悠人から電話があれば、智美は必ず出る。出られない時でも、必ず折り返しのメッセージを入れるようにしていた。しかしスマホに目をやると、バッテリーは完全に切れていた。詩乃の世話に追われ、スマホの充電などすっかり頭から抜け落ちていたのだ。智美から事情を聞いた悠人は、ようやく胸を撫で下ろした。「部屋の中で何かあったんじゃないかと、気が気じゃなかったんだ」と悠人は言った。羽弥市と違い、見知らぬこの土地では何かと安全面での不安が残る。おまけに以前智美が事故に遭ったこともあり、悠人の心はどうしても落ち着かなかったのだ。本気で心配させてしまったと気づき、智美は申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい。次からは必ずすぐ出るようにするから」悠人はうなずくと、詩乃の頬をそっと撫でてから浴室へと向かった。先ほどはあまりに肝を冷やしたせいで、背中は汗でぐっしょりと濡れていた。シャワーを終えて出てくると、詩乃が絵本を一冊抱えてきて、「読んで」と言わんばかりに差し出してきた。悠人は辛抱強く娘の隣に腰を下ろし、穏やかな声で読み聞かせを始めた。絵本の中で王子様とお姫様が結婚する場面に差し掛かると、詩乃がふと顔を上げた。「ねえパパ。詩乃、大きくなったらパパと結婚してもいい?」詩乃にとって、周りのどんな男の子よりもパパがいちばんかっこいいのだ。悠人は詩乃の頭を優しく撫でた。「パパはもうママと結婚してるんだよ。詩乃は、詩乃と同じくらいの年の男の子と結婚するんだ」詩乃はしばらく考えてから言った。「でも、みんなパパよりかっこよくないもん」「詩乃が大きくなれば、きっとかっこいい男の子に出会えるよ」と悠人は小さく笑った。「そんな人いないもん。パパよりかっこいい子なんているわけないもん」と詩乃は食い下がる。悠人はそれ以上言い聞かせようとはしなかった。子どもの考えなど日に日に変わるものだ。大きくなれば、今言ったことなどきれいさっぱり忘れてしまうだろう。智美はバスタブにお湯を張り終えると、詩乃を抱き上げて浴室へと連れていった。パチンと泡をつぶして遊んでいた詩乃が、ふと顔を上げた。「ねえママ、なんでパパと結婚したの?」「パパがいつも、ママの好きなことをさせてくれて、応援してくれるからよ」詩乃はしばらく考えてから、真剣な顔で言った。「じゃあ詩乃
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