Все главы 流産の日、夫は愛人の元へ: Глава 461 - Глава 470

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第461話

「三智子が亡くなりました」その知らせを耳にした瞬間、素羽の身体は凍りつき、瞳に驚愕の色が走った。あの人が、死んだ――?それは予想外でありながら、どこか腑に落ちる結末でもあった。根こそぎ断ち切る。いかにも美宜がやりそうなやり口だ。だが素羽は、彼女の冷酷さを甘く見ていた。人の命を奪うことさえ、これほど平然とやってのけるとは。素羽は低く問いかけた。「……どうやって見つかったんですか」道理からすれば、美宜が人を殺したのなら、死体は遺棄され、証拠は徹底的に隠滅されるはずだ。これほど早く発見されるのは不自然だった。清人は、知っている限りの経緯を包み隠さず語った。それは美宜の運が悪かったのか、それとも三智子の運が良かったのか。三智子は石を括りつけられ、海に沈められていた。本来なら、二度と陽の目を見ることはなかったはずだ。だが不運にも、いや幸運にも、石を縛っていた縄が何らかの理由で切れ、遺体が海面へと浮上した。そこを海釣りに来ていた者が発見し、通報したのだという。素羽は警察署へ赴き、事実を確認した。三智子の遺体とも対面したが、死因は鋭利な刃物による外傷だった。海水に浸かり、変形してしまった遺体を前にしても、素羽の穏やかな表情に大きな動揺はなかった。ただ、どのような感情で彼女の死を受け止めるべきか――それが分からなかった。三智子がどのようにして美宜と知り合ったのか。なぜ彼女が美宜に加担し、自分にあのような仕打ちをしたのか。取引だったのか、それとも恨みがあったのか。しかし、三智子との間に確執があった覚えは一切ない。恨まれる理由も思い当たらず、美宜と結託してまで自分を陥れる動機が見当たらなかった。最も可能性が高いのは、二人の間で何らかの密約が交わされていたということだろう。本来なら本人を見つけ出し、真相を問い詰めるつもりだった。だが、三智子の死によって、その手がかりは完全に断たれてしまった。警察官が言った。「真犯人は現在追跡中です。新たな情報が入り次第、すぐにご連絡します」素羽はすでに、美宜が主犯である可能性を警察に伝えていた。警察も彼女を取り調べたが、美宜は事件当時、病院にいたという完璧な記録を提示してみせた。確たる証拠がない以上、警察も即座に逮捕することはできない。すべては
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第462話

警察もまともに取り合おうとはしなかった。「私にそんなことを言われても困ります。下ろせないものは下ろせません」そう突き放されると、史恵は再び喚き散らし始めた。「ああ、神様!本当にあんたは見る目がないね!どうして三智子なんて薄情な死に損ないを、うちに寄越したんだい!生きている間は親孝行もせず、一人で隠れていい思いをしやがって。死んでからも家族を苦しめるなんて、この恩知らずが……」口を突いて出るのは罵詈雑言の嵐で、まるで三智子が実の娘ではなく、不倶戴天の敵であるかのようだった。素羽はその光景を、冷めた目で見つめていた。三智子を知る者であれば、知性的で優雅だった彼女と、この下品で行儀の悪い婦人が親子だとは、とても信じられないだろう。素羽は暗い眼差しを向けたまま、静かに思索に沈んでいく。同じ頃、少し離れた場所には一台の車が停まっていた。司野は車内から、素羽と清人が並んで出てくるのを、そしてそのまま二人で車に乗り込むのを、外に出ることなく静かに見守っていた。運転席の岩治は、いつ暴走するか分からない司野に全神経を張り詰めていた。再び血塗れの彼を担いで病院へ駆け込むなど、もう御免だった。幸いにも、司野は動かなかった。素羽たちの車が去った後も、司野はその場を離れようとしなかった。ふと、何もしたくないという無力感が、彼を包み込む。三智子の件については、岩治が様子を探りに行っていた。戻ってきた岩治は、三智子の死と、その身勝手な家族の様子を一通り報告した。彼もまた三智子とは面識があった。最初に手配をしたのが彼だったからだ。あのような両親がいるとは、素羽と同じく、どうしても信じがたかった。彼女の言動は、とてもあの家庭で育った者のそれとは思えなかったからだ。報告を終えてから半刻が過ぎても、司野はどこか上の空のままだった。岩治は振り返り、問いかける。「社長、これからどうなさいますか」司野の指先では煙草が燃えていた。再び吸い始めている――しかも、以前よりも遥かに激しく。彼は虚ろな声でぽつりと漏らした。「……なぜ素羽は、俺を呼んでくれないんだ」岩治は一瞬、言葉に詰まった。「はい?」「……俺のことは、もう信じていないのか」ようやく、司野が何を言っているのか理解する。相手が社長でなければ、白目を剥いてやりたいとこ
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第463話

