証明する高位神官。 風呂に入る際の準備を手伝った、数名の使用人だ。 あの人たちが噂をそのまま広めたようね。「あ!ちなみに俺も広めておきましたよ。 お二人が、それはそれは激しく愛し合ったみたいです、と。」挙手までして、マルコが嬉しそうに白状した。「お前なあ。」「だってお二人の契約結婚のことを知られてはならないのですから、むしろこのような噂が広まった方が、幸運《ラッキー》じゃないですか?」年齢はルイスの1歳上だと聞いているが、二人は身分の差に関係なく親しかった。 マルコとは幼い頃から共に育った。 信頼できる味方だとルイスは言っていた。 確かにマルコは原作にも登場したが、あくまでモブだったと思う。 そ
last updateLast Updated : 2025-10-15
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第二章:ルイスの嫉妬

ルイスが服を着替え、謁見の準備を終える頃だった。「ロジータ様、こちらを。見張りをしていた騎士が言うには、この手紙を渡すようにと頼まれたそうです。」業務に戻っていたアメリアが血相を変えて、私の元へと小走りに駆け寄ってきた。渡されたのは差出人名のない1通の手紙。「一体誰から?」「ロジータ、誰からの手紙だ?」封を開けて私が中身を確認するのを、ルイスも腕のボタンを留めながら尋ねてきた。《ロジータ・スカルラッティ嬢。この間の結婚式は、いかがでしたでしょうか?私が知る限りでは、ご満足頂ける結果になったのではないでしょうか。さて、約束の報酬について、そろそろ我々は語るべき頃ではないかと思います。よければこの後、例の場所でお会いしましょう。ただしこの場には必ず一人きりで来てください。あなたの秘密のパートナー・Dより》それを見て、私は一瞬で手紙の送り人が誰なのかが分かった。「アメリア、私の金庫の鍵を準備してちょうだい。」「はい…!分かりました、ロジータ様。」「ロジータ、一体誰からだ?」「ダンテ様よ、ルイス。どうやら、これから彼に会わなければならないみたい。」正直に答えると、とたんにルイスの表情が翳った。「ダンテ・フォレンティーノと二人きりで会うのか?」なぜかルイスが唇を噛み締めているようにも見えるけど、気のせいよね?「ええ。この前約束した報酬を受け取りたいみたいよ。けれどルイス、心配しないで。お金は私が実家から持ってきた宝石やアクセサリーを売って作っておいたから……」「違う、そうじゃない。俺が心配してるのは、そうではなくて……っ」ルイスは困ったように声を詰まらせた。もしかしてダンテがエルミニオ側の人間だから、心配しているのかしら?しかしこれは、ダンテと取引をした私が対応すべき問題。「ルイスはこれから、陛下に会わなければならないでしょう?」早く禁書庫への入室許可が欲しいから、ルイスには絶対に謁見に行ってもらわなければならない。「ダンテは俺が知る限りでも、かなり狡猾な男だぞ。一人では危ないのではないのか?」「ダンテ様は、私に一人で来るようにと言っているわ。大丈夫よ、この前も大丈夫だったのだから。向こうも下手なことはできないはずよ。」「しかし……!」着替えを中断してまで、ルイスが怖い顔で私に近づいてくる。「
last updateLast Updated : 2025-10-16
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第二章:ルイスの嫉妬

思えばダンテも、リーアを密かに想う不憫な当て馬の一人である。原作でダンテは、好奇心から王宮を探索していてこの庭園にたどり着いた。その時に、泣いているリーアに出会った。ダンテはリーアが自分の親友の想い人だとは知らずに彼女を慰め、そこから二人の密会が始まった……という内容だった。ダンテの気持ちを知らないまま、リーアは彼にエルミニオとの恋の相談をすることになった。そう考えると、ルイスの結末よりはマシだとしても相当つらい恋のはずよね。「あなたもルイス殿下も、どうしてそう変わったのでしょう。」ダンテは、まるで自分が変わらないことが不満だとでも言いたげだった。「ダンテ様も、新しい恋でもしてみたらどうですか?」私はダンテを見おろしながら、つい無意識にそんなことを口走った。瞳が驚いたように大きく見開く。「面白いですね、ロジータ嬢。まるで私が、誰かに恋をして苦しんでいるかのような言い草だ。」「あら、そうではないのですか?」誰にも気づかれないと思っていたリーアへの想いを、私に知られていて驚いたかしら。確かにダンテに私は無意識に同情していた。宝剣で私を殺すことを、エルミニオに提案したひどい男なのに。「簡単に忘れられるなら、恋などしませんよ。ですがロジータ嬢、あなたは見事に忘れ去ることができたのですね。」「ええ。お陰さまで。真に愛するルイス様にも巡り合えましたし。」笑顔で私が答えると、ダンテは溜息混じりに苦笑した。そうやって笑えば美形なのだから、もっとリーア以外にも幅広く目を向ければいいのに。「ロジータ嬢、報酬は確かに受け取りました。」「ええ、嫌いな私に協力してくれてありがとうございました。」皮肉を混ぜて言うと、ダンテは袋を懐に仕舞いながらまた笑った。用事が済み、軽く頭を下げて私はその場を立ち去ろうとした。だが背後からダンテに腕を掴まれた。「!??」その瞬間、少し離れた建物に隠れていたマルコが飛び出してこようとする。しかし私は「大丈夫、心配いらないわ。」と目配せをして、マルコの動きを止めた。すでにダンテが、マルコの存在に気づいていたからだ。やはり油断ならない男ね!「一人きりで来るようにと言ったのに、少し残念です。ですが、許します。ルイス殿下があなたを相当大事になさってるようなので。それよりもロジータ嬢。私ともう一
last updateLast Updated : 2025-10-17
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第二章:ルイスの嫉妬

