All Chapters of 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜: Chapter 11 - Chapter 20

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第一章:契約結婚の予行練習

……き、気まずい。 なぜなら体勢を崩した私が、ルイスにしっかり抱き止められているから。 しかも、彼の膝上にまたがる形になってしまったから。 本当に信じられないし、心が悲鳴をあげている。 ありえないこの状況に、ルイスも目を見開いて固まってる。 やはりチェニックの上からでも、ルイスの腕も胸も本当に逞しいというのが分かる。 それに薔薇の香水のようないい匂いまでする。 両膝も石みたいに硬い。 ルイス、もしかして鍛えすぎなのでは? 見た目は華奢なのに、反則でしょう。「〜〜ったく、だから、何をやっているんだ?お前は。気をつけろと言っただろう!」「ご、ごめんなさい、ルイス!」ルイスの照れながらも呆れ顔、といったものが視界に入ってくる。 私の方も結局、また敬語に戻ってしまうが今はそれどころではない。 とにかく私は慌てて体勢を立て直そうとした。「私だってわざとじゃありません、ただ、なぜかこう体が……っ」だが、ぐんと何かに引っかかり、また体がルイスに近づいてしまう。 なんと今度は、私が着ているチェニックの前止めの紐が、ルイスのチェニックのボタンに絡まっていた。 そのせいで服が引っ張られ、胸元が露見する形に。 今度こそ完全に墓穴を掘った。 もう!この失態は、本当にどうしたらいいの!「待て、ロジータ、動くな!」ルイスの口調が強くなる。 目の前で肌を露出した私を叱りつける。「俺が取るから、お前は動くな。いいな?」「わ、分かりました。」「よし。」半分は呆れ顔。 もう半分は照れ隠しといった、ルイスの表情がたまらない。 顔を紅潮させながらも、ルイスはチェニックに絡まった紐を解こうとしていた。 ……本当に恥ずかしい。 だってルイスに私の開いた胸元が見えてるから。 手当のために包帯が巻いてあるし、胸が直接見えてるわけではないのだけれど。 しばらく気まずい沈黙が流れ、ようやくルイスが紐を解いてくれた。 慌ててルイスの膝の上から降りると、彼がぽそっと呟いた。「刻印は、まだ痛むか?」「刻印ですか?刺された時のーー」ルイスにそう尋ねられた瞬間、エルミニオに刺されたあの時の記憶が蘇ってきた。 今思えば、本当に馬鹿なことをした。 『奴隷になった私が、王太子の最愛になるまで』は、前世で私が好んで読んでいたロマンスファンタジー小説だった。
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第一章:契約結婚の予行練習

あの時の私はロジータ・スカルラッティとして、断罪、処刑までの筋書きを真っしぐらにたどっていた。本来ならこの煌びやかな空間で、エルミニオと一緒にダンスを踊っているのは私だったはずなのに!と。それなのにエルミニオが、今夜のダンスの相手に私ではなくあの女を選んだ!とにかく彼女が憎かった。彼に優しくエスコートされてきたリーアは下の会場にいる私と、真っ先に目が合った。「しかし殿下のお相手は、私ではなくロジータ様では……?」美しい銀糸のような長い髪と宝石のようなサファイアブルーの瞳の彼女。エルミニオの隣でまるで小動物のように小さく震えている。彼女が着ていたのはヴィスコンティ王家を象徴する、星のラメが入った群青色のドレス。なぜかエルミニオと同じドレスコードだ。彼も群青色の洗練された礼服を着ていた。加えて、リーアの頭上にはたくさんの真珠が散りばめられたティアラ。童話のシンデレラのように輝くクリスタル製の靴。どれもこれも私が欲しかったものばかり。なんで……なんで殿下の隣にいるのが私ではなくて、あの女なの!?招待された貴族たちと同じ場所にいる私を、リーアは気の毒そうに見おろしていた。「その、ロジータ様。私、悪気は……」「何で……何であなたが、エルミニオ様の隣にいるのよ!!何で……っ!!」本来なら、このような公式の場では婚約者同士で同じ色やお揃いのデザインの服で揃えるものだ。特に王太子とその婚約者ともなれば、他とは一線を引いた特別感を出す必要がある。だけど私は彼のドレスコードが分からず、会場から一人だけ浮いたような真紅のドレスを着ていた。虚しく悔しい。分かっていた。ずっと。「何を喚いているんだ、ロジータ・スカルラッティ!なぜお前が会場にいる!?呼んでもいないのに!」リーアに向けられるものとは全く違う、エルミニオの冷淡な声が
last updateLast Updated : 2025-09-13
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第一章:契約結婚の予行練習