素羽は、三智子の両親に狙いを定めていた。彼女が三智子の人間関係を洗ったところ、周囲の人間は皆、彼女は孤児で家族はすでに他界していると語っていた。明らかに虚偽だ。三智子が対外的にそう言っていた理由は、ただ一つ――家族を憎んでいたからだ。彼らなど死んでしまえばいいとさえ思うほどに。警察もまた、三智子の遺族に連絡したのは自分たちではないと証言していた。向こうから訪ねてきたのだという。警察が知らせていないのなら、遺族はどうやって彼女の死を知ったのか。しかも、これほどまでに早く。素羽は、三智子の両親こそが突破口になるかもしれないと考えた。三智子の家族は、安いホテルに身を寄せていた。清人が付き添い、素羽はそこへ向かった。ドアを叩くと、出てきたのは若い男だった。顔立ちはどことなく三智子に似ており、一目で兄妹だと分かる。だが、三智子の落ち着いた気配とは対照的に、男の視線は卑しく濁っていた。素羽を見るなり、その美しさに目を見張りつつ、品定めするような粘ついた視線を投げかけてくる。清人はその不快な視線に気づき、露骨に眉をひそめた。その時、奥から史恵の声が飛んできた。「誰だい?」素羽は男の視線を意にも介さず、姿を現した史恵に向かって静かに言った。「初めまして。三智子さんの友人です」史恵の目もまた、まるで値踏みするかのように、二人を頭の先から足元まで舐めるように見回した。そこには露骨な強欲の光が宿っている。「……何の用だい?」素羽はかすかに微笑んだ。「中でお話ししてもよろしいでしょうか」史恵は短く頷き、二人を中へ通した。ツインルームの狭い室内には、一家がひしめき合っていた。部屋に入るなり、史恵が真っ先に口を開く。「あんた、あの子の親友なのかい」素羽は静かに首を振った。「同僚でした」そして、わずかに間を置いて続ける。「……三智子さんからは、ご両親は亡くなったと聞いていましたので、ご存命とは思いませんでした」その一言に、史恵は目を剥いて怒鳴り散らした。「あの恩知らず、親を死んだことにして呪いやがったのか!」「だから言っただろ、母さん。あの女は身内を裏切るような奴だって」弟の安田順一(やすだ じゅんいち)も加勢し、憤慨した声を上げる。「自分だけ都会で贅沢して、俺たちの苦労な
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第464話

