王都の喧騒が遠ざかっていく。 馬車の車輪が刻む規則正しいリズムが、セレスティナを現実へと引き戻していた。数日前まで、あれほど憎しみと策謀が渦巻く舞台の中心にいたことが嘘のようだ。 全ては終わった。 父の、そしてアルトマイヤー家の名誉は回復され、真の国賊ゲルハルト・ヴァインベルクは断罪された。長年、ただその一点だけを目指して張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたような感覚。胸にぽっかりと空いた穴を、虚脱感が満たしていく。 セレスティナは、ドレスの胸元にそっと触れた。そこには、ライナスから届いた手紙が、彼女の肌の温もりで温められている。 ――皆が、お前を待っている。 その武骨な文字を思い出すたび、心の空洞に小さな熾火が灯るのを感じた。復讐は終わったけれど、自分の人生は終わっていない。私には帰る場所がある。待っていてくれる人たちがいる。 その事実が、空っぽだったはずの心を、温かい何かで少しずつ満たしていく。 街道を進むにつれて、車窓の風景は目まぐるしくその表情を変えた。人の手で完璧に整えられた中央の田園風景が、次第に荒々しくも生命力に満ちた辺境のそれに取って代わられていく。ごつごつとした岩肌を見せる山々、どこまでも続く深い森。それは、セレスティナが初めてこの地へ送られてきた時に見た、絶望の色をしていた風景のはずだった。 だが、今の彼女の目には、その全てが懐かしく、そして愛おしいものに映っていた。厳しくも美しい、ありのままの自然。それは、不器用だが真っ直ぐな辺境の民の気質そのものであり、何より、あの人のようだと思った。「奥方様、もうすぐ関所です。ここを越えれば、我らの土地にございます」 向かいの席で微動だにせず控えていたギデオンが、硬い声で告げた。彼の横顔にも、故郷を前にした安堵の色が微かに浮かんでいる。「ええ。空気が変わったのが分かります」 セレスティナが微笑むと、ギデオンは少しだけ驚いたように目を見開いた。「…旦那様も、同じことを仰います。王都から戻られるたびに、『ようやく息ができる』と」「ふふ、あの人らしいですわね」 そんな他愛ない会話さえ、今の
Last Updated : 2025-11-20 Read more