「……もう一度言おう。藤原グループの象徴となる彫刻の制作を、Rさんに正式に依頼するつもりだ。この仕事は、Rさんの個展が終わったあとに始めてもらう。制作過程もフォトグラファーに密着させ、藤原グループ百周年の歴史資料として残す。さらに、完成後は最速で世界中の拠点へ反映させる。Rさんの作品を、藤原グループの顔として永続させるためだ。以上だ。何か異論は?」秀一は指先で軽く卓を叩き、淡々と告げた。その声が、静まり返った会議室に吸い込まれていく。株主たちは顔を見合わせ、思わず自分たちの耳を疑った。というのも、いまの説明には「玲」の「れ」の字すら出てこなかったからだ。――つまり秀一は、妻のご機嫌取りのために自分たちを振り回しているわけではない。その事実に、株主たちはひそかに胸をなで下ろした。代表株主が、ほっとしたように笑いながら口を開く。「いやぁ社長。前は、奥さんを喜ばせたいって理由で、彼女を場違いな個展にねじ込んだ上に話題作りまで手伝っていたじゃないですか。今回もまた、その延長でシンボルプロジェクトを奥さんに振るのかと思って……正直、身構えてたんですよ。どうやら我々の考えすぎだったようですね」「そうか。みなさんはそう思っていたんだな」秀一は軽く笑い、掴みどころのない表情を浮かべながら答える。「では今回は玲ではなく、Rさんに依頼する。これで異論はないな?」「もちろんですとも!そのほうが安心できます。それにRさんの噂は私たちも耳にしています。業界では伝説と呼ばれる方でしょう?」会議室の空気が、一気に明るくなった。Rの作風は温かみがあり、癒しがあって、企業イメージを高めるにはぴったりだ。株主たちは一斉に賛同の声を上げる。その様子を見て、秀一はふっと唇を緩めた。「Rさんがデビューした頃から、彼女の作品にはずっと注目してきた。個展の新作はまだ公開されていないが……Rさんなら俺の期待を裏切らない。どんな時でも、彼女は最高だからな」その言葉が落ちた瞬間――会議室は再び、しんと静まり返った。株主たちはまたしても顔を見合わせ、訝しげに首を傾げる。――一介の彫刻家を、仕事上の評価を超えて褒めすぎでは?それに、有名彫刻家Rといえば普通は男性を想像する。しかし秀一は迷わず「彼女」と言った。まさかRに特別な感情でも?横に控え
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