その言葉を聞いた瞬間、史恵と耕平の表情が目まぐるしく変わった。二人は一瞬、視線を交わし合う。巧みに隠したつもりなのだろうが、彼らを注視していた素羽は、そのわずかな動きを正確に捉えていた。――やはり、何かある。そう確信するには十分だった。史恵がぶっきらぼうに言う。「あんた、それをわざわざ言いに来たのかい?」素羽は落ち着いた声で答えた。「いえ、三智子さんの代わりに、ご挨拶に伺っただけです」「挨拶なら済んだだろう。さっさと帰んな」史恵は露骨に追い払おうとした。見舞いなどどうでもいい。それよりも、彼らには今、身内で話し合うべきことがある。素羽は隣の清人へと視線を送る。彼がわずかに頷くのを確認すると、彼女もそれ以上踏み込むことはしなかった。「……三智子さんの葬儀までに、何かお困りのことがあればご連絡ください。力になれることがあれば、お手伝いします」そう言い残し、二人は部屋を後にした。宿の下に停めた車に戻ると、素羽と清人はそれぞれイヤホンを耳に装着する。次の瞬間、イヤホン越しに三智子の家族の会話が鮮明に流れ始めた。今回の訪問の本当の目的は、部屋に盗聴器を仕掛けることだったのだ。やがて、耕平が口を開いた。「……だから言っただろう。あいつにあんな酷い仕打ちをするな、逃げられるぞって」史恵がすぐさま噛みつく。「今さら私のせいにするつもりかい!私があの子にああ接した理由なんて、あんたが一番分かってるはずだよ!あんたが股間の始末もできずに、実の娘にまで手を出しやがったからだろうが!私が黙らせなきゃどうなってたか、分かってるのかい?あんなことが村中に知れ渡ったら、私たちは人間扱いされないどころか、村八分で一生後ろ指をさされるんだよ!」息子・順一がよその娘を強姦した事件ですでに評判は地に落ちていた。そこへ父・耕平の不祥事まで重なれば、もはや村に居場所はなくなる。イヤホン越しに流れるその告白に、素羽は唇を強く噛みしめ、瞳に激しい嫌悪を宿した。自分と三智子の因縁はさておき、耕平の獣じみた行為と、それを隠蔽するために結託した史恵のやり口――そのどれもが、吐き気を催すほどの醜悪さだった。血の繋がった実の娘だ。守るどころか傷つけるとは。彼らを「畜生」と呼ぶことすら、畜生に対して失礼だ。まさに、畜生以
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第465話

人の命というものは、ある者の目には一文の価値もない屑に映り、またある者の目には利用価値のある再生資源に見える。自分自身の命は、まさに前者だった。そして三智子の場合は後者――彼女の死は親にとって「利用価値のある資源」へと堕していた。史恵の考えに、耕平も同意した。安田一家がわざわざ遠方からやって来たのは、親子の情などという甘い言葉を語るためではない。純粋に金が目的だった。自分たちに情報を流してきた相手も、三智子の幸せなど望んでいないのは明らかだ。死んだ者は戻らない。泣き喚いたところで何も変わらないのなら、現実的に金を搾り取る方がよほど有益だ。金さえ手に入れば、村を出て都会で家を買う。誰も自分たちを知らない場所で人生をやり直し、息子に嫁を迎える――そんな都合のいい未来図を、彼らは疑いもなく思い描いていた。やがて間もなく、素羽のイヤホンに、史恵が電話をかける声が流れ込んできた。「……三智子の死は、あんたの仕業じゃないのかい?」物言いはあまりにも直截だった。遠回しな探りなど一切なく、いきなり核心に切り込む。相手の返答は聞こえない。だが、史恵の脅し文句ははっきりと耳に届いた。「誤魔化すんじゃないよ。あんたの差し金じゃなきゃ、私らが来た途端にあの子が死ぬなんておかしいだろう?分かってるんだよ。あんたは私らを使って、あの子を追い詰めようとしたんだ。呼び出すだけ呼び出して、一銭も出さないなんて通じると思うのかい。こっちは安くないんだよ。金を出すか、それとも警察に全部ぶちまけてやる――あんたが娘を殺したってね!」やがて相手が折れたのか、史恵は臆面もなく要求を突きつけた。「一億だよ。一分たりとも負けやしない。明後日までに用意しな!」通話が切れると、残されたのは一家三人による、その大金の使い道を巡る興奮じみた妄想だった。順一が訊ねる。「母さん、あいつ本当に払うのか?」「払わないわけがないだろう。命が惜しけりゃね」とはいえ史恵自身も、相手にそれほどの財力があるとは思っていなかった。一億――百万や千万とは桁が違う。その額が手に入れば、自分たちも一気に金持ちの仲間入りだ。三人の顔には、抑えきれない欲望の光がぎらぎらと浮かんでいた。重要な情報が途切れたのを見て、素羽はイヤホンを外した。密閉された車内に、
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第466話

