玲はその後、秀一と共にロイヤルホテルのスイートへ戻ってきた。雨音は病院へ行こうと提案したが、秀一が「自分のもとに専属の医師がいる」と告げたため、結局そのままホテルで診察を受けることに。雨音と友也はそれぞれ別々の車で帰っていった。スイートのソファに腰を下ろすと、すぐに顔馴染みの医師が現れ、玲の診察を始めた。検査機器が次々と運び込まれる様子に、玲は思わず内心で目を見張る。まるでホテルの一室が、そのまま最高クラスの病院に変わったようだった。そして考えるより早く、検査結果は出た。体の数値はすべて正常。ただ、海水を呑んだせいで肺に軽い炎症が出ている。二日ほど吸入治療をすれば完治するとの診断だった。玲は素直に頷き、医師が薬を用意するため部屋を出ていくのを見送った。壁の時計に目をやると、針は十一時五十分を指している。あと十分で、七日間の約束が終わってしまう。胸の奥に焦りがこみ上げ、玲は意を決して声をかけた。「……藤原さん。今日は本当にありがとうございました。ご迷惑もたくさんおかけして……」一呼吸置いて、言葉を慎重に続ける。「——あの、『七日間の約束』って、まだ有効ですか?」秀一の鋭い視線が、深い闇の底からすべてを見透かすように玲を射抜く。しばしの沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。「今日一日、お前がしたことは全部、高瀬に自分のパスポートを握られていたから?」「……はい」玲は素直に頷いた。弘樹にさえ見抜かれたことだ、この男が見逃すわけがない。玲は小さく声を落として打ち明けた。「綾が船で私を脅したのは事実です。でも……本当の狙いは自分のパスポートを取り返すことです。だから、警察を巻き込んででも、目的を果たしたかったんです」「だが……もし海に飛び込んで、本当に命を落としていたら?」秀一の声が、いつになく低く鋭く響く。その目に、怒りの稲光が走った。玲は自分の行動で弘樹を追い詰め、己の目的を果たした。これは彼女の覚悟があってこその勝利だ。しかし、あのとき海は、命を呑み込むには十分すぎるほど危険だった。もし波に巻き込まれ、あるいは綾が本気で彼女を見捨て、助けようとしなかったら、玲は命を落としていてもおかしくなかった。そうなれば、元も子もないだろう。玲の手のひらに汗が滲む。「それは……考えてまし
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