翌日、私とルイスは王室の図書室———その最奥にある『禁書庫』の前に立っていた。「ここが、ヴィスコンティ王家の禁書庫ね。」「ああ、俺も中に入るのは初めてだ。開けるぞ。」ヴィスコンティ王家の紋章が刻まれた重厚なドアの鍵穴に、ルイスが国王マルツィオから受け取った古い鍵を差し込む。ゆっくりルイスが扉を押すと、中からひんやりとした空気が流れ込んできた。王室の図書室だけでも荘厳な作りで、膨大な書物の数に圧倒されそうだった。禁書庫には一体どんな書物があるのだろう?「あ、あれ?意外と狭い……。」一つの宮殿にも匹敵するほどの広さを誇る図書室とは違い、禁書庫はこぢんまりとした作りになっていた。不思議な六角形をした、窓のない部屋。換気口はある。各所に星形のランタンが灯り、どこか温かみのある室内。天井は高く、神や天使といったヴィスコンティ特有の絵画が描かれていた。壁一面に木製の本棚が並び、羊皮紙の古い本の匂いが漂ってくるようだった。完全にファンタジーの世界。本棚には禁書とされる書物がびっしり詰まっていた。多くは皮や布で装丁された厚い本だが、中には金属の留め具で封印されたものや、ガラスケースに収められた巻物や石板まである。ほとんどが読めそうもない古代語で、この中から『禁忌の治癒力』について書かれた書物を探すのは骨が折れそうだ。「この中から探すのは、大変そうだな。」ルイスも同意見だったようで、私も頷いた。「これ、きっと古代語よね。読めそうなものから探すしかないかしら。」「そうだな。俺も古代語は読めないから、文字じゃなく、絵や図版が描かれた書物を探した方がいいかもしれない。」「さすがルイス!頭いい。」「……っ、そんなことはない。」「!!」謙遜しながら顔を赤くする彼を見て、こっちまで赤面が移ってしまう。最近、ルイスとは何かとハプニングだらけで……キスしたり、キスされたり、おまけに彼が人のことを『俺の妻』だなんて連呼するから。急に気まずくなって、私たちは背を向け合う。「と、とにかく探しましょう!」「そ、そうだな。」しばらく私たちは夢中で書物を探した。最初は手頃そうな物から手をつける。中にはヴィスコンティ国語で書かれたものもあったが、『禁忌の治癒力』について書かれた物は見つけられない。かと言って、ガラスケースに入った本を開けるに
last updateLast Updated : 2025-10-18
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第二章:ルイスの嫉妬

最悪だわ。あの時、お怒り気味に馬車を追いかけてきた時以来かしら?いくら広大な敷地面積を誇る王宮だとはいえ、やはり会う時は会ってしまうものなのね。背後には何冊か書物を持ったユリ、入り口近くに待機したルドルフォの姿が見える。エルミニオは目の前に立ち、黒に金糸の入ったダブレット姿で、まるで獲物を追いつめるような鋭い瞳で私を見下ろしてくる。殺したくても殺せないのがもどかしい、といった表情かしら?だからって、そう睨みつけないでほしいわ。「王国の若き太陽、エルミニオ王太子殿下に拝謁いたします。」私はエルミニオの顔もろくに見ず、無難にカーテシーを披露した。今、禁書庫に戻るのは避けたほうがいいだろう。エルミニオに、ルイスが禁忌の治癒力を使ったことを気づかれてはいけない。弱みを握らせることになってしまうから。それはそうと、今日はリーアを連れていないのかしら?いつもどこに行くにも必ずと言っていいほどリーアを連れていたのに、今日は珍しいわね。背後からユリが何か言いたそうにしかめっ面をしているけれど、思いっきり無視しよう。「それでは、殿下、私はこれにて失礼いたします。」サッと頭を下げ、私はエルミニオの脇を通り抜けて禁書庫とは反対側へ去ろうとした。「——— ルイスとの“新婚ごっこ”は楽しいか?」通りすがりそう皮肉を吐き捨てられる。何?新婚ごっこですって?腹は立つけれど、ここは我慢よ。丁寧に振り返って、私は微笑み返した。「お言葉ですが、殿下。私とルイスは真剣に愛し合っているので、“ごっこ”呼ばわりはどうかと。まあ、幸福と聞かれましたら、そうですね。お陰様で、彼との新婚生活は満喫しております。」実際にルイスとの契約結婚生活は楽しくて、嘘ではない。「は!白々しい。ロジータ、一体いつからルイスと手を組んでいたのだ?」刺々しい声、苛
last updateLast Updated : 2025-10-19
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第二章:ルイスの嫉妬

