玲は一歩、また一歩と友也に近づき、奥歯を噛みしめて声を落とした。「私は展示会で山口さんを見かけたのは一週間も前のこと。その件で秀一さんがあなたに電話して、ちゃんと対処するようにって念押ししたの、覚えてるよね?なのに、あなたはどう対処したの?この展示会は、雨音ちゃんが全力で打ち込んでいる大事な仕事なの。山口さんをチームに残せば、雨音ちゃんに悪い影響が出るって、あなたにもわかってたはずよ。それなのに、あなたは山口さんの将来ばかり気にして、万が一の時の雨音ちゃんのキャリアも、これまで積み上げた評価も、何ひとつ考えなかった。友也さん、あなたは男だし、仕事では最初から有利な立場だった。しかも、秀一さんもあなたを引っ張ってきてくれた。雨音ちゃんみたいに、男が大半を占める芸術の世界で名前を覚えてもらうために、どれだけ必死に戦わなきゃいけないのか、あなたにはきっとわからないわ。雨音ちゃんが新人だった頃、彫刻家に直前で仕事をすっぽかされて、不安で倒れて病院送りになったこともある。でも目が覚めたら点滴引きずって、穴を埋めるために奔走して……それでも彼女は、諦めないでここまで来た。なのにあなたは、山口さんに負い目があるからってちょっとお金を出して、雨音ちゃんに彼女の面倒を押しつけた」玲は冷たい笑みを浮かべ、友也を壁際に追い込み、逃げ場を奪うように言い放つ。「そんなことをして、雨音ちゃんが背負わなきゃいけない重圧を、周りがどう噂するかを……あなたは本当に考えたことがあった?」友也の背中は壁にぶつかり、もう一歩も下がれなくなっていた。そして玲の言葉が示す通り、こころは彼にとって「特別の人間」だと勘違いした人々が、雨音にどれほど心ない視線を向けたか――さっき、自分の目で見たばかりだ。彼は、こころがただのスタッフとして働く分には問題ないと思い込んでいた。しかし、もし展示会が失敗したら、雨音がこれまで積み上げてきた実績や評価が一瞬で崩れ落ちる――その重大さを、彼はすっかり見落としていた。それでも、ここまで事態をこじらせてしまうことまでは、望んでいなかった。友也は壁に手をつき、震える声で口を開いた。「玲さん……こころを展示会に入れたのは俺じゃないんだ。秀一にも嘘をついてない。俺も展示会にこころがいるって知ったときは、本当に驚いた。だからすぐ本人に会って、経
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