美宜は独り言のように呟いた。それは目の前の男に向けた言葉であると同時に、自分自身への弁明でもあった。まるで悪いのは自分ではなく、意に沿わぬ行動を取る彼らの側なのだとでも言いたげに。タケシは彼女の蒼白な顔を見つめ、案じるように問いかけた。「……まだ、司野と一緒にいたいのか」美宜は即座に答える。「司野さんは、私の未来の夫になる人よ。一緒にいちゃいけない理由なんて、どこにあるの?」タケシは一瞬言葉を選ぶようにしてから、口を開いた。「正直に言えば、お前はあいつには勿体ない」司野は自分の妻のために、美宜の命すら顧みず、無理やり中絶を強いた。そんな男がまともであるはずがないし、美宜が想いを寄せる価値のある相手とも思えなかった。その言葉を聞いた瞬間、美宜の表情が険しく歪んだ。「いい加減にして。そんなこと、二度と聞きたくないわ。彼のどこが勿体ないっていうの?私と司野さんこそ、誰よりもお似合いなのよ」言い終えた途端、部屋は一瞬で静寂に包まれた。まるで空気そのものが奪われたかのように、呼吸音さえ消える。美宜は暗がりに立つ野崎タケシを見つめた。――この男には、まだ利用価値がある。彼女は歩み寄り、男の腰に腕を回して胸元に顔を埋めると、柔らかな声で囁いた。「司野さんに嫁ぐのは、私の人生の夢なの。タケシさん、あなたなら協力してくれるわよね?」そう言って顔を上げ、潤んだ瞳で見つめる。その姿は、守ってやりたいと思わせるほどのか弱さを装っていた。タケシは喉を鳴らし、ひとつ頷く。「……ああ、協力してやる」その返答を聞くと、美宜はぱっと表情を明るくし、甘やかな声で続けた。「分かってたわ。タケシさんが一番頼りになるって」---タケシは夜の闇に紛れ、美宜の住まいを後にした。漆黒の中、彼はまるで密林を駆ける豹のように、周囲へ神経を張り巡らせている。影のように滑らかな身のこなしで、やがてその姿は夜の帳へと溶けていった。彼の姿が完全に消えた後、ようやく張り込みを続けていた監視役が姿を現す。その動きは即座に司野のもとへと報告された。司野の表情は、喜怒哀楽の一切を読み取らせないほど静まり返っている。だが、周囲に漂う重苦しい気配から、彼が決して表面ほど冷静ではないことを岩治は感じ取っていた。決定的な証拠がない以上
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第467話

三智子の遺体が発見されたという知らせは、タケシの耳にも届いていた。彼は自らの腕に刻まれた深い引っかき傷へと視線を落とし、その瞳に陰湿な光を宿す。まだ癒えきっていないその傷は、三智子が死の間際に必死でもがき、彼に残したものだった。だが、タケシは警察のDNA鑑定など微塵も恐れていない。そもそも彼はこの国の人間ではなく、たとえ照合されたところで「該当者なし」となるだけだからだ。とはいえ――念のため、タケシは美宜に連絡を入れ、今後は直接会うことを避け、用件はすべて電話で済ませると伝えた。三智子の遺体に証拠が残っているかもしれない――その一言に、美宜の心臓は大きく跳ねた。どうしてそんな詰めの甘いことをしたのかと、心の中でタケシを責めずにはいられない。美宜は不安げに問いかける。「……私まで疑われるかしら?」タケシは落ち着いた声でなだめた。「大丈夫だ。やったのは俺だ。お前は関係ない」万が一発覚したとしても、彼女に火の粉が及ばぬようにする――そういう意思表示だった。美宜はその意図をすぐに読み取る。「タケシさん、本当に優しいのね」「言ったはずだ。お前は俺が守る」---清人は素羽とともに上階までは上がらず、エレベーターの前で彼女を見送り、その場に足を止めた。素羽は冷たい壁にもたれ、エレベーター内の鏡に映る自分と向き合う。肌も唇も血の気を失い、まるで枯れ果てた花のようだった。精気を吸い尽くされたその姿は、もはや生者というより幽鬼に近い。清人の想いに、素羽が気づいていないわけではない。だが、壊れた心と疲弊しきった身体を抱えた今の自分には、男女の情愛など考える余裕はなかった。彼の深い優しさも誠実さも、自分のような人間に費やされるべきではない。彼はもっと相応しい、幸せになれる相手と結ばれるべきだ。なにより、自分は彼を愛していない。ならば、期待を持たせるようなことはしてはならないのだ。エレベーターの扉が開き、素羽は崩れかけた体を引きずるようにして降り立った。静まり返った廊下の先に、不吉な影が立っている。顔を上げた瞬間、自宅の向かいに佇む司野の姿が目に入り、素羽の瞳に激しい嫌悪が走った。司野の視線は、素羽がエレベーターから一歩踏み出したその瞬間から、片時も逸れることなく追い続けていた。だが素羽は、彼の存在など最
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第468話

