要はそっと天音の長い髪をかきあげ、指の腹で目じりをなで、涙を拭った。「弁償しろなんて言ってない」と要は言った。自分には責任が取れる。天音は長いまつ毛を震わせ、胸に手を当てた。「よかった。調べたら、あのショッピングモール、20億円もするって書いてあったから。全財産を投げうっても、とても払えないわ」DLテクノロジーはまだ利益が出ていないし……天音はふふっと笑った。はっきりと見えなくても、その笑顔がどれだけ素敵か、要には分かった。「暁だ。身の回りのお世話をやってる」と、要はまた口を開いた。天音はきょとんとして、それから嬉しそうに笑った。要の前に膝立ちになり、両腕を彼の首に回した。座っている要より少し目線が高くなり、彼を見下ろしながら言った。「あなたが就任するのが待ちきれないわ」「すごく忙しくなる」要は低い声で言った。「君と子供との時間がなくなるだろう」天音は少し表情を曇らせたが、すぐに笑顔になった。「じゃあ明日から、もっと想花と……私のそばにいてくれる?」過去の記憶が失われていくなら、新しい思い出を作ればいい。自分と要との、新しい思い出を。天音は揺れる瞳で要を見つめ、そして顔を傾けて、彼にキスをした。天音は何か隠し事をしている時、決まってやけに素直で、甲斐甲斐しくなる。彼女から優しくしてくれるのは嬉しいはずなのに、胸は切ない気持ちでいっぱいになった。要は天音の小さな顔を両手で包み込んだ。その長い髪が彼の肌に落ち、優しく触れる。それはまるで、心まで撫でているかのようだった。要はキスを返し、天音を強く抱きしめた。そのキスは、最初は優しく触れるだけだったのに、だんだんと抑えきれない激しいものへと変わっていった。要のキスに、天音はうっとりと意識が朦朧としていた。天音を寝かしつけてから、要は寝室を出て携帯を手に取り、ある番号に電話をかけた。電話の向こうから、女性の優しい声が聞こえた。「隊長、加藤さんに何かあったの?」要は振り返り、ベッドに視線を落とした。そして感情のない声で尋ねた。「実験はどの段階まで進んでいる?」電話の向こう、平野椿(ひらの つばき)のいる場所は昼間だった。椿は実験室を出て、上の階のオフィスに戻りながら答えた。「とても順調よ。すでに臨床試験の段階に入っているわ」
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