一周回って笑えるわね。 過去の私は、リーアとエルミニオの愛のための障害物。 そしてこの世界の都合のいい道具だった。 本当に愚かだった。 考えてみればエルミニオは婚約者がいながら他の女性と堂々と浮気する、テンプレ的なクズだったのに。 物語の強制力が私の目を曇らせていたのだろう。 とにかく彼にはさんざん苦しめられたのだから、一秒でも早く忘れてしまいたいというのが本音だ。「ロジータ。お前はまだ兄のことを愛しているのだな。 あんなことをされてもなお……」はっとして顔を上げると、ルイスが心配そうに私の方を見つめていた。 思えばルイスだって同じ。「そういうルイスこそ、リーアへの想いは断ち切れそうなのですか?」私は控えめに尋ねた。 確かルイスがリーアに出会ったのは、エルミニオと同じくらいのタイミングだった。 原作のリーアは陰謀によって奴隷に落とされたが、周囲の力を借りてこの王宮に使用人として入ってきた。 そこでエルミニオやルイスたちと出会い、ロマンスを繰り広げた。 ただルイスは、ずっと長い片想い…… 本当に死ぬ瞬間までそっくりな私たち。「大丈夫ではないが、忘れる努力はする。 お前の話はまだ半信半疑だが、リーアに酷いことをし、兄に殺される未来などごめんだ。 ロジータ。お前が俺を救ってくれるのだろう?」ルイスは目を細めて苦笑する。何だか切なくて胸が締めつけられる。「ええ、そうです。だからもう少し演技の練習、頑張りましょう!ーーっ!」気合いを入れたせいかまた胸の傷が疼き、とっさに私はうずくまる。「ロジータ、傷が痛むのか!? 今日はもう無理そうだな。 練習は中断して、治療を再開しよう。」「いいえ!ルイス。本当に大丈夫です、続けましょう。 私たちにはもう時間がありません。」「しかし……はあ。その顔は絶対譲らないって顔だな。 ロジータ、お前意外と頑固なんだな。」「ふふ。ルイス。私のこと分かってきましたね。」痛む胸を押さえつけ私は明るく笑ってみせた。「全く……。お前には負ける。 分かった。では治療しながらやってみるか。 とにかく手を握っておけばいいから。」ルイスも椅子から移動し、私たちはベッドに向かい合って座り直した。 また心臓が脈打つけど、さっきまでの忙しい感じではなくて、なぜか落ち着く。 思えば理佐貴も一緒にいて落
last updateLast Updated : 2025-09-14
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第一章:契約結婚の予行練習

確かにルイスの言った通り、私は以前のロジータとは違う。 前世を思い出したことは大きい。 本来なら昨夜死んでいたはずの私。 しかも当て馬役のルイスに助けられたことは、かなりイレギュラーだ。 だいたい『悪役令嬢』は死に戻りや、ある時点までの回帰といった内容が多いから。 その代わりこれまでに起きた出来事を変えることはできないし、これから起こりうる最悪の事態に備えて慎重に動かなければならない。 いま私にある武器は、『原作の知識』と『七央の知識』そして『ロジータからの離脱』だ。 正直、洗脳されていたのと変わらないロジータから、客観的に物事を見られるようになったのは不幸中の幸い。 いくらエルミニオへの苦しい記憶が存在しようとも、今の私ならそのくだらない想いを断ち切ることができる。 これからロジータとして生きていかなければならない以上は重要だ。 しばらく沈黙が続き、ルイスがためらいがちに尋ねてきた。「あの噂は……本当か?」「噂?」「お前の父親、ジャコモ・スカルラッティ公爵が、お前の『星の刻印』に細工したのではないかという話だ。 とにかく宮廷、いや貴族たちの間では公爵が悪どいことをしているという噂が出回っている。」「真相は分からないわ。 実は私も父についてはほとんど何も知らないの。 ルイスも知っているでしょう? スカルラッティ家での私の立ち位置は道具。 たんにエルミニオ様と結婚させるために作ったような娘だったから。 小説ーー原作でもその部分はまだ曖昧だったの。」私の父、悪どいスカルラッティ公爵。 確かに終盤に差しかかるほど、父の悪事が次々と暴かれていく展開だった。 そもそもリーアを奴隷にしたのもあの男。 だがこれにはまだ証拠が足りない。 エルミニオたちも、愛するリーアの名誉を回復しようと真相解明に乗り出す。 そのせいでロジータ自身も、悪どい娘として父と一括りにされがちだった。 ロジータの性格が破綻していたのは事実だけれど。「父はとにかく野心家で抜け目のない男よ。 エルミニオとの結婚もその一つ。 もし私たちが結婚すると知れば、間違いなく反対してくるでしょうね。 その場合はこの結婚にどれだけの価値があるか、説得しなくてはならないわ。 そのためにも、計画を必ず成功させないと。」「そうか。お前は悪事に関与していなかったのか。
last updateLast Updated : 2025-09-15
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第一章:見えない争いの始まり

