龍一の言葉が終わると同時に、天音の細い腰は要の長い腕に抱き寄せられ、彼の胸の中に落ちた。「離せ」要は龍一を見つめた。その視線は、底知れぬほど冷淡だった。思わず畏怖の念を抱かせるほどだった。かつては要を深く尊敬していた龍一だが、今は一歩も引く気はなかった。「そっちこそ、天音を離してください」天音はそっと手を振りほどこうとしながら、龍一に諦めてもらおうとした。「先輩、もう遅いから。隊長と帰るわ」翔吾と桜子はそばで見ていて、龍一のことが心配でたまらなかった。桜子は深く後悔していた。どうしてケーキのデコレーションのことを忘れてしまったんだろう。龍一の暴走を止めようと、声をかけた。「教授……」「天音、遠藤家の結婚式には、京市の名士が勢揃いするんだ。皆が注目する結婚式だぞ。この人は本当に君と結婚する気なんだ」龍一は、天音を諦めることなどできなかった。寝ても覚めても想い続けてきた愛する人が、目の前で奪われるのを黙って見ていられるはずがない。「先輩、ただの結婚式でしょ?」天音は龍一の焦りに、困惑した。「天音、男の直感を信じろ」龍一は、天音の細い腰に回された要の手が次第に力を込めていくのを見て、感情の見えなかった冷淡な表情に、氷のような怒りが宿るのを感じた。「もし本当に結婚式を挙げてしまったら、もう何もかも取り返しがつかなくなる。たとえ君が他の誰かを好きになったとしても、この人は君を離さないだろう」龍一の焦りは募るばかりだった。「俺を選んでくれ。俺は君を縛ったりしない。想花のことも、俺がちゃんと面倒を見る」「いい加減にしろ」要は龍一の言葉を遮り、冷淡な声で言った。「想花は俺の娘だ」以前、龍一は想花の名付け親になろうとしたことがあった。どんなに話しかけても、想花は口を開こうとはせず、要を「パパ」と呼ぶだけだった。想花は要だけを父親として認めていた。天音がぐっと力を入れて身をよじると、龍一は彼女を傷つけまいと、とっさに手を放した。「先輩、また近いうちに先輩と直樹に会いに来るから。今夜はきっと、飲みすぎたんだよね」本来なら龍一のプロジェクトの話を進めるつもりだったのに、これでは台無しだ。天音は要の腕を取り、外へと向かった。龍一はまだ追いかけようとしたが、翔吾と桜子に阻まれた。「教授、隊長を怒らせるの
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