夜明けの光は、血を洗い流したかのように白く、そして冷たかった。 作戦司令室の窓から差し込むその光が、机の上に広げられた一枚の羊皮紙を無慈悲なまでに照らし出す。ヴァインベルク公爵の売国という、おぞましい真実が記された密書。その存在は、部屋の空気を鉛のように重くし、ライナスとセレスティナの魂に静かにのしかかっていた。 昨夜、感情の奔流に身を任せて泣きじゃくったセレスティナの瞳に、もはや涙はなかった。極度の疲労で目の下には深い隈が刻まれていたが、そのすみれ色の瞳は、嵐が過ぎ去った後の湖面のように静まり返り、そして底知れないほどの覚悟の色を宿していた。 悲しみは、怒りへと変わった。そしてその怒りは今、この国を蝕む巨悪を断ち切るという、冷徹な使命感へと昇華されていた。 ライナスは、窓辺に立ったまま、夜明けの光に染まる町の景色を黙って見下ろしていた。彼の金色の瞳にもまた、個人的な憎悪を超えた、統治者としての静かで激しい怒りの炎が燃えている。彼は、ただの復讐者ではない。この辺境に生きる全ての民の命と未来を、その双肩に背負う王なのだ。「…ギデオンを呼べ」 やがて、ライナスは振り返ることなく、低い声で命じた。その声は、三日三晩続いた死闘の疲労でかすれていたが、絶対的な支配者の響きを失ってはいなかった。 ほどなくして、側近であるギデオンが、鉄狼団の主要な幹部数名を引き連れて入室した。彼らの顔には、この数日の城の異様な雰囲気と、主君たちの憔悴しきった様子への、隠しきれない懸念が浮かんでいる。「閣下、お呼びと伺い…」「うむ」 ライナスは、ゆっくりと彼らに向き直った。そして、机の上の密書を、無言で指し示す。「読め」 ギデオンたちは、戸惑いながらもその羊皮紙を覗き込んだ。そこに解読された文字が並んでいるのを認め、彼らは息を詰めてその内容を読み進めていく。 最初は、驚愕。やがて、それは戦慄へと変わり、そして最終的には、抑えきれない怒りとなって、武骨な男たちの顔を赤黒く染め上げた。「…こ、これは…」 ギデオンの声が、怒りに震えていた。「ヴァインベルクのあの外
Last Updated : 2025-10-11 Read more