司野は喉の奥に込み上げる苦味を飲み下し、用意してきた差し入れを素羽の前へ差し出した。「流産したばかりなんだ、体をいたわらないといけない。無理はするな、お前の体に障る。……今は俺の顔も見たくないだろうから、もう現れない。代わりに森山さんを呼んで、お前の世話をさせるよ。意地を張るようなことはしないでくれ」やつれきった素羽の姿を目にするたび、胸が張り裂けそうだった。だが、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、素羽は司野の差し出した厚意を足で蹴り飛ばした。中身が散乱し、鈍い音を立てて床に転がる。その眼差しは刃のように鋭く、彼を射抜いていた。「……あなたの大事な子供だったんじゃないの?その子が生き残れなかったのは、あなたのせいよ。あなたが殺したの。それなのに、どうしてそんなに平然としていられるの?夜、眠る時にあの子の夢を見ないの?私は見るわよ。全身血まみれで、体がバラバラになったあの子が、痛い、痛いよって、ずっと私に語りかけてくるの」その言葉を聞いた瞬間、司野の体は強張り、奥歯を強く噛み締めた。照明の下、顔色はいっそう青白く浮かび上がる。子供の死は、司野にとっても消えない澱だった。素羽の言葉が生々しく脳裏に響き、全身の骨が軋むような痛みが走る。子供の夢こそ見ない。だが、目を閉じるたびに浮かぶのは、血溜まりの中に倒れる素羽の姿だった。その記憶が蘇るたび、罪悪感に魂を苛まれ、幾夜も眠れぬ夜を過ごしてきた。素羽は彼を見据え、一言一言を突き刺すように言った。「司野、これは私たちへの罰なの。忘れないで。あの子はあなたのせいで死んだのだと、その頭に刻み込みなさい。一生かけて、あの子に懺悔し続けるのね」言い放たれた瞬間、司野の張り詰めていた背筋は力なく折れ、体は小刻みに震え始めた。その蒼白な顔を見たとき、素羽の中で張り詰めていた糸がわずかに緩む。だが、胸に渦巻く憎しみは弱まるどころか、むしろ激しさを増していった。――あなただけが救われるなんて、絶対に許さない。素羽は背を向け、ドアを閉めて彼を外へと追い出した。部屋の中では、楓華が心配そうに素羽を見つめていた。外のやり取りはすべて聞こえていたが、あえて出ていくことはしなかった。これは、素羽自身が決着をつけるべきことだったからだ。素羽はキッチンへ向かい、水をコ
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第469話