国王の元へ向かう途中、願いは一つだけだった。———どうかエルミニオたちに見つかりませんように!そう願えば願うほど、どうやらこの世界は私に甘くないようだ。「ルイス、探したぞ。なぜ今朝の緊急召集に姿を見せなかったんだ?」ルイスの宮殿から出て、運河沿いの円柱のある回廊を急いだ。すでに陽は高く昇っており、あとわずかで夕暮れがやってくる。いくら人の少ないルートを選んだとはいえ、本宮に近づくにつれ人に遭遇する回数も増えてきた。王宮ではさまざまな人が働いている。しかも最悪なことに、なんと序盤でエルミニオにで食わしてしまった!私はとっさにうつむくが、心臓が壊れたように脈を打った。いやすでに私の心臓は一度壊されている。この男によって。「兄さん。すみません、朝は急ぎの用事があったもので。」「急ぎか……すでに聞いているとは思うが、あの女が消えた。」そっとエルミニオがルイスに耳打ちする。あの瞳を私はよく知っている。人を疑っている時によくする、冷淡な眼差しだ。「はい。聞いています。」「何か心当たりは?」「さあ……。俺もあの後すぐに小広間を去りましたので。」「本当か?ルイス。」「本当です。まさか俺を疑っているのですか?」この二人、一見仲がよさそうに見えて実はそうでもない?表面的には分からないが、これは上から圧力をかけるエルミニオに対してルイスが静かに反抗しているようにも見える。感情の起伏が激しいエルミニオに、感情が見えにくいルイス。ロジータだった頃はエルミニオの方が感情が読みにくく、ミステリアスだと思っていたが、今となっては行動そのものがルイスよりも幼稚に見える。男主人公ーーエルミニオ・ヴィスコンティ。愛するリーアのためならためらいなく婚約者を殺す冷酷な男。目元までかかる漆黒の髪を揺らし、銀灰色の瞳を鋭く光らせてルイスに迫る
last updateLast Updated : 2025-09-16
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第一章:見えない争いの始まり

公爵はエルミニオにとって都合が悪いタイミングで現れてくれた。その証拠にエルミニオは、らしくもなく舌打ちをした。父であるジャコモの容姿は私には全く似ていない。艶のない黒髪に、短い顎ひげ。目は細く、さすがは悪党といった雰囲気を持っている。貴族らしい服装で私たちの前に姿を現したジャコモは、エルミニオやルイスに軽く挨拶をした。「珍しいな、公爵。一体王宮に何の用だ?」冷たくエルミニオが問うと、ジャコモは不気味な笑みを浮かべた。「それが……昨夜、娘のロジータが舞踏会に出かけたっきり家に戻ってきていないのです。それで心配になって探しにきたのですが……殿下は何かご存知ありませんか?」低い声でジャコモはエルミニオに返事を迫る。「知らないな。なぜ俺がロジータ嬢を?どこかをほっつき歩いているのではないか?」「知らない?変ですね。殿下は娘の婚約者ではないですか。昨夜娘は、殿下のために舞踏会に出かけたはずです。それを知らないとは、妙ですね。」「何だと?」「だってそうでしょう。いくら今の殿下に“出自の怪しい情婦”がいるとは言え、我が娘ロジータはれっきとした殿下の婚約者のはず。その娘が王宮から帰らないのに、殿下が知らないなどあり得ますか?」一気にその場に緊張が走る。腰に携えていた剣をエルミニオが引き抜き、ジャコモの首筋に突きつけたからだ。「そなたまさか、情婦とはリーアのことを言っているのか!」リーアを情婦呼ばわりされてエルミニオの逆鱗に触れたのだ。「殿下……!」「兄さん!」ルイスをはじめ、エルミニオの背後に控えていた側近が慌てて止めに入る。だがジャコモはなおも小馬鹿にしたように続けた。「おっと。何を怒る必要があるのですか?殿下。情婦を情婦と呼んで何が悪いのです?
last updateLast Updated : 2025-09-17
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第一章:見えない争いの始まり

