戦が終わった後の静寂は、時として戦の喧騒そのものよりも、人の心を重く締め付ける。 辺境の湿地帯の外れに設けられた、広大な野営地。そこには、武器を奪われ、捕虜となった数千の中央軍兵士たちが、ただ無気力に座り込んでいた。彼らの瞳から、かつての王都軍としての誇りは消え失せ、あるのは敗北という動かぬ事実と、これからの自分たちの運命に対する、漠然とした不安だけだった。 これからどうなるのか。 奴隷として、辺境の復興作業に死ぬまで酷使されるのか。あるいは、見せしめとして、一人ずつ処刑されていくのか。噂に聞く「辺境の狼」の冷酷さを思えば、どのような過酷な運命を強いられても、不思議はなかった。兵士たちは、ただ黙って、その時が来るのを待つことしかできなかった。 その野営地を見下ろす丘の上、ライナスの天幕では、捕虜の処遇を巡って、静かだが熱を帯びた軍議が開かれていた。「閣下、これだけの数の捕虜、前代未聞にございます」 鉄狼団の副長であるギデオンが、興奮と戸惑いの入り混じった声で進言した。「彼らを労働力として使えば、辺境の復興は、飛躍的に進みましょう。あるいは、貴族出身の将校たちからは、相応の身代金を取ることもできます。我らの軍資金も、潤うはずです」 ギデオンの言葉は、戦後の処理として、極めて常識的で、合理的なものだった。他の幹部たちも、それに同意するように、深く頷いている。捕虜とは、勝者がその権利を自由に行使できる、戦利品の一つなのだ。 だが、ライナスは、腕を組んだまま、静かに首を横に振った。「どちらも、採らん」 その、あまりに静かな、しかし有無を言わさぬ一言に、天幕の中の空気が、一瞬で張り詰めた。「…と、おっしゃいますと?」 ギデオンは、主君の真意を測りかね、戸惑いの声を上げた。「奴隷にも、身代金の担保にもしない。ただ…」 ライナスは、そこで一度、言葉を切った。そして、天幕にいる誰もが予想だにしなかった言葉を、静かに告げた。「…解放する」「かい、ほう…ですと!?」 ギデオンは、思わず素っ頓狂な声を上げた。
Last Updated : 2025-11-10 Read more