結局のところ、悲劇の代償は罪なき者へと押しつけられた。死ぬべき者が五体満足で生き残り、死んではならない者がこの世を去っていった。素羽は、腹の中に宿っていた――望みもしなかった命に対して、自分は何の感情も抱かないだろうと思っていた。だが、その命が血となって体外へと流れ出た瞬間、見えない両手に身体を引き裂かれるかのような、息もできないほどの激痛に襲われた。まだ形すら持たない幼い命。母である自分の無力さゆえに、この世界を見ることすら叶わなかった存在。楓華の目からも、抑えきれない涙が溢れ落ちた。「そんなことないわ。あなたを愛している人は、あなたを責めたりしない。おばあちゃんはあんなにあなたを可愛がっていたんだもの。責めるどころか、ただあなたの幸せを願っているはずよ」素羽は唇を強く噛み締め、キッチンには彼女の悲痛な嗚咽が響き渡った。それは聞く者の胸を締めつけ、否応なく涙を誘う声だった。楓華は泣き崩れて意識を失いかける素羽を支え、ベッドへと運び、寄り添うように看病した。一方、亘は楓華からの電話を受け、彼女が置き忘れていった訴訟資料を届けることになった。書類を手に素羽の家の前へと現れた彼は、そこで浮浪者のようにうずくまる司野の姿を目にする。思わず息を呑んだ。司野は魂を抜かれたかのように憔悴しきり、ひどい衝撃に打ちのめされている様子だった。亘が声をかける。「こんな夜中に何してるんだ?まるで拾われるのを待ってる捨て犬みたいだぞ」その声に、司野はゆっくりと顔を上げた。真っ赤に充血したその目を見て、亘は言葉を失う。――こいつ、泣いたのか。司野が掠れた声で言った。「……なぜここに」亘は手に持った書類封筒を軽く振ってみせる。「楓華に資料を届けに来たんだ」司野は固く閉ざされた素羽の家のドアへ視線を向けた。「楓華も中にいるのか」亘は足元に散らばった栄養食品の数々を一瞥し、「追い出されたのか?」と問いかけた。もっとも、最初から中に入れてもらえていないのだから、「追い出された」というのは正確ではないが。司野が言う。「今夜、時間は?」「帰って寝るよ。明日も裁判があるんだ」司野は壁に手をついて立ち上がり、言った。「一杯付き合え」「……」――俺の返事、一言も聞いてなかったのか
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第470話

こいつ、何を考えているのだ。素羽は今、自分の心が壊れないように保つだけで精一杯だった。裏切り者である司野の相手をする余裕などなく、ましてや愛想よく振る舞う理由など、どこにもない。司野は掠れた声で漏らした。「……素羽には、もう俺がいらないんだ」認めたくはない。だが、認めざるを得ない現実だった。素羽は心の底から自分を厭い、そして恨んでいる。彼女は自分からどんどん遠ざかっていく。もう手の届かないところへ。その喪失感は、日を追うごとに鮮明さを増していた。亘は淡々と言い放つ。「いらないなんて、当たり前だろう。いい加減、目を覚ませ。裏切られた側が、相手が改心するのをその場で待ち続けるなんて、そんな人間はいない。どれだけお人好しでもな。家族を死なされて、平然としていられるわけがない。素羽は、まともな人間として当然の反応をしているだけだ」さらに亘は釘を刺す。「今の素羽は、崩壊の瀬戸際にいる。これ以上刺激するな。追い詰めれば、本当に壊れるぞ。自分のその傷がどうしてできたのか、忘れたわけじゃないだろう」距離を取ること。それが、今の司野にできる唯一の贖罪だった。でなければ、次に素羽が理性を失ったとき、何が起こるか誰にも分からない。あの血塗られた光景は、一度で十分だった。亘は二度とあんな経験はしたくなかった。司野はソファに身を沈め、目を閉じる。その顔には苦悶が滲んでいた。二人の関係は、いったいいつから狂い始めたのか。亘は一晩中付き合うことはせず、しばらくしてその場を後にした。---金の受け渡し当日、双方は夜間に動き出した。非合法な取引である以上、密かに進めるのは当然のことだ。夜の対面についても、安田一家に異論はなかった。金さえ手に入るなら、文句などあるはずがない。安田一家が出発するより前に、素羽はすでにホテルの下で待機していた。あらかじめ警察には通報済みで、向こうも協力体制を整えている。史恵たちは、自分たちが監視されているとも知らず、大金を手にする幻想に酔っていた。運転席には清人。彼もまた素羽に付き添っている。安田一家はレンタカーを走らせ、目的地である人里離れた山中へと向かった。順一が人気のない風景に眉をひそめる。「気味の悪い場所だな。なんでこんな辺鄙なところで取引するんだよ」
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