私たちの異様な様子に、ユリが躊躇いがちにエルミニオに報告をした。リーアが?何でもいいからいいタイミングだわ。さっさとこの男を、私の前から連れて行って。「何、リーアが?ここへは来るなと言っておいたのに。」これで、ようやく解放されると思ったのに。「仕方ない。入り口付近で待たせておくように。」訝しげに吐き捨てると、再びエルミニオは私に冷たい視線を向けた。ユリは不満げに私を見たが、小さく頭を下げて、その場を去ってしまった。「逃げられると思ったのか?ロジータ。」「ふふ。本当に呆れますね。ですから逃げるも何も、殿下こそご自分が何をやっているのか自覚はあるのですか?」言われっぱなしは癪に触る。私もエルミニオに刺々しく言い返すが、全く通じてないようだ。愛しいリーアを放っておいて、憎い私に構っている場合ではないでしょう?どうしたら納得するのよ、この男は!そんなあからさまな殺意を向けないで欲しいものだわ。憎らしいのはこっちだって同じよ!「エルミニオ様……!」その時、エルミニオの背後に勢いよく何かが飛び込んできた。使用人とは思えない、美しいローズピンク色のドレスを着たリーアだった。もうすっかり王太子妃気取りね。彼女は甘えた様子でエルミニオの背後に隠れ、私に怯えたような視線を向けた。「あ……!ロジータ様もご一緒だったのですね。」「一体どうしたのだ?リーア。図書室には来るなと言っておいただろう?」やっとエルミニオが私から離れ、代わりに宥めるようにリーアの肩を叩いた。「だって、エルミニオ様がいないとつまらなくて。」「困ったな。君が退屈しないよう、使用人をつけたじゃないか。」「ええ、でもやはり、エルミニオ様のそばにいたいんです。」純真な雰囲気を匂わせて彼女はエルミニオに抱きつき、目は私を憐れんだ
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第二章:幸せの対価

私たちはその晩、禁書庫で得た情報を照らし合わせていた。闇が深まり、ステンドグラスから差し込む月明かりと、ランタンの暖かな灯りが幻想的に寝室を照らしていた。今夜もアメリアが張り切って準備してくれたガウン姿で、私は中央のソファに座っていた。対面に座るルイスも、色気のあるガウン姿だった。「ヴィスコンティ語と古代語で書かれた、似たような図版を見比べてみたの。私の予想では、『禁忌の治癒力』は王国の建国時から存在していると思うわ。これを見て、ルイス。」私はあらかじめ図版を模写したものをルイスに差し出した。「第1に、『星の誕生』。おそらくこれがヴィスコンティ王国の始まり。そして第2が、『一致する運命の刻印』。第3が『冠をかぶった男女』。第4が、『眩い光を放つ冠の女性』。ケガを負った小動物や鹿、人間が回復している様子が描かれているわ。そして最後に、『女性を失い悲しみに暮れる冠をかぶった男』。」「なるほど。これは建国神話で、この男女は初代王と王妃だな。俺が見た禁書にも似たようなのがあった。」ルイスは頷きながら模写を見つめた。「その通りよ。おそらく、初代王妃は『治癒力』を持っていた。ルイスと同じように。」ヴィスコンティ国語で書かれた禁書には、初代王と王妃から始まる王家の家系図が描かれていた。それによると、初代王妃は早くに死別となっていた。王は後に別の妃を迎え、現在に至っている。途方もない年月を経て。「初代王妃は、なんらかの形で亡くなり、王が亡骸を抱えて悲しんでいるように見えるでしょう?」文字は分からなくても図板は、十分に当時の国王の悲しむ様子を伝えてくれている。ルイスは模写を手に持ち、しばらく見つめた。「そう見える。救えなかったのを嘆いているようだ。俺が見た図板では、彼女は多くの人に崇められていたようだった。」そう、まるで『聖女』のように。では、崇
last updateLast Updated : 2025-10-21
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