私たちはとにかく国王の待つ謁見室へと急いだ。 途中で心臓の傷が痛み、よろけそうになるとルイスが肩を支えてくれた。「もしかして公爵は、お前を庇ってくれたのか?」案外と優しい考えを持つルイス。私は首を横に振った。「違うと思うわ。 残念ながら私の父はそんな殊勝な人間ではないの。 私とエルミニオ様を結婚させたいのは単に、権力欲のためーー ヴィスコンティ王家との繋がりを作りたいのよ。 さらなる権力を手にし、高みに登りたいの。 昔からそうだったわ。 私にもとにかく厳しい人だった。」ジャコモは私の教育にたくさんのお金を使ったが、愛情をかけてくれたことは一度もなかった。『ロジータ。お前は殿下の婚約者だ。』『殿下が冷たい?今さら何を言っている! 王族との結婚に愛など求めるな!』『ロジータ!お前が情婦に負けるなどあってはならない! いいからさっさと舞踏会に行くんだ!」時々冷たい視線を投げかけ、弱音を吐く私を厳しく叱りつけた。 時には見えない場所に鞭を打つことさえーー。 ジャコモにとって私を完璧なレディに育てることはいわゆる投資と同じだった。 ロジータは娘ではなく、自分のための政治的道具。 私の母はルイスたちと同じように早くにこの世を去っており、今スカルラッティ家にいる公爵夫人はやはり後妻である。 その後妻との間に生まれた弟を後継者に定め、ジャコモは彼を可愛がった。 一方の私は気難しい性格が災いし、後妻や弟には距離を置かれていた。 そのせいか私もいつも公爵家の家族とは距離を取っていた。 行動はだいたい一人だった。 また、信頼できる使用人さえいなかった。 思えば、スカルラッティ家における私=ロジータは本当に孤独な人間だった。 結局教育は失敗し、私は原作通りに破綻者となった。 エルミニオに執着してしまったのも、こういった背景があったからだと思う。「そうか。お前にも複雑な事情があるんだな。」前方を歩くルイスが気の毒そうに呟くので、私は苦笑した。「今は平気よ。だってルイスが私のことを分かってくれているから。」素直にそう伝えるとルイスは耳の後ろを赤く染めた。「何を言っている……。」今はそう。 さっきエルミニオに問い詰められた時もルイスは一瞬もためらわずに私を助けてくれた。 窮地になると私を救ってくれるあなたがいると思うとすご
last updateLast Updated : 2025-09-18
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第一章:見えない争いの始まり

この計画を成功させるための第1のポイント。 それは《ルイスが私を助けた理由》だ。 つまりルイスがエルミニオに反逆心を持っていると疑われることもなく、禁忌の力を使っても仕方なかったと厳罰を免れる最もな理由。 考え抜いて二人で出した答えは、国王のロジータへの寵愛を利用することだった。「俺がロジータ・スカルラッティを助けたのは、父上への忠誠心からでした。」ルイスが透き通るような声で言うと、マルツィオの表情から怒りが引いていくのが分かった。「何だと?私への忠誠心?お前が?」「はい。私は父上がいかにスカルラッティ家を大切に思っておられるかを知っています。 それはロジータ・スカルラッティに関しても同じこと。 そのロジータを兄さんが暗殺したとなれば、王室は大損害を被ることになったでしょう。 手に入るはずだった権力はおろか、豊かな軍事力までも失っていたはずです。 最悪、スカルラッティ家との戦争まで視野に入れなければならなかったでしょう。 今の兄さんはリーア・ジェルミにのめり込んでおり、浅はかにもロジータを暗殺しようとしました。 ですから俺はそれを阻止したのです。父上のために。」淡々とルイスが打ち合わせ通りに言葉を紡いでいく。 ルイス、台詞が書いてある台本があるわけでもないのに違和感もなくこうもスラスラと。 さすがはこの世界のスパダリ(私限定)だわ!「陛下。私はエルミニオ様に殺されかけましたが、ご覧の通り生きています。 しかしあの時私はエルミニオ様に剣で心臓を突き刺され、瀕死の重症を負っていました。 そのためルイス様はやむを得ず禁忌の力を使ってくれたのです。 ーー私のために!」ますます私も演技に力を入れる。 胸に手を押し当て悲壮感を強く表情に押し出す。 こうすればルイスが私=ロジータという価値のある人間を救った、というシナリオが出来上がる。 禁忌の力を使った理由がやむを得なかったと言えば、さすがのマルツィオも罪には問えないはずだ。「ロジータの言う通りです、父上。 あの時ロジータは瀕死の状態で、禁忌の治癒力を使うしかなかったのです。」後に続くようルイスが畳みかける。「それは本当か?ーーあの治癒力を。 しかし、それが本当なら今回ばかりは不問にするしかないな。 それにしても、エルミニオの奴め! 出自の怪しい女に入れ上げるなとあれ
last updateLast Updated : 2025-09-19
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第一章:見えない争いの始まり

