素羽は耳を疑い、茫然と立ち尽くした。「……消えたって、どういうことですか?」「ほんのわずか、電話に出るために席を外した隙に、芳枝さんの姿が見えなくなったんです。周囲をくまなく探しましたがどこにもおられず、スマートフォンも置いたままにされていて……」受話口越しに、介護士の切羽詰まった声が響く。「おばあちゃんのことですもの、ふらりと散歩にでも出たんじゃないかしら」素羽は自分に言い聞かせるように呟いたが、介護士はそれを即座に否定した。「いえ、今の時間は散歩の時間ではありませんし、何よりもうすぐ投薬の時間なんです」芳枝はこの病院に長く通う患者で、ナースステーションのスタッフは誰もが彼女の顔を知っていた。それにもかかわらず、いつ、どのようにして姿を消したのか、気づいた者は一人もいなかった。素羽は病院に掛け合って防犯カメラの映像を確認したが、彼女はまるで煙にでも巻かれたかのように、忽然と姿を消していた。パニックに陥りそうになる心を必死で抑え、素羽は警察に通報した。病院内を狂ったように探し回っていたその時、ふいにスマートフォンの着信音が鳴り響いた。見覚えのない番号だったが、なぜか彼女は、この電話が祖母の失踪に深く関わっていると直感した。「もしもし」応答すると、直後、ボイスチェンジャーを通したような、感情の欠落した不気味な声が聞こえてきた。「祖母に会いたければ、ここへ来い」相手は、とある住所を告げた。「……誰なの?」性別さえ判別できない無機質な電子音が再び響く。「通報すれば、二度と祖母の顔は拝めないと思え。猶予は一時間だ。現れなければ、あの老いぼれに明日の朝日は拝ませない」言い捨てるなり、電話は一方的に切れた。「もしもし!ちょっと、待って……!」素羽は拳を固く握りしめた。直後、メッセージの着信音が鳴り、一枚の写真が送られてきた。そこには、意識を失ってぐったりと横たわる芳枝の姿があった。素羽の全身から血の気が引き、身体が小刻みに震え出した。相手が何者なのか、目的は何なのか、皆目見当もつかない。だが、祖母の命を危険にさらすような真似だけはできなかった。素羽は縋るような思いで司野に電話をかけた。彼の広い人脈と力があれば、自分よりも確実に、そして強引にでも事態を解決してくれるはずだ。震える指
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