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第731話

Penulis: 清水雪代
悠人から電話があれば、智美は必ず出る。出られない時でも、必ず折り返しのメッセージを入れるようにしていた。

しかしスマホに目をやると、バッテリーは完全に切れていた。

詩乃の世話に追われ、スマホの充電などすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

智美から事情を聞いた悠人は、ようやく胸を撫で下ろした。

「部屋の中で何かあったんじゃないかと、気が気じゃなかったんだ」と悠人は言った。

羽弥市と違い、見知らぬこの土地では何かと安全面での不安が残る。おまけに以前智美が事故に遭ったこともあり、悠人の心はどうしても落ち着かなかったのだ。

本気で心配させてしまったと気づき、智美は申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい。次からは必ずすぐ出るようにするから」

悠人はうなずくと、詩乃の頬をそっと撫でてから浴室へと向かった。先ほどはあまりに肝を冷やしたせいで、背中は汗でぐっしょりと濡れていた。

シャワーを終えて出てくると、詩乃が絵本を一冊抱えてきて、「読んで」と言わんばかりに差し出してきた。

悠人は辛抱強く娘の隣に腰を下ろし、穏やかな声で読み聞かせを始めた。

絵本の中で王子様とお姫様が結婚する場面に
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    智美と詩乃はエレベーターに乗って部屋へ戻った。エレベーターの中で、詩乃が聞いた。「ねえママ、お花を送ってきたおじさんって、ママにアタックしてるの?」智美は、この子はなんて大人びたことを言うのだろうと思いながら、思わず笑って聞き返した。「そんな言葉、どこで覚えたの?」詩乃はあっけらかんと答えた。「美穂おばちゃんとお買い物した時ね、たくさんのおじさんがおばちゃんにラインを聞いてたの。おばちゃんのお友達が、あの人たちはみんな、おばちゃんをアタックしてるんだって教えてくれたんだもん」智美はしばらく言葉を失った。美穂の美しさは誰もが認めるところだ。二人目を産んでもなお、その魅力は少しも翳らない。和也がいつもそばを離れないのも、どこかに行かれてしまうのが心配だからだろうと智美は思った。智美はちょっと意地悪をしたくなって、詩乃に聞いた。「もし詩乃に旦那さまができたとして、他の男の子がおもちゃをくれたら受け取る?」娘は当然「受け取らない」と言うだろうと思っていた。ところが詩乃は至って真剣な顔で言った。「両方ともじゃダメなの?」かっこいい男の子にたくさん優しくされたいと、詩乃は純粋にそう思っているようだった。智美は返す言葉もなく、苦笑いするしかなかった。その夜、悠人が帰ってきた。普段と変わった様子はなかった。智美は、花のことはもう気にしていないのだろうと思い、あえて話題にはしなかった。着替えを持って浴室へ向かい、詩乃のことを悠人に任せた。智美が浴室に入るのを見届けてから、悠人は詩乃にそっと尋ねた。「お花を持ってきたおじさん、詩乃は見た?」詩乃は首を横に振った。「ううん、見てないよ」「ママ、お花を部屋に持って帰らなかった?」「フロントに置いてきたよ」と詩乃が答えた。悠人はほっとして、詩乃に言い聞かせた。「これからママに近づいてくる知らないおじさんがいたら、パパに教えてね」詩乃は不思議そうに首をかしげた。「でもそれってみんなママのことが好きなんでしょ?パパはそんなの嫌なの?」悠人は呆れながらも吹き出しそうになるのをこらえて言った。「そりゃ嫌に決まってるよ。詩乃、もしその人たちが詩乃に優しくして、パパの代わりになろうとしたら、詩乃はそれでいいの?」詩乃はしばらく迷ってから言った。「かっこいいおじさんがたくさん優しく

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    悠人から電話があれば、智美は必ず出る。出られない時でも、必ず折り返しのメッセージを入れるようにしていた。しかしスマホに目をやると、バッテリーは完全に切れていた。詩乃の世話に追われ、スマホの充電などすっかり頭から抜け落ちていたのだ。智美から事情を聞いた悠人は、ようやく胸を撫で下ろした。「部屋の中で何かあったんじゃないかと、気が気じゃなかったんだ」と悠人は言った。羽弥市と違い、見知らぬこの土地では何かと安全面での不安が残る。おまけに以前智美が事故に遭ったこともあり、悠人の心はどうしても落ち着かなかったのだ。本気で心配させてしまったと気づき、智美は申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい。次からは必ずすぐ出るようにするから」悠人はうなずくと、詩乃の頬をそっと撫でてから浴室へと向かった。先ほどはあまりに肝を冷やしたせいで、背中は汗でぐっしょりと濡れていた。シャワーを終えて出てくると、詩乃が絵本を一冊抱えてきて、「読んで」と言わんばかりに差し出してきた。悠人は辛抱強く娘の隣に腰を下ろし、穏やかな声で読み聞かせを始めた。絵本の中で王子様とお姫様が結婚する場面に差し掛かると、詩乃がふと顔を上げた。「ねえパパ。詩乃、大きくなったらパパと結婚してもいい?」詩乃にとって、周りのどんな男の子よりもパパがいちばんかっこいいのだ。悠人は詩乃の頭を優しく撫でた。「パパはもうママと結婚してるんだよ。詩乃は、詩乃と同じくらいの年の男の子と結婚するんだ」詩乃はしばらく考えてから言った。「でも、みんなパパよりかっこよくないもん」「詩乃が大きくなれば、きっとかっこいい男の子に出会えるよ」と悠人は小さく笑った。「そんな人いないもん。パパよりかっこいい子なんているわけないもん」と詩乃は食い下がる。悠人はそれ以上言い聞かせようとはしなかった。子どもの考えなど日に日に変わるものだ。大きくなれば、今言ったことなどきれいさっぱり忘れてしまうだろう。智美はバスタブにお湯を張り終えると、詩乃を抱き上げて浴室へと連れていった。パチンと泡をつぶして遊んでいた詩乃が、ふと顔を上げた。「ねえママ、なんでパパと結婚したの?」「パパがいつも、ママの好きなことをさせてくれて、応援してくれるからよ」詩乃はしばらく考えてから、真剣な顔で言った。「じゃあ詩乃

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