ルイスは私を助けた価値を押し出しつつ、自身の感情も織り交ぜて話す。 そうすることで真実味が増すからだ。 やがてルイスは刻印のある自分の左腕を掴み、儚げに視線を落とした。「今はまだロジータに対する気持ちが恋や愛というより、庇護欲や同情心の方が強いかもしれません。 それでもロジータを守りたいという気持ちは本物です。 幸い、俺にはまだ『星の刻印』の相手がいませんし、この先見つかるという保証もありません。 すでに俺も23歳。 そろそろ身を固めてもおかしくない時期です。 それにこの結婚は、兄さんからロジータを守るためにも必要なことです。 ロジータ自身と、父上の利益を守るためでもあります。 この結婚を王命だと言っていただければ、俺はそれに従うつもりです。」顔を上げ、ルイスは力強く訴える。 王命ーー忠誠心による結婚。 これなら、ルイスがエルミニオにも王家にも反逆心を持っていると疑われることもない。 しばらく無言だったマルツィオが密かに微笑を浮かべた。「ほう。気に入ったぞ、ルイス。 お前は、エルミニオと1歳しか年が違わないのに、初めから何もかもが劣っている存在だと思っていた。 剣術も学問の成績も、カリスマ性も。 しかも容姿すら私にあまり似ていない。 それもあって、私はずっとお前は『無能』だとばかり思っていた。 だが、案外そうではないようだな。」自分の子供らを篩にかけるように、マルツィオはルイスをそう評価した。「お褒めの言葉、ありがとうございます。」他人より他人らしいルイスとマルツィオの関係。 誇らしげに笑ってはいるが、何だか私には隣のルイスが今にも泣き出しそうに見えた。 ルイスあなた……「だが、それでもエルミニオには王太子という地位を与えるだけの価値がある。 あれは有能でかなり稀有な存在だ。 この国を治めていくにはふさわしい。 だからお前に王太子の座をやることはできない。 そのためリーア・ジェルミという女の存在すらも黙認している。 だが、奴がロジータに危害を加えたというなら話は別だ。 お前の言う通り、これは王家の利益を守るため。 王家存続のための結婚。 本来なら王太子妃としてロジータを欲していたが、致し方あるまい。 どちらにせよロジータが我が王家の妃となるのなら、そこは百歩譲るとしよう。 ルイス。そしてロジータ
last updateLast Updated : 2025-09-20
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第一章:見えない争いの始まり

もしかして、カーテンの裏で泣いているかもしれないルイスに私は寄り添うことにした。もちろんパートナーだからということもあるけれど、単純に放っておけなくて。ルイスと背中越しになるように、私は使用人のエプロン姿で冷たい大理石の床に座った。「ルイス。さっき国王の言ったことに傷ついたのね。実の父親にああ言われて、傷つかないはずないものね。私もその気持ちが少しだけなら分かるの。ロジータとしての私は父に愛情を求めることも許されず、ただ道具として生きてきたわ。どんなに理不尽なことを言われても耐えてきた。だけど、だからといって傷つかないわけではないでしょう?ルイス。誰だって傷つけられたら胸が痛むし、悲しいものよ。それは当然の感情なの。この宮廷であなたがどれだけ息苦しいのかも分かった。それを必死に隠そうとする気持ちも。でもね。ルイス。今だけは……その弱さを私に見せてくれない?私たち運命共同体なのよ。あなたが苦しんでいるのを、見て見ぬふりはできないわ。」ロジータ・スカルラッティ。以前の私もまたルイスと同じだった。他人に弱さを見せることは敗北と同じ。だから私は傲慢に振る舞った。他人だけでなく家族にさえ心を開くことはなかった。全然違うようで、やはり私とルイスは似ている。「……情けない俺は嫌じゃないか?」涙声がカーテンの裏から聞こえる。気づかないふりをして私はそっと笑った。「情けなくなんてないわよ。それを言うなら私の方でしょう?エルミニオ様の想い人に嫉妬したあげく、毒殺しようとした。しかもそれが見つかって彼に殺されかけたのよ。情けないったら……」「そんなことはない……!ロジータ、言っただろう。確かにお前がしたことは悪いことだったが、そうさせたのはお前を裏切った兄さん
last updateLast Updated : 2025-09-21
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